八曲目 ~ギルドの歌~
またしても遅くなってしまい、申し訳ありません。
リアルが忙しかったので(言い訳ですね、すみません)。
事後報告ですが、以前投稿した話にミスがいくつかあったので、訂正しました。前話のクルルのMPなどです。
やってまいりました、冒険者ギルドです。
パラティアの東通りにある、パラティアで最大クラスの大きさを誇る建物。わたしたちがこの町に入ってきたのは北門で、かなり歩く羽目になった。
ギルドは一階に受付と酒場、二階に闘技場と鍛冶場、三階に執務室があるのだという。鍛冶場にはお抱え鍛冶師がいて、Aランク以上になると自分好みの武器をタダで造ってくれるのだとか。
冒険者のランクは、全部で七つ。最初はFランクで、次がE、D、C、B、A、最高がSランク。まあSランク冒険者なんて伝説の代名詞らしいけど。
カリアニはBランクだったから、冒険者の中では出来る方……でいいのかな? わたしは別に名声上げる気はないし、DかCランクくらいを目指すかな。
カリアニを先頭に、ギルドに入る。喧噪に包まれていた酒場を一瞬、静寂が支配する。
まだ昼間なせいか、酒場に人の影は少ない。いてもポテトをつまんでいたり、発注書らしきものを物色していたりと、面倒そうな酔っ払いなどはいなさそうだ。
……ってフラグを建てたのがマズかったんだろうなぁ。
受付に向かうと、受付嬢のお姉さんが笑顔で対応してくれた。
「いらっしゃいませ、こちらは冒険者ギルドです。依頼の発注でしょうか?」
わたしたちをちらりと見て、お姉さんは言う。うんまあ、カリアニやわたしはともかく、クルルとポズは子どもだしね。
「違うわよ! 全然違う! ちょっと、よく聞きなさいよ!」
子ども扱いが勘に障ったらしく、クルルはカウンターに乗り出す。うん、クルル。大人っぽく見られたいなら、その行動は逆効果だよ? 余計に子どもっぽくなっちゃってるよ?
「いい、あたしたちは冒険者になりに来たの! だいたい、その辺の冒険者に頼むような用事なんてなっ……もごもご」
それ以上爆弾を投下するなっ、おばか!
あああ、受付嬢さん固まってるじゃん! ごめんなさい冗談なんです! この子ちょっと頭がアレな子なんです!
そう弁解すると、そういうお年頃ですからね、と口元をやや引きつらせながら許してくれた。ありがとう受付嬢さん、あなたは大人ですね! 真に受けなくてよかった!
「えっと……それで、ご用件は……」
「……冒険者登録で合っています……」
クルルへ視線を送る受付嬢さん。用件自体は同じなのに、何でこの子はこう喧嘩腰なのだろうか? ほんとに神竜?
「承知致しました。どなたが登録希望ですか?」
「わたしとこの子、それとこの子です。わたしはリリアンヌ、それとクルルとポズです」
受付嬢さんが目を見開く。ごめんなさい、クルルが登録したいのはほんとなんです。
「何よ、文句ある?」
もう黙ってて、お願いだから!
わたしの気持ちをくみ取ったのか、隣のポズがぽかりとクルルに拳を振り下ろす。いいぞ、もっとやれ。許す。
「未成年者の登録の場合、成人の冒険者の保証人が必要ですが……」
えっ、何それ!? 聞いてないよ!?
「私が保証人です。Bランクのカリストです」
ずっと後ろにいたカリアニが、音もなくわたしの隣に立つ。この野郎……知ってて言わなかったな? 心臓に悪いからやめて?
カリアニが提示したギルドカードを確認し、受付嬢さんはにっこり微笑んだ。
「確認致しました。それではリリアンヌさん、クルルさん、ポズさん、こちらの個室へお越しください」
受付嬢さんに先導されて、わたしたちは受付の奥へ行……けなかった。
「おいおいオジョーチャンたち、ひょっとして冒険者なんて始めようとしてんのか?」
「ヒヒッ、冒険者なんてやめといたほうがいいぜぇ? カネに困ってんのかぁ?」
「でしたらの、ぐふっ、ワタクシたちが養ってあげますよ? グヒュヒュ、ちょーっと夜のお世話さえしてくれれば、の話ですがな?」
……なんてベタな。
一瞬そんな考えがわたしの脳内を駆ける。
それは三人組の男たちだった。巨躯に脂ぎった汗を浮かべて、防具の露出と声がやたらと高い。
受付嬢さんとわたしたちの間に割り込み、下卑た笑顔と汗を浮かべて下世話なことを言い始めた。生理的な嫌悪に、思わずわたしは顔をしかめる。
やだなあ。前世でも握手会なんかにいたけど、ここまでの人はいなかった。そもそもわたしは彼らにとって「あこがれのアイドル」であって、失礼のないようにしてくれていた訳だし。
「ランドルさんたち……お止めください」
「いいじゃないか、ミーナチャン。大体、こんな子どもが冒険者になったって稼ぎにならねえだろ」
「ヒヒヒッ、大人しくオレッチたちに従った方がいいぜぇ? 苦労はさせねえしよぉ」
「そういうことですな、ぐひっ」
受付嬢さんが止めてくれようとしたけど、聞く耳を持つようすはない。
「ほら、来いよオジョーチャン」
先頭にいた男がわたしの腕を強引に掴もうとする。その太い指を、わたしの背後から伸びた白い手がぱしんっと軽い音を立てて払った。
「リリアンヌに何するのよ、変態!」
腰に手を当てて、クルルが吠える。クルルさんクルルさん、かっこいいしわたしもちょっとすっきりしたけど、あまりにもストレートすぎて逆効果だよ?
案の定男たちは怒りを露わに怒鳴り散らす。
「うるっせえな! この小娘が!」
「オレッチたちはテメエみたいなチビには用はねえんだよぉ!」
「黙って引っ込んでなさい!」
「何よ、それならあたし一人くらい相手に出来てから言いなさいよね! あんたたち、あたしより強いんでしょ?」
「い、言わせておけばぁ!」
激昂した先頭の男が、背中の斧を掴みクルル目がけて振り下ろす。ちょっ、さすがにヤバいんじゃ!?
「クルルっ!」
もっとも、その心配も杞憂だったんだけどね!
黒い風が斧とクルルの間に滑り込む。風――ポズは斧に向かって手をかざし、鋭く叫んだ。
「影壁!」
瞬間、ポズの影が滑るように床から抜け出し、彼の前で彼とクルルを包むように極薄の膜のような壁を織りなす。
振り下ろされた斧が影の壁にぶち当たる。叩き込まれた斧は、負荷に耐えきれず柄の根元からぼっきりと折れてしまった。
鉄の斧が床に転がって、がつん、と重い音がした。
「「「…………」」」
男たちはもちろん、わたしやカリアニ、受付嬢さんも、酒場に居た人たちすべてを静寂が支配した。
それを破ったのは、やっぱり空気の読めない子どもだった。
「ちょっとポズ! 何で入ってくるのよ、あれくらい受けたってかすり傷にもなりやしないわよ!」
ご立腹のクルルにポズはわかっている、とばかりに腕組みをしてこう返した。
「だがリリアンヌは目立つな、と言った。お前があれを食らえば、そして無傷であれば間違いなく目立ったであろうな。それを避けるためだ」
えっとねー、ポズさん。ナイスアシスト、と言いたいところなんだけどね。その今解除したシールドも目立ってるんだよねー。ついでに言えば君がクルルの言ってること肯定しちゃったから、わたしも言い逃れしにくくなってるのだよ。
結論から言うとね。事態は悪化してると言っても過言ではない。
何てことしてくれたんだ!
「……リリアンヌさん、クルルさん、ポズさん、カリストさん。しばしこちらでお待ちいただけますか」
ショックの抜けた受付嬢さんが、そう言い残して受付の奥に消えていった。
わあこれ、偉い人が出てくるフラグじゃん。帰りたい。
次の話は……来週上げられるといいなあ……。