●2つの約束
翌日、一斗が目を覚ますと、眞一郎の姿がなかった。
家中を簡単に探したが居なかった。
眞一郎にメールしようとケータイを見るとメールを受信している事に気が付いた。
メールの相手は眞一郎だった。
『用事できたから帰るわ。声かけたかったけど、ぐっすり眠ってたから黙って帰るけど、許してね。』
と、書かれてあった。
『帰ったのか………。』
と、とりあえず返信しようとすると、まだ下の方に文が書かれてある事に気付いた。
『アト、寝顔、可愛かったゾ。』
『アイツ、殺す。』
と、残りの文章を読むと怒りが込み上げてきた。
しかし、表情はなぜか和らいでいた。
結局、返信をすることなく終わった。
眞一郎が泊まりに来てから数日が経過したある日。一斗は父に呼び出されていた。
場所は鈴元コンツェルン本社の中にある喫茶店。
コーヒーなどを注文し、会話が始まった。
『一斗。元気にしてたか?全く連絡ないから心配してたんだぞ。』
『まぁ……。先にお礼を言わせて下さい。眞一郎の治療費の立て替え、ありがとうございました。』
頭を下げる。
『その事か。そんな気にしなくても……父さんのできる事をしただけだ。』
笑顔で答える。
『オレの用事は終わったけど、何で会社に呼び出したの?』
言葉使いが一気に変わる。
『来週の金曜日、空いてるか?』
『空いてるけど……。』
『なら決まりだ。眞一郎クンと一緒に19時にここに集合だ。』
と、立ち上がった。
『何で眞一郎と………。』
と、言うが、聞いてもらうことができず、父はどこかに行ってしまった。
取り残された一斗はイスに座りなおしてコーヒーを飲んだ。
父と約束させられた日の前日。
『一斗。明日の夜、空いてるか?』
眞一郎が話しかけてきた。
『明日?何で?』
前日なのに何も伝えていない一斗。
『明後日土曜日で休みだし、退院祝いのお礼にメシでも食いに行かないか?』
『明日なぁ~……。分かった。明日、夜18時に家に集合な。』
と、眞一郎に何も言わずに父の集合場所に連れて行くことにした。
翌日の昼休み。屋上で一人でパンを食べている一斗。
『一斗。今晩、どこで何食べたい?』
何も知らない眞一郎が話しかけてくる。
『あぁ~今日ね……。行く前までに考えとくよ。』
考えるつもりもないので返事が適当になる。
『一斗。お前、考えてないだろう。』
冷たい視線を送る。
『考えてる。考えてる。楽しみにしとけ。それに無茶なところは言わないから安心しとけ。』
と、寝転がった。
『何で、オレが楽しみにするんだ?』
と、一斗の言葉に疑問を持つ眞一郎だった。