全員集合!!(中編)
暴走が止まりません。
そして、登場頻度に差があってすみません・・・。
千花たちがあっちこっちでやいのやいのと話をしていると、学校のアナウンスが流れた。
『まもなく、中央ステージにおきまして、『ベストカップルグランプリ』を行います。参加者の方は、受付へお急ぎください』
「!急がなくては!元晴殿、千花!」
「な、何?」
切羽詰まった様子の愛実に、千花は驚く。
「とにかく来てくれないか!?」
「待って待って、木本さん。まさか、今のに出場しろとかいうんじゃないだろうねー?」
元晴が千花をやんわり背中にかばいながら、愛実に質問する。
「そうではない。そもそも、あれの参加条件は、カップルのどちらかもしくは両方がこの高校に在籍していることだ。卒業生カップルは出られない」
「俺たちも出ようと思ったんだけどさー、ざんねーん!」
「その前に私たちはカップルではない」
愛実と肩を組もうとする将生の言葉をズバッと切り捨て、愛実は続ける。ちなみに、切り捨てられた将生は、隅の方で体育座りをしてのの字を書いていた。
「千花と元晴殿には、あれの、特別ゲストになってほしい」
「「特別ゲスト?」」
声をそろえて聞いた千花と元晴に、愛実は早口で説明する。
「そうだ。昨年の王子コンテストが盛況でな。今年は実行委員主催で何かコンテストをすることになったんだが、盛り上がりに不安があってな。それで、集客に定評がある2人に協力してほしいんだ。座ってるだけでいいからって、今年の実行委員長が言っていた」
「はぁ・・・」
「とにかく、頼む!」
「まあ、マナの頼みなら、断る気はないけど」
「ちぃちゃんがいいなら、僕はいいよ?」
「ありがとう、2人とも!」
愛実は千花と元晴の手をつかみ、「では行くぞ!」と中央ステージに向かう。
それを眺めながら、純太は夕子に聞いた。
「カップルグランプリだって。夕子さん、観に行く?」
「ジュン君の時間が大丈夫なら。どうやってやるのかしらね?」
「テツさん、演劇部の公演はまだまだですよね・・・って、テツさん?」
純太はあたりを見回すが、哲也の姿がない。
「皐月さん?テツさんは・・・」
「それが、万里君連れてどこかへ行っちゃって。あ、演劇部はまだ準備も始めていないくらいだから、観に行っても大丈夫ですよ」
「そうですか。ありがとうございます」
夕子と純太が中央ステージに向かったのを見届けて、皐月はふうっとため息をつく。
哲也は文化祭に堂々と現れた。演劇部の公演を見るためである。それはいいのだが、皐月に夏休み期間中、(結果として公開となってしまった)プロポーズをしたのが哲也だとばれると、面倒なことになりそうだ。
あまり、一緒にいない方がいいかもしれないと思い、教室内を巡ろうとする。
その腕を、誰かがぐいっと引っ張った。
「さあ始まりました!『ベストカップルグランプリ』!司会はわたくし、文化祭実行委員から三顧の礼で迎え入れられました、演劇部のスター、土山慎ことシンシンがお送りいたします!ちなみに、わたくしも活躍します演劇部公演は、午後2時から体育館ステージにて行いますので、皆様ぜひお越しください!」
派手なスパンコール付きピンクベストに蝶ネクタイを付けた慎が、マイク片手に盛り上げている。いや、勝手に盛り上がっていると言った方が正しいかもしれない。
「将生殿に似た生徒がいたんだな」
「愛実さん?俺はもっと観客の気持ちを汲みながら司会してたよ?」
ステージの裏では、将生と愛実がこそこそと話をしている。
「それではまず、皆さんお待ちかねの特別ゲストをお呼びしましょう。今年の3月にご卒業された、鳥二高の姫、志田元晴さんと、そのナイトの田中千花さんです」
どうぞ!と言う声に合わせ、千花と元晴はステージ上に上がる。観客からは盛大な拍手や歓声が上がっている。ひときわ大きな歓声は、校長と夕子のところからだが。
「見て、ハル。校長先生、元気そうだね」
「ほんとだね・・・」
久々の扱いに少しげんなりした声を出す元晴。大学でも元晴は目立っているが、高校と比べ大学は人数も多いし、クラスと言うものがないため、個人個人の距離を詰めにくい。このようなイベントもないため、明らかに見世物にされるのは、高校卒業以来初めてだろう。
「ま、せっかくだから楽しもうよ」
そう言った千花の手を、観客にばれないように元晴がぎゅっと握った。
「ちょ、ちょっと、ハル・・・!」
「ちゃんと頑張るから、パワーちょうだい」
ね?と間近で元晴に言われてしまえば、千花は赤い顔で小さく頷くしかできないのだった。
「では、参加者の方をお呼びしましょう。こちらの5組です!」
じゃじゃーん、と効果音が入り、5組10人のカップルがステージ上に現れ・・・
「あれ?」
4組8人しかいない。司会の慎が慌てて、実行委員と確認する。そのとき、ステージ裏で男女が大声で言い合う声がした。
「だから!出ませんってば!」
「まーまー、楽しそうだからいいじゃん。お遊びよーお遊び!」
「私は仕事中なんです!」
「休憩時間だって必要でしょ?」
「大体、これは生徒のためのイベントでしょ!」
「あ、委員に確認したら、先生も出ていいって」
「う・・・でも、教師が出るなんて、教育上よくないと思う!」
「先生が行事に体当たりで参加するのは、教育上必要だと思うけどなー」
先程聞いた声である。千花と元晴は、顔を見合わせた。
「この声って・・・」
「だよね・・・」
まだ言い合いは続いている。
「出ませんったら出ませんからね!」
「あーもー、あんまりわがまま言ってると、お姫様だっこしちゃうよ?どっちがいい?自分で歩くのと、俺にだっこされるのと。あーごめんね、司会の・・・あ、シンシンか。よう、久しぶり。今出るから・・・っと」
そういうと、袖から哲也と、哲也に腕をがっちりつかまれた皐月が出てきた。
「お待たせー、ごめんなさいね、うちの皐月さんが照れ屋なもんで。さ、ちゃちゃっと始めようか!」
「うわー、哲也先生、マジで出るんすね。えー、皆さん、最後は、先生カップルの参加です。この5組で、カップルならではの試練に立ち向かってもらいます!」
皐月はもう、観客席を見ていられなかった。生徒、保護者、同僚、上司がそろっているのだ。何という公開処刑だろう。哲也だって、何を考えているのか・・・。
哲也を見ると、にこにこしている。きっと、何も考えていない。楽しそうだから参加した。それだけなのだろう。
皐月は盛大にため息をつきながら、「文化祭を盛り上げるために恋人のふりをしてもらいました」という言い訳が通用するかどうか考えていた。
「さて、第一の試練は!『愛する彼女はどーれだ?』です!」
何とも微妙なタイトルに、観客は少し引いているが、慎は気にしない。
「えー、皆さん、ついてきてくださいね。ルール説明です。今から、彼氏さんと彼女さんは分かれてもらいます。彼女さんはパーテーションの向こうにいて、穴から手だけ出した状態で待っていてもらいます。彼氏さんは、手だけを見て、自分の彼女さんを当ててください。握手まではOKとします」
指輪とかは取ってくださいねーとの補足説明を聞きながら、女性陣はステージの上でパーテーションに隠れ、男性陣はステージ下で準備が整うのを待つ。
それを見ながら、ステージ上の端のイスに座っていた千花は隣にそっと言う。
「手だけだって。当てるの、難しいよね?」
「そうかな。僕はちぃちゃんの手なら、絶対間違えないよ」
何でもないことのように元晴が答え、千花はまたほんのり赤くなる。
そして思った。
自分は、元晴の手を間違えずに当てられるだろうかと。今度もう少し、じっくり見てみようかと。
「さー、準備ができたようですね!」
パーテーションに空いた5つの穴から、女性の手がにょっきり出ている。これだけ見ると、おばけ屋敷のようだ。
「ではシンキングタイム・・・スタート!」
「はい!司会さん」
スタートとともに、片手を上げて司会を呼んだのは、哲也だった。
「はい、5番の彼氏さん、何ですか?」
「もう分かったんで、うちの彼女に出てきてもらっていいですかね?他の男にじっくり見せたり触らせたりするの、嫌なんで」
「おおっと、何たる自信だー!そして独占欲!!開始数秒で、しかもこの距離で見て分かったそうです!いいでしょう。では、どの手か言ってください!ただし、外したら最下位ですからね」
哲也は自信ありげな様子で、「下手から・・・って、観客が分かんないか。俺から見て、左から2番目」と言った。
「では、今言われた方、正解ならば出てきてください!間違っていた場合は、穴から手を振ってください!」
スピーカーからドラムロールが流れる。
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ・・・・じゃん!
手が穴から抜かれ、パーテーションからそうっと皐月が現れる。ほんのり赤い顔は、下を向いている。
「正解だー!先生カップル、50ポイント差し上げまーす!」
ぴゅーい!と、指笛の音が観客から聞こえる。哲也はそれに応えるように右手を上げ、ステージ上の皐月を迎えに行った。
「よく、分かったね」
小さな声の問いに、
「当たり前でしょ。惚れた女の手だもん」
その返答で、皐月はますます顔を上げられなくなった。
その後、残った高校生カップルたちが、間近で見たり手を繋いだりした結果、1組だけ間違うという、なんとも微妙な結果になった。あとで喧嘩にならないといいのだが。
第二の試練は、『文化祭の中心で、愛を叫べ!』。お互いがお互いに好きなところを大声で叫び、その声の大きさをそのまま点数にするというものだった。ちゃんと、声の大きさを測る機械もレンタルしたらしい。
最初は彼女側の番だ。「笑顔!」「優しいところ!」などと高校生カップルが叫ぶ中で、皐月は窮地に立たされていた。哲也の好きなところが思いつかない。いや、好きは好きなのだが、どこがと言われると困ってしまうのだ。
そうこうしている間に、皐月の番になってしまった。マイクを前に、皐月は冷や汗をかいている。そんな皐月の後ろに、哲也がそっと立ち、囁いた。
「皐月さん。思いつかなかったら、『全部』って答えとけばいいからねっ」
ハートマークがつきそうなほど浮かれた言い方に、皐月の中の何かが切れた。
「誰がそんなこと言うかーーー!!!」
そしてぐりんと哲也の方を向くと、説教モードに突入した。
「大体!誰のせいでこんな困った状況になってると思ってるんですか!哲也さんってばいっつもそう!自分の好きなことだけやって、周りの人を巻き込んで・・・!もういい大人なんだから、少しくらい周りの人の話をきちんと聞きなさい!!!分かりましたか!?」
はーはー、と荒く息をつく皐月の肩に手をポンと乗せ、哲也は皐月をくりんと半回転させた。
「ほら皐月さん、みんな驚いてるよー。あと、93デシベルだって。やったね!」
自分の説教を全く聞いていない哲也に、皐月はもう、何も言う気になれなかった。
「好きなところは誰にも言いたくないなんて、それはそれでなんともおなかいっぱいな回答、ありがとうございます!さーて、次は彼氏さん方ですよー」
司会の慎はうまくフォローしてくれたようだが、皐月にとっては余計に恥ずかしい結果となった。
今度は彼氏側が順々に叫んでいく。皐月はもうぐったりして、千花の隣にイスを用意してもらって座っていた。千花は「大丈夫ですか?」と心配してくれているが、元気が出そうにない。
そして哲也の番が来た。まあ適当に無難なことを言うだろう、と皐月は思っていた。のだが。
ふーっと大きく息を吐いてから、すーっと大きく息を吸う哲也。そして。
「白衣姿ーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
あまりの大声に、観客はシンとなった。そしてその後、ざわめいた。
あまりのマニアックな回答に、皐月のことを化学教師と知っている生徒はまだしも、知らない生徒や保護者は「そういう趣味かしら?」とささやき合う。
「ちょ、哲也さん、何てことを・・・!」
皐月はパニック寸前、いや、完全にパニック状態だ。椅子から立ち上がり叫ぶが、言葉が出てこないらしい。
「えー、一応言っておきますと、別に個人的趣味ではないですよ。彼女は化学の先生なんで、白衣姿は通常営業なんです。まあプライベートで着てくれるなら、それはそれで嬉しいですが、いまだ叶っておりません」
ちなみに、俺的には看護師やCAなんかも似合うんじゃないかと思っています、と悪びれもせずに哲也は付け加える。それを聞いて、観客側はそれぞれどんな服装がいいか話し合っている・・・らしい。
そんな中、司会の慎が結果を発表する。
「哲也先生、124デシベル!おおっと、これは飛行機のエンジン音を超えて来たー!すごい記録です!」
さすが、4階からのプロポーズが学校内に響いていただけはあるな、と慎は思ったが、口には出さなかった。一応あの事は、口外しないように皐月から言われている。
「えー、ただ今の結果、エントリーナンバー1番と4番のカップルが、残念ながら脱落となります。残り3カップルで、最後の試練に挑んでいただきましょう。ただいま先生カップルが35ポイントリードしておりますが、まだまだ逆転可能ですので、がんばってください!」
今ので脱落したかった、もう何もしたくない、と、皐月は思うのだった。