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セレットとチュリン

  ゼンタは早歩きで昨日の女性の家に向かった。

 どこへ行っても誰に監視されているかわからない。そして、あの女性の身が危ないかもしれない。

 焦りながら歩くゼンタの後ろをハイナは不思議そうについていく。


 そしてあの女性の家の前についた。ゼンタはトントンと扉をノックする。



 「すいません。昨日料理屋で会った者ですが」



 ギギッと扉が半分開く。


 

 「……はい。あっ昨日の方たちですね? 昨日はどうも」

 

 「あなたに聞きたいことがあります」


 「え? ええ、中へどうぞ」


 

 女性は扉を全開にし、ゼンタとハイナは「お邪魔します」とつぶやき、家の中に入った。

 家の中はボロボロで決して広いとはいえなかった。部屋の隅っこで女の子がちょこんと座っている。


 

 「で聞きたいことと言うのは?」


 「ついさっき、変な奴にダガーを突き付けられました。昨日あの女と一緒にいただろう、アレを知らないか? って」


 「!」


 

 女性は驚きを隠せない顔をした。ゼンタは続ける。



 「あいつら何者なんですか? 俺たちを監視しているみたいですが」


 

 女性は自分の顔を両手で覆い、数秒止まった後、口を開いた。


 

 「全てお話しします。宿屋に行きましょう。チュリン、出かけるよ」


 

 女性がそう言うと女の子がこちらへ来た。

 

 4人は無言で宿屋に向かい、誰にも話しを聞かれないよう角部屋とその横の2部屋を借り、角部屋に入った。

 そして女性が再び話し始める。



 「あなたたちを巻き込んでしまうとは。本当になんとお詫びすればよろしいのか」



 女性は顔を下げる。



 「申し遅れました私はセレット・フィフィアーノと申します。この子は娘のチュリン」


 「ササバン・ゼンタです」


 「ハチヨウ・ハイナです」



 セレットが名乗るとゼンタたちもそれに続いた。



 「ゼンタさんにハイナさん。実は、私たちはゾライの子孫なんです」



 ゼンタは「ゾライって?」と思ったが聞くのは後にした。ハイナも口を挟まなかった。



 「ゾライが残した炎帝の書というものがあります。彼らが言うアレとはそのことです。ある場所に封印されているんですが、そのありかを私は知っています」


 

 ゼンタたちは黙って話を聞く。



 「炎帝の書には禁断の炎魔導が記されています。彼らはそれを使うか、もしくは裏の商人に売りさばき、大金を得るつもりでしょう。アレが世に出回り悪人の手に渡ったら、恐ろしいことになります。ですから先祖代々ゾライの子孫が守ってきたのです。だからこそ炎帝の書のことを知っている人間も、私がそのありかを知っているということを知っている人間も、数えるほどしかいないはずなんですが……。一体どこで嗅ぎつけてきたのか……」


 「なるほど……つまり盗賊ってやつですねあいつらは」

 

 「そうです」


 「なら、あいつらを退治するか村から出るかしないんですか?」


 

 ゼンタはできるならとっくにしてるだろうと思いながらも、事情を知るため敢えて尋ねた。


 

 「私には傭兵を雇うお金も、村の外のモンスターを退ける強さもありません。盗賊がチュリンに手を出すんじゃないかと思って仕事もろくにできず、どうしようかと思っているところです」


 

 ゼンタは事情を理解した。旦那はいないということか、とも察した。



 「あなたたちには何の関係もない話です。本当に申し訳ありません。今すぐ村を旅立ってください」


 「それがそうもいかないんですよ」


 「どういうことでしょう?」


 「俺たちにも、傭兵を雇う金も、武器を買う金もモンスターを倒す強さもないってことです」


 「でも、でしたらどこからどうやってこの村へきたんですか? あなたたちは旅人なんですよね?」


 「それは……」



 ゼンタは口ごもる。



 「いいんじゃない。セレットさんも大事な話をしてくれたんだし」



 ハイナがそう言うとゼンタは「そうだな」と答えた。


 ゼンタはこれまでの経緯や現状を全て話した。




 「信じられない話ですが、この状況で嘘をつくとも思えませんし、嘘をつくような人にも見えません。私は信じます」


 「ありがとうございます」


 ゼンタはホッとした。異世界側に理解者がいるのはありがたい。



 「やつらに尾行されてる以上、俺たちは運命共同体です。全員の金を出し合って1日単位で傭兵を雇いましょう。そして傭兵の護衛で隣の街まで移動しましょう。もし、隣の街に着けないほどの弱い傭兵だったら引き返して次の日また別の傭兵を雇う。隣の街に着ければ、俺は異世界の持ち物を売って金を手にいれれます。やつらが追ってくれば傭兵をたくさん雇って、脅かします」


  

 満身創痍な作戦だが他に方法はなかった。とにかく隣の街に行くこと、それでいくらでも作戦がたてられるとゼンタは考えていた。



 「今からギルドに護衛のミッションを依頼しに行きましょう」


 

 4人はギルドへ向かった。

 そして傭兵の依頼書をリクエストボードに貼ってもらった。

 超低額の報酬に明日の朝来れる者ならば誰でも可という条件。ろくな人間が来るのだろうか。

 しかし他にできることはなかった。



 「では私たちは帰ります。また明日」


 「待ってください。宿代がもったいないんでよろしければセレットさんの家に泊めてくれませんか?」


 「すいませんがそれはできません。どうせ明日になれば隣の街に行けますし、いっしょじゃないですか?」



 ゼンタは少し意外だったが「それもそうですね」と答えた。



 「ではおやすみなさい」



 セレットが言うとチュリンも「おやすみなしゃぁい」と続いた。



 「おやすみなさい」

 「おやすみなさい」


 

 4人は挨拶を終えると、それぞれの寝床に向かった。




 ゼンタとハイナは宿屋に着くと昨日とは違い別々の部屋を借りた。


 ゼンタは自分の部屋に入ると、自分の心の中の何かが消えたような気分になった。

 思えばこっちの世界に来て、一人きりになるのは初めてだ。はっきり言って不安で落ち着かない。ハイナも同じ気持ちなのだろうか。

 


 ゼンタは寝支度を整えると、ベッドに入った。


 

 (明日、うまくいくかな……)



 昨日とは違い、眠ることができなかった。







 そして朝になった。

 

 ゼンタはハイナと、セレットの家に着いた。



 ゼンタはトントンとノックをし「おはようございます。ササバンゼンタです」と声をかけた。

 

 しかし返答はなかった。

 寝ているのだろうか。でももうすぐ傭兵が来る。

 起こさなければ、と思ったゼンタは「お邪魔します」と言いながらゆっくり扉を開けた。

 すると



 「え?」

 


 そこにセレットたちの姿はなかった。


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