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破滅への朝ごはんを、少年と

作者:


 たしかその日は高校の開校記念日で、朝ゆっくり寝ていた私は火薬の臭いで目を覚ました。


 頭を襲うだるさを解消すべく、あ゛ーと乙女ならざる奇声を出して仰向けになるとカチッと高い音が頭上から聞こえた。不思議に思い、ゆっくりと開けた両目は何故かお互い違うものを捉えていた。


 まず右目。十歳弱ぐらいの少年が見える。服装は上下共薄汚れた黒い服と防弾チョッキ。日本ではありえない深緑色の髪。更には死んだような目で私を見下ろしていた。その歳でその目はいかんだろ。

 はい左目。何かよく分からない黒い物体が見える。穴が空いてるけれど貫通してるわけではなく、穴の中は真っ暗だ。火薬臭いのはきっとこれだろう。あー火薬臭い黒い物体ねぇ、心当たりがないようなあるような。

 少年はぱちりとまばたきして口を開いた。


「おはようございます、死ね」


 は?


 その瞬間、黒い物体が立て続けに吠えた。

 私は少年が喋り終えるコンマ3秒くらい前に危機感を覚え、寝起きの身体を無理やり捻って横に転がり、休むひまなく左手を床についてそれを軸にして半回転するように身体を浮かせて四つん這いの体勢になった。

 すげえ私、こんな反射神経鋭かったのか。これはきっと私の中に眠るSAMURAI魂が目覚めたに違いない。

 そんなアホな事を考えている最中も少年は黒い物体−−てゆうかこれは銃だ、本物(マジモン)見た事ないけど多分マシンガンだ−−をぶっ放して弾が切れた頃には私の枕及び布団を穴だらけになっていた。


「………」

「………」


 少年の手は素早く腰のポーチから弾の補充を出してリロードしつつ、反対に顔は比較的ゆっくりとこちらを向いてパジャマ姿で四つん這いというあられもない姿の私を虚ろな目で見た。私は『この可愛いのにいかにも危なげな少年誰だ』と『なに今の私の動き超ハイスペック超かっこいい』の2つの思考で脳がパンクして喋れない。


「うぜー…」


 2度目の少年の声。先ほどより、変声期を迎えていないながらもドスの利いた低い声だった。


「この距離で回避とか…なにもう…だからやだったのに…弾無駄にしたしさぁ…」


 少年はいまにも引きこもりそうな弱気な声を出し、布団(の残骸)を見下ろしながら黒い手袋をはめた手で髪をくしゃりと握る。何だろうこの目に見える駄目男オーラは。これがオッサンだったらすぐにでも警察呼ぶレベルだ。年に感謝しろよ少年。

 ………。

 あ、そうだ警察。今私殺されかけたんじゃん。自分の回避が格好良すぎてうっかりしてた。

 無言でそっと電話を取ろうとすると、鼓膜に優しくない甲高い破裂音が鳴って電話が吹き飛んだ。しばし固まって、振り向くと少年はまたしても私に銃を向けていた。今更だけど銃刀法違反の日本じゃなかったのかここは。


「…えーと、少年? 日本語分かる?」


 銃にびびりながらも不思議なほど心は落ち着いていて、なるべく優しくそう少年に話しかけると少年はパンッと発砲して電話の横にあったメモ帳が吹っ飛ぶ。応、という事なのか喋んな、という事なのか分かりにくい。確か君さっきまで銃弾の無駄な消費を嘆いていたはずだろうに。


「まーまー自己紹介から行こう少年。私は重森(しげもり) 梨沙(りさ)、君は?」

「……フレン・ルッツ」


 あくまで冷静に私が話しかけ続けると少年−−フレン君は面倒臭そうにそう答えた。見事な横文字フルネームで私の外国人苦手症が発症してしまいそうだ。でも日本語が通じて良かったとほっとした。発砲もされなかったし、小さい事ながら大きな一歩だった。さて次が最も重要な質問だ。


「君は誰なのかな、どうして私は殺されそうになってるのかな」

「…察しろっての…クズかよ…」


 ぼそりと投下される暴言。怒るな私年上だろ頑張れ私、と内心自分を抑えつつ催促するようににこりと作り笑いを浮かべるとフレン君は深くため息をついた。


「…職業は殺し屋、だから殺してくれって頼まれたの」

「はい?」

「2度言わすなら家ごと焼くよいいね?」

「あ、ごめん待って謝るから考える時間をお姉ちゃんに頂戴」


 即座に降参して手でタイムのポージングをすると、フレン君はため息をつきつつ素早く取り出したライターを仕舞った。私は落ち着いてさっきの言葉を思い出す。

 殺し屋? 頼まれた? この平和の国で、この一般市民の私が?

 一応確認するけど今日はエイプリルフールじゃない。誕生日でもない。ごく普通の何でもない平日だ。

 ………。

 あー分かった、なんだ夢だこれ、そうに違いない。この小さな殺し屋くんが自分の手よりもでかい銃を簡単にぶっ放せるのも、私が奇跡的な反射で回避したのも、発砲音が外にも聞こえたはずなのにまだ誰も駆け付けてくれないのも、全部つまりそういうことだ。なぁんだ。

 私は力を抜いてすっと立ち上がって笑った。


「フレンとりあえず朝ご飯にしようよ、お腹空いた」

「……なに、腹いっぱいで死にたいって事? あといきなり呼び捨てにすんなババア」

「あ、火薬臭いから窓開けて。お母さーんってあれ誰もいないし」

「ちょっとは聞けし…アンタ丸腰の状態で命狙われてんだよ?」

「いでよ卵焼き! …無理か、しかたない適当に作るかー」

「…だから聞けし…、あーもうやだめんどい…」

「リクエストある?」







 その日からフレンと過ごす火薬臭くも楽しい毎日が始まった。



 これが夢ではないと私が気付くまであと×日。

 両親がいつまでも帰ってこないと気付くまであと×日。

 フレンが私の名前を呼んでくれるまであと××日。

 私があらゆる殺し屋に狙われている事を知るまであと××日。

 フレンに守られながらも逃げる日々を送るまであと×××日。

 私が死ぬまであと…。





「だから殺人鬼の娘なんて面倒くさそうで嫌だったのに」



 誰かがぼそりと言った。




息抜きに厨二っぽい話が書きたくてこんな事になりました。

相変わらず年の差恋愛好きだなぁ私。

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