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第五章

「お呼びですか、課長。」

 桂崎 真実(まなみ)は応接室へ来いという課長命令に従って、ドアをノックと同時に開けた。

 やや不愉快そうに眉をしかめた課長の顔に、面白い顔、と心の中でほくそ笑む。表面上は神妙な顔を装って、うつむき加減にしずしずと入った。

「桂崎くん。審議官と参事官が君の調査結果を聞きたいそうだ。‥わたしは席を外すから。よろしく。」

 報告書を待てないのかと内心で呆れるが、ちらりと小橋の苛立たしげな顔を覗き見て、いい気味だと思う。どうやら『小娘』に手を焼いているのだろう。当然だ。真実の調査によれば、四宮瑞穂は小橋なんぞに小娘と侮られるような器ではない。

 さっさと出ていく課長に皮肉な視線を向け、それから小橋と青山に向き直る。

「それで‥‥? 何がお訊きになりたいのですか?」

「何って決まってるだろう。爆発事件の真相だよ。」

「‥‥真相?」

 なんて青臭い言葉を使うんだろう、と真実は軽蔑した。警察が使う言葉ではない。

「まもなく報告書を上げるつもりでしたけど、爆発事件は単純明快です。既に発表されているようにあの爆発は四宮三姉妹を狙ったもので、ある意味無差別テロですね。ですが彼女たちの特殊能力のおかげで、奇跡的に人的被害はゼロでした。爆弾は地下室に仕掛けられていた模様で、時限式ないしは遠隔操作によって爆発させたものと思われます。現場における犯人の目撃情報はなく、倒壊が激しかったため爆発物の遺留品回収もはかばかしくありません。なお店員によれば、外部から地下室に侵入するのは不可能‥‥」

「もういい。そんな内容ならば、所轄で十分だ。」

 青山参事官がさえぎった。

「では、何を調べろと?」

「‥特殊能力捜査課としての見解を求めているんだがね。」

「ああ‥わずかばかりの能力を遣ってみましたけど、犯人は解りませんでした。彼女たちの命を狙ってるならば、尾行でもしてみましょうか?」

 小橋一也が苛々と真実を見遣った。

「桂崎くん。ふざけていないでちゃんと調査しなさい。あの瓦礫の状態で、どうやって人々を救出することができたのか、それをわたしたちは知りたいんだよ。」

「‥どういう意味です?」

「何らかのトリックがあって‥実際は爆発はあとだったとか。自作自演の可能性は‥」

「あの、四宮三姉妹を狙ったテロだと発表したのは警察ですが‥? 彼女たちは救助した人々に名前さえ告げていません。自作自演と言うなら‥犯人は警察になっちゃいますけど、もしかしてやったんですか?」

「ば‥バカを言うな!」

「安心しました。‥トリックは物理的に無理です。爆発音に驚いて、近所の人が通報してから消防車が到着するまでの時間はわずか五分。その時レストランはほとんど崩れていて、奇跡的に客のいるフロアだけが崩壊を免れている情況でした。しかも最後の一人が脱出した途端、間髪入れず崩れたと消防記録にあります。‥現在認定されている超能力でも、フロア一つ分全部を支えるという能力はありません。逆に爆弾なしでふっとばすのなら、例がありますが‥。」

 そこでちょっと真実は言葉を切って、参事官を見遣った。

「四宮の能力を科学的に解明できるとお思いですか、青山参事官?」

「それは‥‥。何らかの方法で、位置づけることはできるだろう?」

「‥‥では参事官が法的に位置づけをなさってくださった後、報告書に四宮の力により人命救助がなされたと付加することにします。」

 にこっと微笑むと、青山は嫌な顔をした。

「引き続き、爆発物の解明と犯人探索に尽力したいと思いますが‥?」

 小橋はうん、とうなずいたものの、苦い顔をしていた。

 失礼します、と頭を下げて部屋を出る。するとドアの陰に磯貝誠が立っていて、そのまま黙ってついてきた。エレベーターの前で、初めてこちらを見る。

「桂崎さん。ちょっと早いけどランチに出ませんか?」

「‥‥おごり?」

「ひどいなあ。ぼくよりはるかに高給でしょうに?」

「誘ったほうが払うのよ。」

「解りました。おごりますよ。」

 ふっと溜息をついて、磯貝が折れた。真実はにっと笑った。

 エレベーターで下まで下りて、路上へ出る。

「‥‥盗聴器、仕掛けてるの?」

「あ‥。解りましたか。審議官のバッジに仕込んであるんですけどね。内密に願います。クビになっちゃうから。」

「呆れたわね‥。じゃ、小橋をピンポイント狙い?」

「まあ‥。桂崎さんも気になりませんか? 小橋さん、ここ二、三年やけに金回りがよくって有名らしいんですよ。」

「‥‥ほんとはあなた、公安なの?」

「まさか‥。好奇心です。どうしたらあの程度の頭でも、あんなに出世できるかなって。ぼくも頭にはあんまり自信ないもので‥。」

「謙遜も過ぎると嫌味でしかないわよ。十分出世する頭はあるんじゃない?」

「そりゃどうも。」

 磯貝は眼鏡をずり上げてにこっと微笑んだ。相変わらず目は笑っていない。くえない男だと真実は思う。

 近くの定食屋に入って、いちばん奥の席を陣取る。まだ正午になっていないせいか、店内は比較的空いていた。

 日替わり定食を注文したあと、早速真実は小声で話しかけた。

「それで‥傀儡師(くぐつし)とやらはほんとうにいるの?」

 桐原事件で通報したという探偵に会って聞いた話である。

 彼は実直そうな男だったが、真面目な顔で傀儡の術というのがあると説明した。しかも犯人の桐原森彦は本名を真宮寺森彦といって、四宮本家に恨みを持つ傀儡師の末裔だそうだ。更には四宮三姉妹を狙った爆発事件も首謀者はこの真宮寺で、四宮本家は一時傀儡師によって乗っ取られる騒ぎになったのだという。

 どこの二流映画の話だろうと呆れたものの、話の辻褄は合っていた。それで真宮寺という男を調査するよう、磯貝に頼んだのだ。

「真宮寺森彦という男は確かに存在しています。十八年前に両親が死亡したあと、母親の実家である四宮分家の葛城家で育ちました。大学卒業後、叔父が婿養子にいった四宮南家へ執事として入っています。」

「南家‥?」

「本家以外にも四宮の姓を持つ分家はけっこうあるんですよ。その中でも四家といって、本家の東西南北に位置する特殊な分家があるんです。南家はそのうち南を守護する役目の家で、四宮三姉妹の母の実家でもあります。ですが‥‥」

「‥?」

「どうやら‥春の爆発事件のあとで粛清されたようです。現在の南家は、春までは相模原あたりにいた四宮家。元南家当主だった四宮立夏は謹慎、婿養子の四宮孝彦は死亡。真宮寺森彦は病院にいました。‥‥結果を見れば、真宮寺が首謀者となって何らかの行動を起こしたのは事実かと思われます。」

 ふうん、と真実は冷えた麦茶をすすった。

 そこへ定食が運ばれてくる。今日は豚の生姜焼定食のようだ。いただきます、と磯貝ににこりと微笑んで、箸を割った。

「‥‥四宮孝彦だっけ、真宮寺の叔父さん。彼の死因は? 殺されたのかしら。」

「心臓発作になってますけどね。ついでに言えば真宮寺森彦は頭の中が三歳くらいの子どもになっちゃったそうで、病院で社会復帰訓練を受けています。記憶はほとんどありませんが、担当医師の話では人形を異常に怖がるそうで、四宮瑞穂のそばにいれば安全だから戻してくれと時々思い出したように泣くとか‥。何でしょうね?」

 真実は箸を止めずにううん、と呻った。

「傀儡って‥人形のことでしょ? 傀儡遣いがなんで人形が怖いの?」

「まあ考えられるとしたら‥呪い返しってとこですかね?」

 磯貝はさすがに失笑気味に答えた。

「真宮寺の‥記憶障害だか幼児退行だかの原因は、何になってるのかしら?」

「不明だそうです。外傷はありません。でも‥‥」

「でも、何?」

「面会して、写真と指紋を採りました。桐原森彦に間違いありません。逮捕状請求の手続きをどうするか迷っているところです。あれでは起訴しても責任追及は不能でしょうし、傀儡の術を実証できない以上、婦女暴行だけでの立件になりますが‥。実は被害者が起訴を取り下げると申し出てきているんですよ。」

「‥‥被害者全員? 確か六人いたでしょ。」

「全員です。」

 しばらく黙々と食事に専念したあと、ごちそうさま、と箸を置いて麦茶をすすった。

 磯貝も黙ったまま、上品に箸を使っている。少し間をおいて、ごちそうさまと両手を合わせるのが見えた。

「‥‥これからどうしようかしらね? 四宮本家に行って、調書をどう書いたらいいか訊いてみるってのはどう?」

「‥‥いいんじゃないですか? ぼくは行きませんけど。」

「あら‥どうして? 興味ないの? 傀儡の術だとか魔物だとかがほんとうにある世界について、深く知るいい機会じゃない?」

「桂崎さんは担当ですけど、ぼくは一応違いますからね。課長に叱られちゃう。」

「ふふん‥。まだ始末書書く覚悟ができないの? 仕方ないわねえ。ま、四宮へ行く前にまだやることはありそうね。さしあたり‥桐原事件のほうの被害者を調べ直してみようか。単にちょっと霊感の強い美女ってだけじゃなくて、他にも共通項あるんじゃないかな?」

 磯貝は麦茶をすすって、しばらく逡巡していたが、やがて口を開いた。

「実はね、桂崎さん‥。さっきから迷ってたんですけど‥。幽霊って信じますか?」

「幽霊‥‥? 時と場合によるわね。どうしたの? 信じるのが前提の話なら、信じてもいいわよ。」

「はは‥。ぼくにも解らないんですよ。とにかく‥ネット上で、死んだはずの人の名前を見つけたんですが‥。彼があるサークルの特別会員向けに、有料で呪術を紹介しているんです。その中に怨霊の召喚術なるものがありましてね。情報を買った女の子が実際に、召喚したようなんです。」

「‥‥怨霊を?」

「ええ。怨霊を。あるいは彼女が怨霊と信じているモノを。」

「何のために? いくらで買ったの? そのバカな女はどこの誰?」

「せっかちだな‥。彼女が払い込んだ金額は百万円。何のためかというと‥。好きな男を振り向かせるため。で、その女は‥桐原事件の被害者です。」

 冷えた麦茶のお代わりをもらって、頭に上った血を下げる。

「あの‥ごめんなさい、せっかちな訊き方したの謝るから‥。理解可能なように説明して。どうして怨霊を呼びだすと、好きな男が振り向くの?」

「売ったほうの説明によれば、恨みを抱いて死んだ人の霊を呼びだし、式神として遣うのだとか。怨霊というのは通常の霊よりは凄まじいエネルギーを持っているので、強力な式神になるのだそうです。‥つまりね、あれですよ、アラジンが魔法のランプで大魔神を呼びだして願いごとをかなえてもらうでしょ? あんなイメージで怨霊を召喚しちゃってるわけ。」

「怨霊の‥恨みはどうなるの?」

「その考え方の中では、単なるエネルギーボルテージ。魔神の『魔』の字程度しか気にしてない。」

 完全にバカにした口調で、磯貝は答えた。真実は呆れて言葉も出ない。

「彼女はね。どうやら桐原事件で実際に不思議体験したせいで、現実に不思議な術というのはあるんだと実感しちゃったんですね。過度のオカルト信仰者になっちゃったようで‥。死にかけたんだから懲りればいいのに‥。」

「でも‥‥それって、危険じゃないの? 信じる信じないの問題は別にして、人間が触れてはいけないコトってあると思うの。」

「桂崎さんがそんなこと言うとは思わなかったなあ‥。意外と可愛らしいですね。」 

 磯貝は眼鏡をずり上げて、ふふっと微笑んだ。珍しく目も笑っている。

 笑いごとではないだろうに、と真実は呆れた。

「ま。四宮方式で助ける方法があるかどうかはともかく、そういう心根って救えないんじゃないかなあ? 効果のあるなしはともかく、彼女に狙いを定められた男は気の毒ですよね。‥ちなみに払い込んだお金はどうやって稼いだのか不明です。高校卒業以来、定職に就いていないので。」

「はああ‥‥。どっぷり暗い話ね。ちょっと訊くけど、有料情報の中味とか払い込み記録とか‥正規の手続き踏んで調べられるの?」

「‥蛇の道は蛇って言うでしょう? サイトのセキュリティ診断みたいな感じで。」

「ハッキングしたのね?」

 声をひそめて確認すると、へへっと微笑った。なかなかチャーミングな笑顔だ。

「まあそこは無視しといてください。問題はボロ儲けしているサイトの主宰者の名前がですね‥四宮 (ふひと)なんです。」

「四宮‥史? 瑞穂お嬢さんのパパじゃない‥。先代当主の。」

「こっちも誰かが呼びだした幽霊なんですかね。でも幽霊なら‥お金は必要ないはずですよね? 桂崎さん、どう思いますか。」

「そうねえ‥。三途の川の渡し賃にしては‥高すぎじゃないかしら?」

 俄然面白くなってきた。真実はにこにこっと笑い返した。


 茉莉花の気配が数分とはいえ消えていたと聞いて、市之助は渋い顔になった。

「よくねェ話だな‥。桜、全然感じなかったのかい?」

 はい、と桜はしょんぼりとうなだれた。

「‥‥本人は何ともねェと言うんだな?」

「うん。疲れていたから貧血起こしただけだって言うんだけど‥。」

 玲は溜息をついた。

「自分でも本気でそう思ってたみたいで‥。気配がなかったと指摘したら、さあっと青ざめて立ち竦んじゃってね。明らかに様子がヘンだったんだ。珍しく俺に抱きついてきたくらいだから、よほど具合が悪いんだろうな。‥‥何か心あたりある?」

「そりゃあ‥心の問題だろうな。」

「心の?」

「茉莉花が自分で何とかするしかねェンだろうよ‥。しかし‥何を迷ってンだか‥。」

 そこへお艶がお茶を煎れてきてくれた。

 まだ昼間で、柳楼は開店前だ。いつもうごめいている常連の姿もなく、店内はひっそりと静かだった。

 市之助の深刻な様子に、お艶は少しは明るくしようと思ったらしく、玲に微笑んだ。

「‥旦那も因果だねえ。惚れた女に抱きつかれて、こりゃよほど具合が悪い、と思っちまうなんてさァ?」

 ほんと、と玲は微笑み返す。

「最近やっと、外で手を繋いでも結界を感じない、ってとこまで昇格したんだけどね。」

「おやまあ‥。女のあたしが言うのも何だけど、そりゃそれで男にとっちゃさぞ落としがいがあるってもんだろうねえ?」

「どういたしまして。落としたいわけじゃないから。」

 玲はお茶をすすり、すまして答えた。

「‥‥落としたいわけじゃない?」

「今は今で十分楽しいんだよ。結界に軽く弾かれる感触も含めてね。」

「そりゃま、野暮なこと訊いたね。ごちそうさま。」

 お艶は呆れて、くすりと笑った。

「解らねェな‥。あんたは前世の約束とやらを思い出したんだろ? ‥あいつは思い出せねェのかね?」

 煙管を取りだした市之助は、いつもの冷めた瞳を玲に向けて、訊ねた。

「どうなんだろう? 俺も思い出したってほど思い出したわけじゃないし。約束した時の自分の気持ちみたいなのをぼんやりとね、思い出しただけなんだよ。ところがさ、そう言ったら、『それだけ?』って切り返されちゃった。彼女にはちゃんとした記憶があるのかもしれないと思ってるけど‥確かじゃないんだ。」

「‥‥言わねェンだな?」

 市之助はふうっと煙草の煙を吐いた。切れ長の目がぐっと細くなる。

「あのさ‥。俺がもっと思い出せないといけないのかな?」

「そうは思わねェな‥。桜は茉莉花に対しても守護力を発揮できるようになったと聞いた。約束は完了してるはずだ。何を迷ってるのかは‥おおかた予想はつくがね‥。」

 煙管を置くと市之助は、玲のほうを向いた。

「世話ァかけてすまねェが‥。あいつの魂を見つけてやっちゃくれねェかい?」

「魂を見つける‥?」

「今生に生まれ落ちる前にどうやら半分迷子にしちまったようだ。それがないとあんたとの約束が果たせねェンだよ。前世からの縁のあるあんたにしか、見つけられないだろうし‥。それに‥‥」

「他の誰でもない、旦那のお迎えを待ってるンでしょうよ。女心はそういうもんさ。ね、あんた?」

 にこっと微笑むお艶に、市之助はああ、と答えて苦笑した。

「‥‥どうすればいいかは俺が自分で考えなきゃいけないんだよね、きっと?」

「解るもんなら‥‥教えてやるんだがね。」

 市之助の眉間の皺が深くなる。

 玲は桜をうながして、立ち上がった。

「とにかく‥‥必死でやってみる。それだけは約束するよ。」

 頼む、と小さく聞こえた気がした。


 川井春奈を調査していた鳥島祐一は、彼女が家族ぐるみで『御霊の会』教団の熱心な信者だった事実を突きとめた。

 気になって『御霊の会』教団の現在を調べてみると、驚いたことにまだ存続して活動していた。すっかり様変わりして、黒ミサや降霊術などの不思議体験を活動の中心に据え、宗教というよりもむしろオカルト信奉者の秘密結社といった体だ。例のネット上のサークルもどうやら『御霊の会』教団の関連サイトであるらしい。

 教祖の殺人行為は被疑者死亡ではあるが立件されたはずだ。麻薬疑惑もあったのに、なぜ警察は教団の存続を目こぼししているのだろう? 現場の刑事の関心はとても高かったと聞いている。なのに―――

「‥‥上層部の圧力。初めから‥そっちだったか。」

 教祖になりすましていた四宮史が荒稼ぎしていた教団の金は、どこへ消えたのかが謎だった。四宮本家に流れていた形跡はなく、四宮史名義でも葛城真生名義でも残されていなかった。白炎が名のっていた白田という名前ですべて処理されていたようだが、その先が不明だ。もとより鬼人にそれほど金が必要とは思えない。

 巨額の金は目こぼしのための賄賂だったのだろうか。それにしては金額が大きすぎる。どこかにプールがあるはずだ、と鳥島は考えを廻らせた。

 鳥島は先日桐原事件の件で訪ねてきた刑事の顔を思い出した。

 女性のほうの刑事。桂崎といったか。

 彼女は『御霊の会』のガサ入れの時に、警察庁から監督官として来ていたと言っていた。鳥島はまるで記憶していなかったが、彼女のほうは鳥島を憶えていて、所轄にいたでしょうとにこやかに訊かれた。結局あの時のミスで鳥島は警察を辞めることになったわけだから、出動が空振りとなった監督官からすれば記憶に残っていてしかるべきということか。

 しかしあの時の失敗も、リズと鳥島のせいばかりでもないとしたら。

 桂崎刑事は警察庁から出向という形で、新設の部署に配属になったと言っていた。控えめに見ても栄転とは言えない異動だ。何があったのかは解らないが、金を授受していた側であるとは思えない。もし『御霊の会』関係から外されたのだとすれば、鳥島の知りたいことに答えてくれる可能性はそれほど低くないだろう。

「しかし‥。そのためには手土産が必要だろうな。」

 先ほどからたどり続けていた記憶の、断片が一つ浮かびあがってきた。

 ―――『メルサ』のオーナー。それと‥‥坂上だ。

 二人とも白炎と接点があり、葛城真生が実は四宮史だと知っていたはずの人物だ。そして―――リズを教団に売った男たち。

 相手に不足はない。鳥島は奥歯をぐっと噛みしめた。


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