●雰囲気
一斗は売店に着いたが、特に眞一郎が喜びそうなものが無かったので、病院から出て近くのコンビニに向かった。
しかし、思っていたよりも距離があった。一応、眞一郎にそのことを伝えるためにメールを送った。そして、コンビニに向かって歩き始めた。
その頃、病室では警察の事情聴取が進んでいた。
『撃たれたのは、オレが悪いんです。犯人を刺激するような行動をとっていまったので……。他にケガをした人はいないんですよね?』
『銃声で驚いて、身体のバランスを崩し、足を捻挫された方はいましたが、その他にケガをされた方はいません。それにしても何故そこまでしてその求人誌にこだわったんですか。』
『……………。』
警察官の言葉に眞一郎は話すのを拒んだ。
『話せない内容なんですか?』
『いや、話せないことではないんですけど………。』
『なら、話してください。』
『ここでは話せません。』
はっきりと言ったその言葉に警察官は追求をやめた。
『なら、退院をしたら、署の方でお話、してもらえますか?』
『そこでなら、話せます。それと、一ついいですか?』
眞一郎が警察官に質問をした。
『さっきいた、オレの友達にどこまで話しました?』
『どこまでと言うのは?』
『事件の内容です。』
『君が殴られて、その時落とした求人誌を取ろうとして撃たれたとは言いましたが……。』
『そうですか……今日はもぉ話すこともないんで、帰ってください。』
『本日は捜査のご協力に感謝します。では、失礼します。』
警察官は出て行った。病室に一人になった眞一郎は窓の外をボーっと見ていた。
頭では真剣な事を考えながら。
コンコン。
病室のドアがノックされる。
ノックの音で自分の目から涙が流れていたことに気付く。
『どーぞ。』
涙を急いで拭いてから返事をする。
『シン。遅くなってワリぃ。売店、何もなくてさぁ……。』
眞一郎の表情を見て一斗は何かを感じた。
『コンビニに行ってきたんだよな。ちゃんとエロ本買ってきたか?』
しかし、眞一郎は普段通りの話し方で返してきた。
『バカ、買えるか。』
慌てたようすで即答する。少し頬を赤くしながら。
『一斗、カワイイ。顔が赤くなってる。』
『ほっとけ。』
一斗は必死だった。眞一郎が事件に巻き込まれる前と同じように接してくるので、自分がこの雰囲気を壊してはいけないと……。ただ、戻って来たときの眞一郎の悲しそうな表情に疑問を感じていた………。