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 使ってない部屋を自由にしていいと言ったのでシアンとロゼは各自、自分の部屋で寝ることになった。寝る前の歯磨きのあとちょっとネットをしてからロゼの部屋を訪ねる。部屋といっても私物がないから今までと変わらないんだけどね。

 いつもは夕飯食べたあとテレビ見たりネットしたりしてからお風呂に入ってたけど、今日はいつもよりちょっと早い時間に寝る準備が整ってしまった。食事やお風呂などのあたし的に面倒なことを二人でやってくれたことによって自由な時間が増えた感じ。ありがたいー。


 ロゼの部屋にはベッドがあり洋風で、今のところ個性が出るような私物もないのでこざっぱりとしている。一応あたしの持っている着れそうな服を何枚か渡したものがクローゼットに入っているけど、近々シアンとロゼのぶんの服や生活用品を買った方がいいのかなと思っているのだ。その話をしに、こうして彼女のとこまでやってきた。


「明日学校終わったら次の日休みなんだけど、買い物行かない?」

「あら。そうねえ……食料品もほとんどないのよね。買い物というのは放課後に待ち合わせて? それとも明後日ってことかしら」

「どっちでもいいけど食べ物ないから明日はスーパーに行くつもり。学校の帰りに寄るから、それはあたし一人で行くよ。明後日ロゼたちの服とか見てみようよ」

「ううん……ありがたいお話だけど……」


 三人で買い物なんて行けたら楽しいだろうと思って話してみたけど、ロゼは申し訳ないような顔で口ごもる。

 女性用下着コーナーに行ったらシアンが恥ずかしがったりしないかなぁグフゴホブフとか思ってたのに……。


『ねぇ、このブラかわいくない? ロゼにどう?』

『サイズがちょっと小さいわねー。でもかわいいとは思うわ』

『これで小さいのー? じゃーあたしに似合うかな、どう? シアン』

『いや……その……』

『なんか顔赤くない? もしかして恥ずかしがってる?』

『そ、そういうわけでは!』


 みたいな?

 みたいなー!?

 あたしを恥ずかしがらせたからには、これくらいのことを受け止めてもらわないとねー! 楽しみじゃあ!

 なんて思ってたのに彼女はそうでもなかったのかな?

 理由を聞いてみるとこうだった。人間として生活することまで考えてくれるのは嬉しいが、本来は用事があるときだけ人間化スイッチというらしいするものであり、そのとき以外の時間まで人として生活するのは金銭的に問題が出てくる。そこまでしてもらうのは申し訳ないとのことだがロゼは食べることが好きなので、ごはんはできれば食べたいらしい。

 シアンが一緒に食べることを遠慮してたのを二人で説得したけど、自分が食べたいだけだったんかーい!

 いや、いいんだけどね。人と一緒に食べるとすごい食が進んだし、おいしかったもの。


「あのね、お金のことは気にしなくていいよ」

「え……なぜ? 気になっていたんだけど、さっきご両親はしばらく家に帰って来ないってあなた言っていたわね。家のことは一人でやっていたの?」

「そだよ。両親っていうかお父さんね、うち親離婚してるから。お金も毎月振り込まれてるんだけど、あたしはほとんど使わないから」


 彼女は、まあ……と呟いた。

 お風呂に入る前に二人に説明したのだ。しばらく家にはあたししかいないからお風呂もごはんも気にしないで好きにしていいし、ずっと人間のままでも家の中であたし以外の人に見られる心配はないと。


 お金だって生活費として振り込まれているものだけど、普通に生活してたら使いきれないくらいもらってるし、趣味らしい趣味はネットとゲーム。ゲームだって毎月買うものがあるわけじゃないから、お金はほとんど手付かずで残ってる。服だって学校帰りに駅周辺でチラッと見てかわいくてお手ごろなものをたまーに買うくらい。だって一人で服見てもつまんないもん、あたし友達いないから。

 ロゼと一緒だったら買い物も楽しくできると思ったからあたしのために、あたしが楽しく生活を送るために、お金のことを気にせずに一緒にごはん食べたり買い物行ったりしたい。


 ……というようなことを言うとロゼは目をウルッとさせて、きれいな形の唇を震わせた。鼻の頭はちょっと赤くなっている。涙目になる要素あったかこの話ー!


「……ごめんなさい。そうだったの……」

「うん、だから普通に遊んだりしよ。人形に戻らなくていいよ。お金のことが気になるなら問題はないんだ、シアンにも言っておけばよかったね」


 自分が楽しいからという自己中心的な理由で強引に気持ちを押し付けてしまったんだけど、なぜかロゼはそこに呆れる気持ちや嫌悪感があるわけではなく、なんだか悲しげに瞳に涙をたたえている。どうやら彼女の心のどこかを刺激してしまったらしい。


 そんなこんなで明日はロゼに言われたとおりの食材を学校帰りに買いに行って、明後日はできれば三人で、シアンの返事次第になるけど駅周辺でこれから必要になるものを見に行くことになった。

 買い物が楽しみなんてホントにひさしぶり。ゲームを買うときもすごく期待して数日前から気持ちが落ち着かないけど、しばらく欲しいゲームもないし出かけることが楽しみってことがなかった。

 二人の容姿は目立つから髪の毛の色を変えてもらった方がいいのかな? そういった話も明日帰ってきてからでいいや。とりあえず話はここまでにして、ロゼにおやすみの挨拶をして廊下へ出た。彼女の時間も大事だし長居はよくないのだ。


 そしてお風呂の件から顔合わせづれぇと思っていたけど、シアンに明後日の話をしておいた方がいいかな? 明日の朝、ごはん食べながらでいっか。

 でもちょっと声が聞きたくなって彼の部屋の戸をごく軽く叩いた。声の感じからさっきのことを気にしてるかわかるかもしれない。


「シアン」

「はい」

「あたしもう寝るからおやすみ言いに来たー」


 声の調子からして怒ってないな、と知ったかぶるあたし。「はい」の一言だけでわかるわけがなかったので適当な判断であった。

 おやすみーと戸越しに声をかけるとスッと戸が開き、目の前には風呂上がりでまた新しいシャツ着替えたシアンがいた。ちょっと目を見開いて、驚いた顔をしてる気がする。

 ななな、なんですか! さっきのことがあるから顔は見なくていいと思ったのに!


「なにか……? すみません……」


 風呂を覗いたことについて、と具体的には言いたくないのでとっさに薄っぺらな謝罪を口にした。「なにか……?」と聞いておきながらの「すみません……」に、やはり罪は隠しきれないのか……というやるせない気持ちが表れていることに気付かないでほしい。


「挨拶のために声をかけてくださったのですか?」


 お風呂の話じゃないのかよー、よかった。

 先ほどのことについてですが、とか言われるかと思った。


「そうだよ、寝る前に声聞きたかったし。べつに用事あるわけでもなかったから出てきてくれなくてもいいのに」

「いいえ。わざわざ挨拶をしに我が主が部屋まで来られたのに、顔も見せずにおやすみなさい、とはいかないのです」

「そういうもんなのかー」


 そこから、挨拶は顔を合わせてするべきですね、とか言いながら明日の学校の準備はできたのか聞かれた。あとは何時に家を出るのかとか。

 なんかシアンってちょっとお母さんっぽいのかなぁ。

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