カランカ
「私も初めて見ました」
「いやいやちょっと待ってください! 確かに俺は自分の能力に自信はないですけど、オールZは流石に……というか18歳の男の体力とか力がZなら、女の人や子供はどうなるんですか!?」
ゼンタは納得がいかなかった。だが納得がいかないのは受付嬢も同じだった。
「18歳でオールZはありえないですね。幼い子供でなおかつ何の才能もない、あるいは遅咲き型ならオールZはありえますが、それから成長しアカデミーに通い、嫌でもレベルを上げさせられますからね」
「アカデミー? レベル?」
「え?」
ゼンタの疑問に受付嬢はとまどった。
「まさか、本当に違う世界からきたのですか……?」
受付嬢は目を丸くしながらそう言った。
ゼンタはその言葉を聞き、自分達の置かれている立場を察した。そりゃそうだ。異世界から来たなんて誰が信じる。誰が相手にする。自分が逆の立場なら関わらないか適当に流すかしかしない。むしろおかしいのはマスターだ。なぜこの人はあっさり信じた。
ゼンタが受付嬢の言葉に返答する前にマスターが口を開いた。
「俺も記憶喪失か誰かの魔導で頭がやられたかと思ったんだがな。でも昔聞いた噂を思い出してよ。誰も使うことができない究極召喚で”異世界の住人を召喚する”ってのがあるらしいんだ。もしかしたらそれかもって思ったんだが、オールZを召喚してどうしろって話だよな」
「魔導? 召喚?」
マスターの話にゼンタとハイナはついていけなかった。
「まぁ細かい話は後だ、とにかく姉ちゃんの方もステータス見てもらいな」
マスターが促すとハイナもステータスを見てもらった。
ハイナは自分のステータスシートを受け取り、まじまじと見る
ゼンタはハイナのステータスに興味を示さない。自分がオールZならハイナも似たようなものだ。
「うそ〜!?」
「えっどうしたの?」
「私もオールZだった……」
「そう……ドンマイ、俺逹」
ゼンタとハイナの目から生気が消えた。
「まぁそう気を落とすなよ若者。今はステータスが低くてもよ、鍛えてレベルを上げればステータスが上がるんだ。あっレベルってのはな、その人のステータスの成熟度だ。最初は全員1から始まって鍛えれば1づつ上がっていく。100まで上がったらもうステータスは上がらねえ。つまりお前らも鍛えて強くなりゃいいんだ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ! ステータスシートの自分のレベル、確認してみな。100%レベル1だけどな」
ゼンタとハイナは自分のステータスシートをもう一度見た。
「あの、どこに書いてあるんですか?」
「うん、俺も」
「左上にあるだろ?」
「ないです」
「俺も」
「なに!? 見せてみろ」
マスターは2人のステータスシートを見た。
「嘘だろ……ありえねぇ」
マスターはステータスシートを見ながら固まる。その額には汗が滲み出していた。
マスターが受付嬢にステータスシートを見せると受付嬢もマスターと同じ表情になった。
「お前らが異世界人かどうかは知らねぇが、普通の人じゃねぇのはわかった。お前らもわからないことだらけだと思うが、俺達もわからないことだらけだ。これからどうするかはおまえらが決めろ」
「そうですね。まずはお金を稼ごうと思います」
「そういやそういう話だったな。あそこにあるリクエストボードからミッションを選んで受付に言うんだ。お前らにバトル系のミッションは無理だから、それ以外のでな」
マスターは大きなボードがある方向に指をさしながら言った。
ゼンタとハイナは言われた通り、リクエストボードへ向かう。その途中ギルドの何人かから視線を感じたが、自分たちを見る理由はわかっているので、目を合わせないようにした。
ゼンタとハイナはリクエストボードの前に着くと全体を見回し、自分の希望するミッションを決めると、受付に戻り申請した。
ゼンタは畑作業、ハイナは宿屋の受付のミッションを選び、どちらも承認。
そして早速ミッションが始まった。
すっかり日の暮れた頃、畑作業を終えたゼンタは報酬を受け取り、村はずれにある食事処に入った。ここでハイナと落ち合う予定なのだ。
小さい店内の四つのテーブルの1つに座る。テーブルも椅子もところどころ木が剥がれており、あまり立派な店とは感じなかった。が、それでいい。求めているのは料理の「安さ」だから。
メニューを開くと予想通りギルドのメニューより値段が安かった。
「おっすゼンタ! どうだった?」
ゼンタがメニューを眺めている間にハイナがやってきた。
「俺たちの世界とやることは一緒だった。そこは安心したよ」
「よかったー私も!」
ハイナは席に座り大きくのびをしてあくびをする。
そしてゼンタとハイナは迷った末、どちらも魚料理を注文した。
「これからどうするかだけど」
「待った。その話は宿屋で話そう」
ハイナの話題をゼンタが制止した。ハイナは察し、2度小さくうなずく。
それは異世界人が一般的でないこの世界では、自分達が異世界人であるということが知れ渡るのはリスクが大きく、人前では隠さないといけないということだ。
2人は適当に雑談し、1日の疲れを癒した。
ゼンタは話をしながらも、左横のテーブルが気になった。ハイナも時々、視線を右に動かしている。
貧しそうな身なりで緑の髪の40歳ぐらいの女性と、同じく緑の髪の4、5歳ぐらいの女の子が座っていた。
女の子は小さなパンをちびちびかじり、女性は何も食べていない。
ゼンタ達が雑談している間、母娘と見られるその2人は何も話していなかった。
その無言に、ゼンタの体は熱くなった。
ゼンタは自分達の料理が到着すると、1呼吸おいて隣の母娘のテーブルに料理を置いた。
「これ食べてください」
ゼンタが言い終わると同時にハイナも料理を置く。ハイナも先ほどから同じ気持ちだった。
「いいですよそんな」
「俺達旅人なんですけど、この村の人に親切にしてもらったんで。その恩返しというか」
「そんな……ありがとうございます」
女性は頭を下げた。女の子はさっきより早いペースでもぐもぐ食べ始める。
ゼンタは女の子を見つめた。小さい子供に魚は口に合わないと思うが、よほどお腹がすいていたんだろう。
ゼンタとハイナは自分達の席に戻り再び雑談をする。
そして母娘が料理を食べ終わった。
「本当にありがとうございます。ほら、お兄ちゃん達にお礼を言って」
「ありがとー」
「いいんですよ」
しかし1食程度で何の解決にもなっていないのはわかっていた。
「あの、失礼ですがお金に困っているんですか?」
「…………はい。ですが、あの、このお礼は致します。村を出る前に我が家へ寄って行ってください。家の場所はこれから案内します」
「いやいいですよ本当に」
「ええ。あっ、でも家の前までは送りますよ」
女性が理由を話そうとしなかったので、追求しないことにした。
そして4人は店を出ると、女性の家の前に向かった。辺りはすっかり夜である。
歩いてすぐ、4人は女性の家に到着した。木でできた古い家がそこに建っている。
「じゃぁおやすみなさい」
「本当にありがとうございました」
女性は三たび頭を下げた。女の子は眠そうに目をこすっている。
「じゃぁまた」
ゼンタとハイナは2人に別れを告げると宿屋へ向かった。
「大丈夫かなあの人達」
ハイナは心配そうにつぶやいた。
「むしろなんで大丈夫じゃないのかな。異世界から来た俺たちでもこうして一応は生活できそうなのに」
「ワケありっぽいね」
「だな。でもいちいち関わってたらキリがない。俺達より強いし年上だし、なによりこの世界の人間だ。自分でなんとかするだろ」
「そうだね」
話をしている間に宿屋に着く。
ハイナは「ここで働いてたからわたしに任せて」と、部屋を決めた。
「1番安い部屋の中でここが1番ベッドがふかふかなんだよ。今日寝るならここって決めてたんだ」
「へぇよかったじゃん」
「うん!」
「俺はベッドはなんでもいい派だから共感できねぇけど。で、俺の部屋は?」
「え? ここだよ?」
「え? ハイナの部屋は?」
「ここだよ」
ゼンタは一瞬固まった。
「一緒の部屋!?」
「うん」
「一緒に寝るの!?」
「うん」




