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全員集合!!(前篇)

登場人物がどんどん暴走しております。

千花が元晴と母校に行くと、校舎内外は様々な飾りつけがされていた。

文化祭である。


あの王子コンテストから1年が経ったのかと思うと、時が経つ速さを実感する。


「ハル、このあたりでいいのかな?」

「うん、たぶん。そろそろ来ると思うよ。・・・あ、来た」


元晴が人ごみの中を探していると、夕子がこちらに向かって来るのを見つけた。


「お待たせ、ハル君、千花ちゃん」

「夕ちゃん、久しぶりだね!お盆以来?」

「そうかな。実家に帰ってくるのが年2回程度になっちゃってるから・・・」


夕子は社会人になってから家を出ており、それまでは毎日のように千花とも顔を合わせていたのだが、今では年数回となってしまった。


「お仕事、忙しいの?」

「忙しいと言えば忙しいけど、楽しいよ」

「姉さん、あの方?」


千花は夕子との会話に夢中になっていたが、元晴が見た方向には男性が一人、少し緊張した様子で立っていた。


「あ、えと、紹介するね。中村純太君。今、お付き合いさせていただいてるの」

「あの、中村純太です。夕子さんには大変お世話になっております」


純太は千花と元晴に、深々と礼をする。少し可愛い印象の男性だと千花は思った。


「志田元晴です。姉がお世話になってます。こっちは、俺の彼女です」

「田中千花です。えっと、夕ちゃんとハルとは家が隣で、幼馴染で、本当の兄弟みたいによくしてもらってます」


元晴に彼女呼ばわりされ、少し照れながら千花は答える。正式に彼女になってから1年も経つのに、いまだに慣れない。


「写真よりも美人ですね、弟さん」


純太の感想に、元晴は夕子をじろりと見る。


「・・・姉さん?また見せたの?」

「だって、ハル君綺麗だから」


夕子にとってはごく自然なことらしい。夕子が元晴のことを自慢に思っているのは、千花もよく知っている。


「でもちょっと、写真とは雰囲気が違うかな」

「違う?」


純太の感想に、千花と元晴は首をかしげる。


「うーん、何ていうか、実物はもっと・・・」

「おうジュン!こんなところにいたのかー!」


急に誰かが純太の上に覆いかぶさってきたので、千花も元晴も夕子も驚いた。その乗っかってきたものは顔を上げると夕子に気付き、声をかける。


「あ、夕子さん、お久しぶりですー」

「澤部さん?お久しぶりって、4人で会ったの、ついこの間な気がしますが・・・」

「あーそうですねー。この間はどーもー」

「ちょ、テツさん、重・・・」


夕子と会話をしている間も、純太はつぶされ続けている。

元晴が心配になっていたところに、救世主が現れた。


「こら哲也さん!ジュンさんが困ってるでしょ!降りなさい!」

「はーい」


素直に言うことを聞き、哲也は純太から降りる。


「皐月さん・・・助かりました。ありがとうございます」

「いいえ、こちらが頼んで、来ていただいたのに、申し訳ありません。今日はよろしくお願いします」


深々とお辞儀をする皐月に、「いいっていいって。ジュンは俺のお願いなら聞いてくれるんだから」と哲也が偉そうに言う。


「姉さん、あの人は?」


元晴がこっそり夕子に尋ねる。


「あ、あの人はね、ジュン君の大学の先輩で・・・」

「お、噂の美人さん発見!」


元晴の視線に気づき、哲也がすぐさま目の前に来る。


「おー本当に美人さんだなー」

「えっと、あの・・・?」


急にじろじろ見られ、さすがの元晴も困惑する。


「おっと失礼。俺は澤部哲也。縁あって、ここの演劇部の臨時コーチをやらせてもらったんだ。で、マイスイートハニーの皐月さん」

「妙な紹介やめてください。湯川皐月と申します。今年度から、この高校で化学を教えています。あと、演劇部の臨時顧問なんです。夕子さんに聞いたんですが、お2人は、ここの卒業生なんですよね?」

「あ、はい、そうなんです」


そう答えた千花を見て、哲也が声をかける。


「と言うことは、今、大学生?いいねー花の大学生。君、名前は?」

「あ、私は・・・」

「危ないっ!」


ひゅんっ。はらり。

哲也の鼻先を手刀がかすめ、前髪が数本、風に舞って落ちた。


「千花に、手を出すな」

「すみません澤部さんっ!ハル君は、千花ちゃんのことになると見境なくって・・・」


夕子が慌てて弁明するが、元晴はいまだにピリピリした空気をまとったまま、哲也を睨んでいる。


「千花ちゃんっていうの?君のナイトはおっかないねー」


哲也の言葉に、元晴は顔をぱっと下に向け、千花はぽかんとしている。


「あれ?俺、変なこと言った?」

「あ、いえ、あの・・・ハルがナイトって言われたのは初めてだったから・・・」

「そうなの?だってどう見ても、男の顔じゃん、彼。オスの顔っていうかさー。お姫様の皮を被ったナイトだよね」

「あ、それは俺も思いました!写真よりも、男らしいっていうか・・・」


純太も続ける。元晴は下を向いたままだ。夕子は、元晴の様子を見て感動しているようだった。


「夕ちゃん?」

「ハル君が・・・あのハル君が照れてる・・・!」

「うるさいよ、姉さん!」


珍しい元晴の表情に、千花も驚く。どうやらナイト発言が嬉しかったらしい。

それはともかく、と千花は気を取り直し、哲也と皐月に向かって頭を下げた。


「あの、田中千花です。えっと、先生方には弟がいつもお世話になってます」

「弟?」

「ええ、あの・・・」

「姉ちゃん、何やってんのこんなところで」

「あ、マサ」


声をかけてきたのは、演劇部1年の万里まさとだった。


「・・・げ」


その場にいる人の中から哲也の顔を見つけ、万里はおもむろに逃げようとする。が。


「マーちゃーん!俺に会いに来てくれたのー?」

「違っ!ちょ、哲也先生、重い、重いから!」

「あらー、生徒さんにも、ジュン君と同じような扱いの子がいるのねー」

「本当だね、夕子さん」


ほのぼのとした感想を寄せ合う純太と夕子。


「こら、哲也さん!うちの生徒いじめないでください!」

「やだなー皐月さんったら、これは愛情表現だよ。それに俺の教え子でもあるわけだし。・・・ん?そうするとマーちゃんは俺たちの子どもと言うことに・・・」

「なりませんっ!」「ならないですっ!」


皐月と万里2人から否定され、哲也は「つまんないのー」と万里を解放した。


「久しぶり、マサ君」

「あ、夕姉ちゃん。お久しぶりです」

「そっか。万里君が千花さんの弟さんなのね。で、夕子さんとも幼馴染、と」


皐月の推論に、夕子がうなづく。


「そうなんです。もう高校生なんて、大きくなっちゃって・・・」

「姉さん、せりふが親戚のおばさんになってるよ」

「だってハル君、マサ君はついこの間までおねしょするくらいの年だったじゃない・・・!」

「ちょ、夕姉ちゃん、いつの話を・・・!」

「夕子さん、そこらへん、詳しく教えていただけますか?」

「テツさん、夕子さんに近づきすぎ!」


哲也が夕子の言葉に食いつき、純太に引きはがされる。


「・・・なんだか、不思議とご縁があるんですね」


千花がそう感想を漏らすと、「本当ね」と皐月が笑った。




「姉ちゃん、本当に来たんだね」


心なしか、万里の声はうんざりしている。

高校生にもなって家族が来ると言うのは、気恥ずかしいようだ。


「うん、だって父さんからはマサの雄姿を焼き付けて来いって言われてるし、母さんからは最近仲のいい演劇部の女の子を見て来いって言われてるし」

「え!?」


さらりと言った千花の言葉に、皐月と哲也が反応した。万里は慌てて姉を止めようとするが、


「「誰?誰のこと!?」」

「なんだっけあのー、ふ?ふる・・・はた?」

「キョンちゃん!?」「キョンキョンか!」


止める前にすべて言われてしまった。


「万里君、そうなの!?」

「いえ!別に俺たちはそんなんじゃ・・・」

「あれ?2人で買い物に行ったって、母さん言ってたよ?」

「姉ちゃんは黙ってて!」

「2人っきりで・・・。で?で?で!?」

「皐月先生、その目怖いです!小道具買いに行ってただけですってば!」

「ぬおお!ナリのやつ、知ってて黙ってたな!何のためにお前を選んだと・・・」


皐月が直接万里に真実を聞こうと攻めているのに対し、哲也は自分の情報網である演劇部員に裏切られていたことを嘆いていた。

地面に膝をつき、悲劇のヒーローよろしく大げさに嘆いている哲也に、純太は声をかける。


「テツさん、演劇部の子なら、紹介してくださいよ。あと、今日の手伝いの内容って・・・」

「あ、そうだ。マーちゃん、こいつ手伝い要員ね」


嘆きから回復した哲也にぐいっと押され、純太が万里の目の前に来る。


「んで、夕子さんの彼氏」

「夕姉ちゃんの!?」

「は、はい、中村純太と言います。よろしくお願いします」


ぺこりと純太が頭を下げる。


「それで、俺の仕事って・・・」

「あ、はい、緞帳をお願いしたいと」

「えぇっ!責任重大じゃないですか!」


緞帳とは、ステージの幕である。劇の開演時と終演時に開閉するため、当然ながらミスがあってはいけない。開演時にミスすると、観客が劇に入り込めなくなってしまうし、終演時にミスすると、せっかくの劇が台無しになってしまうからだ。


「ちょっと、テツさん!当日でもできるって・・・」

「できるだろ、お前なら。あ、電動じゃなくて手動だから、開閉スピードも調節してくれ」

「さらっと要求することじゃないですよっ!」


純太は哲也に文句を言うが、哲也は全く聞いていない。右から左にスルーである。


「おーい、千花ー!」

「あ」


手を振りながらやってきたのは、千花と元晴の友人、愛実と将生だった。この2人は大学は違うのだが、将生が熱烈アタック中なことは変わらず、愛実の大学に足しげく通っているらしい。


「ごめん、マナ。待ち合わせ時間過ぎてた?」

「少しだけな。この人混みなら、元晴殿を目印に探した方が早いと思ったんだが・・・ずいぶんと大所帯だな」

「あーうん、なんかいろいろあって・・・」


元晴と千花の周りには、夕子と純太、哲也と皐月、それに万里がいる。それぞれがそれぞれに会話しているので、にぎやかなことこの上ない。

皐月の追及を逃れながら、万里が声をかけてきた。


「あ、マナさん、こんにちは。この間はおはぎごちそうさまでした」

「万里殿か。お口に合えばよかったんだが」

「めちゃくちゃおいしかったですよ!手作りとは思えないくらい」

「そうか。また今度作っていこう」

「やったー!」


愛実と万里の会話を聞いて、顔色を変えた男が1人。将生である。


「ちょい待てそこの高校生!」

「俺ですか?」

「お前、誰だ!?」

「え、田中万里です・・・あ、千花姉の友達ですか?」

「よし田中ぁ!ちょいこっち来いや!」

「え、私?」

「ちょっとマサキ、ちぃちゃん呼び出さないでくれる?」


将生は千花を呼び出し、声を潜めて確認する。


「田中、あの高校生は弟なのか?」

「うん、そうだよ。ここの高校1年生」

「で、その弟が、何で愛実さんを愛称で呼んでいるのかな?」


愛実の愛称とは、『マナ』である。将生が知る限り、そう呼んでいるのは、家族と、目の前にいる千花だけだと思っていたのだが。


「あー、私がそう呼んでるからうつったんじゃない?よくあるよねー」

「・・・で、何でその弟が・・・愛実さんお手製おはぎを食べてるんじゃー!!!俺もまだ食べたことがないのに!愛実さん!俺とそいつと何が違うの!?名前だって一文字違いなのにー!!!」


言っているうちに感情が爆発したのか、直接愛実にぶつけに行った将生を、千花と元晴は見送る。

愛実は「五月蝿い、将生殿には関係ないだろう」とあしらっているが、将生は将生でおいおい泣きながら縋り付いている。


その隙に、万里が千花たちの方にやってきた。


「あーびっくりした。姉ちゃん、マナさんの言ってた例のあの人って、あれ?」

「例のあの人?」


元晴が不思議そうに聞く。


「そう。『距離を縮めたいけど、今の関係が心地よくてどうしたらいいか分からない相手』」


千花が答えると、元晴は少し黙った。まだ騒いでいる将生と、「鬱陶しい!」と一刀両断している愛実を見ながら


「マサキの春は、そう遠くはない・・・のかな?」

「んー、たぶん。マナ次第だけど」


そう結論付けるのだった。

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