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今日もわたしは、ドラゴンに人間の常識を叩き込んでいます。  作者: 竜風 愛花
第Ⅰ章 異世界へ
1/14

一曲目 ~召喚の歌~


 赤い夕日が刺さって、わたしは目を細める。

 自慢の茶色いセミロングの髪が、光の加減で金色にも見えて、少しだけわたしは微笑んだ。

 秋の終わり、肌寒くなった頃のことで、わたしは一人で赤い大通りを歩いていた。


 わたしは、杉崎綾音。この辺では真ん中辺の普通の高校に通っている、十六歳。学校ではおとなしい、やっぱり普通の女子生徒。

 一つだけ、普通じゃないところは――わたしが、歌手だってこと。

 まあ、クラスメートは誰一人気づいてないけど。あれだけ濃いメイクしていりゃね。初めてメイクしてもらったとき、わたしは鏡の中の人物を自分だと認識できなかった。あれはもう変身ね、変身。

 名前はそこそこ通っている。クラスメートの中にも、「RiRiアンヌ」って歌手のことなら、知っている人もいるだろう。

 え? 芸名の由来? ……それ、ファンにもよく聞かれるのよね……。

 でも言えるわけないじゃない。芸名を決めるとき、目に入ったゲームのキャラクター名だなんて……。

 わたしの自己紹介は、このくらいで。


 そのとき、変化のない日常を過ごして、いつもどおり下校していたわたしは、あんなことが起こるなんて予想もしていなかった。


 赤い大通りの人影は、まばらだ。

 でもそれは、いつもどおりのことだった。

 目の前の横断歩道の信号が、赤く光っている。周りには誰もいなかったが、わたしは立ち止まる。アイドルが信号無視は、マズい。ネット社会ってホント怖いからね。

 そんなことを思いながら、ぼんやりと立っていると――


ギイィィィィィィィィィィィィィ!!


 甲高く耳障りな、ブレーキ音が鼓膜を破らんばかりに震わせた。

 驚いてわたしは右を向く。一台の大型トラックが、車体を傾けながらこちらに突っ込んできていた。

 ヒュッ、と喉が空気を吸い込む音が、この騒音の中で大きく響いた。時間だけがひどくゆっくりと流れて、わたしの身体はぴくりとも動いてくれなかった。

 コレあれだ、体感時間だけ遅くなるやつだ。そりゃ身体は動かないよな。なんて頭の片隅で冷静なわたしが言う。

 目の前に迫ったトラック。そのフロントガラスに映ったわたしの顔。その細部まで、はっきり見える。

 ああ、何だか間抜けだなぁ。遺影はもうちょっとましなんだろうけど。

 死ぬのかなあ。うんこれは死ぬだろ。十六歳で死ぬのはちょっと――いや、かなり早いけど。まあ、

「来世はもうちょっと、長生きしたいなあ」

 最期にそう呟いて、わたしははしばみ色の目を閉じた。


 どがぐしゃん、と鉄やらガラスやらと一緒に、わたしの身体が潰される音が聞こえた。



 そう、そのときわたしは、確かに死んだはずだったのだ。

 なのに。

「……ここ……どこ……?」

 真っ白い花畑に一人立ち、わたしは呆然と呟いた。


 一面が白い花で覆い尽くされていた。何の種類かはわからない。少なくとも今まで見たことのない花だった。バラに似ているけど、それより花びらの数が多くて硬そう。

 空はどこまでも突き抜けるような、夏の青。……ってちょっと待って。

 今は、秋の終わりなのよ?

「どうなっているのよ……」

 とにかくわたしは、白い花をかき分けて歩き始めることにした。

 しかし、わずか数歩で立ち止まることになった。

 なぜって? ……目の前に、大きな湖が現れたから……。

 何でよ! 何で花畑の中に湖があるのよ! 

 ……なんて叫んだって意味も無いし。とにかく湖を覗き込んでみる。何か手がかりがあるかもしれないし。

 ……ないね。何もない。普通に湖の底が見えるだけ。わかったことは水がすごく澄んでるってことだけ。逆に何があると思ったんだわたし。

 青い水底の岩肌がはっきりと見える。湖はけっこう広くて、直径十メートルはある。あと深い。落ちたら溺れ死んじゃう。だって、わたし泳げないもん。今まで体育の水泳サボりまくったせいだわ。


ぴちゃん。


 ん? 今、何か水の音した? したよね?

 ほら、ぴちゃって滴が垂れる音。けど……どこで? 水面も静かでちっとも揺れてないし……。

「何? ホラー? これホラー番組のロケだっけ?」

 仕事柄、誰にでも聞こえるように言う。つい癖で独り言も大きく言っちゃうのよね。

 その瞬間。

「ふん、この吾輩をホラー番組扱いとは、なかなか肝の据わった娘だな」

 なんかすっごい偉そうな声がした。

 さっきまで静かだった水面に、波紋が広がっていた。え、いつの間に?

 そしてその波紋の上に、一人の男性が立っていた。二十前半くらいかな? 見た目はわりと若い。自分のこと「吾輩」とか言ってたけど。整った顔立ちで清潔感のある髪型なんだけど、ダサイ黒縁眼鏡と染めた金色の髪で台無し。

「染めておらんわ!」

「え、ちがうの?」

 だって目は黒いじゃん。日本人顔だし。

「……それ以前にもっと、驚くことはないのか?」

「え? うーん……あ! 何でそんなに偉そうなの?」

「そこじゃないじゃろ!」

 えー、それ以外にある?

 だって普通の男の人じゃん。偉そうな。あ、でも服は高そう。白いローブ? みたいな感じの。パステルカラーで縁取りされておしゃれだし。それと、口調がやたら古くさい。何かおじいちゃんみたい。

 あとはもう、水の上に立ってるってだけよ?

 ……え?

「み、み、水の上に、立ってる!?」

「ほう、やっと気づいたか」

 人の悪そうな笑みを浮かべる謎の男性。その頭上をわたしはじぃっと見つめる。

「……糸で吊ってる?」

「吊ってないわ!」

「じゃあコレは夢なのね。そうよね、きっと目覚めたら自宅のベッドの中なのね」

「残念ながら、それも違う! これは紛れもなく現実だ!」

 残念ながらって言いながら、何であの人あんなに嬉しそうなんだろ? 変態? ドS?

「吾輩は変態では無い!」

「言ってない! 言ってないよそんなこと! 顔に出てた?」

 何で思ったことがわかったんだろ? そんなわかりやすいわたし?

「いや、顔には出ておらんぞ」

「そうよねー……って! じゃあ何であなたには分かるの!?」

 途端に謎の男性は邪悪な笑顔を浮かべた。何? まさかこの人、自分は悪魔だ俺と契約しろ的なことでも言ってくるの?

「何故なら! 吾輩は……神だからだっ!」

 わあ当たらずとも遠からず。全然嬉しくないけど。方向としては真逆だけど。やだなこんな偉そうな神様。

「偉そうで無い神など神では無いわ!」

 開き直った! 開き直ったよこの自称神!

「自称とは何だ自称とは! 吾輩はれっきとした正統なる神だ!」

「じゃあ証拠を見せてくださいよ」

 自称神は渋い顔をした。やっぱ自称なだけじゃん、と思ったけど――違った。

「最近の若いもんは、すぐ証拠を見たがるもんだ……。四百年か前のノブナガとやらはもうちっと素直だったがの……」

 そう呟いて、自称神は足下の湖を右手の人差し指で示した。

「よく見ておれよ、娘」

 自称神が言った瞬間、湖が白く輝き始めた。色はすぐに変わり、水面がシャボン玉の膜みたいにうねる色のダンスホールになる。

 やがてダンスホールの中心に、一つの景色が映し出された。どこかのチャンネルの、ニュース番組らしい。

 キャスターが何か言っている。

『――れでは、次のニュースです。昨日の夕方頃、××県○○町の路上で、トラックが横転して歩道に突っ込み、歩行者一人をはねた事故がありました。トラックの運転手の男性は重傷で、歩行者の杉崎綾音さんは病院に搬送されましたが、死亡が確認されたということです。

 杉崎綾音さんは「RiRiアンヌ」として芸能活動を行っており、関係者や親族からは悲しみの声が届いております――』

「!!」

 これ……わたしのニュースだ!

 最初はすごくびっくりした。目玉が飛び出るかと思った。でも、すぐにああ、って思った。諦めとか悲しみとか、色んな感情が入り交じったため息がこぼれた。

 やっぱり……わたし、死んだんだ。

 じゃあ、ここは「死後の世界」ってやつなのかな? どうやら本物らしい神様もいるんだし。

「ふむ、半分当たりで半分はずれといったところかの?」

 ぱちん、とシャボン玉がはじける音がして、水面は元の青だけを映し出す。あと今、さらっと人の心読んだよね神様?

「神の特権だ!」

 そんな特権あってたまるか。……ところで、

「半分当たりで半分はずれって……どういうこと? ここは死後の世界じゃないの?」

「ああ、そちらではない。そちらは当たっている。吾輩が言っているのは、お主が死んでいるということについてだ」

 ……やばい、頭がこんがらがってきた。

 え、わたし死んだでしょ? それに半分とかあるの?

「ある! 杉崎綾音、お主は確かに一度死んだ! だがしかし! 吾輩の独断により、お主に転生の権利と義務を与える!」

 何それ? 転生?

「平たく言えば、第二の人生といったところだな。もちろんお主が今まで生きていた世界ではないぞ? さて、どーれーにーしーよーうーかーなー?」

 すごく楽しそうに神様は自分の五本の指をそれぞれ指し示す。

「……ふむ! よし決まったぞ!」

「あのー、神様、それにわたしの意見とか、拒否権とかは……」

「ない! 言ったであろう、お主に与えるのは、転生の権利だけではなく、義務の二つだと!」

 いらない。

 そんなめんどくさいもの、両方いらない!

「そういうな。ついでに言えば、お主には使命も与えられるのだぞ?」

 三つじゃん!

 与えられるの、二つじゃなくて三つじゃん!

「細かいことは気にせん! これをお主に預ける!」

 そう言って神様が懐から取り出したのは……鍵?

 何の装飾もされていない、シンプルな白い鍵。これがどうかしたの?

「お主を送り出す世界には、これと同じ色違いの鍵がこれを合わせて十本存在する! それをすべて集めてこい!」

 これ以上与える物増やすの!? てかめんどくさっ!

「そういうな。ホレ行ってこい!」

 神様が言うなりぱかっ、と間抜けな音がして、バラエティー番組みたいに地面が割れた。

 さて問題です。わたしはこのあとどうなるでしょう?

 うんもう分かりきってるよね。落ちます。

「ほきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 あんまり可愛くない悲鳴を上げて落ちていくわたしに、神様はダメ押しのように言った。

「鍵をすべて集めた暁には、お主を元の世界に帰してやってもよいぞ!」

 何それずるい! そんなん言われたらやるしかないじゃぁぁぁぁぁん!!

 しかし反論する時間なんてなく、わたしは青い空に放り出されるのだった。




 ……うー……まだちょっと、頭がクラクラするぅ……。

 あの神様め……ほんっと、何の容赦もなくほっぽりだすんだから……。おかげさまで全身打ち身コースよ? 地面に激突よまったく。

 あんなの敬称いらないわね。神で十分よ神で。あの神絶対モテないわよ。

 ……それにしても、

「さー……ココどこかしら?」

 だだっぴろい草原のど真ん中で、わたしは呟くのだった。


 まず間違いなく日本じゃないわね。見渡す限り一面緑色。地平線見えるし。てか空蒼っ! 雲一つないし! 超快晴だわ……。

 そういや、神が転生とか言ってたっけ? 別の世界がうんたらって。

 じゃあココは別の世界? 世界の裏側とか? 剣と魔法のファンタジーとか? 神話みたいな世界とか? そんな感じ?

 うーん……わかんないや。

 ま、悩んでても変わんないか。とりあえず装備確認しよう。RPGとかだと、まずそこから始まるし。

 服装――とくに変化なし。薄手のベージュのコートに、紺色のセーラー服。白いハイソックスと運動靴。あれ、そういや通学鞄がない。どっかで落としたのかな? でも、あのヘンな白い花の世界に立ってたときには、もう持ってなかったような気がするし……。

 まあいいか。ないものはないんだし。

 持ち物――なし。鞄ないからなあ。

 あ、ちがうちがう。

 わたしはきょろきょろと辺りを見回し、見つけたそれを拾い上げた。

 何の変哲も無い、真っ白い鍵。ストラップもついてないけど、長い紐だけが輪っかに通されている。持ち物らしきものは、コレだけかぁ……。

 ちなみに紐の色は赤い。なんか赤い紐って不吉なんだけど……。

 ずっと手で持っているのもアレだし、首に掛けておくことにしよう。どうせ紐がついてることだし。

 そう思って首に吊すと、鍵はちょうど胸の辺りにかかって、ペンダントのようになった。うん、まあ見た目は悪くないかな。

 そしてわたしは、何気なく自分の左手に目をやった。


 白い鍵を首に掛けた。

 そして、左手に視線を送った。


 ただこれだけのことが、わたしの「第二の人生」を大きく変えることになったのだ。

 とてもとても、面倒な方向に。



 何か浮いてた。

 左手の少し上くらいに、縦十センチ、横二十センチくらいの長方形が浮かんでいた。

 色は薄い蒼。半透明で、向こう側の地平線がぼんやりと見える。

 うん、何だコレ。

 さっきまでなかった。絶対になかった。あったらさすがに気づくよこんなの。

 あ、何か書いてある。ジャパニーズだといいな。ジャパニーズじゃないとわかんないけど。ぶっちゃけイングリッシュ自信ないんだよなあ。

【ステータス画面】

 ……わあいにほんごだあ、よかったあ!

 しかもよくしってることばだあ!

【閲覧を開始する前に、名前を決定してください】

【名前:        】

 えー……うん、名前?

 何だろうね、ホントにRPGみたいだよ。

 コレがファンタジーだったら、綾音よりRiRiアンヌ、いやリリアンヌのほうがいいのかなぁ?

【名前を「リリアンヌ」に決定しました】

【ステータスの閲覧を開始します】

 早っ! え、決定早くない!? わたし口に出してすらないよ!?


【名前:リリアンヌ】

【種族:人間】

【職業:「歌姫」Lv,1】

【HP:134/150

 MP:180/180

 攻撃力:42

 防御力:38

 魔法力:62

 魔防力:33

 素早さ:21】

【スキル:5】

【付与スキル:2+1】


 うーん……わかんない。

 何せこの世界の基準がわかんないからなあ……。てかHP減ってるんだけど。コレ絶対落下ダメージだよね? あの神のやろう!

 それにしても「職業:歌姫」って、歌手だったから? Lv,1ってひどくない?

 てか、スキルとか付与スキルとかって何?


【スキル:「死神の歌」Lv,1 「召喚の歌」Lv,1 「呪いの歌」Lv,1 「応援

     歌」Lv,1 「道連れの歌」Lv,1 】

【付与スキル:「転生者」 「神に愛されし者」 +「ステータス閲覧」】


 あ、タップしたら表示された。にしてもスキルが不穏ねえ。できれば使いたくないスキルが三つもあるわよ。特にお前ね、「呪いの歌」。てか絶対使わないからね!?

 ……ん? 何この、「召喚の歌」って?

 タップしても説明は表示されない。そういう仕様? それとも、別のスキルが必要なのかしら?

 何にしても、これはどうやら無害そうだし、使ってみようかな。仲間が増えるのは非常にありがたい。もしこれで神が召喚されたらぶん殴ろう。うん。


 ……しまった。スキルの使い方がわからない。

 どうしようか。さっきみたいにスキルをタップしたらいいのかな?


【「召喚の歌」Lv,1】

【教えてよ あなたは今どこにいるの

 一緒に いてくれると言ったのに

 一緒に いてよ私の傍に

 いいえ違う どこに居たっていい

 どうか 私の傍に来て欲しい】


 あ、何か出た。歌詞かな? けど歌詞だけじゃ歌えないわよ? こんな曲わたしは知らない――ちがうや。わたしこれ、知ってる。

 これ、わたしの歌だ。

 具体的に言うと、この歌はわたしのデビュー曲。「Iしたい」って曲のサビの部分だ。

 うーん……とりあえず、歌ってみようかな? 

「…お、おしえてよ~ あなたは~いま~ どこにいるの~」

 うん、出だしはまあまあ。ライブとかでよく歌ってたのよねえ、この歌。デビュー曲なわけだし。

「いっしょに いて くれると いったのに~

 いっしょに いてよ わたしの そばに~

 いいえちがう どこに いたって いい~

 どうか わたしの そばに きてほしい~」

 高い音を長く響かせて、わたしは短い歌を結んだ。まあサビだけだしねえ。

 でも、こんなだだっぴろい、誰もいない草原で歌うなんて初めての経験だわ。誰もいない狭い収録ブースでなら何回も歌ってるけど。

 その瞬間。

 何にもなかった草原に、巨大な紫の魔法陣が二つ浮かび上がった。

 でかっ! めっちゃ光ってるし! え、これ何か召喚される感じ? いや、確かに「召喚の歌」ってやつ歌ったけど!

 これ今後へたに歌えないわね……。ってそうじゃなくて!

 魔法陣は更に輝きを増し、魔法陣を中心に風が巻き起こる。わたしの髪が吹っ飛ぶ勢いで舞う。強烈な風に草と土が舞い上がり、そのにおいがわたしを包む。

 紫の光はやがて色を変える。徐々に、徐々に。右の魔法陣は光のそれとは思えないくらい黒く、左は神々しいくらい白く。

 光は形を形成し始める。光の量はどんどん増していき、辺りは黒と白のモノクロに支配されていく。光は集まり骨格を、次いで肉付けを開始する。

 ……でかい。ちょっと待って、あれたぶん頭だよね?

 頭っぽい部分……見上げてると、わたしの首が一直線になりそうなんだけど……。

 ちょっと予想と大分違うんだけど!?  もうちょっとなんか、可愛らしいのとか、そうでなきゃ人間希望だったんだけどわたし!?

 明らかにこれ、超でっかいドラゴンだよね!?

 しかも両方おんなじくらいのサイズってどういうことよ! まさかあの神計った? ねえ計ったよね!?

 光は形を作り続ける。大きな翼、太い尻尾、鋭い爪を備えた足、全てが光の色で完成すると、バシンッ! と光が弾けた。


【スキル「召喚の歌」のレベルが3に上昇しました】


 左手に浮かぶ長方形にメッセージが浮かぶ。そっかぁ、一気に3まで上がったかぁ、よかったぁ!

 ……なんて言ってられないよ、このやろー!

 そして、そこには。

「……あ……ど、どうも……」

『なんじゃ? 妾を呼び寄せるくらいなのだから、どのような人間かと思えば……案外弱々しいものよな』

[…………]

 純白のドラゴンと、漆黒のドラゴンがいた。


『して、娘、妾を呼ぶほどの用件とは何ぞ?』

 わたしから見て、右側に鎮座する白いドラゴンは長い爪でわたしを指さす。たぶん高さは、マンション五階分くらい? そのくせ、高くよく通る声はすぐ傍でするって感じなんだけど。何でだろ? 

 翼はドラゴンの、っていうより、天使の翼みたい。たてがみが長くて、いかにも神聖なるドラゴンって感じ。薄いピンクの目は残念ながら慈愛に満ち溢れているようには見えないけど……。

『娘よ? 妾を無視するとは、良い度胸じゃな。それ相応の褒美を差し上げた方が良いかの?』

「へぇっ!? あ、いや、そんなわけじゃ……」

『ほう、妾に口答えをすると?』

 ひぃぃぃぃやっぱこのドラゴン神聖なやつじゃないや! 怖い怖い! ちょっとでも返答ミスったら死ぬじゃんわたし!

[……その辺りにしておけ。無駄に怖がらせるな]

 ずっと黙っていた左の黒いドラゴンが口を開いた。あ、意外と怖そうじゃない……。声は低くてどっしりしてる。

 白いドラゴンより少し小柄な黒いドラゴン(相変わらず首が痛い高さだけど……)。全身を覆う黒い鱗には所々赤い斑点があって、翼はまさにドラゴンっていう固そうなもの。たてがみはほとんどないなあ……。目はまるで血みたいに真っ赤だけど、それほど冷たいわけじゃなさそう……。

[逃げられでもすれば面倒だろう]

 あ、うん、前言撤回。

『……ふむ、それもそうだな。ではさっさと殺ってしまえば、後顧の憂いはないのでは?』

[そう急くな。予やお前を召喚するほどの腕前だ、まずは目的を聞くべきだ]

 何このドラゴンたち怖い。さらっと殺るとかマジでやめて欲しい。ひょっとしてこの世界の生き物ってみんなこんなの、とかそういうオチ?

『一理あるの。……娘、何を思って妾らを呼んだ?』

 ……うーん、正直に言うと、誰か仲間が増えたらいいなー、みたいな軽いノリだったんだけどな……。

『早うせい。妾の気は短いのじゃ』

 そんなん言ったら確実にわたし神のところに逆戻りだよね……。てかあの神何でこんな世界にわたしを転生させたのよ。絶対何も考えてないよね?

「……いっそ神のとこに帰って文句つけてこの世界からオサラバしようかしら……」

 ぼそっとドラゴンには聞こえないように呟くと。

『……今、何と申した?』

 あああがっつり聞かれてたぁぁ! 何で頭とわたしとでこんなに離れてるのに聞こえるのよぉぉ!

「え、いやあの……!」

 ヤバイ殺される! そう思ってわたしはぎゅっと目をつぶったのだが。

『娘、お主の言う「神」とは、どのような奴じゃ?』

 あ、あれ? 殺されてない?

 どんなやつって……嘘ついても即バレしそうだし、素直に言ったほうが吉かなぁ?

「えっと……若い人間、みたいな外見です。金髪で黒縁眼鏡で、白いローブを着てました。すごく偉そうなひとで、……いつか一発殴ってやりたいです」

 しまった最後本音が漏れた! コレ絶対言わないほうがよかったやつじゃん!

 白いドラゴンは薄いピンクの瞳を細め、長い体毛の生えた前足を持ち上げ――わたしの頭をわさわさと撫でた。

「……!?」

『うん! 気に入った! あたしも大っ嫌いなのよね、あの神の野郎!』

 え、ええ? なんか口調変わってないドラゴンさん?

 ちょっと待って、どうなってるのコレ?

『いいよ、配下ついたげる! どうせ人の子の一生なんてチョー短いし! あんたもいいよね?』

[……予のことまで勝手に決めるな。――どうせお前に言ったところで無意味なのだろうがな……学習能力はゴブリン以下なのだから]

『もう、わかってるならいちいち言わないでよ!』

 待って待って、わたしまだ理解できてないよ? 配下って何のこと? 何でキャラ盛大にチェンジしちゃってるの? いや、黒いほうは変わってないけど。

 ……何か、わたしが言ったことが白いドラゴンさん的には気に入ったっぽい、のかな? あと配下ってどういうこと?

『どうしたのよ? 契約するんでしょ、名前教えなさいよ』

 うわあすっごい上から目線な名前の尋ね方! てか契約って何のこと? それに配下って……やだよ、わたしこんなドラゴンたちの主人になるとか。

 戸惑いながらもとりあえず名乗っておく。後で後悔することになったら? それはまあ、そのときに考えよう。

「すぎざ……リリアンヌ、です」

 つい反射で本名言いそうになった。いや、これからはこっちが本名なのかな?

『スギザ・リリアンヌ? 変な名前ね』

「いえ、ただのリリアンヌです」

『えー、ややこしいことしないでよ、もう!』

 少しだけ怒ったように白いドラゴンは言い、右の前足を突き出した。半ば諦めたように黒いドラゴンも白いドラゴンとは反対側の前足を差し出す。……これ何?

「……?」

『何してるの? ほら、手載せなさいよ、片手でいいわよ』

[…………]

 同意を表して黒いドラゴンは無言で頷く。

 えっと、こうでいいのかな? わたしは白い前足に右手を、黒い前足に左手を載せる。あ、サイズはあんまり変わらないけど、質感が全然ちがう。白いほうは毛が生えててモフモフしてるんだけど、黒は鱗が固くて、冷たい……。

『……神よ。この世界に坐す、王たる神よ。妾の言の葉、願い、聞き、叶え給え。妾、神竜ミラクルエンジェルドラゴン、人の子たるリリアンヌが配下に下ることを、どうかお許し給え!』

 何で今口調戻したの!? てか神竜って何、何かすごいやつじゃないの? そんなのがあっさり配下とかいいの? ねえ?

 白いドラゴンが言葉を切ると、白い前足に載せていた右手が紫に光り始めた。きもっ! 自分の手が発光してると思うとキモイ!

 でも光っていたのはほんの一瞬で、ぱちっ! と微かな痛みが走ったかと思うと、紫の光は消え失せた。そしてわたしの右手の甲に、ややこしい黄色い紋章が刻まれていた……。

 え、何コレ?

 疑問を口にするより先に黒いドラゴンが言葉を紡ぎ始めた。

[同じく、神よ、この世界に坐す、王たる神よ。予の言の葉、願い、聞き、叶え給え。予、邪神竜デスポイズンドラゴン、人の子たるリリアンヌが配下に下ることを、どうかお許し給え]

 今度は左手が怪しく紫に発光する。ああこれ、一緒でしょ? 一緒なんでしょ?

 予想通り、ぱちっ! と微かな痛みの後、左手を見ると右手とは少し違う紋章がくっきりと浮かび上がっていた。


【「神竜」ミラクルエンジェルドラゴンをパーティーに加えました】

【「邪神竜」デスポイズンドラゴンをパーティーに加えました】

【職業「歌姫」Lv,1が付与スキル「歌姫」に変化しました

 職業「魔物の王」Lv,5を獲得しました】

【スキル「命令」Lv,1、「ヒーリング」Lv,2、「オールヒーリング」Lv,1を獲

 得しました】

【「神竜」ミラクルエンジェルドラゴンと「邪神竜」デスポイズンドラゴンの名前を設定し

 てください】

【名前:        】

【名前:        】


 あれ、模様は一緒じゃないんだ……ってか、名前? え、何、このドラゴンたち名無しなの? 名無しの権兵衛さんなの?

『はい、これで契約完了ね!』

「あ、あのー……あなたたち、名前は、何て言うの?」

 名前があるならそれ使えばいいじゃんね?

『……名前? ミラクルエンジェルドラゴンだよ?』

「いやそうじゃなくて」

 そんなん名前にしたら呼びにくいことこの上ないわ。

[……ふむ、予はこやつのことはクルルと呼んでおるぞ。あれでは長すぎる]

 よかった、黒いドラゴンは意図をわかってくれたみたい。

『ああ、そういうこと! それならあたしはクルルで、こっちはポズよ!』

 白いドラゴンは自分と黒いドラゴンをそれぞれ指さす。指っていうより、爪か。

 にしても安直ね名付け方が。短縮しただけじゃない。まあその辺のゲームが由来のわたしが言えたことじゃないけど!

「じゃあ、クルルと、ポズってわたしも呼んでいい?」

『うん、いいんじゃない?』

[そのほうが楽だろう]

 無事に断られずにすんだ、よかった。名前決めるのとか苦手なのよねえ。

【名前を「クルル」に決定しました】

【名前を「ポズ」に決定しました】

 あ、そう。仕事早いね。

 うん、あとは……。

「……もうちょっと、小さくなれない?」

 でかいんだよあんたら。ずっと見上げてるわたしの身にもなれ! そろそろ首がイカレそうなんだけど!

『あ、ごめんごめん。ちょっと待ってね!』

 言うなりクルルは何かよくわかんないことをぶつぶつ呟く。何だろ、呪文かな? ポズも何か呟いてるけど、同じなの?

 と、クルルとポズの全身が白く光り輝き始めた! え、ナニゴト? もしかして小型化できるの?

 しかし結果はわたしの予想の斜め上を行くのだった……。

 ぐんぐんと五階建てのマンションほどもあった二匹の背が小さくなる。ドラゴンだったのが象くらいの大きさに、翼や尻尾は小さくなりすぎてなくなって、やがてわたしの目線より低くなって、ポズはわたしの肩の辺りで縮小をやめたがクルルは更に一回りほど小柄になるまで変化をやめなかった。

「……ふうっ! どう、リリアンヌ!」

 ツインテールになった真っ白い髪を揺らし、クルルは満面の笑みをわたしに向けた。

 傍から聞こえてくる声ではなく、普通に声帯から出されているらしい、甲高く幼い声だった。

「ふむ、これを使うのは久方ぶりだが、問題はないようだな」

 嬉しそうにポズは自分の黒いマントをはためかせた。こっちもさっきとちがう、少年らしい普通の声だった。

「うん……どうっていうか……可愛い、よ?」

 ちょっと混乱しているせいでわたしは少し曖昧に答える。

 いやだってさ、もうちょっと小さくなってよって言ったんだからさ、小型化すると思うじゃん? 普通。

 誰が人化してって言った?

 しかも、幼女と少年に。


「そうでしょー? けどポズは全然褒めてくれないのよ、どう思う?」

 口を尖らせているのは、たぶんクルル。立っている場所は一緒だし、言葉遣いも同じ。ただちょっと……見た目が……。

 いや、変じゃないのよ? 腰くらいまでの長い白のツインテール。薄いピンクの目はドラゴンのときから変わってない。肌の色も真っ白で白いフリル付きワンピースを一枚だけ着ている。寒くないのかな……?

 たぶん見た目の年齢は七歳くらい。とっても可愛い人間の女の子で、わたしだって街中で見かけたら疑うわけがなかったと思う。

 けどわたしは見たわよ。この子の正体……。

「予はドラゴンだ、人間の娘を見たところで餌にしか思えん。何が可愛いのか予にはわからんと何度言えばわかる?」

 真面目な顔で何も知らないひとが聞いたら目を剥きそうなことを口にしたのはポズ。餌て何よ餌て。それに、あなたはあなたで中々オドロキの恰好してるわよ……。

 黒い髪は耳下あたりまで伸ばされている。男の子にしては長いわね。目は相変わらず血みたいに真っ赤だけど、それそのまんまで大丈夫? 他の人に誤解されない?

 しかも黄色い縁取りがされた黒いマントを羽織ってるし。それ明らかにサイズ合ってないよね? ご丁寧に裏地は真っ赤よ、やだこの子誤解の塊じゃん。もう悪魔にしか見えないじゃん。

 その下は普通に黒いシャツとズボンなんだけどな……何でそんな黒ずくめ? 黒いドラゴンだから?

「だから人間の勉強しようって五世紀前から言ってるじゃん! どうせ暇なんだからさー!」

「暇ではない、こちらの世界は荒れ放題なのだ。脳味噌の入っていない魔族の相手をさせられる予の身にもなれ」

 さっきから思ってたけどポズってちょいちょいエグイこと言うよね? 脳味噌入ってないってひどくない?

 てか五世紀って……五百年!? そんな長いこと付き合いあるのあんたら!?

「まあ……仲よさそうでいいと思うよ」

「そう? まあこの世界の誕生からこっち、ずーっと一緒だったからねー!」

「面倒なことにな」

 あ、想像以上に長かった。もうなんか色々感覚狂うんだけどこの子たち。

 そうだ、この子たちのステータスって見れるのかな? 同じように左手の方見たら出るかな?

【「クルル」と「ポズ」のステータスを閲覧します】

 わりとあっさりできたなぁ……。


【名前:クルル】

【種族:ミラクルエンジェルドラゴン】

【職業:「神竜」Lv,4729】

【HP:4753782/4753782

 MP:2568970/2569470

 攻撃力:83721

 防御力:69304

 魔法力:64817

 魔防力:40396

 素早さ:76068

【スキル:5938】

【付与スキル:9246】


【名前:ポズ】

【種族:デスポイズンドラゴン】

【職業:「邪神竜」Lv,4729】

【HP:3561939/3561939

 MP:4106342/4106842】

 攻撃力:53859

 防御力:39277

 魔法力:102653

 魔防力:64920

 素早さ:78342

【スキル:6021】

【付与スキル:8975】


 ……ううん?

 ちょっと待って、何この気持ち悪いステータス?

 早くもバグ?

はじめまして、竜風 愛花です。

今回なろうに小説を初投稿させていただきました。

この続きは近日投稿予定です。二曲目以降も読んでいただけると幸いです。

読んでいただき、ありがとうございました。


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