砕け散った星の軌跡
なぜ、幼馴染は突然あんなことを言いだしたのだろうか。
あれは馬鹿で猫かぶりで、時折どこまでが猫かぶった確信犯なのかわからなくなることもある。
けれど、決して他人の神経に障るようなことはしないはずだ。
そういう性格なんだ。あいつは、とても臆病なんだ。
「神崎さん」
自分は他人の顔と名前を覚えるのは得意な方だ。
今声をかけてきた女子の名前とクラスくらいは覚えている。
だから少し不思議に思った。
同じクラスでもない同じ学年でもない、同じ部活に所属しているわけでもない。
なぜ、そんな工藤先輩が自分の名前を知っていて、声をかけてきたのだろうか。
ついてきてと言われて、特に用事もないので了承した。
廊下を歩きながら、彼女の顔を伺う。
彼女はそれなりの美人だ。ふつうなら、大層モテるだろう。普通なら。
彼女はなぜか、そんな浮いた噂はひとつも聞いたことがなかった。
彼女はとても、周囲から距離を置かれていた。
原因は知らない。興味も特にわかなかったから。
「好きなの」
「…………そうか。それで、貴女はどうしたいの?」
なるほど、彼女に浮いた噂がひとつもないのはこれが原因だったか。
驚きはしたが、慌てるほどのことでもない。
オノマフィリアもどきやネクロフィリアもどきがいるのだから、レズビアンなどまだ正常な方だろう。
「付き合いたい」
「そうか」
「一緒に登下校したり、休日一緒にでかけたり……ねぇ、だめ?」
恥じるように顔は俯けていたが、そのセリフのために顔を上げ、ちらりと甘えるように見上げてきた。
ちなみに自分は170と女子の割には高身長だ。この身長で幼馴染に拗ねられることもしばしば。
中学卒業までには…つまりあと1年で180になると言っていたか……そのためには後20センチ伸びなければならないが、
まぁ、がんばれ。
話はそれてしまったが、彼女の話に耳を傾け考える。
「そうか。付き合う必要性を感じないね」
とけろりと言えば、平手打ちを食らった。
あまりじゃないか。思ったままを言ったのに。
物理的にそらされた顔を彼女に向ければ、ぼろぼろと泣いていた。
面倒だなぁ。
きっと自分は今とても冷めた目をしているだろう。
自分も、紀市ちゃんも、愛し返されようと望まれる事を嫌う。望むことをを嫌う。
美しいものが好きなんだ。そんな感情が美しいとは思えない。
自分に好きだと伝えるのは、恋人になって欲しいというのは、愛し返して欲しいからそう言うのだろう。
いらないよ、そういうの。
そうやって可愛らしく泣かれても、自分は何も感じないから無駄な努力だ。
とりあえず、赤くなった頬を冷やすために保健室に行こうか。
「あー!!優裏安!」
この学校は小中高と同じ敷地内にある。
中学校と高校は隣り合わせになっていて、高校の裏庭を通ろうとすると中学の運動場の前を通ることになる。
運悪く幼なじみは下校しようとしているところだったらしい。
境にあるフェンスまで走り寄ってきた。
自然と見下げる形になる。
「あれ?どうしたのそのほっぺた」
「あぁ、さっきちょっとね」
「修羅場?」
「いや全然」
説明するのは面倒だな。
とりあえずこの場ははぐらかしてしまおうと思ったが中々どうして、幼なじみは気になるようだ。
他人の事情等放っておけばいいものを、まぁ物好きな奴だな。
一般論から言えば、好きなやつの動向が気になるのも仕方がないのかもしれないけれど。面倒だ。
「とりあえず保健室に行く予定なんだ。じゃぁな」
「うーん、じゃぁ帰ったら事情聞くから!またねー!!」
元気なやつだ。
帰ったらまた問い詰められるのか、嗚呼本当に面倒だな。