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全員集合!!(後編)

もはや勢いのみで執筆。

「最後の試練は、『きゅんきゅんときめきシチュエーション対決』です!今から、皆さんにカードを配ります。そこに書いてあることを取り入れた、きゅんきゅんしちゃうシチュエーションをカップルで演じていただきます。観客の皆さんからの拍手や歓声が一番大きかったカップルが優勝です!」

「え、今までのポイントは?」


哲也はすかさず聞くが、慎はあっさり言い放った。


「それはチャラです!3カップルに絞るための予選だったということで」

「おいおいー!」


哲也の嘆きは無視され、各カップルの女性陣が集められ、それぞれカードを引く。他の人には見せないように、と言われ、皐月はそっと持ち帰って哲也と一緒にカードを見る。


「何これ?」


そこには『顎クイ』と書かれていた。


「えっ!皐月さん、これ知らないの!?」

「え、そんなに有名なの!?」

「うーん、まあ、若い人はみんな知ってるかな・・・」

「え、これ、どういうこと?クイって、魚だっけ?」

「いや、魚はクエ。大体『顎が魚』って何さ。・・・そっか、じゃあ、皐月さんそのままでいいや。俺に任せてくれる?」

「・・・え」


それはそれで嫌な予感が、と皐月は思ったが、哲也はそれ以降、鼻歌を歌いながら考え事に没頭してしまい、皐月の疑問には答えてくれなかった。


「さて、シンキングタイム中に、特別ゲストのお2人にもエキシビジョンをしていただきましょう!」

「ええっ!?何それ、聞いてないです!」


司会の発言に千花は叫び、「何もしなくていいから」と言っていた愛実の姿を慌てて探した。愛実はステージ袖からこちらを見ていたが、千花と目が合うと「すまぬ・・・」としぐさで詫びていた。反対に、将生はつやつやした笑顔で手を『グッ』とやってこちらを見ている。


「マサキの野郎・・・わざと黙ってたな・・・」


元晴が静かに怒りながら言う。


司会はそんな2人に構わずに続ける。


「えー、ここに、カードが1枚余っていますので、このシチュエーションで、きゅんきゅん来るやつをぐぐっとお願いしますね!」


今からでも断れないだろうかと、千花は助けを求めるように元晴を見たが、元晴はちょうど受け取ったカードを見ているところだった。そして千花が何か言う前に、元晴から言われてしまった。


「ちぃちゃん、せっかくだから楽しむんだったよね?」


先程自分が言った言葉を返され、千花はぐっと詰まる。


「そ、それはそうだけど・・・」

「大丈夫大丈夫。楽しめばいいんだよ。僕に任せて・・・ね?」


そう言った元晴の顔は、千花に無理矢理迫るときの黒さが感じられた。


「はい、では、特別ゲストのお2人による、きゅんきゅんシチュエーション!お題は『耳つぶ』です。どうぞ!」


どこかから撮影用のカチンコを取り出した慎が鳴らし、スタートとなる。


「え、ちょ、待って、何?耳つぶって!?」


千花は元晴からお題を教えてもらえず。


かちん。


そのままスタートされてしまった。いったん止めてもらわなくては!


そう思って慌てて司会者の慎の方に向いた千花を、元晴は背中からぎゅっと抱きしめた。


「は、ハル・・・?」


元晴は千花の髪の感触を味わうように顔の下半分を埋めた後、ゆっくりとした動作で千花の耳元に唇を寄せた。そして、いつもより低い声で、


「そんなに隙ばかり見せてると・・・食べちゃうよ?」


おまけにちゅっとリップ音。

千花は真っ赤になって、硬直した。


「はいカットぉおお!」


かちん。


その音で、千花は我に返った。そうか、今のがきゅんきゅんシチュエーションだったのか、と。


観客からは「キャー!」「わー!!」「私を食べてー!!」「姫からの狼って萌えーーー!!!」などの声が飛んでいる。

夕子はすべて動画で撮影していたらしい。「ハル君ったらおませさんねぇ」と、純太に言っているようだ。おませさんで済むせりふではないが。


「・・・ハル、終わったよ。離して」


終わったはずなのに、元晴は千花をぎゅっと抱きしめたまま、離そうとしない。


「えー、せっかくの役得だからやだ」

「やだじゃありません!」

「じゃあ、さっきの返事は?」

「え?」

「食べていい?」


千花の頭が数秒前の光景を再生し、再び、真っ赤になる。


「いいいいいいいわけないでしょう!」

「えー」

「はいはい、特別ゲストのお2人様、ありがとうございますですが続きは後程お願いしますねー」


慎がうまく(?)流し、いよいよ審査開始となる。

皐月たちは一番最後だ。高校生カップルたちが初々しく可愛らしいシチュエーションを目の前で繰り広げている。


「はー、『壁ドン』は知ってたけど、『肩ズン』なんてのもあるのねー。なんでも略せばいいってもんじゃないけど・・・さっきの『耳つぶ』は『耳元でつぶやく』ってこと?」


皐月はぶつぶつ呟きながら考えている。では、『顎クイ』とは何なのか。

ほとんどの単語が、『体の部位』+『擬音語』だ。『壁』を『ドン』と叩く。『肩』に『ズン』とのしかかる(?)。つまり、『顎』を『クイ』する。


つまり何だろう?と、結局結論が出ないまま、皐月たちの番になってしまう。

もう今までで十分やらかしたし、もうどうでもいーやと言う投げやりな気持ちで、皐月はステージ中央に立つ。


「さて、じゃあ『顎クイ』が何たるかを、皐月先生にお教えいたしましょう」


哲也が、少しふざけた調子で言って、皐月の前に立った。


かちん。


何をされるのかと、皐月は少し身構える。

すると、哲也が真剣な顔で近づき、皐月の顎に手を添える。

そのまま少し上に持ち上げ、皐月の顔にゆっくりと近付き・・・


「にぎゃああああああ!」


ばちーん!


皐月の平手が、哲也の頬にクリティカルヒットした。

観客席はシーンとなった。ステージ上も、誰も動けない。

唯一、皐月だけがはーはーと肩で息をしている。

頬をしこたま張られた哲也が、ゆっくりと顔を上げた。


「ひどいなー皐月さん。今のはちょっと痛かったよー。あと、野良猫みたいな悲鳴だったね」

「だ、だって、何、こんな、とこ、で、きききキスしようと、して」

「だって『顎クイ』だから、やってもいいかなって」

「ダメに決まってるでしょー!こここんな!大勢の!人の!前で・・・!」

「仕方ないなぁ、照れ屋さんなんだから・・・じゃあ、続きは2人っきりの時に、ね」


最後はとびきりの甘い声で、皐月の耳元で囁く。

そして真っ赤になって固まった皐月を愛おしげに見つめ、ぎゅっと抱きしめるのだった。


かちん。


「はい、先生カップルのきゅんきゅんシチュエーションでしたー!」


慎の声で、観客はわっと盛り上がる。「何だ、平手も演技のうちだったのねー」「迫力あったねー」「断られてからの、『2人っきりの続き』に萌えるー!」などなどの感想が聞こえる。


が、皐月には分かっていた。すべて、哲也の計算だ。『顎クイ』をされた皐月がどう動くのかも、すべて読んでいたのだろう。


手のひらの上で踊らされていたようで、おもしろくない。しかし、哲也に勝てるはずもない。実行委員から冷やしタオルを受け取った哲也は頬にあてながら「ひーひゃっこい!」と楽しそうにしていた。


「えーでは、観客の皆様、一番きゅんきゅん来たシチュエーションに、拍手をしてくださいねー!」




結果。

王道の『壁ドン』からの「他の男なんか見るな。俺だけ見てろよ」せりふを決めた、高校生A君とBさんのカップルが優勝した。ちなみに、哲也と皐月は準優勝である。まさかの本気平手打ちが受けたらしい。


皐月は心身ともにぼろぼろになりながら、ステージを下りてきた。夕子がそばで支えてくれるが、正直、立っていることがぎりぎりな状態だ。

そんなときに限って、次から次へと災難は降りかかる。校長と副校長が、そろって皐月の方へ歩いてきたのだ。


もうだめだ・・・教師生活終わったな・・・皐月は思った。

短い教師生命だった。もっともっと、やりたいことがあったのに、と。


校長が目の前でぴたりと止まり、口を開けた。クビ宣告かな、とぼんやり思っていると。


「いやー、湯川先生にこんな才能があったとは!」


校長の賛辞に、皐月はぽかんとする。


「昨年の文化祭並みに盛り上げたい一心で、体を張って頑張ってくれたんですってね!さすが、若い方はバイタリティーがありますなー!」

「本当ですね校長先生!しかも今日の日のために、数か月間秘密の特訓もしていたと、演劇部の生徒たちが言ってましたよ!」


一体全体何のことか分からず戸惑っていると、校長と副校長の後ろの方に、慎がいるのが見えた。身振り手振りで、何やら皐月に合図している。とにかく黙っていろ、と言うことらしい。


「わざわざ劇団員の方もお呼びになって、本格的に指導を受けたとか!なかなか素晴らしい呼吸でしたよ!」


副校長まで褒めてくれるが、皐月は気が気でない。


「はあ、どうも・・・ええと、あの・・・」

「あ、校長先生、お久しぶりですぅー!」


どう続けたらいいのかと皐月が考えてまごまごしているうちに、横から誰かがひょっこり顔を出した。元晴である。先程より3割ほど可愛さを増した話し方をしている。


「おや、ハル姫ではないか!ご機嫌うるわしゅう」

「校長先生だけですよー、そんな挨拶してくださるの」

「いやー、姫を見ると、こちらもそれなりの態度を取らなくてはと思うのだよ」


はっはっは、と校長は上機嫌で笑った。校長は、ハル姫の熱狂的ファンであった。


元晴が校長と話しながら、皐月に目配せを送る。今のうちに逃げろということらしい。


「あ、校長先生、私、演劇部の準備がありますから、失礼します!」


皐月は哲也を連れ、急いでその場から逃げ出したのだった。

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