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今日もわたしは、ドラゴンに人間の常識を叩き込んでいます。  作者: 竜風 愛花
第Ⅰ章 異世界へ
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七曲目 ~服屋の歌~

遅くなってすみません。


 さてやってまいりました、服屋さんです。

 大通りに面するかなり敷地面積が広いお店にお邪魔しております。服屋、とは言っても、防具屋も兼用しているらしく、普通の服とは別の棚には胴当てなんかも並べられている。

 ちなみにカリアニは服のことなんか無頓着で、服屋の場所も知らなかった。使えん。仕方ないから自力で探すしかなかった。

 入ってまず、わたしは店内で陳列作業をしていた店員さんに声をかける。装飾の派手でない、それでいて決して地味じゃない長袖ワンピースの上にエプロンを掛けた、二十代くらいの女の人だ。道行く女性の服も見てきたけど、どうやらこの世界では女性はワンピースが普通らしい。

「すみません、ちょっといいですか?」

「はい、何でしょうか?」

 振り返った店員さんはわたしたちを見て一瞬固まった。やっぱりこっちの世界の基準だと、よっぽど奇抜な恰好らしい。それでも笑顔を崩さない店員さんには脱帽。

「い、いかがなさいましたか?」

「実はついさっきこの町に入ったんですけど、みんなで冒険者を始めようと思っているんです。それで、防具を買いに来たんです。けど遠くから来たものですから、このままだと浮いてしまって。なのでついでに服も買おうと思うのです」

 わたしは移動中に思いついた言い訳を一気に連ねる。これで誤魔化せると思うんだけど、もしダメだったら最悪カリアニに何とかしてもらおう。

 ほら、悪魔だし何とかなるでしょ!

「まあ、そうなんですか。はるばるお疲れ様です。よければ服のコーディネートをお手伝い致しましょうか?」

 ……うん、杞憂だったね。

「よろしくお願いします。わたしとこの子たちの分をお願いできますか? 彼の分は結構ですので」

 クルルとポズを示してわたしは軽く礼をする。カリアニはなぜか黒スーツを着替えることを断固として拒否した。目立つのに。


 いやあ、あの店員さんいい仕事してたわー。

 防具も含めて全部コーディネートしてくれた。お願いして正解だったわ。やっぱこういうのはプロに任せるのがいいよね。

 じゃあまずはわたしから。

 元々着ていたセーラー服とコートは脱いで、ベージュの長袖ワンピースを着ている。ワンピースは腰に白いリボンを巻いていてオシャレ。まあ一応冒険者だから、ワンピースの上から革の胴当てをつけてる。ワンピースはお値段銀貨十枚、胴当ては銀貨十五枚也。ちょっと高かった。

 それから足下は、ちょっとサイズが合ってなかったローファーから、編み上げロングブーツに変えたよ。これで動きやすくなったかな。銀貨十二枚もしたけど。

 あ、そうそう、会計はカリアニが持ってるよ。冒険者として活動してるから、ある程度人間のお金も持ってるんだって。リリアンヌ様がお望みならご自由にお使いくださいませ、って言われたから、存分に使わせてもらう。

 何となくの感覚だけど、貨幣の値段はこんな感じかな。


 銅貨:10円

 銀貨:1,000円

 金貨:100,000円


 国レベルの取引だとその上の通貨が使われるらしいけど、まあそんなことには縁がないだろうからね。フラグじゃないよ?


 続いてポズ。明らかに悪目立ちするマントは、とりあえず没収した。物凄く不満そうな顔は見なかったことにした。

 代わりにポンチョを選んでもらったら、途端に機嫌を直した。何というかな……神竜と邪神竜、名前の割にチョロくない? いや、気のせいか。気のせいということにしておこう。意外と安くて銀貨五枚だった。

 ところでポズ、アイテムのカラー選択がどれも黒なのは何とかならないの?

 黒の半袖シャツは、白の襟シャツにチェンジ。何となく貴族っぽくて可愛くない? 白の襟シャツ。もちろん上に革の胴当ては装着させてある。シャツと胴当て、合わせて銀貨二十枚。

 ポズの防御力のステータスを考えたら、必要ないのはわかってる。わかってるよ? うん。けど世間体ってものがあるからなぁ。そもそも服屋に来てるのも人の目からだし。

 あとは靴。底に鉄板が入ったショートブーツ、銀貨二十枚。高い。重くない? って思ったけど、まあ平気そうだしいっか。店員さんは顔引きつらせてたけど。ごめんなさい、この子規格外なんで。

 そんでやっぱアレでしょ! 今回ポズの服装で一番変えた点!

 長ズボンを半ズボンに変えました!

 そんなに変わってない? マントのほうがよっぽど変わってる? うるさい、異論は認めない。

 だってショタだよ!? なのに長ズボンだよ!? 変えるしかないでしょ!

 というわけで半ズボンです。色はポズが黒以外は認めてくれなかったから黒だよ。まあ上が白だからズボンは黒が合うしね。しかし、ただの半ズボンと侮るなかれ。


【俊足のズボン:風属性】

【優れた職人が稀に制作できるアイテム】

【素早さ+10】


 何とこれ、魔道具だったのです。わたしも鑑定して初めて気づいたんだけどね。魔道具なのに、他の普通のズボンに交じって同じ銀貨四枚だったから。どうやら鑑定はそうそうお目にかかるスキルではないらしい。じゃなかったら、もっと高値で取引されているだろうし。

 俊足のズボンを履かせてステータスをチェックすると、【素早さ:78342+10】って表記に変わってた。変わってたけど……うん、予想はしてたけど、あんまり変化無いね……。

 いやちがう、万人に影響が少ないわけじゃない。現に店員さんの素早さは15だった。このズボンを装着すれば一気に三分の二もアップだぜ! やったぁ!

 結論、ポズのステータスはおかしい。


 ……よし、クルル行こう!

 元々着ていた白のワンピースも可愛かったけど、いかんせん冒険には向かない。フリルたっぷりの可愛いワンピなんだけど……短い。膝上までの長さしかない。これで冒険に出てチラリなんか起こったら、わたしは叫ぶわよ。

 なので白いローブもどきを購入。そう、ローブもどきだ。カテゴリー的にはワンピースに入るかな。

 普通の魔法使いが着るようなローブでは大きすぎたので、富豪のお嬢さんが部屋着として着るような「なんちゃってローブ」だ。部屋着とは言っても、十分外歩けるけどね。

 なのでとても造りが凝ってる。袖や裾にはパステルカラーで刺繍が施されて、控えめながらもオシャレ。ただしお値段は張る。そりゃもう張る。なんと銀貨三十枚。だからこそ富豪向けなんだけどね。

 それと靴は、目の色に合わせて薄いピンクのパンプス。ちっちゃいリボンつきで、銀貨八枚。素材がいいから何でも似合うわねえ、と店員さんもご満悦だった。

 あ、そうそう。店員さんはセレクトしなかったけど、売り場の端っこにあった小物売り場に置いてあった、ピンクのレースのリボンも買った。クルルは髪をツインテールに纏めてるけど、何で結んでるのかな? って近寄ったんだ。

 もうすっごくびっくりしたよ。

 結んでなかった。

 え? って二度見したけど、付け根に何も結んでなかった。聞くとクルルが人化してるときは、自動的にこの髪型になるらしく、たぶん魔力で纏めてるんだと思うー、という何ともぼやけた回答だった。いいのかそれで。魔力ってそんな無意識に使われるようなものなのか。

 いや待て。落ち着けわたし。クルルのMPは2569470、一般人のMPは10くらい。MPの余裕がありまくるから、無意識に放出してもいいのね!

 ……結論、クルルのステータスもおかしい。

 とにかく、普通は髪の結び目なんて見る人いないと思うけど、もしいたりして疑われると厄介だから、リボンで結ぶ。それにせっかく綺麗な白い髪なんだから、デコりたくなるよね!


 さてさて、お待ちかねのお会計です! 店員さんが恵比寿顔ですね!

「お姉さんはワンピース一点、靴一点、防具一点、合わせて銀貨三十七枚ですね。坊ちゃんはポンチョが一点、シャツが一点、ズボンが一点と靴が一点、防具一点で銀貨四十九枚です。お嬢さんはワンピース一点、靴一点、リボン二点で銀貨四十枚。しめて銀貨百二十六枚です! ……と言いたいのですが、」

 店員さんはにっこり営業スマイルで言った。

「たくさんお買い上げ頂いたので、ちょっぴりサービスさせて頂きます」

 ありがとう、店員さん! やっぱりあなたはいい人だ!

 銀貨百二十枚のお支払いをしてもらって、わたしはほくほく顔で大通りに出る。もう人々はわたしたちを奇異の目で見てこない。ローマに入ってはローマ人のようになせとはよく言ったものだよね。

 あとからフラフラとお店から出てきたカリアニが、「服ってあんなに高いのか……」と掠れた声で言っていたのは、聞かなかったことにした。

 さあ、お次はいよいよギルドだ!


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