●ウソ
コンコン。
『失礼します。』
ノックをし、ドアを開けて診察室に入る看護士。
『宮野様のお友達をご案内してきました。』
医者に言う。そして一斗も入る。
一通りの説明が医者からされ、一斗の表情が険しくなった。
眞一郎は銃弾こそ貫通していたものの、出血がひどく、おまけに搬送まで時間がかかったため、治療が遅れた事も原因して、現在、意識不明の重体になってしまった。
さらに、警察官からの話しもあり、その話しにも一斗はショックを受けた。
眞一郎の家族は2ヵ月ほど前に全員事故で亡くなっていた。眞一郎の両親、弟の二人の4人で、眞一郎を除いて家族旅行に行っていた時に、大型トラックと正面衝突をしていた。
しかし、眞一郎はその事を学校の先生にまで口止めをして黙っていた。もちろん、一斗にも言わずに。
再び一斗は眞一郎がいる集中治療室に戻った。
眞一郎に声をかける事なく、椅子に腰かけたままうつ向いていた。
どうしていいか分からず、ただただ、下を向いて、自分を責めていた。疑問を抱きながら。
『鈴元クン。』
左肩をポンポンと叩かれる。
一斗はそのまま眠ってしまっていた。
『あ、すみません。』
そのまま眠っていた事を謝る。目をこすりながら声の主の方向を見た。
そこに立っていたのは一斗を叩いた看護師だった。
『なぜ、謝るの。謝るのは私の方なのに。さっきは叩いたりしてゴメンなさい。腫れたりしてない。』
『さっき?』
一斗は看護師の話しに対して疑問をもった。そして、ケータイを取りだし、時計を見た。かなりの時間眠っていると思っていたが、実際には数分しか眠っていなかった。
『ダメよ。病院でケータイはNG。』
『すみません。今すぐ電源切ります。』
一斗はケータイの電源を切ると、立ち上がった。
『一つ質問いいですか。』
下を向いて話し出す一斗。
『なに?』
『人は何でウソをついたり、隠し事をするんですか。』
眞一郎が自分に隠し事をしていた事に対して疑問を抱いていた。自分には何でも話してくれると信じていたのに、何も話してくれていなかった事を。警察官からの話しを聞いてから悩んでいた。
『ん~、難しい質問ね。あなたの期待している答えになるかは分からないけど、これだけは言える。』
『何ですか。何でもいいので、話してください。』
顔を上げ、看護士を見る。
『ウソには三つの種類があると私は思うの。一つ目は、相手を困らせたり、悪意を持って騙したりするウソ。例えば、振り込め詐欺。知らないはずの人の家に電話をして、身内の人間になりすまし、電話に出た人にウソをついてお金を騙し取る犯罪。二つ目は、とっさに何も考えないで、ついてしまうウソ。何か悪いことをしたり、人の悪口を言っている時にその人が現れて、それを隠そうとするウソね。一斗クンも、これならしたことがあるんじゃない。』
二つ目までを話し終え、一斗に質問をする。
『ないって、言ったらウソになります……。』
下を向いて答える。
『なら、何でウソをついたの?』
再び聞く。
『怒られたり、仲が悪くなるから……。』
『そうね。だったら、一斗クンの質問の答えは自分の中で出てきてるんじゃない。』
『いや、でも、眞一郎のウソは違うような……。』
『違うわね眞一郎クンのウソは三つ目のウソ。一斗クンも分かってるんでしょ。』
この言葉を聞いて、一斗の目から、涙がこぼれ始めた。