○バイト
一人暮らしをはじめて数日が経過した。父との約束を一応守り、今まで通り学校には通っていた。学校での昼休みの時間、一斗は屋上で昼寝をしていた。
『一斗。放課後、カラオケ行かね?』
声をかけて来たのは宮野 眞一郎だった。眞一郎は中学時代からの付き合いで、一斗が唯一、心を許している友達。
『悪い。今日は買出しに行くんだ。』
一斗が断る。
『買出し?何、買いに行くんだよ?』
『オレ、一人暮らし始めたから晩飯の支度と自分でしないといけないんだ。』
『お前、とうとう、家、出たんだ。』
眞一郎は、普段から一斗の愚痴を聞いていたので、ある程度のことを理解した。
『でも、金、どーしてんだ?』
『今までの貯金と、父さんが10万くれた。』
『いいよなー。金持ちは。』
その言葉に一斗の頭の中で、疑問がうまれた。このまま、バイトをせずに今までの貯金と父からもらったお金で生活していたら何も変わらないと。
『シン。オレ、バイト探しに行くは。』
シンとは一斗が眞一郎を呼ぶときに長いからと言う理由で名づけられたあだ名。
『なんで?』
突然の発言に驚く眞一郎。
『結局、親の金なんだよ。今のオレの生活は。まぁ、家はいろいろと問題があるし、これ以上父さんに迷惑かけるのはイヤだから、世話にはなるが、生活費ぐらいは自分で稼ぐ。』
決意を語る一斗。
『なるほどな。あ、でも問題あるぞ。この学校、バイトするとき許可がいるぞ。』
『大丈夫だろう。オレ、学年主席なんだし両立させてやってたら文句言わないだろう。』
何の根拠もないのに自信満々に言う一斗。心配してくれている友人をよそに頭の中では順調に話が進んでいる。
放課後、一斗はバイトの許可をもらいに職員室前の廊下に来ていた。やはり、職員室というのは入りにくいもので、ソワソワしていた。
『一斗。』
眞一郎が声をかけてきた。
『職員室に入るのに緊張しているのか。』
なぜか嬉しそうに話しかけてくる眞一郎。
『ほっとけ。』
『そんな言い方すんなって。山本なら、今、体育館にいるぞ。』
山本とは、一斗のクラスの担任の山本先生で、女子バレー部の顧問をしているため、放課後は体育館にいることが多いい。
『なんで、お前が知ってんだ?』
『気にしない、気にしない。早く行ってこいって。』
ニコニコしながら言う眞一郎。
『まぁ、ありがとな。』
一斗は体育館へと向かった。
そして、体育館に到着した、が、職員室同様、入りにくい。体育館の出入り口付近に突っ立ていると。
『一斗クン。』
眞一郎が再び現れた。
『お前、ヒマだなぁ。』
あきれている一斗。
『お前のことが心配なんだよ。』
『絶対に違うな。』
一斗は何かを悟った。
『シン。狙っている女子がバレー部にいるだろう。』
『え、いや、オレは友人として一斗クンが心配なんだよ。』
いきなりの発言に焦っている眞一郎。そうこうしていると、休憩時間になったのか、部員が外に出てきた。すると、眞一郎が部員の一人に声をかけた。
『山本先生を呼んでもらえませんか。』
眞一郎は今までに見たことがないくらいにまじめにお願いをした。そして、部員が先生を呼びに行ってくれたときに一斗が話しかけた。
『今度はアノ子か……。』
その言葉に苦笑いをする眞一郎。すると。
『どうした?何か用か?』
いきなり、後ろから声をかけられた。