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 次の日である。

 一人暮らしをするようになって初めて、おいしそうなおみそ汁の匂いを感じながら起きた。んはー、起きてすぐなのにお腹が空いた!


 ウキウキの気分で洗面所へ行き、顔を洗って歯を磨く。昨日までは前の日の残り物と、おみそ汁くらいは自分で作ってたけど簡単な朝食だった。ふりかけとかね。焼き魚も食べたかったけど朝に焼くと髪とかに匂いが付くのでほぼ食べることはなかった。

 それなのに朝起きたら味は保証つきのごはんが用意されていて早起きもしなくていいなんて、すごく時間にも余裕ができたのだ!

 歯を磨き終わり、鏡を見ながら髪やら顔のチェックをしているとシアンがやってきた。


「おはようございます。今日は雨のようですね」

「おはよー、昨日天気予報で言ってたからねー。いい匂いしてるけどロゼがごはん作ってくれてるんだよね?」

「そのようです、楽しみですね」


 ほう、きみもロゼのごはんが楽しみなのかね。やっぱり遠慮という枷をはずしてしまったら、あとはただ楽しみなだけだよねー、あんなにおいしいもの。

 それからごはんはなにが出てくるのかとか雑談しているときに、彼がうっすらと汗をかいて顔をほんのり上気させていることに気付いた。なまめかしいものを感じたあたしはギクリとして彼の喉や鎖骨らへんに見入ってしまった。顔が見えない喉元だけでも美形だなー、鎖骨から下にたどって行ったら筋肉付いてそうな……男らしさってやつだねぇ。


 なんで汗をかいているのか聞いてみると、あたしが起きるより二時間くらい前から起きて軽く掃除と筋トレをしていたらしい。全然気付かなかった……。そういえば洗面所も若干ほこりっぽかったのにツヤッとしてる。


 そのことを褒めると謙遜するどころか、勝手に掃除などしてしまったが不快であるなら気を付けると言うので、共有スペースだけじゃなくて家の中全部のことを好きにしていいと話した。面倒なことをやってくれるなんて、ただただ助かるだけだもん。

「あの部屋に入ったの!?」なんてこと言うほど隠したいものもないしなぁ。あたしの部屋のゲームの趣味がバレるとちょっと恥ずかしいけど、あとはなにをしてくれてもいいと思う。


 あ、でも。父の部屋は大事なものがあるから掃除はあたしがすると説明。あの部屋は人に任せてはいけない。それを了承させると、ふと思った。

 汗ばんだシアンはシャワーを使いたかったのではないだろうかと。


「シャワー使いたいなら使っていいよ。もしかして聞きに来た?」

「いえ、朝の挨拶を……と思いました。なにかお手伝いできることはありますか?」

「ないよ。ごはんできる前にシャワー浴びて来たらいいんじゃない? 汗臭いわけじゃないけどそういうのガマンしそうだから言ってみた」


 そう言いつつさりげなくくんかしてみるが汗の臭いはしなかった。それどころかシャツの柔軟剤の花の香りとシャンプーのちょっと甘くさわやかな香りが合わさって、かっこいいのに女の子っぽいいい匂いをさせてるギャップがかわいいとか思ってしまった。男もののシャンプーも買ったほうがいいのかなー?

そんなことを思い台所へ向かう。


「ロゼおはよー」

「おはよう。よく眠れた?」

「うん。ね、そういえば気になったんだけどあたしニンニク臭くない?」

「ニンニク?」

「昨日マーボーだったじゃん? おいしかったからいいんだけど臭いするんだったらマスクしてこうかなぁと思って」


 ロゼは「あっははは」と笑った。


「何言ってるのよ、家にニンニクなんてなかったわよ。あったとしても学校がある前日に使うわけないじゃないの」


 そうだった!

 洗いものが増えないように調理道具をほとんど使わないあたしがニンニクを買ってたはずがなかった。摩り下ろすのも小さいから面倒だし刻むのも同じ理由であまりやりたくなかったし。あの麻婆豆腐の辛味や風味をニンニクなしで作り出すとはすごいもんだよね、料理ちょっと教えてほしいくらい。


 しかし、あの冷蔵庫にあったものからよくこんなにというくらいおかずができている。古くなる前の食材を使い切ったとこのと。次からは計画的に買い物をしよう。

 味見したおみそ汁に感動しごはんにかけて食べたいとあたしが言い出したときに、タイミングよくシアンが台所にやってきた。

 ロゼは行儀が悪いと言って用意ができるまで待たせようとしたけど、いいじゃんいいじゃんとしつこいあたしに困っていた。そこで現れたシアンを見てホッとしたようだった。


 座って待ってなさいとの言葉にやむなく椅子に座る。向かいにはシャワーを浴びてきたのかサッパリとした様子のシアンが。


 秘技・さりげなくくんかくんか!

 何の役にも立たない技を一人で繰り広げていると、料理ができたとロゼたちがテーブルまで運んでくれた。手伝おうとしたんだけど座っててくださいと言われたので言われるまま本当に座りっぱなしだった。


「いただきます」


 その言葉を皮切りに朝食がスタートした。

 テレビのスイッチを付けると天気予報をやっている。んー、やっぱ今日は一日中雨か。そんなことを思いつつおみそ汁を一口。


「うぅ……ううう……」


 ちらりと横を見るとロゼが期待に満ちた顔をしている。


「うまい!!」


 昨日と同じ反応で申し訳ない。だっておいしいんだもん!

 豆腐のおみそ汁でここまでおいしいものってあるのだろうかね? ここにワカメがあったらさらにいいのになーと思ったので、今日買ってこようと思った。

 あたしが昨日と同じ反応ならロゼも同じで、ホッとした顔をしている。

 買い物に行く話をしていると彼女はスッと紙を差し出すと、食料品の買い出しリストのようだった。


「これだけ欲しいと思うんだけど……どうかしら、過不足ある?」


 雨の日だけあって重いものは買って来れない。リストに書いてあるものは保存もきくしあたし一人でも持てる量のものだった。だけど本当は、ちょっとお米が足りないらしい。


「いけるいける。これでいいよ」


 買い物もいつかは頼めたらいいと思ってるけど昨日の今日でスーパーの場所をわかってもらうのは難しい。明日出かけたときに色々行ってみよう。

 なんて思っていたらシアンが手にした茶碗を置いて話しだした。


「米がなくなりそうなら、場所さえ教えてもらえれば買ってきますよ」

「えぇっ」


 外は雨だ、と言っても平気です、という答えが返ってくる。片手にカサ差しながら片手にお米って大変どころの話ではない気がするんだけど。あたしはやったことない。


「大変だよ。カサ差してお米……」

「シアンなら片手でも百キロは楽勝だわね」

「そうなの!?」

「はい。先ほどのメモをいただければ書かれているものは確実に買ってこれます。雨だということを特に考慮せず、重いものでも必要でしたら言ってください」


 すごい自信だ、言い切ってる……。

 どうしよう、お願いしちゃおうかなー。でも買い物って気分転換になるから自分で行きたい気もするし。でもお米ないんだったら買わなくちゃいけないし……まぁ、パンとかカップ麺あるからなかったらないでいい気もするんだよなー。


 「それか一緒に行きますか?」


 一緒に? どうやって?

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