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グッド・ブラック! ~黒魔術師に幸運を~  作者: ノマズ
第二章 ピルグの勇者
50/114

50 古古代よりの召喚獣

 ショートカット。

 見るからに勝気そうな吊り上がった眉、つんとした唇。

 外見こそ光沢のある深紅マントを纏って格好いいが、本質は生意気な女子高生である。制服を着せたらすぐにわかるだろう。


 それなのに、単なるこまっしゃくれとは思えないのは――その目だ。

 感情むき出しの――今は怒りの炎がメラメラ燃えているのが、はっきりわかる。

 それを隠そうともしない潔さが、彼女をただの生意気から、格好良いカリスマJKへと昇華させているのだろう。


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名前 :ロッカ

クラス:ソーサレス(Ⅲ)

 Lv:20/70

・カリスマ魔術師

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 三次クラス、【ソーサレス】。

 ちょっとした嫉妬を覚える。


 以前この子に会ったのは一度だけ。ハンがゾンビの大群の襲撃を受けた時に、炎の魔法で戦っていた。その時の彼女はまだ【エレメンタリスト】で、レッドライカンに苦戦していた。彼女が苦戦していたから、俺は【エレメンタリスト】ではなく、一発逆転が狙えそうな【ダークメイジ】にクラスエンチャントするというギャンブルに走ったのだ。


 そんな彼女が、今や三次クラス。

 俺はいまだに二次クラス。

 複雑な気分だ。


「上手く隠してるようだけど、私は知ってるわ」


 思わず、ガタッとやってしまう。


「あんた、【ダークメイジ】でしょ」

「……い、いや?」


 目が泳ぎ回る。

 そうだ、彼女もきっと、召喚されてこっちに来た人間なのだ。恐らく、『アナライズサイト』的なスキルを持っている。今の俺は隠蔽薬でステータスを隠せているが、彼女に初めて会った当時の俺は、ステータスは丸裸だった。

 その時に、見られたに違いない。


「隠しても無駄だから」


 彼女はそう言うと、俺の向かいの空いている席に座った。それから俺とクワルに一瞥を突き刺した。俺はもはや、蛇に睨まれたカエルである。


「あれ、緋炎の魔女じゃないか?」

「あぁ、そうだ。なんだ、喧嘩でも始まるのか?」

「見ものだ見ものだ」


 外野の声が聞こえてくる。

 見ものだ、とか言っているが、ここで戦いになれば、お前らも無事じゃ済まないんだからな。俺の、『プレシーブセンス』の勘は当てになるぞ。

 彼女――ロッカは、今まで出会った魔術師の中でも、指折りに強いだろう。レイバンを前にしたときほどのプレッシャーはないが、しかしあれは殺意だった。殺意を抜きにすれば、この少女は魔術師として、レイバン相当の実力を持っているかもしれない。


「俺に、何の用だ」


 ヒソヒソ声で訊いてみる。

 もはや彼女の言うように、今更【ダークメイジ】であることを隠しても、彼女には無駄なようだ。


「アンタを、倒しに来たの」

「……な、なぜ」

「アンタが、【ダークメイジ】だから。アンタがこっちに来てからしてきた悪事の分だけ、たっぷり苦しめて、向こうの世界に送り返してあげる」

「……悪事?」


 思い当たる節が少ししかない。

 例えば、殺人。俺はこっちに来てから、少なくとも二人、いや、三人殺している。一人はクロイツという、レイバンの手下だった騎士。一人は奴隷商売をしていた海賊船のヒーラーだった男。そしてもう一人は、死霊術師レイバン。

 タニザキを含めると四人だが、彼は向こうで復活するだろうからノーカウントでいいだろう。


 さて、しかしそれを悪事と言っているのだろうか。

 そうだとしたら彼女とは分かり合えないだろう。とはいえ、戦うのは御免だから、とりあえず謝っておこうか。謝ることでこの命が助かるなら、俺はいくらでも謝るだろう。裸土下座くらいまでなら真面目にやってもいいと思う。


「【ダークメイジ】は、問答無用で悪よ」

「……え?」

「存在そのものが、この世界にとって毒。自覚はないでしょうけどね」

「……そっち系か」

「今ここで勝負をつけても良いけど、折角だから――」


 と、ロッカは不敵な笑みを浮かべて言った。


「試合で勝負をつけましょう」


 次の試合、俺もロッカも勝つと、その次で互いにぶつかることになる。

 ロッカはよほど自信があるのだろう。次の試合は勝つものと思っている。大抵王者というのは、そういう何でもないところの気の緩みからポロっと負けるものだが、彼女は果たして――。


「俺は、次の試合で負けるかもしれない」

「その時は、あんたが【ダークメイジ】だって、皆に言いふらすわ」

「くっ……」


 大手飛車取りだ。

 逃げ場がない。どっちへ転んでも厳しい展開になった。

 だが、王が取られたらそこでゲームセット。とすれば、ここはもう、彼女の言うことに従って、少しでも生き延びられる可能性に賭けるとしよう。


「わかった」


 答えると、ロッカは立ち上がって、店を出て行った。

 ほっと胸を撫でおろす俺とクワル。

 クワルにも、彼女の強さが何となく分かっていたらしい。


「グリム様……」

「まぁ、心配してもしょうがないな。できるだけの事をして、あとは、運を天に任せよう」

「もしグリム様が追われるようなことになっても、私はグリム様についていきます!」


 クワルの愛が重い。

 しかもクワルきっと、そういうことになったら本当に、命を懸けて俺の事を庇いそうだ。だから俺は、クワルのためにも、次の試合には勝たないといけない。

 そしてその先にある、ロッカとの戦い。その決着もつけなければならない。



 上位トーナメント一試合目。

 下位トーナメントで勝ち上がった十六人と、上位トーナメントからのシード魔術師十六人がぶつかる。最初のヤマは、下位から上がってきた魔術師と、シード魔術師との対戦である。

 そして、俺の相手は――【サマナー】だった。

 大会唯一の、と言っていいレアクラスである。熊の毛皮を着たずんぐりむっくりな男で、二メートル近い、太い杖を持っている。


 舞台に上がり、一礼する。

 互いに息を吸い込む。

 ――ラッパが鳴った。

 試合開始。


 男は、どんと杖先で床を突いた。

 すると、男の眼前の空間に亀裂が入り、ガラスを突き破るようにして、何かが出てきた。


 熊だ。一瞬、熊かと思った。

 黄色い二本の角を生やし、背には翼。顔には大きな目が一つあり、先端が針のようにとがった尻尾がついている。そんな、二メートルを超す巨大な熊。――冷静に見れば、それはもはや熊ではない。


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名前 :マモス

クラス:召喚獣

 Lv:1/3

・森の守護獣

・古古代、サノジュ帝国の騎士団部隊を全滅させた。

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 俺は本能的に、舞台の隅っこまで逃げた。

 こんな化け物を前にして逃げ出さない人間がいるだろうか。普通の熊だって、出くわせば一目散に逃げるのは当たり前である。戦おうなどと考える人類は、熊殺しのウィーリーくらいなものだろう。


 一年前、ヒサルキという猿の化け物と戦った。

 あれも、恐ろしい化け物だった。だが、猿である。猿と熊とは、やっぱり違う。ましてこの化け物――マモスというやつは、熊の何倍も恐ろしい外見をしている。


 マモスは、わっさわっさと翼を揺らして、口からべろっと舌を出した。

 どこかふざけている。

 だがその可笑しさも、一周回って恐ろしい。


 殺らなきゃ、殺られる。

 本能がそう告げる。


 マモスの角がバチバチと火花を飛ばした。

 雷っぽかったので、俺は咄嗟にグラシアルを出した。

 次の瞬間、マモスの角から赤い雷撃――『フェアヤーライトニングLv2』が放たれた。


「っ!」


 間一髪、グラシアルは雷撃を受け止め、吸収してくれた。

 今のは危なかった。

 一瞬でも遅れていたら、死んでいたかもしれない。


 会場が盛り上がる。――ふざけやがって。

 こっちは命懸けなんだぞ。


【サマナー】が杖を掲げた。

 マモスが、高く飛び上がった。そして――俺を押しつぶすように落下してきた。


 俺はそれを『ミストテレポート』で避けた。

 突然の黒い霧に覆われて、マモスはおぼれたように手をばたつかせた。

 マモスのステータスに変化があった。『ダークネス・カース』のデバフが入っていた。――あの霧か。テレポートの『ミスト』には『ダークネス・カース』の呪いが含まれているらしい。


 だが、呪いの進行度はまだ『Ⅰ』。相手の呪い耐性によってはあっという間にステージ『Ⅳ』まで進行するが、この召喚獣は、そう甘くはなさそうだ。

 霧を振り払って、再び『ファイヤーライトニング』を放ってきた。

 

 このまま逃げて、呪いが進行するのを待とうか。

 だが、それが無理な場合は――。


 マモスが殴りかかってきた。

 咄嗟に『ミストテレポート』で逃げる。

 しかし逃げた先に、マモスは再び突っ込んできた。紙一重の所で『ミストテレポート』。なんとか避けきれたが――。

 その先に、今度は『ファイヤーライトニング』を撃ち込んできた。


 一回二回のテレポートなら平気だが、三回も四回も連続で使うと、さすがに疲れる。心臓がどくどくと波打ち、息が切れてくる。

 しかし、逃げるしかない。

 逃げなければ、冗談でなく、殺されてしまう。


 呪いのステージが『Ⅱ』になった。


【サマナー】が杖を掲げ、何やら魔法を使う。

『ネックスオーラLv1』。【サマナー】の杖先から赤い半透明の帯がすうっと伸びて、マモスの身体を包み込む。


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名前 :マモス(『ダークネス・カースⅡ』、『ネックスオーラLv1』)

クラス:召喚獣

 Lv:1/3

・森の守護獣

・古古代、サノジュ帝国の騎士団部隊を全滅させた。

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 辞書を開けないでも、何となくわかる。

 召喚獣を強化するバフ魔法だろう。

 赤いオーラを纏ったマモスが、低い声で雄たけびを上げる。

 そして――『ファイヤーライトニング』を放ってきた。


 グラシアルで防ぐ。

 防げることには防げるが、さっきまでの『ファイヤーライトニング』よりも、明らかに威力が上がっている。

 台風の時に向かい風を傘で受け止めるがごとく、グラシアルを持つ手に力を込めて、体全体で、飛ばされないようにする。


 マモスは次に、パシャッと目を輝かせた。

 カメラのフラッシュのように。

 その光をまともに見てしまった俺は――体が硬直して、動けなくなってしまった。

 マモスの角が光る。


 バリバリバリッ!


 雷撃が俺の握っていたグラシアルを弾き飛ばした。

 マモスが、にたっと笑った。


 マモスにかかっている呪いのステージがついに「Ⅲ」にまで進行した。

 だが俺は、体を動かすことができない。

 どちらが先に止めを刺すか。


「やれぇえい!」


【サマナー】が吠えた。

 声に反応して、マモスが突進してくる。

 なんて迫力なんだ……。怖すぎて吐きそうになる。

 ――だが、予想通りの攻撃だ。


 刹那の間。

 マモスが吠える。

 一瞬の後――俺はマモスから10メートルほど離れた位置に姿を現した。マモスは、黒い霧の中にいた。マモスの巨体を完全に覆い隠すほどの、濃い黒い霧である。

 一回では薄い「ミスト」だが、連続で十回分の「ミスト」となると、その濃度は墨汁のようになった。それだけ、呪いも濃いはずである。

 最初の突進を『ミストテレポート』で躱した後、俺はマモスの周りを、『ミストテレポート』でぐるぐる回ったのだ。

 その効果は、予想していたよりも大きかった。


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名前 :マモス(『ダークネス・カースⅣ』、『ネックスオーラLv1』)

クラス:召喚獣

 Lv:1/3

・森の守護獣

・古古代、サノジュ帝国の騎士団部隊を全滅させた。

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 霧の中のマモスの状態を確認できた。

 呪いのステージは『Ⅳ』。死を待つだけの状態である。

 同時に俺は、四肢の自由を取り戻した。

 霧が晴れると、その中にいたはずのマモスは、すでに消えてなくなっていた。ここの言い方では、「マナに還った」というらしい。


(レベルが50から52に上がりました)


 自慢の召喚獣が負けると、【サマナー】は呆気なく降参した。

 大きな拍手。

 俺に向けられた拍手。


 強い視線を感じてそっちを見ると、手を叩く見物客たちの中に、ロッカを見つけた。ロッカは、じっと俺を睨んでいた。

 ステージの上から、俺は睨み返すでもなく、ただロッカを、見つめ返していた。


「何という快挙だ!」

「すばらしい! あれは何という魔法だ!」

「黒い霧だ! 召喚獣を倒したぞ!」


 称賛の声が、どこか遠かった。

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