●約束
睨みつけられた一斗は笑った。
『そんなものオレが買ってくるはずないだろう。今日は冴えてたから見破られると思ったけど、やっぱ、シンはシンだな。』
嬉しそうに話す一斗。
『お前、性格悪いぞ。約束は守れよ。』
怒る眞一郎。
しかし、一斗は気にもしなかった。いつもこんな感じで接している二人だからこそたわいのない会話だった。
次の日。目を覚ました一斗は苦しんでいた。前日、島田達に殴られたキズが腫れたりして痛みがましていたのだ。仕方がないので湿布などを貼り学校に登校する準備をした。湿布などを貼ると、臭いや、見えてしまうと何か言われそうなので一斗はイヤだった。
夏服なので、腕に貼っている湿布は目立ってしまう。一箇所ぐらいならさほど問題もないだろうが、数箇所あるので登校中、一斗の予想通り一部の生徒がコソコソと話している。しかし、一斗は相手にしなかった。前日の眞一郎の件、同様……。
『おはよう。』
一斗の目の前に立ち止まって石井が言う。
一斗は無視して、石井の横を通り過ぎた。
『つれないなぁ〜。』
首を左右に振り、振り返る石井。そして、一斗が学校に入って行く後ろ姿を見ていた。
学校も終わり、下校の支度をしていた一斗に担任の山本が話しかけてきた。
『鈴元、バイトの件だが、夏休みに入るまで待ってくれ。許可はくれるそうだが、宮野の事もあったからすぐには出せないそうだ。』
学校側が一斗に気づかっての対応だった。
『分かりました。気をつかってくれて、ありがとうございました。とりあえず、宮野が退院するまでは、オレもするつもりなかったので、良かったです。』
『そうか……。また、夏休み前にいろいろ説明するな。』
山本は、教室を出て行った。
一斗は、眞一郎が入院している病院にお見舞いに来ていた。
『一斗、毎日毎日お見舞いに来てくれるのは嬉しいのだけど……、見舞いの品が一度もないのはなんで?』
眞一郎が疑問をぶつけた。
『どーせ、持って来ても文句言うだろう、お前。だから、最初から持って来ないの。』
眞一郎の性格を把握しているからこその返答をする。
『言わないからさぁ~、頼むから例の本を………。』
『本?』
一斗は聞き直す。
『そぉ。昨日、約束した本。』
『約束なんかしったけなぁ~。』
とぼける一斗。
『お前はいつから、約束を守らない悪い子になったんだ……。』
泣きそうな顔をして訴える眞一郎。
しかし、一斗にはウソ泣きとバレているので、一斗は相手にしなかった。