●父との会話
子犬を追いかけていると、玄関のドアが開いた。しかし、一斗はドアが開いたことなど気にすることなく、見失ってしまった子犬を探している。
『一斗。ちょっと来なさい。』
女の人の怒鳴り声が家中に響きわたる。一斗はその声を聞き、仕方なく玄関向かう。玄関に着くと、女の人は一斗を見て。
『この汚れた廊下は何?それに今、何をしていたの?』
と、一斗を追求し始めた。この女の人は一斗の母親で、将来、一斗がちゃんと会社のトップとして跡継ぎできるように普段から厳しく教育している。
『何をしようとオレのかってだろ。』
一斗は母を睨みつけて言う。
『なんて口の聞きかたなの。あなたは一流企業の立派な跡取りなのよ。遊んでいるヒマがあったら勉強しなさい。』
厳しく説教をする。そして、この家の執事を呼び、一斗が汚した廊下の掃除を頼んだ。
『うるさい。オレはこの家も会社も継ぐ気なんかねぇ。オレのすることに口を出すな。』
一斗は普段からいろいろと言われ続けていた母に対しかなりの不満を持っていた。この時、いままで溜まっていたものが爆発した。そして、自分の部屋に行き、ベットの上にうつ伏せに倒れこんだ。偶然にも子犬は一斗の部屋にいた。
子犬が一斗の顔をペロペロと舐める。
『ん、あ、寝てしまったのか。』
ベットに倒れこんだときにそのまま眠り込んでしまっていた一斗。かなりの時間眠っていたらしく窓からは月明かりが差し込んでいる。一斗はその窓を開けた。気持ち良い冷たい風が吹き込んでくる。夜空を見上げると、雨上がりということもあり普段より星がきれいに見えた。しばらく星空をボーっと眺めていると部屋の戸がノックされた。しかし、一斗はそれを無視した。
『一斗、入るぞ。』
ノックをしたのは一斗の父親だった。一斗は驚いた。普段、父とは顔を会わせても会話もなければ目を会わすことすらなかったからだ。そして、父が入ってきた。しかし、一斗は見向きもせず、そのまま外を眺めていた。父は一斗の近くに歩み寄った。
『今日は星が一段ときれいだな。父さんも家に入る前にしばらく突っ立って眺めてしまったよ。』
優しく話しかけた。しかし、一斗は返事をしなかった。
『さっき、母さんから聞いたよ。父さんも子どもの頃は、よくうるさく言われてた。お前のお婆さんに。でも、昔は親の会社を継ぐことが当たり前だったから仕方がないと思い、言われるまま勉強をしていた。でも、楽しくなかった。だから父さんは一斗に父さんと同じ目にあって欲しくない。だから、お前のしたいことをとことんすればイイ。』
最後の言葉に一斗は反応し父の方を見た。
『じゃ、会社、継がなくていいの?』
一斗が質問した。
『お前が継ぎたければ継げばいい。でも、そう簡単に継ぐことなんて、できないけどな。』
嬉しそうに話す父。一斗はその言葉に笑みを見せた。
『小学生の時依頼だな。お前と話したり、そんな顔をするのは。』
一斗の顔が赤くなる。
『赤くなったりして、カワイイな。』
『うるさいな。ほっとけ。この家から出て行っても文句言わねな。』
『言わない。ただし、泣き言は一切聞かないからな。』
『言うわけないだろう。じゃ、明日、出て行くから。』
『分かった。』
二人とも嬉しそうに会話をしていた。その時、家中に響きわたる悲鳴が聞こえた。