この度、ドS王子との同居を始めました。
「なんでこんなことになるのよ・・・。」
そう。すべての事の始まりは、ほんの三時間前の事。
「ただいまー。」私がいつものように学校から帰ってくると、家の中のは不気味なくらい静かだった。
いつもなら玄関まで「おかえり。」といいに来てくれる母の姿がない。
私は少し不安になって、急いでリビングの扉を開けた。
扉を開けると、そこはいつもの温かい我が家ではなかった。
リビングの空気は凍りつき、お母さんとお父さんが深刻な顔でリビングのソファーに座っていた。
そして、両親の目の前には見たことがない男性が座っていた。
まだ二十代前半くらいで、髪は長く、かけている黒縁眼鏡のせいか、少し怖い感じの人だ。
(感じは怖いけれど顔立ちは整っていて、まぁ世間で言うイケメンに分類されそうな人だなぁ。)
「あぁ、お帰り。千佳。」お父さんが私に気づいてそう言ってくれた。
「あれ、お父さん今日は平日だし、仕事あるんじゃないの?休みだったの?」
私がそう聞くとお父さんは少し俯いた。
「すまない・・。千佳。」
「えっ?お父さん?」
お母さんの方を見ると、お母さんは申し訳なさそうに私を見た。
「そうか。あんたが、千佳なのか。」
すると、先ほどまで黙って座っていた男性が口を開いた。
「俺は、瀬戸ライト。訳あって今日からお前は、俺のもとで働いてもらう。というか、家に来い。」
「はっ?意味不明です。お父さん、どういうこと?説明して!」
「すまない。その方がおっしゃるとおりだ。」
「はっ?お父さん。なんで、この人に敬語なんて使うの?」
(お父さんの方が、年上。なのに、どうして、こんな人に警護使うの?)
「実は・・・。」お父さんは語りだした。
父の会社の経営が厳しく、リストラにあったこと。
それを聞いた瀬戸さんが、「お金を会社に援助してやる。だから、お前の娘を俺にくれ。」といったそうだ。
しかし、お父さんは拒否をした。「大切な娘はだめだ。」と。
それでも、やはり権力に抗うことは出来なかったのだ。
とりあえず、私にも選択肢くらいはあげようと、瀬戸さんは家に来たというのだった。
(こんな事態で選択肢なんて、貰えるはずない…)
私は、瀬戸さんに聞いた。
「それを拒んだら?」私が問いかけると、瀬戸さんは強い口調で「出来るというのなら、どうぞ。まあ、あんたがそれを拒んだら、困るのは両親だがな。好きにしろよ。」と言った。
その言葉の裏には、拒むことは許さないという意味が含まれていた。
(いやだけど・・。拒むことも許されない・・。私は・・どうしたらいいの?このいかにも危ない人と同居とか嫌!!!!絶対無理。よく、こういうのって、漫画とかでもあるけど、本当にこんなことに巻き込まれるだなんて。私の人生はどうなるの?)
「大丈夫。学校は行かせてやるから。」
「そんなことじゃ・・・ないです。」
「じゃあ、何が不満なんだ?俺みたいに、経済力がある人間のどこがだめなんだ?両親も助けられるんだぞ?これ以上にはないくらい、いい条件じゃないか。」
「お金の問題じゃない。お前は、今まで自分を育ててくれた両親になにも思わないのか?お前が来なければ、良心はこれからずっと苦しい思いをするんだぞ?なにもずっと俺のところに居ろとは言わない。家にもちゃんと帰してやるし。ちゃんと、よく考えろ。」
(いやだけど・・・・・。仕方ないの?いまはこれしかないの?考えろ。私。何が一番正しいのか。何が一番ベストか。私の将来を守ること?違う。お母さんとお父さんを守らなきゃ。やっぱり・・・・。行くしかないのかな・・・・。決めた。行く。)
「行きます。」私は、瀬戸さんの顔をみてそう言った。
私が、そう言うとお母さんはソファーから立ち上がって「無理しなくて良いのよ?お母さんが働くから…」と言った。
でも、私は首をふった。
「別にあなたが私を、どうしようと知ったことない。だけど、両親には手を出さないで。」
「約束する。会社にも資金を援助し、リストラも解除するように言う。それに、俺はお前に手を出そうとも思っていない。まぁ、女には困ってないからな。」
(意外と、大丈夫だったりするのかな?)
私は、瀬戸さんの発言にそんな事を思ったりした。
今、私は、大いに後悔している。
「おい!千佳お茶入れてくれ。」
「かしこまりました。」
私は、短いスカートのメイド服の裾を抑えながらお辞儀をした。
(同居するだけだと思ってたのに…。なのに。どうして、私はメイド服でこんな奉仕してるのよ!)
私は、改めて自分の服装を確認するとため息をついた。
「なんでこうなるのよ…。」
瀬戸さんの家に着くなり瀬戸さんは、私に一着の服を渡してきた。
「千佳。これを着ろ。」
「えっ??」
私は、つい反射的に受け取ってしまったのだけれど、私が気づいた時にはもう遅かった。
「めっ…めっ…めっ…メイド服ーーー???」
「あぁ。まぁ、俺が居る間はこれ着ろ。いいな?」
「嫌です。絶対嫌。」
「お前は俺に逆らえる立場だったか?」
「なんですか?えらそうに。」
私は、瀬戸さんを睨んだ。
すると、瀬戸さんは私を壁際に追い込み、壁にドンっと手をついて言った。
(まさかの壁ドンー?!初めてだ。こんなことする人、現実にいるんだね。この人に壁ドンされても嬉しくない。確かに顔はイケメンだけど、性格が…。)
「良いか?、俺はお前の主人だ。お前は俺の物だ。メイド…いや。メイドじゃねぇな。犬だ。そう。お前は俺の犬。まぁ、ペットだ。だから、おとなしく言うこと聞け。」
「いやよ。」
私は、そう言って瀬戸さんを睨んだ。
「親がどうなってもいいのか?」
私が、睨んでいると瀬戸さんはそう言って私を脅迫した。
「すみませんでした。」
(なに?こいつ?ほんとに嫌。ムカつく!!!)私が、心の中で暴れていると、「今、ムカつくって思った?顔にでてるぞ。分からないように、しろよ。バレバレだ。」と、瀬戸さんはやれやれといった表情で私を見てきた。
(バレてたの?こいつ、透視能力でもあるの?きもっ。もう、ほんとにやだ。)
「すみませんでしたね。」
私は、嫌々謝ることにした。
(怒らせたら、面倒だし。)
「分かればよし。」
そう言うと、瀬戸さんは上機嫌に私の頭を撫でた。
その感触は優しくて温かくて。
嫌だとは思わない自分が居た。
(って私!なに考えてるの?だめだって!私はお金の為に来てるだけ。それ以外ない。有り得ない。)
「千佳?」瀬戸さんはいきなり、私を呼ぶと「メイド服脱いでいいぞ?」と言った。
私は、あまりのいきなりなことに「ふへっ?」と言ってしまい、瀬戸さんを、笑わせる事となった。
「悪かったな。千佳。意地悪して。俺さー。つい可愛い子見たらいじめたくなるんだよ。許してくれ。」
「このドS!」
「おーそうかもな。最高の誉め言葉だな。」瀬戸さんはそう言って苦笑いした。
「でも、どうして私なんですか?」
「あー単に可愛いなぁーってタイプだっただけ。それで、可愛い女の子が、お父さんのリストラにより苦しみの果てにしんじゃうー!!みたいなことは見たくないし。たすけてやってもいいかなって。まぁ、幸い俺、お金持ってるし。」
「はぁ?」
「まぁ、そういうこと。別に悪くないだろ?イケメンな王子の俺様と一緒に生活出来るんだぜ?有り難く思えよ。」
「遠慮します。それと、あなたのどこが王子だと?」
「つれないなー。」
「当たり前です。」
私がそう言うと、瀬戸さんはにっこりと笑った。
「というか、どうしてそんな大金持ってるの?」
「俺、服の会社だよ。因みに、社長。」
「絶対嘘。」
「いや。ほんとだから。だから、こうして千佳ちゃんは助かってるんだ。俺様に感謝するんだな。分かったら、さっさとご飯作って。俺、お腹すいてるんだけど?」
「もしかして、さっきのメイド服も?」
「あれは、あ・そ・び☆というか、俺が趣味で作ったんだ。なかなか似合ってたぞ?」
私は、怒りのあまり叫んだ。
「さいってーー!ほんとに、やだこの人!!」
「ご主人様にサイテーだなんてどの口が言うんだ?」
そう言ってドSな王子は、私のほっぺをつねった。
「ひっ…ひたいてふ…」
「じゃあ、謝れ。」
「もうし訳…ありませんでした。」
「よし。仕方ない犬だ。ったく手のかかる。」
そう言って、瀬戸さんはまた笑った。
彼の事は本当にムカつくし、嫌い。
でも、時折見せる彼の笑顔は、嫌いにはなれない。
(まぁ、性格はともかく。顔はまぁ…イケメンだからなぁ…。俺様だし、ワガママ王子って感じよね。)
私は、盛大にため息をついた。
「ちかさーん。俺、お腹すいちゃった。ご飯作ってくれ。死にそうだ。」
「かしこまりました!ご主人様!」
私はそう言ってキッチンに立つと適当に冷蔵庫の中から、食品を取り出した。
そんなこんなで、私とドSな王子との同居生活が始まりました。