カランカ東の洞窟
セレットと6人の盗賊全員がゼンタの方を振り向く。
「ゼンタさん!」
セレットは驚き、盗賊たちは「誰だ!?」とダガーを取り出した。
洞窟にはォォォと小さく風の音が鳴る。日の光が届いており、人の顔がはっきりと見える。
「セレットさん、もう大丈夫です」
ゼンタは剣を抜いた。それに続き、リシャールもゼンタの横に立ち、剣を抜く。
盗賊たちは「なにいってんだ?」と不思議そうにつぶやく。
「ゼンタさん。余計なことをしないでください」
セレットは静かに言った。
「大丈夫です。こいつらは俺が」
ゼンタとリシャールはゆっくり盗賊たちの方に歩き出した。
盗賊たちはじっとゼンタたちを睨み、ダガーを構える。
「なにか勘違いをしていませんか?」
「勘違い?」
ゼンタとリシャールは足を止めた。
盗賊たちが微かに笑う。
「私は自分の意思でここにいます。彼らの仲間となり、盗賊になったのです」
「なんだって!?」
ゼンタは耳を疑った。
「もう、貧しい生活はうんざりなんです。炎帝の書を高額で売り、私とチュリンが幸せになれるなら、他の人がどうなろうと知りません」
チュリンはセレットの膝に抱きつきセレットを見上げている。
「そんな……」
ゼンタの体の熱が一気に冷たくなった。
「そんなに驚くことですか? 自分が良ければそれでいい。当たり前のことでしょう?」
セレットは眉ひとつ動かさず言った。
「だめだろ……そんなの……」
ゼンタの全身の力が抜けていく。立って剣を握っているのが精一杯だ。
すると、リシャールがゼンタの一歩前に出る。
「私は部外者だ。貴様の事情など知らないしどうでもいい。貴様のような人間を増やさないためにも、盗賊はここで討ち払う」
リシャールは剣を構えた。
「どちら様でしょうか? まさかあなたが傭兵さん? まぁ”部外者”の私にはどうでもいいことですね」
セレットは掌を上に掲げた。
セレットの掌から50cm程の球体の炎が出現した。
ゼンタとハイナはその光景に目を奪われた。
あれが、魔導!?
「消えてください。フレア・バレット!」
球体の炎が高速でリシャールの方へ飛んできた。
炎はリシャールの横を通過し壁に当たった。
ゼンタは冷や汗をかき「あぶねぇ」とつぶやく。リシャールは速すぎて一歩も動けなかった。
セレットは苦い顔で「チッ」と舌打ちをする。
ゼンタは自分たちに向けられたセレットの敵意にセレットの”本気”を感じ、その場から動けなくなった。
「行きましょう。アレはもう目の前です」
セレットは盗賊たちを促し、洞窟の奥へと歩き出した。盗賊たちはダガーをしまい、セレットの後に続く。
セレットたちは去って行ったが、ゼンタたちの時は止まったままである。
ォォォと風の音だけが鳴っている。
ゼンタの頭の中は混乱していた。今何が起きたんだ? 俺は何しにここへ来たんだ? 俺は今正しいのか? 俺は、俺は……。
ゼンタは下を向き、立ったまま動かない。
ゼンタはセレットを救うため盗賊と戦いにここへ来た。しかしそのセレットが盗賊となった。意味がわからない。
ゼンタは止まったまま考え込んでいた。いや、落ち着け。冷静に考えろ。やることは変わらないだろ。盗賊を倒しセレットさんを救うんだ、セレットさんの事情ごと。
ゼンタはハイナの方を見た。
ハイナは不安げな表情を浮かべていた。セレットさんのこともあるけど、それをただ見ていることしかできないってのも辛いんだろうな。俺以上に不安で俺以上にどうしたらいいかわからないんだろう。
でもハイナは何も言わず耐えている。ゼンタは胸が痛くなった。
「ハイナ! 俺はセレットさんを助けに行く。セレットさんの事情ごとな。俺と一緒に来てくれ」
ゼンタは明るい表情で言った。
「うん!」
ハイナも明るい表情で答えた。
「俺がやつらと戦ってる間に後ろから誰かこないか見張っててくれ」
「わかった!」
ハイナは親指を立ててウインクをした。
すると、ゼンタとハイナの前にリシャールが立った。
「ゼンタ様、ハイナ様、私もやつらを追います」
リシャールは言った。
ゼンタはあっけにとられる。未発達な顔と体に合わない凜とした顔つきと強靭な心。この子はすごいな。
「よしみんなで行こう。そんで」
ゼンタは二人の顔を見た。二人はゼンタの顔を見つめる。
「勝ったら村に帰ってみんなでうまいもんでも食おうぜ!」
「いいねぇ〜」
「いいですね」
ゼンタたちの士気は高まった。不安げな表情はどこにもない。
「よし、行こう!」
ゼンタたちはセレットたちが進んだ方向へ歩き出した。




