第3話 封じられた魔法
町外れにたどり着き、オズワルドは周囲に誰もいないことを確認すると、手にしていた指輪をそっと私に差し出した。やや幅広の何の変哲もない指輪が私の手のひらに乗った。するとなぜか、今まで体の中に流れ込んでいた心地よい風のようなものが止まった。
「あの店主はとんだタヌキ親父です。この指輪は間違いなく本物の魔道具です」
「どうしてそう言い切れるの」
「先ほど、アメリア様の指輪を外した左手が白く光りました。その光はお嬢様が子供の頃、魔法を使っていた際に発していた光です」
確かに子供の頃の私は、よく白い光を発することがあった。魔力を込めると、手が光り出すのだ。そして、強い魔力を込めると、手だけではなく全身が光る時もあった。ただ魔法が使えなくなってからは、私の手や体が光ることは一切なくなってしまったが。
「魔道具の中には、魔力を封じ込めるものがあると聞きます。今、アメリア様の手が白く光ったということは、封じられていた魔力が回復したからではないのでしょうか」
「魔力が……、回復……」
オズワルドのその言葉が、なぜかすんなりと私の頭に入り込んできた。そう言えば、先ほどの指輪を外した際、昔の魔法が使えた時と身体が同じ感覚になった。
「この指輪は、本物の魔道具です。この指輪が、アメリア様の魔力を封じ込めており、指輪を外したので、手が白く光りだした。つまり、魔力が戻ったのではないでしょうか」
「……」
「指輪を外したアメリア様は、また昔のように魔力が戻っているはずです。さあ、試してみてください」
「ではオズワルド、この指輪を持っていてちょうだい」
指輪をオズワルドに渡すと、再び先ほどの風のようなものが私の身体に流れ込んできた。 試しに私は、流れている何かを、左手に移すように集中してみた。すると……、今度は、先程よりも強い光が左手から発せられた。
私はかがみ込み、道端に生える枯れかけた植物に光を当ててみた。十秒も経たないうちに、そのしおれた茶色い葉が、生き生きとした緑色に変色し始めたのだ。
「私、魔法が使えるようになっている」
唖然としながら私は自分の左手を見つめた。子供の頃の私は、天才と称されるほど、魔法に長けていた。ある時は、魔の森で瘴気に侵された男の子を助けたこともある。瘴気を体から抜き取るなんて、聖女様でも簡単にできることではない。それを、当時六歳の私は平気でやってしまったのだ。
そんな、魔法の天才だった私が、なぜか突然、魔法が使えなくなってしまった。その原因が、この指輪だったのか。
でも、どうして?
この指輪をくれたのは、亡くなった私の母だ。母はずっとこの指輪をつけていなさいと私に言った。ということは、母は私から魔法を故意に奪ったということだ。
なぜそんなことを?
「子どもにこんな魔道具をつけさせる母親なんて、どうかしているわ」
私は思った通りのことを口にした。
オズワルドは、何と答えて良いのかわからない顔をしている。
「お母さんって、本当にひどい人⋯⋯。魔法は使えないより使えるほうがいいに決まっている。魔法が使えないことで、私は多くの人に引け目を感じながら生きてきたわ」
そうなのだ。聖女セレナや他の魔法使いたちを横目で見ながら、私はずっと彼女たちを羨みながら生きてきたのだ。
「こんな恐ろしい魔道具なんか、もう必要ない。別の道具屋に行ってさっさと売り払ってしまいましょう。きっと、すごいお金になるわよ」
「それはいけません。お母様から授かった大切なものですよ。それに、これからも身を隠すためには、このまま魔力を封じておいたほうが安全ではないですか」
オズワルドの言葉には、確かに一理あった。魔法使いの中には、他人の魔力を感じ取る力を持っている者がいる。強い魔力を持ち合わせていると、それだけで目立ってしまうのも事実だった。
「さあ、お嬢様、今はこの指輪をお付けになり魔力を封じて、まずは身を隠すことを考えましょう」
オズワルドは、グランデ公爵家の執事として、とても有能な男だった。感情的な理由で指輪を売ってしまうよりも、今はオズワルドの言葉通り、目立たなくすることのほうが重要だ。
私は改めて、魔道具の指輪を左手の小指にそっとはめてみた。すると、私の中に流れていた心地よい風のような魔力が、ゆっくりと消え去ってしまったのだった。




