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 あたしが支えていた手から離れ自らの足で地面に降り立った彼は、カクンと頭を下げて礼をする。動けるようになったのだ。


「すみませんが、彼女も出していただけないでしょうか」

「はいよー」


 箱にはもう一体、少女の人形が入っているのだ。忘れていたわけではないけれど、男の子の人形と2人っきりでもうちょっと話したかったなー。恋人はいるんですか? みたいな。グヘヘ。


 同じように女の子の人形をそっと取り出して胸に赤い宝石をそっとくっつけると、すぅっと中へ取り込まれていく。

 ゆっくりと目を開けた彼女も、やはり埋め込んだ宝石と同じ色の、ルビーのような真紅の瞳をしていた。目が人間と同じような質感でできていて、ただ瞳に色を塗っただけではないのだ。ガラスで出来た目をはめ込む人形もあるみたいだけど、そういうタイプのものなんだろうか……詳しくないからわからないけど。


「はぁーん、よく寝ったー。おはようございますぅご主人さまぁーん」


 甘ったるい声が聞こえた。

 発信源は、言いながらぐぐっと伸びつつあくびをする女の子。あくび出来るのはすごいけど、なんやこの喋り方……彼はしっかりとしてるのになんやこの子は。適当に突っ込んでしまうほどの衝撃を受けた。


「あたしぶりっ子嫌いだからそういう話し方やめてくんない?」

「あらー、本当?」

「うん。別に敬語も使わなくていいし」

「それでいいならそうするわよ。とても楽ねぇ……」


 そんなやり取りを見ていた彼はニコニコしながらこちらを見ていた。笑う要素はあったかね?


「なに?」

「いえ……それではこちらの服に着替えてもよろしいですか?」

「うん。見てていいの?」

「かまいません。本来ならば見せるべきことではありませんが、私たちの力をお見せするにはちょうどよいでしょう」


 力ときたよ。魔法的な力でなにかが起こるみたいな? 彼が命じたとおりに服が飛んできて、一瞬でピッタリのサイズになって着替えてるとか。学校に連れていったら面白そうだなぁ、田岡先生のカツラ飛ばしてほしい。

 そんなことを想像していると彼はあたしが持ってきた着替えの服を並べだし、上からシャツ、ズボン、ズボンの中にトランクスを入れて自分はシャツの襟に入り込んでしまった。なにをしとるんやこの男は……と、あたしはいぶかしげに見ていた。少女の人形はなにもしていない。


『……我が紺碧に誓う』

『真紅に誓う』


 付けっぱなしにしていたテレビの音がいつの間にか止まっていて、エコーがかかったかのような二重に響く声が聞こえると同時に、二人から強烈な光が放たれる。あたしはまぶしくて目を開けていられない。

 なにが起こった……?


「何年ぶりでしょうね……体が軋むようです」

「私の美貌は変わってないわね。よかったー」


 光は落ち着き、目をしぱしぱさせながらゆっくりと開けてみる。

 目の前にいたのはあたしが貸した服を身にまとった金髪碧眼の超絶美形としか言いようがない青年と、同じく金髪でルビーの目をした絶世の美女だった。美女のほうはなぜか全裸で、胸や腰周り、肌の手触りなんかを撫でて確かめている。他人の裸を生で見たのは初めてだったあたしは、失礼などという考えも及ばずにじっと見入ってしまう。白く透けたような肌とすっと通った鼻筋。真紅の瞳が見る者を釘付けにし、赤みがかった桃色の唇は顔のパーツを引き立たせる。


 ……とんでもねえ。

 とんでもない美女だよ。胸も大きいのに下品じゃないし、腰もくびれていてお尻もほどよい大きさ。あたしも自分の顔やスタイルに自信があったけど……うぅ。むぐぐ。


 裸の美女に目を奪われてしまっていたけど青年のほうだってとてつもない美形で、さながらファンタジー恋愛小説の王子さまのよう。白いシャツを着てお忍びで城下町を散歩しているのかな、みたいな。なんてことないシャツとズボンも彼の着こなしで、高貴な身分の人が身に付けてもおかしくないものに見えてくる。


 金糸の髪に深い碧の瞳。男性でありながら肌はキメ細かくきれいだし、かと思えば女性的というわけではなく肩幅もがっしりとしていて、シャツの胸元からしなやかな筋肉が見え隠れする。ひゃー筋肉のある男っていいなぁ!

 指もすっと伸びているのに骨ばっていてきれいなのに男らしい手。

 鼻は高いし、碧い瞳と引き締まった口元からなんとなく穢れを寄せ付けない強い意思を感じさせる。そういえばこの人ヒゲ生えてないじゃん! うちのお父さんなんか剃らないとすぐ生えてきてるっぽかったのに。人形だからヒゲなんて生えないのかな?


「あの……毎度のことながら、あなたはなぜ服を着てからスイッチしないのです」

「あんたみたいにめんどくさくてカッコ悪いことしたくないわよ。それに裸が一番美しさを確認しやすいものねえ。んふふ」

「……服を着てください。とりあえず、服を着てください」


 二回も言った。怒る直前という感じだった。

 たしかに服を並べてるのを見たときはなにしてんの? とか思ったけど……服が小さくなるんじゃなくて体が大きくなるなんてなぁ。見たところ関節部分は人と変わりがないし、人形でなくなってしまったのだろうか?


「聞きたいんだけど、あなたたちは人間になったの?」

「そうよ。今は人間」


 彼の雰囲気に気付いてしぶしぶとワンピースを身に付けた彼女が答えた。似合っていると思った、とても。


「私たちはあなたのおかげで人形封じから解放され、こうして人へと成ることが出来ました。あなたに深い感謝をささげるとともに、願いを叶えてみせましょう」

「狭い箱の中はウンザリしてたのよ……ほんと、ありがとねぇ。ま、気軽に言ってごらんなさい? 叶えられるかどうかは別だけどね」


 ……って言われてもなぁ、思い付かないよ。んー、なにかあったかなぁ……。

 特に満たされた生活をしているわけでもないのに思い浮かばないものだなー。彼氏欲しいったって願いを叶えてもらうまでもなく自分でなんとか出来ることだと思うし……むむーん。


 ……この青年を彼氏にしてもらうのは……? こんなにかっこいい青年と恋人になるのはさすがに自力でなんとか出来ることではない。ゲームや漫画の中に入ってなんとか……という話だ。つまり魔法でもない限り叶う願いではない。

 ……でもなぁ、今は人間っていったって元は人形。人形を恋人にしたいというあたしは変な人間ではないのかな。いや、そもそも相手の気持ちもあるし「それだけはご勘弁を」とか言われたら出会った次の日から顔合わせづらくなるじゃん……。


「もし願いが叶ったら二人はいなくなっちゃうの?」

「いいえ、あなた次第です。あなたが不要だと思うならば私たちを再びあの箱の中へと封印してくださればいいですし、そうでなければ時が来るまでお側にいます」


 彼の横で「嫌ぁ……嫌ぁああ……」という声がボソボソと聞こえる。彼女は本当に箱の中に戻りたくないのだ。当面の願いが決まった。


「あたしの願いが決まるまで、しばらく一緒に住んでくれない?」

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