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面倒なこと

 「なんで2つ借りなかったの?」


 「だってお金もったいないじゃん」


 「そうだけど……」


 

 ハイナは何も気にしていない様子だった。

 ゼンタは仕方ないなと思い、部屋に荷物を置いた。仕方ないを男の俺が思うのもおかしな話だな、と自分で自分にツッコむ。



 それからゼンタとハイナはそれぞれ寝支度を終え、ベッドに入った。

 

 ゼンタはハイナに布団が多くかかるよう、体のほとんどを布団から出した。



 「そういうのいいから。風邪ひかれると困るし」



 ハイナがそういうとゼンタは再び体を寄せた。

 ゼンタの腕とハイナの腕が密着する。

 柔らかい。

 しかし、ゼンタはいざ寝てみるとなぜか想像していたよりも緊張しなかった。むしろ妙に落ち着く。ハイナも同じ気持ちなのだろうか、スヤスヤと寝ている。

 ゼンタは今日ハイナと初めて会ったばかりだということを思い出した。信じられない。妙に落ち着く。

 

 いろいろ思っているうちに、ゼンタは疲労からあっというまに睡魔に呑まれ眠りについた。






 朝、目を覚ました2人は宿屋の朝食を食べ終え、自分たちの部屋に戻り腰をおろした。

 

 

 「じゃあ、これからどうするか考えますか」


 「はい」


 「まず、この村に元の世界に戻る方法を知ってる人間はいない。別の大きな街に行こう」


 「そうだね。最初に目指してたあの街? とか?」

 

 「うん。というかできるだけ栄えてる街だな。1番確実なのはこの世界で1番栄えてる街とか偉い人に会うことだろうし」

 

 「なるほど。でも偉い人とかって会ってくれないんじゃないかな」


 「普通には無理だろうな。けど俺たちが異世界人だという証拠を用意すれば会ってくれると思う」


 「おおっなるほど! あっ、例えばケータイとかいいんじゃない? 絶対こっちにはないものだし!」


 「うん、ケータイが確実だ。だけど……」

 

 突然、ゼンタの歯切れが悪くなる。



 「悪い……俺、携帯を家に忘れてきちゃった。ハイナは持ってる?」


 「あ……私も……今持ってない……」


 「そうか……」


 「うん……」



 ゼンタとハイナは放心状態になった。口から魂が抜けるような感覚だ。



 「私たちもしかして終わった?」


 「終わったかも」


 「うそーん」


 「大変申し訳ございません……」


 「いえ私も……」



 2人は無表情で口だけ動かす。

 ゼンタはカバンに手を伸ばし、カバンの中を覗いた。



 「今あるのは筆記用具、向こうの財布、金、ペットボトル、風邪薬。ケータイには到底及ばないけど、一応異世界人の証明になる……かもしれない。大きな街に行けば店やマニアにある程度高値で買い取ってもらえると思うし、これを有効に使おう」


 「わかった。で、どうやってその街に行く?」


 「そこなんだよなぁ」


 

 ゼンタはカバンを閉め、腕を組んで下を向く。



 「外はあの化け物たちがうろうろしてるからなぁ。オールZの俺たちには危険すぎる。武器や防具が絶対にいる。でも昨日値段を見たんだけど、高いんだよ。高すぎる。1番安いのだって俺たちの報酬じゃ手に入れるのはかなり先になる。もちろん安物じゃ怖いから高くていいのを買わなきゃいけない。それじゃこの村を出るのは何年先で、元の世界に帰るのは何年先になるんだって話だ」

 

 「う〜ん」

 


 ハイナも腕を組んで顔をしかめる。



 「傭兵を雇うのも一緒だしな。強い奴を長く雇うのは大金がいる。じゃあ持ち物を少し売るかってなるけど、この村に高値で買い取ってくれる店もマニアもいないそうだ」

 

 「それって……やばくない?」

 

 「やばい」



 ゼンタとハイナは必死に策を考える。

 しかし突破口の見つからぬまま、仕事の時間となり作業に移った。







 夜になり畑作業を終えたゼンタは村を歩いていた。今日一日中作戦を考えたが、なにも思い浮かばない。

 このままじゃまずい。なにか、なにかないかと村の路地裏を歩いていた。

 すると



 「まさか自分から人のいない場所に行ってくれるとはな」


 

 後ろから誰かが声をかけた。ゼンタが振り向くとそこには人相の悪い男が立っており、その手にはダガーが握られていた。



 「お前、あの女とどういう関係なんだ?」


 「あの女?」


 「しらばっくれるんじゃねぇ。昨日一緒に飯屋から出てきたじゃねぇか」


 

 ゼンタはあの女と言われ、ハイナを連想したが食事処にいたあの女性のことだと理解した。


 

 「あぁあの人? 昨日たまたま隣のテーブルでちょっとしゃべった、それだけだよ。そもそも俺がこの村に来たのも昨日だ」


 「じゃあアレについては何かしゃべってなかったか?」


 「アレ?」


 「てめぇ隠したって無駄だぞ。殺されたくなかったら正直に話せ。それともてめぇもアレを狙ってるのか?」


 「アレってなんだよ知らねぇよ」



 ゼンタは自分に向けられている刃をチラッと見た。やばい。逃げ切れるのかこいつから。

 男はじっとゼンタの顔を見続けている。


 

 「まぁいい。お前たちはチェックリストに入っている。俺たちより先にアレを手に入れてもすぐに奪いに行くからな」


 (お前”たち”? 俺”たち”? つまり、よくわからない集団が俺とハイナに目をつけているってことか。一体なんで?)



 男はダガーをしまい、踵を返し去ろうとした。

 


 「待ってくれ」



 ゼンタは男を呼び止めた。男は半身でゼンタを見る。



 「そのアレっていうのがなにか知らないけど、なんかすごいものなんだろ? もしそのアレの情報とか、アレそのものを手に入れたら金と交換してくれないか?」


 「なんだと?」


 

 男は完全にゼンタに体を向けた。

 ゼンタは嘘をついた。アレを売るつもりなどない。できるだけ、この正体不明の男から情報を聞き出し、なおかつ安全を確保するため協力者のふりをしようと試みた。



 「金に困ってんだ俺は。それにあんたたちより俺の方が信用がある。探りも入れやすい」


 「確かにな。よしわかった。アレについてなにか知れればアジトに来い」


 「いいのかよ? そんな簡単に」


 「さっきも言ったが、お前たちはチェックリストに入っている。生かすも殺すも俺たち次第。お前が何をしようが関係ねぇ。変なことをしたら殺す、それだけ。リスクなしでリターンの可能性があれば願ったりだぜ」


 「なるほどな」


 

 ゼンタは内心穏やかではなかったが平静を装った。



 「アジトの場所はこっちだついて来な」


 「待て、俺たちが一緒に歩いてるのを見られるのはまずいだろ」


 「慎重だな。すぐそこなんだけど、まぁいいか。アジトはこの裏の家の3つ隣の家だ。それと入る時に合言葉がある。空はどっちだ? と聞かれるから17本と答えろ。それで中に入れてくれる」


 「わかった」


 

 男は「忘れんじゃねぇよ」と言いながらその場を去っていった。


 ゼンタは立ち尽くしたままである。

 

 ゼンタは今朝、何年も村から出られないかもしれないことを危惧していたが、それは心のどこかで”村の中は安全”という前提があった。

 しかしたった今その前提が、見知らぬ男とその手に握られた武器によって壊された。

 

 



 

 ゼンタはハイナの働く宿屋の前でハイナと合流した。



 「昨日の場所で待っててくれて良かったのに」

 


 ハイナは焦るゼンタを見て尋ねる。



「いや、ちょっと面倒なことになった。昨日のあの女性の家に行こう。全部そこで話す」


 

 




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