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今日もわたしは、ドラゴンに人間の常識を叩き込んでいます。  作者: 竜風 愛花
第Ⅰ章 異世界へ
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五曲目 ~黒スーツの歌~


 パラティアという町は、けっこうな規模の都市らしい。

 土木技術は発達していないのか、高い建物はないけれど、人はたくさんいる。そりゃもういっぱいいる。某アニメじゃないけど、ゴミのようにいる。

 人混みの中を、小柄なクルルとポズは器用に駆け抜けていく。速いよ。わたしたち追いつけないわよ。ステータスの素早さめちゃめちゃ高かったのも関係してるの?

 なぜかすれ違う人たちは、わたしたちのことをチラチラ見ている。何でだろ? ……あ、服装か。

 周りの人たちの服は、ファンタジーっぽいワンピースや、冒険者らしい防具など。

 それに対してわたしたちは、セーラー服に白いワンピース、黒マントと黒スーツ。うん、目立たない方がおかしいね。

 現代日本ならギリコスプレでセーフかしら。いや、どっちにしろ浮くか。

 よし、あとで服屋さんに行こう。


 人だらけの大通りを、黒スーツといっしょに走る。といっても、人混みの中だから歩いてるのと同じ速度だけどね。

 あれ? クルルとポズはどこ行ったの?

 前の方を走って行っていたはずなのに、どこにもいない。

 え、見失った? うそ、どうしよ……。

 呆然としていると、黒スーツがわたしのセーラー服の裾を引っ張る。

「あちらです」

 黒スーツが指さす方向を見ると、大通りの脇に小さな路地があった。

 その入り口からクルルとポズが顔を出し、手を振っていた。

 いつの間にそんなところに。


 わたしと黒スーツが裏路地に入る。

 次の瞬間、キンッと澄んだ音がしてわたしたちの周りに半透明の膜が張られた。

「結界だ。これでこちらの音はもちろん、姿を認識することも阻害する優れ物だぞ」

 ちょっと得意げにポズは言う。まあ、これからちょっと他人に聞かれたくない話をするし、ちょうどいいわね。ありがと。

 それにしても……幼女とショタ、若い女の子と黒スーツ。字面だけ見たらヤバイわよね。てかホントに、この黒スーツ信用していいのかしら?

 ポズの知り合い……らしいけど。謎が多すぎて無条件に信じれないのよね。

 まず何でこのファンタジーな世界でスーツ着てんのよ。雰囲気ぶち壊しじゃない。それにわたしたちが困ってるとき、すごいグッドタイミングで助けてくれたし。

 そんな諸々の疑問をぶつけようと、わたしは口を開きかけた。

 しかし、その前に黒スーツが突然、ポズの前で跪いた。

 え、ナニゴト?

「誠に申し訳ありませんでした、邪神竜様! あ、貴方様の御名を、よ、よ、呼び捨てにするなど! その場の勢いとはいえ、どうか、どうか、我が非礼をお許しくださいませ!」

 えー……マジでナニゴト?

「どのような処罰であろうと! 邪神竜様直々の罰であれば、このカリアニ! 喜んでこの身に受ける覚悟であります故に……!」

「……もういい、カリアニ。予が言ったことだ、「出来るだけ怪しまれぬように」と。それを受けた判断なのだから、よい」

 やや疲れたようにポズは頭を垂れる黒スーツに言い放つ。弾かれたように顔を上げた黒スーツの印象は、わたしの中で大分変わっていた。

 よーし、初めの質問は決まったぞ。

「ねえ、ポズ。このひと……誰?」

 もうこれ以外思いつかないよ。ついでに言えば、クルルが隣ですごく不機嫌そうな顔してる理由も知りたいぞ。

「……そうか、リリアンヌは知らなかったな」

 むしろ今まで気づかなかったのか。いや、わかってたよ? うん。

「こやつはカリアニ。本名はカリストアント・S・サーストという。端的に言えば、予の直属の部下だ」

「お初にお目にかかります、カリアニとお呼びくださいませ。種族は黒悪魔、悪魔族の族長として邪神竜様にお仕えしております。以後お見知りおきを」

 悪魔かあ。なんか納得。角も尻尾も見えないけど、シルクハットで隠してるんだろうな。黒悪魔……悪魔の上位種でいいのかしら?

 黒スーツ――カリアニは胸に手を当て、わたしに敬礼する。戸惑いながらわたしは会釈を返す。

「えっと……リリアンヌ、です」

「……邪神竜様に伺った際は耳を疑ったものですが、本当に人族でいらっしゃるのですね。しかし、「魔物の王」であれば十分ですな」

 バレてる!?

 わたしの職業バレてる!? え、何で!?

「邪神竜様の「念話」であらかじめ伺っておりましたので。リリアンヌ様はお顔に感情が出やすい傾向がおありですね」

 さいですか……。

 顔に出やすいって、言われたことなかったんだけどな。一応アイドルだったし。本音は隠してナンボの世界だったもん。

 それにしても、カリアニ……何か、すごい謙ってるのに、わたしのこと値踏みしてるみたいというか……。

 何かこう、違和感があるというか……。

「……カリアニ、用が済んだんなら帰ったら? 仕事溜まってるんじゃないの? いっつもそう言ってポズを連れ戻そうとするじゃない」

 ずっと押し黙っていたクルルが嫌悪感を隠そうともせずに言う。もうちょっと言い方ってもんがあるでしょうに。

 案の定、カリアニは赤い目でクルルを睨みつけた。

「そちらこそさっさと天界に帰ったらどうだ? 神竜のくせに邪神竜様に纏わりついて、いい迷惑だ。それと、私は貴様に私の名を呼ばせる許可を与えていないぞ、つけ上がるな」

「何ですって? それはこっちのセリフよ。能力じゃあたしの足下にも及ばないじゃない。何なら今、ここで証明して見せましょうか?」

「ふん、そうやって貴様はいつも暴力に訴えるのだな」

 そう言いながらも、カリアニは臨戦態勢に入る。

 ……うん、カリアニのキャラがちょっとわかった気がする。

 たぶんこの悪魔、ポズのことを尊敬してるんだ。尊敬というか、崇拝に近い気もするけど……。

 だから、ポズと仲がいいクルルのことが嫌いなんじゃない? で、クルルもカリアニのことが嫌い。……あれ、これは少女マンガによくあるアレじゃないか? 三角関係というやつじゃないか?

 まあカリアニは男だけど。

 え、ちょっと興奮する。まさかリアルでそんな、マンガみたいな展開が見られるとは!

 ……いや待て、クルルもカリアニも、ガチでバトる気満々じゃない?

 クルルは胸の前に手を合わせる。クルルの全身を白い光りが覆い、風が吹き荒れる。一方カリアニも負けじと右手を前にかざす。その右手の中に、黒い塊のようなものが生まれる。

 うん、ストップ。それはやばい。何がやばいって、ここは街中。周りの建物や人々が無事で済む保証がない。てかゼロに近くない? あれ、大丈夫じゃなくない?

 かと言って、わたしには二人を止める方法はないし……。

「ポズ、ちょっとあのアホ二人止めて!」

 助けて手綱担当!

「わかっておる。リリアンヌは下がっておれ」

 ポズはこちらを見ることもせず、返事だけ残して二人の間に手を突っ込んだ。

 ……え? ちょ、ちょっと! 危ないよ!?

「!?」 「邪神竜様!?」

 二人も驚愕に目を見開く。その瞬間、ポズは突っ込んだ右手を空で握った。

 ばきぃんっ! と何かが割れたような、耳障りな音がして、クルルを覆っていた白い光とカリアニの右手にあった黒い塊が、同時に消失した。

 ……えー。ないわー。ないわー。

「これでいいのだろう?」

 臨戦態勢で固まっているクルルとカリアニは放置して、ポズはわたしに涼しい顔を向けた。

 うん。ありがと。できればそれ以上近づかないで。


カリアニはわりと残念な子です。

決してお兄ちゃんなキャラじゃありません。


お読み頂き、ありがとうございました。

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