2
「ただいまー」
ごみごみした場所から家に帰ってくると、なんだか一人だけ違う世界にいるような気がしてくる。ひと気がなくて暗いし。
「あれ?」
抱えている箱がガタっと揺れた気がした。あたしのカン違い? かなり強くドンという衝撃があった、気がしたけど……。
もしかして中に入っているのは干物じゃなくて生き物? うまい! 生のほうだったか!!
って怖いわ……どうしよう。
とりあえず家の中の電気を付けて居間に箱を置き、上着を脱いでから洗面所で手を洗って戻り、息をつく。ふー。
さて、どうしようか。
おばあさんは一人で箱を開けろと言ったけど、この家にはしばらくあたし一人しかいない。気を付けて開ける必要もない。
あぁ、でも一人というのが怖いな。テレビ付けちゃおう。まさかテレビに人が映ってるのがダメとは言わないよね。
とたん、箱が脈打つように跳ねた。ドンッ、ゴト、ゴトトと箱の左右を跳ねさせながら。
「ひぇええ……!」
なになになに! なにが入っているのこの箱ー!
一人で開けるなんて無理だ! 捨てよう!! 動くゴミの日はいつだー!?
でも触るの怖いー!!
黒くて素早いあの虫を退治したところで、捨てるために近寄ることすらできないあの感じ……!
「どうしよ……」
なんとなく気を落ち着けるためにテレビを眺めると料理のレポート番組だった。
『このお肉ー、脂のとこがほんっとに甘いんですよー。口の中でとろけまふー』
あたしが怖い思いしてるのに、なんであんたはうまいもん食って口の中とろけさせてんの? 三秒でテレビに映っているタレントを嫌いになった瞬間だった。
あたしだってほんとだったら生クリームで口の中がとろけてるはずだったのにさー。
あ、そういえばもらった宝石はどこいったかな。
ポケットを探ると二つのつるりとしたものが指の先に感じられる。あったあった。
「え?」
ビー玉くらいの大きさの二つの宝石は光を放っていた。ドクン……ドクン……と、さながら心臓の鼓動のように強い光と弱い光が交互に明滅する。
なんかやばい。
赤いのが光ったら青いのの光が弱くなる、青いのが光ったら赤いのの光が弱くなる。
赤、青、赤、青、あか、あお、あか、あお……。
こういうのってずっと見てるとやばいんじゃなかった? 目の前がチカチカして視界が白くぼやけてきた。
ガタガタ動く怪しげな箱と、ずっと見てると気を失いそうなデンジャラスな石をくれたおばあさん。いらないものを押し付けられた感がすごい。
もしかして。
視界がぼやけている今、箱を開けるチャンスなんじゃ……?
怖いものが出てきてもよく見えないから怖くない。怖くなったら石を見つめて気を失ってしまえばいいんだよ。ひゃあ、頭よすぎてごめんねぇ!
チッカチッカと点滅している石をしばらく見つめ、視界がぼんやりしてきたところであたしはとうとう黒い箱に手をかけた。