○笑顔
涙が止まらなくなる一斗。眞一郎は自分に心配かけまいとウソをついていた事が分かるからだ。もちろん、自分も同じ境遇なら、眞一郎と同じ行動をしていた。そぉ考えると、ますます涙が止まらなくなる。
『大丈夫?』
看護士が一斗を心配する。
『大丈夫です。ありがとうございます。』
必死に涙を堪えながら話す。
『すみませんが、しばらく、ここで、一人にさせてもらえませんか?』
涙を拭きながら言う。
『分かった。でも、今の眞一郎クンの状態だけは確認させてね。』
看護士はいろんな医療機器のデータを確認し、記録用紙に記入をしてから、一斗を一人にした。
一人になった一斗は、しばらく眞一郎を見ていた。そして、独り言のようにボソボソと眞一郎に話しかけた。
『シン、お前は凄いよ。オレにはできない。黙っていることはできても、普段通り何にもなかったかのように明るく人に接するなんてこと………。』
再び、一斗の目には涙が溢れだした。
『でもさ、冷たいな。オレにぐらい言ってくれても、バチ当んないからさ、これからはお互い、辛いことがあったら、何でも話し合おう。一人で悩むより、絶対に気が楽になるからさぁ。』
『ご………め…………ん……な……。』
一斗は微かに聞こえた声に反応し、眞一郎の顔を見た。
眞一郎の顔には人口呼吸器が付けられているものの、笑っているようにも見える。
『シン。』
一斗の声に目を細めて微笑んだ。
その顔を見た一斗は慌ててナースコールを押した。
すぐにさきほどの看護士と、別にもう一人、看護士が駆けつけた。
『何かあったの?』
冷静な顔をして尋ねる。
『シンが、わ、笑った。』
興奮気味に答える。
『ホント。意識が戻ったのね。すぐに先生を呼ぶわ。』
『私が呼んで来ます。』
もう一人の看護士が医者を呼びに行った。
『何か話しかけてあげたの。』
『え……はい。』
驚く一斗。
『あなたの想いが眞一郎クンに届いたのね。今は見た感じ、また、眠ってしまったみたいだけど、どんどん話かけてあげてね。』
看護士は一斗に微笑んだ。そして、医者が到着した。
医者はしばらく眞一郎の様子などを見ていた。
『また、眠ったようですが、心電図、脳波などを見ますと、かなり落ち着いているので、大丈夫でしょう。すばらしい回復力です。あとは、このまま順調に体力が回復すれば意識も戻り、はっきりとしてくると思いますので、最悪の事態は回避できたと思います。それにしても、凄い回復力だ。では、これで。』
医者は、驚きっぱなしで、戻って行った。一斗は医者の言葉にホッとした。そして、眞一郎の顔を見て微笑んだ。
『ゆっくりでもいいからな。無理すんなよ。』
周りにいる看護士に聞こえないようにボソっとつぶやいた。
『ガンバレって、応援してあげたら。』
看護士が囁く。その言葉を聞いて。
『ガンバレなんて、言いませんよ。シンは、頑張ってますから。』
と、答えた。かなり、嬉しそうに。
『そんな風に笑えるんだ。』
その言葉を聞いて、照れたのか慌てて、顔を隠す一斗だった。