6
7/14の追記分は「*」マークからです。
あたしにできることはなさそうだけど部屋に戻るのも悪い気がしてロゼを見てたら、テレビでも見てなさいよと言われたので言われたとおり、テレビを見ることにした。でも二人が気になって集中できない。
とんでもない美男美女と生活することになっちゃったんだもんなぁ。しかもなんと人形ときた。
正直言ってシアンを見てるとドキドキしてしまうんだよね、ロゼは見た目と違ってトボけたとこもありそうで気軽に話しができそうだと思ってるけど、シアンは違う。ほんとゲームの中に出てくる王子様系のキャラクターみたい。そして優しいだけでは設定上物足りないのか腹黒とかヤンデレとか、そんな属性を付けられてしまってもおかしくない、真面目過ぎるくらい真面目。
真面目な人って……いいよね。
チャラチャラした人がどれだけイケメンで優しい人でもあたしは好きになれない。テレビで見る芸能人ですら分けて考えられずに嫌いになってしまう。イケメンチャラ男とフツメン真面目だったら絶対、真面目な方がいいし。
そしてテレビを見ている私の隣に座っている彼は、真面目かつ美青年だ。顔と性格、どちらもいいと思う。性格はそこまでわかってるわけじゃないけど、落ち着いててうるさくないのがクラスの男子たちと違うなと思うし。
お風呂の準備をしてくれたシアンにほかにすることはないかと聞かれたので、夕飯ができるまでテレビを見ようとソファをポンと叩き、座るように誘った。彼はあたしとの間を少し空けて隣りに座る。バラエティ番組はもしかしたら彼の好みに合わないかもと思ってニュースにチャンネルを変えると、シアンは少し身を乗り出して興味深そうに見始めた。やはり真面目な番組が好きなのかなー。誘拐されていた子供が自宅から離れた場所で無事見つかったというニュースがテレビから聞こえてくる。
「誘拐事件ですか……こちらの地域で不審者などの情報はありますか」
「んん、特に聞いたことないなぁ」
「朝の通学はどのように? 徒歩なのか交通機関を利用しているのか」
「歩きだよ。バスで行ってもいいんだけど混むから歩き」
「なるほど」
……という会話のあとシアンはじっとテレビを見続けている。ニュースが気になるのか。そういえばロゼに任せていたけどテレビを見ているだけではやはり悪い気がしてきた。台所に行ってみよう。
「調子はどーだい。手伝えることある?」
「材料がほとんどないだけにむしろ手ごたえがあるわね。あとちょっとだからゆっくりとテレビをご覧なさいな」
「でもヒマだよー」
「あら。あいつの話は面白くないものねえ……ちょっと味見してみる?」
「する!」
差し出された味見皿にはスプーンに乗った麻婆豆腐。一口でそれを口に入れると衝撃が走った。
「う……うう、ううううう……」
ピリリとした辛味の中に感じるうま味。あつあつの湯気から口の中に香辛料なのか薬味なのか、刺激的ないい香りが立ちのぼる。これは……これは……。
「うまい!!」
思わず口から出た感想にロゼは「ありがとう」とホッとした様子で言った。はーうんめぇなぁと思いつつ、ほかにもスープや野菜サラダっぽいものを味見したけど全部おいしかった。このごはんを頼んだら毎日作ってくれるの? 太る自信がモリモリ沸いてきた。おいしいごはんで太るのは……本望だ。ウム……。
味見して間もなく夕飯ができたということで、三人で食べることになった。シアンは元に戻れば食事をしなくても済むのでそうした方がいいのではないかと言ったけど、あたしとロゼはみんなで食べないでどうするの的な対応をして、みんなで食卓についた。食事中にテレビを付けるのは行儀が悪いかなとも思ったけど、一人で食べるときにはそうしてたし二人もここ最近の情勢を知りたいらしくテレビを見ながらの食事だ。明日は雨かぁ。
「それにしてもロゼは料理が上手だね」
「ふふん、ありがとう。それについては自信があるわねえ」
「どうして料理ができるの? 普段は……っていうか今まではなにしてたの?」
料理ができるということは人形ではなく人として作る機会があって上達していったのだと思うし。となるとうちに来るまでもこうして料理を作っていたのかな? 聞いてはいけないことのような気がしたけど気になって口に出してしまった。
「今みたいに主のもとで料理を作っていたのよ。シアンも同じ、ね?」
「はい、そうですね……ごちそう様でした」
シアンはうなずくときれいに食べ終えた食器を流しへと運んで行った。まるで話を打ち切るかのような……なんかロゼとは違って聞かれたくないことのようだった気がする。ずっと二人で主に仕えてきたのかな……。
その後、あたしはちょっと休憩してからお風呂に入った。パパッと準備したように見えたのにお風呂場がきれいになっている。浴槽はもちろん、掃除をさぼっていたタイルなんかの汚れもさっぱりとなくなっていた。あんな時間でどうやってここまできれいに? ロゼは料理が得意だったけどシアンは風呂掃除が得意だったのか。なんて適当な想像をしながらお風呂から上がり、二人にもすすめる。ロゼのあとでシアンが入ることになったらしい。あたしの狙いはここにあった。
シアンのお風呂を……覗く。
はぁはぁ……じゃない、ほんとに裸を見るんじゃないです。ちょっとガラス越しに見える影をですね。だって普段男の人の体とか見たことないから、影絵だけでもですね。見たいんですが?
ロゼのちょっと長めの入浴が終わったのを確認して、あたしはお風呂場へと向かった。
ウム……シアンの気配がある。廊下で、普段は使わない空気を読むという力に目覚めるあたし。
なにやってんだろあたし……バカなのかな。初対面の人のお風呂を覗こうとするなんて。ここまで来たからやるけどさ。ってやるんかい! まぁ、気付かれて嫌悪され出て行かれてもしょうがない。むしろ出会ってからの時間が短いぶん心のダメージもないし。と、覗かれた人の気持ちをわかろうとしないあたしであった。
……やめようかな。いや、でも。変に仲良くなってからではできないことなんだ! そういう人だったんですね、とあとで嫌われるよりも今言われた方が、今、あたしという人間を知ってもらった方がお互いが過ごしやすくなると思うんだ。すごすぎる言い訳だなぁ。
カラカラと音がした。シアンが浴場へと入ったのだ。今まで脱衣所にいたのか……はぁはぁ。脱衣かごを見るときれいにたたまれたシャツとズボン。そして……ふぅ、ここまでにしておこう。
聞き耳を立てるとお湯を流す音が聞こえてくる。ぬぅうう! あまりすりガラスの戸に近づかないようにして遠くから楽しもうじゃないの。
目を細めて見てみると、モヤモヤとした肌色の輪郭がすりガラス越しに飛び込んでくる。見てしまった……男の人の肌色をな。こうしてハッキリと見えないながらに筋肉がついてるのがわかるなー、シュッと引き締まってるし顔が見えなくてもかっこいい人だなってわかる。
はー、いいもの見せてもらったわー。思い出もできたしここらへんで部屋に戻ろう……。
そっと脱衣所から抜け出そうとすると聞こえていたお湯の音が止まったことに気付く。音にまぎれて出て行こうとしたのに、これでは少しの足音でも目立ってしまう。もしかしたらすでに勘付かれて――。
「凜様」
やっぱり気付かれたー!
どどどどうしよう。そんなつもりはなかったんじゃあ……。さっきは出て行かれてもしょうがないとか思ってたけどウソ。ホントはこれから毎日楽しくなりそうだなって思ってて明日が待ち遠しかったのに、こんな覗きで完了してしまうなんて……思春期の衝動に後悔した。
「一緒に入りますか」
――――。
――。
「いっ……あの、え。さっき入ったから」
「そうですか」
そういう問題じゃないけど。
一緒に入る? お風呂に? 男と女の裸の付き合い、出会って一日目から?
覗きはしたけど……肌色のガラスが見えただけで満足したあたしには刺激的すぎる提案。っていやいや、これは本気なわけが……。
「……からかった? 冗談?」
一瞬で顔に熱が集まったのを感じたくらいに恥ずかしかったのに、シアンはハッハと笑い声を上げた。
からかわれたー!
というかこの人冗談言うんだ……真面目な人だと思ってたからこんなことを言ってくる人だとは思わなかった。
ちょっと恥ずかしいこと言ったら顔赤くなるかな? と思ってたのに顔を赤くさせられたのはあたしだった……。
言い訳のように忘れ物を取りに来たことにして脱衣所を出た。たぶんあたしがなにをしに来たのかは気付いてるんだろうなー。はぁ、ごめんなさい。追求してこないシアンの優しさに感謝。