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今日もわたしは、ドラゴンに人間の常識を叩き込んでいます。  作者: 竜風 愛花
第Ⅰ章 異世界へ
2/14

二曲目 ~ステータスの歌~


 よし、もう一回チェックしてみよう。ほら、見間違いかもよ? いくら何でも、あんなステータスはないでしょ、普通に考えてさ。


【名前:クルル】

【種族:ミラクルエンジェルドラゴン】

【職業:「神竜」Lv,4729】

【HP:4753782/4753782

 MP:2568970/2569470

 攻撃力:83721

 防御力:69304

 魔法力:64817

 魔防力:40396

 素早さ:76068

【スキル:5938】

【付与スキル:9246】


【名前:ポズ】

【種族:デスポイズンドラゴン】

【職業:「邪神竜」Lv,4729】

【HP:3561939/3561939

 MP:4106342/4106842】

 攻撃力:53859

 防御力:39277

 魔法力:102653

 魔防力:64920

 素早さ:78342

【スキル:6021】

【付与スキル:8975】


 あははっ、変わんなかったやー!

 何なのこのステータス! いくらわたしでも異常なのわかるぞ、ここまでくると! 今数えたらHPとMPの単位百万なんだけど? ゲームだったら改造よコレ! チートでしょ、そうでしょ?

「……リリアンヌ、先ほどから一人で何をやっているのだ?」

「ひょっとして壊れた……?」

「ゴメン、あなたたちにだけは、それを言われたくない」

 どっちかって言ったらあんたらのほうが壊れてるよ。別の意味で。

 でもポズとクルルは揃って首を傾げた。

「……何のことだ?」

「あたしたち何かしたっけ?」

 可愛いとか思ってないからね!? きょとんとしてるそこの二人、可愛いから許すとか思ってないよわたし! 写真撮りたいとか思ってないよ!?

「……本当にどうしたのだ、リリアンヌ」

「顔真っ赤だけど……何か病気?」

 やばい、ちょっと落ち着こう。


 あー、やっと顔の火照りが収まった……。

 わたし、昔っから可愛いもの好きすぎて……よく暴走してたのよね……いや、今もだけどね。歌手デビューする前に、マネージャーに人前で絶対暴走するな! って超念押しされたっけ。おかげでファンにはばれてない。

 人化したばっかのときは、頭がうまく働いてなかったけど、混乱が治って暴走しちゃった……。

「リ、リリアンヌ……ほんとに、大丈夫……?」

「え!? あ、うん、もう平気!」

 ものすごく心配そうにわたしを見上げているクルル。可愛い。ドラゴンのときはちっとも可愛くなかったけど。

 でもまあ……心配されるのは、わかる気がする。わたしだって心配する。

 突然真っ赤になって悶えだしたかと思えば、今度は蒼い空を見つめて素数を数え始めたんだから……。

 仕方ないじゃん! それが一番気持ちが収まるんだもの! ……って、

「ちょ、ちょっとポズ、何それ?」

 ポズが無言で黒いズボンのポケットに入っていたらしい黒い何かを突き出していた。

「デビルの骨の黒焼きだ。精神混乱によく効くぞ」

「遠慮させていただきます」

 混乱してないから。そ、それに、その黒いの摂取するんだよね? 形状的にそうだよね? そんな得体の知れない物口に入れたくないよ!

「何だ、ちゃんと焦げているから毒は抜けているぞ」

 元々毒あるの? 何それ更にいらない理由が増えたんだけど。

 全力で首を振り続けると、ようやく渋々とポズは黒い物体をポケットにしまい直した。ああ安心した。いくら可愛くてもアレはちょっと……。

 まあどんだけ可愛くても! この子らドラゴンでしかもチートじみたステータスの持ち主なんだけど!

 あ、そうだ。この子らの異常なステータスの数値で忘れてたけど、わたしのステータスなんか変化してたよね?


【名前:リリアンヌ】

【種族:人間】

【職業:「魔物の王」Lv,5】

【HP:356/372

 MP:221/249

 攻撃力:73

 防御力:96

 魔法力:84

 魔防力:107

 素早さ:58】

【スキル:8】

【付与スキル:3+1】


 わお、何かグレードアップしてる。HPとかMPとかかなり大幅に上がってるねえ。あと防御系も。スキルも増えたってさっきメッセージ出てたねえ。

 ……でもさあ、職業名がちょっと……。

「魔物の王」ってさ、魔王のことじゃない? 人間の宿敵じゃない? それ大丈夫? 

 何で転職しちゃったのよ。理由知ってるわよわたし。

「なあに、そこに何かあるの?」

 ひょっとしなくて、クルルとポズをパーティーに加えちゃったからだよね? 事前に言っておいてほしかったなあ、そういう重要なことは。

 ……あれ、そういや、この子たちこの「ステータス」のこととか知ってるのかな? もしかして、見えてない? 今、わたしがじっとステータス見てたら、クルルがああ言ってたし。

「あのさ……二人はこれ、見えてる?」

 それぞれの左手のあたりに、ふよふよと浮いている薄い蒼の長方形を指さして、尋ねてみると、予想通りの答えが返ってきた。

「? どれ?」

「……予とクルルの腕しか見えんぞ」

 んー、じゃあわたしだけ見えてる? 付与スキルの「ステータス閲覧」がないと見れないのかな?

 クルルとポズが「ステータス閲覧」を持ってないとは、限らないんだけどさ……けど、これだけ付与スキルの中で、「+1」って表記になってるのよねえ。クルルとポズには、付与スキル欄に「+」がなかったし。

 けど、何でそれ以外はチートの二人は持ってなくて、わたしだけ持ってるんだろ?

 何がちがうんだろうか……。

 首をひねったわたしは、ふと視線を落とす。ここはそれほど寒くないので、コートのボタンは留めていない。紺色のセーラー服と、えんじ色のリボンの上に、それは堂々と乗っかっていた。

 ……これね。これぐらいしか要因思いつかない。

 わたしは胸元で揺れていた白い鍵をつまみ、赤い紐を首から外した。その後、改めて左手に視線を向ける。

 薄い蒼の長方形は、見当たらなかった。代わりに見えたのは、緑と青の間に伸びる地平線。

 ステータスが見られないからわからないけど、たぶんわたしのステータスは、【付与スキル:3+1】から【付与スキル:3】に変わってるんだろうな。

「……それさぁ」

「え?」

 じっと白い鍵を見つめて、クルルはこてんと首を傾げる。

「なんか、見たことあるような気がするんだけど……なんでだろ?」

「うむ、予にも見覚えがあるぞ」

 そっか、二人はあの神に面識があるっぽいし、この鍵のことも知ってるのか。

 ……クルルとポズに、神とのこととか、わたしのこととか、話しといたほうがいいかな? どうせ、これからずっと一緒っぽいし。鍵探しのこと考えたら、「目」は多いがいいだろうしなあ。

「……ねえ、二人とも」

「ん?」

「どうかしたのか?」

 結構長い話だから、座った方がいいかな? ちゃんと順序立てて話せるかな?

 あ、それより、これが一番重要か。

「今から、すごく、ものすごく信じがたくて、長い話をするけど。全部本当のことだから。だから、お願い、ちゃんと聞いてて、それで、信じて」

 わたしは話し始めた。

 わたしがここにいる理由を。


 途中で誰からともなくその場に座り込んだ。クルルとポズは、長い長い話をしている間、一切邪魔をせず、ただ静かに聞いていた。

「……それで、わたしはステータスにあった「召喚の歌」っていうのを使ってみたの。そしたら、二人が召喚された。あとはまあ、二人も知っているとおり」

 いやー、こんな長いこと喋り続けたの、人生初だわ。最長記録更新ね。

「ふーん……じゃあ、その鍵を首にかけたら、その、すてーたす? が見られるの?」

 クルルはわたしが右手に持っている白い鍵を指さす。

「うん、たぶんね」

「へー! おもしろそうじゃん、貸して貸して!」

 わたしの返事も聞かず、クルルは強引に鍵を奪い取り、赤い紐に首を通した。

「……ど、どう?」

「わっ! ほんとだ、何かいる! 蒼いの!」

 あ、やっぱり鍵のせいだったんだ。それにしても、あの神何てめんどくさいもの、よこしてくれたのよ。

「どこだ?」

「ここ、ここ! 左手の上らへん! あたしとポズの数字はあんまり変わんないわね! ……リリアンヌはだいぶ低いけど」

「……何も見えん。それを寄越せ、代わりにコイツをやる」

 そう言って、ポズはズボンのポケットに手を突っ込む。ま、また得体の知れない物、出してくるんじゃないでしょうね? 

「……うっ……何、これ……?」

「中々の逸品だろう? この間解体した黒屍悪大鯨の腹から出てきたのだ」

「こ、こくし……? ポズ、それ何?」

「黒屍悪大鯨。魔界にいる、巨大な空飛ぶ鯨だ。隕石を降らせるから定期的に絶やしておかねばならん。生臭くて肉が不味い」

「そ、そんなのがうじゃうじゃいるの……?」

「そうたくさんはいないぞ。ただ食料としては役立たずだからな、誰も手を出そうとしないのだ。放っておくとすぐ殖える」

 そこまで言われるほどまずいんだ、こくしなんちゃら。逆に気になるよね、怖い物見たさっていうかさ……。

「それで、そのこくしなんちゃらの腹をかっさばいたら、出てきたってこと?」

「うむ」

「…………」

 いやさ、どうせグロい何かだとは思ったよ? うん。

 けどさ、何かの毛と肉片の塊はちょっと予想外だよ? 何でそんなの持ち歩いてるの? ポイしましょうね?

「いくら何でもそれはいらないわよ。そりゃ、ポズは何でもかんでも溜め込むタイプだけど、あたしはちゃんと選別するもの!」

「何を言う、予だって選んでいるぞ?」

「じゃあ、何でそれは収集しちゃってるのよ?」

 普通なら廃棄処分一択でしょうが。わたしにはゴミにしか見えないんだけど。

「何故わからん? この毛は間違いなくペガサスのたてがみだろう。滅多に手に入らないぞ?」

「わからないわよ! せめて洗ってきれいな状態にしなさいよ!」

 クルルに怒鳴られて、ポズは口を尖らせながら毛玉をほぐし始める。何がそんなに気に食わないのか、わたしにはわからないんだけど……男の子って難しい。

「ん?」

 意外と手際よく毛玉を分解していたポズが、何かに手を止めた。

「どうしたのよ?」

 肩からクルルはポズの手元を覗き込む。わたしも横から顔を出した。

「いや……何か出てきた」

 毛玉の中からポズがつまみ上げたのは……長い赤い紐だった。

 黒い鍵が、紐の輪に通されていた。


「要らないな、捨てよう」

「ちょ、ちょっと待ってポズ!」

 草原にポイ捨てされた黒い鍵を、わたしは慌てて拾い上げる。これこそ要るものでしょ、ペガサスのたてがみとやらより!

「何だ、そんなものそこら中に転がっているぞ?」

 いや世界に十本しかないはずなんですけど……けど、ほんとにこの調子なら、十本くらい簡単に集まりそうよね?

「それ、神が言ってた鍵の一本? ほんとに?」

「たぶんね。デザインとか紐とか一緒だし」

 クルル、何でそんなに懐疑的なの?

「だってほら……あの神でしょ? そんな単純なこと、すると思う?」

「しないだろうな」

「ああ、うん……」

 そうよね、あの神のことだから、何かあると思った方がいいわよね……。

 何はともあれ、首にかけてみて付与スキルが増えてるかチェックしておこう。増えなかったら、神に恨み言を奉ればいいかな?

 クルルに「ステータス閲覧」の鍵を返してもらい、黒い鍵といっしょに首にかける。左手に視線をやると、薄い蒼の長方形が浮かんでいた。

 さて、どうなってる?


【名前:リリアンヌ】

【スキル:8】

【付与スキル:3+2】


 おお、増えてる!


【付与スキル:「転生者」 「神に愛されし者」 「歌姫」 +「ステータス閲覧」 「鑑

       定」】


 かんてい? それ何……って、聞いたところでわかんないのよねえ。


【付与スキル「鑑定」】

【対象の情報を表示する。物体やスキル、種族などを対象とし、触れることで発動する】

【MP消費:なし】


 あれ? タップしたら表示された。そっか、これが説明のためのスキルだったんだ。これ結構便利じゃない?

 ついでだから、この鍵のことも教えて欲しいんだけど……。触れるって普通に触ればいいの?


【アイテム「白の鍵」:特級鍵】

【遠い昔に神によって作られたとされる伝説の十本の鍵、その一本。持ち主に付与スキル「ステータス閲覧」を与える】


【アイテム「黒の鍵」:特級鍵】

【遠い昔に神によって作られたとされる伝説の十本の鍵、その一本。持ち主に付与スキル「鑑定」を与える】


 出てきた出てきた。やっぱ両方十本の鍵の一本なんだ。けど、特級鍵ってどういうこと?


【特級鍵、一級鍵、二級鍵について】

【特級鍵:神が作り上げた、強力な付与スキルを与える鍵のこと。世界に十本存在する】

【一級鍵:世界中の魔法使いが己の魔力を結晶化させた鍵。付与スキルを与える】

【二級鍵:ただの鍵。スキルは与えられない】


 あ、そういう違いがあるんだ……。てか二級鍵のくくりいる? 別になくてもよくない?

「どうだった? リリアンヌ?」

 クルルがわたしに尋ねてくる。ポズはペガサスのたてがみをポケットに詰め込んでいた。……今度ポケットの中身総ざらいしないとね。

「うん、これは十本の鍵の一本で合ってるみたい。特級鍵、っていうんだって」

「そうなの? よかった!」

「まさか黒屍悪大鯨の腹の中にあったとはな。一度魔界に戻って鯨共の腹を調査したほうがよいか? カリアニあたりにやらせればすぐに……」

「いい、いいからねポズ?」

 もうあんなグロい塊は見たくないよ!

「む……そうか」

「そう、そうだから、ね?」

 思いっきりアイドルスマイルで誤魔化すと、ポズはおとなしく引き下がってくれた。代わりにクルルが可愛らしい笑顔を向けてくれる。

「じゃあリリアンヌ! あたし、これから配下のドラゴンたちに声かけてくる!」

「え? 何で?」

 わたしは完全に油断してた。クルルは癒やし担当だと思い込んでいた。

「え、だって鍵とかちっさいもの探すんだったらさ! この世界丸々真っ平らにしてからのほうが早いでしょ?」

 実際には、クルルも破壊担当だったのだ。誰よこの子に神竜なんて職業与えちゃったの! ポズと言ってること大差ないんだけど!

「確かにそうだな! 予の軍にも協力させよう、丁度エネルギーを持て余して、暴走気味の輩が多くて困っておったのだ」

「そこ乗らない。クルルもそれは止めてね? わたし大戦争なんて性に合わないの、わかるでしょ?」

 昨日まで平和な日本で生きてきたのよ、わたしは! いきなり世界滅亡させるとかやめてよ、心臓に悪い!

「じゃあこれからどうするのよ? リリアンヌ、鍵全部集めないと帰れないんでしょ?」

「う……まあ、そうだけどさ……」

 でも世界滅亡はお断りよ、常識的に考えて!

 ……けど案が思い浮かばないのは事実であって……。

 あ、そ、そうだ!

「町! 町行こうよ! ほら、わたしずっとこの草原にいたら生きていけないし!」

 どこでもいいから、近場の町に行けば、宿だってあるだろうし! 鍵の情報も豊富だろうし! 我ながら名案じゃない?

 クルルとポズは人化していれば、ドラゴンとは絶対思われないしね。バレたらびっくりするわよ。

「……ふむ。ひとまずその案で行くか」

「そうね! うまく行かなかったら、真っ平らにすればいいし!」

 うん、絶対成功させよう。一面焼け野原になっちゃう。

「近くの町っていうと、ここからならパラティアが近いわよね! 確か三百キロだっけ?」

 ……え? 今クルルちゃん何て言った?

 三百キロって近いの?

「ああ、予とお前なら十分もかからぬな」

 ちょっと待って感覚おかしくない? 三十キロの間違いじゃない?

 ドラゴンってそんな速いの?

「リリアンヌ、少し離れていろ。ぶつかるぞ」

 何に?

 すっごく色々問い質したかったけど、何となくタイミングを掴み損ねて、わたしは数歩後じさる。

 次の瞬間、二人の全身が白く光り輝きだした。わおデジャブ。このあとどうなるか、わたし予測できるよ。

 ぐんぐんと二人の身体が伸びていき、硬質の鱗や巨大な爪、翼やたてがみが構築されていく。光が消えていき、そこに二人の姿はなかった。

 やっぱりわたし、こっちの二人は可愛く思えないなあ。

『リリアンヌ! 早く乗って、飛ぶわよ!』

 真っ白いドラゴンの甲高い声が、わたしのすぐ傍から聞こえた。

 二話目を投稿させていただきました、竜風愛花です。

 ごめんなさい、予定よりちょっと遅れました。三話目は四月二日以降に投稿する予定です。どうか気長に待ってくださると幸いです。

 読んでいただき、ありがとうございました。

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