月はいらないのよ王子様。
きっといつか、自分は真理愛に殺される。
確信にも似た直感。けれど、そうなるだろう。
遅かれ早かれ、あいつは自分に依存しすぎたんだ。
実に、実に滑稽な事実に笑いがこみ上げてくる。
嗚呼、自分のどこにそんな魅力があったというのか。
自分には甚だ理解できないものだ。
「助けて、くれたの…?」
なんとも愚かしいことに、自分にふられた腹いせに自殺しようとした女。
屋上にわざわざ自分を呼び出して、目の前で飛び降りようとした。
その手をとって、無理やり保健室まで運んだ。
170の自分に対して、彼女は150いかないくらいの身長と、随分と小柄だ。
そんな彼女を運ぶのは簡単だった。面倒なら、放置していた。
「なんで?」
期待するような目に、ゆるりと口角が上がった。
友人曰く、“人を喰ったような笑み”だそうだ。
全く、彼女はどこまで馬鹿なんだろうか。
「勘違いをするなよ。自分はね、自殺ってものが好きじゃないんだ。
何もかも投げ捨てられる、その神経が信じられないね。まぁ価値観は人それぞれだ、無様にフラれたくらいで捨てるのも君の勝手だろうね。
けれどね、自分の前ではよしておくれ。不愉快だ」
もう視界にも入れたくない。
立ち上がって、そのまま保健室から出て行った。
今は放課後。
帰宅時間が遅くなってしまったことに不快感が募る。
早足で歩き、校門に差し掛かったところで誰かがいることに気がついた。
「待って!」
声を振り返って、唇にあたったぬくもり。
「っ……!」
理解して、すぐに振り払った。
離れた彼女は笑顔で、そして泣いていた。
「そんな、顔するのね」
「心底傷ついたって顔だね、あまり巫山戯るなよ」
あぁ、気持ち悪い。
気持ち悪い気持ち悪い気持ちが悪い!触れた体温が、彼女の瞳に映っている感情が。
そんな顔だなんて、自分は今どんな表情だろうか。
きっと、嫌悪や軽蔑なんて、そんなものを全面に押し出したような表情だろう。