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帰還国家ニッポン

作者: ArU
掲載日:2026/04/01

——異界よりの帰還者たち——

## 序章 消失


 二〇二七年、七月十七日。午前六時十二分。


 それは地震でもなく、津波でもなく、隕石の衝突でもなかった。


 ただ——日本列島が消えた。


 北海道から沖縄まで。領海も含めた約四十七万平方キロメートルの国土が、一億二千万の国民ごと、地球上からまるで切り取られたかのように忽然と姿を消した。


 東シナ海と太平洋の狭間に、巨大な空白が残された。海水がその跡を呑み込むまでに三日かかった。津波は韓国、中国、台湾、ロシア極東部を蹂躙し、二次災害だけで数十万人の命が奪われた。


 世界はパニックに陥った。


 CNN、BBC、アルジャジーラ——あらゆる報道機関が同じ言葉を繰り返した。


 **「日本が消えた」**


 国連は緊急総会を招集した。NASAは衛星画像を公開した。そこには何もなかった。日本があった場所には、ただ深い海が広がっていた。


 消えたのは国土だけではなかった。


 あの朝、成田空港を発つ予定だったロサンゼルス行きの便には、一人の女性と五歳の少女が搭乗するはずだった。内閣官房副長官・瀬川隆一郎の妻と娘である。妻の由紀は前日の夜、娘の咲希を連れて成田のホテルに前泊していた。出発は午前七時五十分。


 午前六時十二分に日本が消えたとき、由紀と咲希はまだホテルの部屋にいた。


 地球の側に残された人間は、在外邦人と、たまたま海外に出ていた旅行者だけだった。由紀と咲希は、消えた側にいた。


 瀬川隆一郎はその朝、首相官邸で徹夜明けの仮眠から目を覚ました。最初に感じたのは、窓から差し込む光の異質さだった。それから——携帯電話が圏外であること。由紀に電話が繋がらないこと。


 だが彼はまだ知らなかった。


 自分が「消えた」側にいるのか、「残された」側にいるのかすら。


---


 一年が過ぎた。五年が過ぎた。


 やがて世界は日本のことを「失われた国」と呼ぶようになり、地政学は再編され、半導体供給網は崩壊と再建を繰り返し、アニメや漫画は永遠に更新されないコンテンツとなって、ある種の聖遺物のように崇められた。


 在外邦人たちは各国に散った。彼らの多くは「消えた家族」の帰りを待ち続けたが、年を追うごとにその声は小さくなっていった。


 人々は忘れ始めていた。


 十年目の朝——日本は帰ってきた。


---


## 第一章 目覚め


 瀬川隆一郎が最初に気づいたのは、空の色だった。


 東京・永田町。首相官邸三階の仮眠室で、ソファに横たわったまま目を開けた。カーテンの隙間から覗く空が、いつもの灰色がかった水色ではなかった。深い、宝石のような紺碧。


 身体を起こした。首の後ろが強張っている。昨夜も官邸に泊まり込みだった。由紀がいた頃は——。


 その思考を、いつものように遮断した。ワイシャツの胸ポケットから煙草を抜き、火をつけようとして——窓の外を見た。


 月が、二つあった。


 ひとつは白く、もうひとつは淡い翡翠色だった。


 煙草を咥えたまま、瀬川は三秒ほど静止した。ライターの火が親指の腹を炙った。反射的に手を引いて、ようやく声が出た。


 「——なんだ、これは」


 窓を開けた瞬間、大気の違いが肌でわかった。空気が甘い。花のような、果実のような、だがどちらとも違う未知の芳香が鼻腔を満たした。七月の東京にあるはずの湿気と排気ガスの匂いが、完全に消えていた。


 携帯電話を確認した。圏外。テレビは砂嵐。インターネットは遮断されている。


 だが、電気は通じていた。水道も動いている。日本国内のインフラは、不思議なことにすべて正常に機能していた。


 瀬川は火のつかなかった煙草をポケットに戻し、廊下を走った。


---


 一時間後、首相官邸の危機管理センターに主要閣僚が集まった。


 総理大臣・高遠誠一郎は七十二歳。蒼白な顔で、しかし驚くほど冷静な声で切り出した。


 「状況を整理しよう。まず確認したい——この部屋にいる全員、家族と連絡は取れているか」


 沈黙が落ちた。防衛大臣が首を横に振った。財務大臣が携帯電話を握りしめたまま、唇を噛んでいた。


 高遠は頷いた。「国内の通信インフラは機能している。だが国外との通信手段がすべて断絶している。衛星通信もだ」


 瀬川は手帳にメモを取った。文字が震えていないことを確認してから、顔を上げた。


 「総理。海上自衛隊に哨戒機の発進を要請すべきかと。現在地の確認が最優先です」


 高遠は瀬川を見た。この男はこういう時に強い。感情を切り離し、手順を組み立てる。官僚としては理想的だが、人間としてはどうだろう——と、高遠は時折思う。


 「瀬川くん。君の奥さんとお嬢さんは」


 「成田のホテルにいたはずです」


 感情の揺れが、一瞬だけ瀬川の目の奥に走った。だがすぐに消えた。


 「国内ですから、無事かと。通信が回復すれば確認できます。——それより総理、哨戒機を」


 高遠は、それ以上追及しなかった。


---


 海上自衛隊のP-1哨戒機が厚木基地から飛び立ち、三時間後に報告を持ち帰った。


 日本列島は見知らぬ大陸の沿岸に位置していた。大陸の海岸線からおよそ百五十キロメートル。その大陸には——巨大な石造りの都市が見えた。


 そして都市の上空には、翼を持った生き物が飛んでいた。


 パイロットの報告書にはこう記されていた。


 『巨大な飛翔体を確認。全長推定二十メートル。鳥類とは異なる形態。鱗状の表皮を有し、後方から炎状の発光現象を確認——』


 防衛大臣は報告書を置き、一同を見渡した。


 「——竜、ですかね」


 誰も笑わなかった。


 瀬川だけが、窓の外に目を向けていた。翡翠色の月が、まだ空に残っていた。


 由紀。咲希。


 二人もこの月を見ているだろうか。どこかのホテルの窓から、怯えながら、この見知らぬ空を。


 ——大丈夫だ。国内にいる。必ず見つける。


 瀬川はそう自分に言い聞かせ、手帳の新しいページを開いた。感情に蓋をする。それが彼のやり方だった。四十三年間、ずっとそうしてきた。


---


## 第二章 接触


 転移から一週間が過ぎた。


 日本政府は「国家非常事態宣言」を発令し、自衛隊を全軍展開した。国民にはテレビとラジオの緊急放送で状況が説明された。


 パニックは起きた。だが、不思議なことに暴動は最小限に留まった。コンビニの棚は空になったが、略奪はほとんどなかった。


 日本人は整然と列を作り、配給を待った。異世界でも。


 瀬川は一週間で由紀と咲希の所在を確認した。二人は成田のホテルで無事だった。電話が繋がった瞬間、由紀の声が震えていた。


 「隆一郎——外の空、見た? 月が二つあるの。咲希が怖がって」


 「わかってる。大丈夫だ。政府が対応している」


 「いつ帰れるの。元の場所に」


 瀬川は答えられなかった。代わりに言った。


 「東京に来い。官邸の近くに部屋を用意する」


 由紀は少し黙って、それから言った。


 「……あなたは関係ないのに、まるで仕事の話みたい」


 通話が切れた。瀬川は受話器を見つめ、ゆっくりと置いた。


---


 最初の接触は、九州沖で起きた。


 長崎県五島列島に、巨大な帆船が近づいてきたのだ。船体は木製だが、通常の木材ではなかった。自衛隊の分析によれば、地球上に存在しない組成の植物繊維で構築されており、帆には微かな燐光を放つ文様が編み込まれていた。


 瀬川は外務省チームの統括として五島列島に飛んだ。


 船からは、人間に酷似した存在が降りてきた。身長は平均して百九十センチほど。肌は褐色で、耳がわずかに尖っている。瞳の色は金や銀など、地球人には見られない虹彩を持っていた。


 彼らの先頭に立っていたのは、白髪の老人だった。背筋がまっすぐに伸び、皺の刻まれた顔に穏やかな笑みを浮かべている。だがその目——琥珀色の瞳には、底知れない深さがあった。


 通訳は不可能だった。英語にも、日本語にも、いかなる地球の言語にも反応しない。


 外務省の通訳官が途方に暮れる中、老人が一歩前に出た。瀬川を見つめ、ゆっくりと手を伸ばした。


 瀬川は反射的に身を引いた。


 老人はその反応を見て、わずかに首を傾げた。まるで、臆病な小動物をあやすように。


 「……失礼」


 瀬川は一歩踏み出した。官僚の矜持が、恐怖を上回った。


 老人の指が額に触れた瞬間——。


 世界が、反転した。


---


 言語ではなかった。映像でもなかった。


 概念が、直接流れ込んできた。


 この世界の名前。ティルヴァーナ。大地と精霊と生命が、一つの力で結ばれた世界。


 彼らの名前。アルシェイド。「地の民」。


 そして——瀬川自身の内側から、何かが引きずり出された。


 由紀の顔。咲希の笑い声。朝食のテーブルで、トーストの耳を残す娘。「パパ、今日は早く帰ってくる?」——帰らなかった夜。帰れなかった夜。帰ろうとしなかった夜。


 官邸のソファで眠る自分。家のベッドで一人眠る由紀。冷蔵庫に貼られた咲希の絵。太陽と家と、三人の人間。パパの絵だけが、いつも小さかった。


 瀬川は老人の手を掴み、額から引き剥がした。


 息が荒かった。額に汗が浮いていた。周囲の外務省職員が驚いて駆け寄ったが、瀬川は片手で制した。


 「——大丈夫だ」


 大丈夫ではなかった。三十年間、丁寧に積み上げてきた壁に、この老人は一瞬で亀裂を入れた。


 老人——のちに「長老」と呼ばれることになるこの人物は、瀬川の目を見て、静かに微笑んだ。


 そして念話で、こう言った。


 『汝は——多くを閉じ込めている。この世界では、それは毒になる』


 瀬川は答えなかった。代わりに、仕事の質問をした。


 「我々はなぜここにいる。帰れるのか」


 長老は瀬川の態度を見て——何かを理解したように、わずかに目を細めた。


 『汝らの国は、"呼ばれた"のだ』


 呼ばれた。その言葉と共に、断片的な映像が流れ込んだ。古い予言。千年前に記された言葉。「鉄の島が海の彼方から現れ、世界の均衡を取り戻す」——。


 だがそれは断片に過ぎなかった。予言の全貌は、霧に包まれたように見えなかった。


 「均衡を取り戻す——というのは、具体的にどういう意味だ」


 『それは、時が来れば分かる』


 瀬川は眉をひそめた。官僚が最も嫌う答え方だった。


 「帰れるのか、と聞いている」


 長老は静かに頷いた。


 『均衡が満たされれば。だがそれには——汝らの国が、この世界に根を下ろす必要がある』


 根を下ろす。瀬川はその言葉の重さを、額を通じた残響の中で感じ取った。


 長老はローブの内側から、何かを取り出した。


 掌に乗るほどの小さな種子だった。透明な殻の内側で、淡い翡翠色の光が脈動している。心臓の鼓動のように、ゆっくりと、しかし確実に。


 『これは"根"の始まりだ。汝らの大地に植えれば、やがて世界と世界を繋ぐ柱となる。それが均衡の依代となる』


 瀬川は種子を受け取った。掌の中で、微かな温もりを感じた。生きている。この小さな粒は、確かに生きていた。


 「……預かる」


 瀬川はそれだけ言って、種子をスーツの内ポケットにしまった。煙草の箱の隣に。


---


## 第三章 根を下ろす


### 一 停電の夜


 転移から八ヶ月目の冬。東京が暗闇に沈んだ。


 石油が入ってこない。天然ガスも輸入できない。日本のエネルギー自給率はもともと壊滅的に低く、備蓄は底をつきかけていた。火力発電所は次々と停止し、原子力発電所を再稼働させるかどうかで国論は真っ二つに割れていた。


 十二月の東京は、暖房のない街になった。


 瀬川は官邸の廊下を歩いていた。非常用電源の薄い光だけが足元を照らしている。窓の外には、電気の消えた東京の街並みが広がっていた。ネオンのない渋谷。信号の消えた交差点。かつて世界で最も明るかった都市が、中世のような闇に沈んでいる。


 だがその闇の向こうに——ティルヴァーナの星空があった。地球では見えないほどの星の数。天の川が、白い帯ではなく七色の光の奔流として空を横切っている。そして二つの月。白と翡翠。


 瀬川は窓際に立ち、煙草に火をつけた。もう残り少なかった。ティルヴァーナには煙草がない。いずれこの一箱を吸い終えたら、禁煙するしかない。


 「——瀬川副長官」


 声をかけてきたのは長老だった。転移以来、アルシェイドの使節団は東京に常駐していた。長老はその代表であり、日本政府との窓口だった。


 長老は廊下の闇の中でも、その琥珀色の瞳だけが微かに光って見えた。


 「長老。こんな時間にどうされた」


 『眠れぬのは、汝だけではないようだ』


 念話はまだ不安定だった。瀬川は意味の七割ほどしか受け取れない。だが長老の声——正確には念話の「声色」——には、独特の温かみがあった。低く、穏やかで、どこか可笑しそうな。


 「この国は、あと三ヶ月で凍死者を出す」


 瀬川は煙を吐きながら言った。数字で語るのは癖だった。感情の代わりに。


 「備蓄燃料が尽きる。原発を動かすか、別のエネルギーを見つけるか。二択だ」


 長老はしばらく黙っていた。それから、窓の外を指さした。


 『汝には——"あれ"が見えるか』


 瀬川は長老の指の先を追った。暗闇の中に、何も見えない。ビルの輪郭と、星空だけ。


 「何も見えないが」


 長老は小さく笑った。


 『汝らの世界には、マナがなかった。だからこの世界に来ても、大気に満ちている"大地の息吹"を感じ取れない。見えないものは、存在しないのと同じだ——汝はそう考える人間だろう』


 図星だった。瀬川は黙った。


 長老は瀬川の手から煙草を抜き取った。瀬川が抗議する前に、長老はその煙草を指先で挟み、反対の手で覆った。


 両手を開いた時、煙草は消えていた。代わりに、指先に淡い光が灯っていた。翡翠色の、月と同じ色の。


 『これがマナだ。物質の中に眠る力を、別の形に変換する。汝らの言葉で言えば——エネルギー変換。煙草一本分の質量など微々たるものだが、原理は同じだ』


 瀬川は長老の指先を凝視した。


 「それを……大規模に行うことは可能なのか」


 『もちろん。ティルヴァーナでは、すべてのエネルギーはマナから得ている。だが——』


 長老は光を消し、瀬川の目を見た。


 『それには、汝らがマナを"感じる"ことを学ぶ必要がある。頭で理解するのではなく。数字で計算するのではなく。——感じるのだ、瀬川』


 瀬川はその言葉に、微かな苛立ちを覚えた。


 「感じるだけでは、一億二千万人は救えない」


 『ならば問おう。感じることを拒んで、汝は何を救えた?』


 沈黙が落ちた。長老の問いは、エネルギーの話をしていなかった。


 瀬川はポケットの中で、あの種子に触れた。スーツの内ポケットに入れたままの、脈動する翡翠色の種子。八ヶ月間、ずっと持ち歩いていた。植える場所が決まらなかったからだ——と、自分には言い訳していた。


 本当は、手放すのが怖かったのかもしれない。この種子は、ティルヴァーナと自分を繋ぐ唯一の直接的な接点だった。


 「……マナの制御を、学びたい」


 瀬川は言った。


 長老は微笑んだ。今度は声に出して——地球の言語で、たどたどしく、だが明瞭に。


 「やっと——言った」


---


### 二 おにぎりから始まった


 マナの発見は、おにぎりから始まった。


 最初の公式接触で、外務省は贈答品として日本酒と漆器を用意していた。だが「文化顧問」として同行した民間人——同人誌描きの無職、桐生拓海——がリストを勝手に書き換えた。


 「木造帆船で数百キロ航海してきた連中が欲しいのは工芸品じゃない。温かい飯だ」


 おにぎり五十個、味噌汁百食分、カレーライス三十食分。


 長老がおにぎりを一口食べた瞬間、その厳かな表情がほころんだ。


 『この黒い紙は何だ。海の味がする』


 「海苔です」と瀬川が答えた。


 『素晴らしい。……もう一つ、いただいてもよいか』


 瀬川はこの時、外交儀礼よりもおにぎりが有効だったことに、深い敗北感を覚えた。


---


 アルシェイドは「米」という穀物に魅了された。彼らの主食は魔法で精製された「マナ粉」のパンだったが、粘り気のある食感と、具材を包める構造——つまりおにぎりの「設計思想」——が衝撃だった。


 アルシェイドの農業魔術師たちが、ティルヴァーナの土壌で日本米を栽培しようとした。だが異世界の土壌ではうまく育たない。マナの濃度が高すぎるのだ。


 そこで彼らは——米にマナを吸わせた。


 結果、「マナ米」が誕生した。食べるだけで微量のマナが体内に補給される、光る米。


 東京大学の量子物理学研究チームは、マナ米の分析過程で、マナの量子的振る舞いを初めて計測することに成功した。マナは粒子でも波動でもない。その中間状態にある未知の量子場だった。既存のセンサーではノイズとして除外されていたそれを、壊れかけた計測器が偶然拾った。


 マナ米の研究から、「マナコンバーター」が生まれた。日本の技術者たちは三年で開発を完了させた。大気中のマナを吸収し、電力に変換する。変換効率は太陽光発電の五十倍。二十四時間稼働。


 石油がない。ガスもない。火力発電所は停止し、国民は暗闘の冬を耐えていた。その危機を、おにぎりから始まった連鎖が救った。


 瀬川は完成した試作機を前に、桐生に言った。


 「……これの出発点がおにぎりだと知ったら、ノーベル委員会は何と言うだろうな」


 「『おにぎり物理学賞』の創設っすね」


 「黙れ」


 転移から二年半。東京に灯りが戻った夜、瀬川は官邸の屋上にいた。マナの淡い光が街を照らしている。白と翡翠が混じり合った、柔らかな光。


 瀬川は煙草を探した。もう一本もなかった。最後の一本は三ヶ月前に吸い終えていた。


 代わりに、深呼吸をした。甘い空気。この匂いが、少しだけ安らぎに似た何かを運んでくる。


---


### 三 壁の崩壊


 転移から四年目の夏。瀬川の壁が崩れた日のことを、彼は生涯忘れなかった。


 長老との定期会談の席だった。議題はアルシェイドの治癒術の導入に関する行政手続き。瀬川は書類の束を前に、いつも通り淡々と進行していた。


 ティルヴァーナには「治癒術」の伝統があった。手を翳すだけで骨折が繋がり、壊死した組織が蘇生する。日本の医学者たちはこれを「マナによる細胞再生促進現象」と定義し、治癒術師たちとの共同研究を始めていた。成果は上がっていた。癌の治癒率は年々向上し、この年には九十パーセントを超えていた。


 「治癒術の臨床試験第三相の結果報告です。被験者四百二十名中、完全寛解が——」


 瀬川が書類を読み上げている途中で、長老が遮った。


 『瀬川。汝の娘は——元気か』


 唐突な質問だった。瀬川は一瞬手を止め、すぐに書類に目を戻した。


 「ええ。元気ですよ。——それで、被験者のうち——」


 『嘘だ』


 長老の念話は、静かだった。だが有無を言わせない力があった。


 『汝の内側は、いつもあの小さな子供のことで揺れている。会談の最中でも。書類を読んでいる時でも。汝が感情を閉じるたびに、マナが乱れる。この部屋の空気が冷たくなる。——四年も付き合えば、それくらいは分かる』


 瀬川はペンを置いた。


 「……プライベートな話は、ここでは」


 『プライベート。汝らはよくその言葉を使う。だが念話を学び始めた汝に、もはやプライベートはない。汝が閉じ込めているものは、周囲に漏れ出している。不安として。冷たさとして。——汝の娘は、それを感じ取っているはずだ』


 咲希は九歳になっていた。転移時に五歳だった娘は、ティルヴァーナの空気の中で育ち、同世代の子供たちと同じように念話の才能を見せ始めていた。


 だが家庭では問題が起きていた。由紀から聞いていた。「咲希があなたを怖がっている」と。念話が使えるようになった娘は、瀬川の内側にある冷たい壁を、直接感じ取っていたのだ。


 父親が自分に向ける感情の裏に、常に分厚い氷の層があること。


 瀬川はそのことを知っていた。だが、どうすればいいのかわからなかった。四十七年間、感情を管理することで生き延びてきた人間に、今さら壁を壊せと言われても。


 「長老」瀬川は低い声で言った。「あなたに——家族の話をする気はない」


 長老は立ち上がった。会議机を回り込み、瀬川の前に立った。


 『ならば、家族の話はしない。マナの話をしよう』


 長老は瀬川の手を取り、掌を上に向けさせた。


 『マナは感情に応答する。喜びは光になり、怒りは熱になり、悲しみは水になる。——汝が四年間、マナの制御に苦しんでいる理由を知っているか』


 瀬川は首を横に振った。


 『汝は感情を"管理"しようとする。だがマナは管理されることを拒む。汝が感じることを許さない限り、マナは汝に応えない』


 長老の手が、瀬川の掌の上に重なった。念話が直接流れ込んできた。


 今度は概念ではなかった。感情だった。


 長老自身の感情だった。


 故郷を離れた寂しさ。異質な世界——地球的な合理性と効率性に囲まれた違和感。それでもこの国の人間たちに感じる奇妙な愛着。そして——瀬川という、感情を凍らせた男に対する、苛立ちと、敬意と、心配が入り混じった複雑な思い。


 瀬川は目を見開いた。


 長老にも、寂しさがあったのか。この泰然とした老人にも、帰りたい場所があったのか。


 その気づきが、壁に亀裂を入れた。


 由紀の声が聞こえた。——あなたは関係ないのに、まるで仕事の話みたい。


 咲希の絵が見えた。太陽と家と三人の人間。パパの絵だけが、いつも小さい。


 掌の上で、何かが弾けた。


 光だった。


 淡い翡翠色の光が、瀬川の掌から溢れ出していた。揺れて、震えて、不安定で——だが確かに、瀬川自身の内側から生まれた光だった。


 瀬川は光を見つめた。それから——目の奥が熱くなるのを感じた。


 長老は何も言わなかった。ただ、瀬川の肩に手を置いた。


 瀬川隆一郎、四十七歳。異世界に来て四年目の夏。初めて人前で泣いた。


---


### 四 根


 その夜、瀬川は由紀と咲希のいるマンションに帰った。


 普段は官邸に泊まり込むことが多い。帰っても遅く、咲希はもう寝ている。由紀との会話は事務連絡のみ。それが四年間のパターンだった。


 リビングの灯りがまだ点いていた。由紀がソファで本を読んでいた。ティルヴァーナの植物図鑑だった。由紀は転移後、アルシェイドの薬草学に興味を持ち、独学で学んでいた。


 「……おかえり。珍しいね、この時間に」


 瀬川は靴を脱ぎ、リビングに入った。何を言えばいいかわからなかった。四十七年間のうち、自分の感情を言語化した経験がほとんどなかった。


 「由紀」


 「なに」


 「——咲希の部屋、見てもいいか」


 由紀は本から顔を上げた。瀬川の表情に何かを見つけたのか、少し驚いた顔をして、それから静かに頷いた。


 咲希の部屋のドアを開けた。小さな寝息が聞こえる。ベッドの脇には、アルシェイドの子供から貰ったという発光する石が、夜灯代わりに翡翠色の光を放っていた。


 壁には絵が貼ってあった。新しい絵だった。二つの月と、大きな木。木の下に人が四人描かれている——パパ、ママ、咲希、そして尖った耳の人。


 パパの絵は、前より大きくなっていた。


 瀬川は娘のベッドの横にしゃがみ込んだ。小さな手が布団から出ている。その手に、触れようとして——躊躇した。起こしてしまうかもしれない。


 だがその時、念話が聞こえた。微かな、夢うつつの念話。


 『……パパ、きょうはあったかい』


 咲希は寝ていた。でも、念話は感情の波動だ。眠っていても、近くにいる人間の感情は伝わる。


 今夜の瀬川は、いつもと違っていた。壁が薄くなっていた。長老に触れられた亀裂から、温かいものが漏れ出していた。


 それを咲希は、眠りの中で感じ取ったのだ。


 瀬川は娘の手を握った。小さな指が、反射的に父の指を握り返した。


 翌朝、瀬川は内ポケットから種子を取り出した。


 「これを——皇居の庭に植えたい」


 高遠総理にそう進言した時、自分の声が震えていないことに驚いた。だが手は震えていた。


 種子は皇居の東御苑に植えられた。長老が儀式を行い、アルシェイドの術師たちが地脈を整え、瀬川が最後に土をかけた。


 種子は、翌日には芽を出した。


 一ヶ月で人の背丈を超えた。一年で三十メートル。幹は半透明の樹皮に覆われ、内部を翡翠色の光が脈動しながら流れていた。


 世界樹。アルシェイドはそれを『ユグドラ』と呼んだ。世界と世界を繋ぐ柱。


 根は地下深くに伸び、やがて東京中の地下に網目のように張り巡らされた。その根が通った場所では、マナの濃度が上昇し、植物が異常な速度で成長し、人々の体調が改善した。


 日本は——文字通り、この世界に根を下ろし始めた。


---



### 五 融合


 エネルギー問題が片づくと、次に変わったのは医療だった。


 瀬川が壁を壊した年——転移四年目——に九十パーセントだった癌の治癒率は、翌年には九十八パーセントに達した。アルツハイマーが治療可能になった。脊髄損傷の患者が立ち上がった。


 だが、思わぬところで問題が起きた。


 厚生労働省の官僚が瀬川に報告に来た。


 「副長官、治癒術師の方々が日本の医師免許を持っていません。法的には無資格での医療行為に——」


 瀬川は三秒間、目を閉じた。


 「……手を翳すだけで癌が治る存在に、筆記試験を課すのか」


 「法律上はそうなります」


 「法律を変えろ」


 この「瀬川発言」は国会で引用され、「異世界資格特例法」制定の端緒となった。だが条文の起草は地獄だった。治癒術の「施術料」は何を基準に算定する。保険適用はどうなる。治癒術に「誤診」はあり得るのか——手を翳せば身体が正しい状態に戻るのだから。


 瀬川は法案の最終審議で言った。


 「この国は、竜が空を飛んでいても法律だけは変えたがらない」


---


 法律が変われば、社会も変わる。社会が変われば——人の心も変わる。


 念話の文化は、日本人のコミュニケーションを根本から変えた。建前と本音の使い分けは、念話の前では無意味だった。


 転移三年目。国会で初めて念話が「漏洩」した。答弁中の大臣が、口では「誠実に対応いたします」と言いながら、念話で『このバカはいつまで同じことを聞くんだ』と思った。透世代の速記官がそれを議事録に記載してしまった。


 SNSは炎上した。だが世論は割れた。「大臣は辞任すべきだ」と「本音で政治をやれ」が拮抗した。


 瀬川はこの事件の処理に三週間を費やし、長老に相談した。


 「念話のプライバシー保護法が必要だ」


 『プライバシー? 思考を隠す権利のことか? ティルヴァーナにはそのような概念はない』


 「我々にはある。なければ社会が回らない」


 『それは——"嘘をつく権利"を法律で守るということか』


 「嘘ではない。配慮だ」


 『配慮。本当のことを言わない優しさか。それとも本当のことを言う勇気がないことの言い換えか』


 瀬川は即答できなかった。だが後に、この問答がそのまま国際的な「念話倫理憲章」の前文に引用されることになる。


---


 若い世代が念話を受け入れる一方で、アルシェイドの若者たちも日本文化に急速に染まっていた。


 日本の漫画やアニメは、ティルヴァーナで爆発的な人気を博した。アルシェイド最大の都市に初のラーメン屋が開店した日、行列が三百メートルに達した。「並ぶ文化」を知らなかったアルシェイドたちが念話で『この列の仕組みを教えてくれ』と日本人に問いかけた。


 初めて新幹線に乗った長老が『これは竜より速いのか?』と呟いたのを、同乗していた鉄道ファンがネットに投稿した。「竜より速い新幹線」は十年間で最も拡散されたミームになった。


 東大阪の町工場を訪れたドヴェルグの鍛冶長ブロッキンは、NC旋盤を見て二十分間無言で立ち尽くし、ドヴェルグの歴史上初めて他種族の技術に頭を下げた。案内した町工場の社長が自分の手を見せた。太く、短い指。爪の間の金属粉。同じだった。「同業者だな」と社長は言った。


 九年目。出生率が回復し始めた。マナコンバーターによるエネルギー無償化。治癒術による医療費の激減。アルシェイドの労働観——一日四時間労働——の浸透。そして「生きることの意味」が変わった。


 世界樹は十年で三百メートルの巨木に育った。根は東京中の地下に張り巡らされた。丸ノ内線の銀座駅ホームから翡翠色に光る根が見える。冬場は根のそばが温かいので、ホームの人気スポットになった。


---


### 六 二つの月の下で


 転移から七年目の秋。


 初の日本人とアルシェイドの結婚式が行われた。


 新郎は瀬川の部下、外務省の若い外交官・藤堂誠。新婦はアルシェイドの治癒術師の娘、ルーシェ。藤堂が接触チームに配属された初日に出会い、念話の訓練を共に受ける中で恋に落ちた。


 式はアルシェイドの伝統に従い、二つの月の下で行われた。場所は、皇居東御苑——世界樹の根元だった。


 瀬川は来賓として出席していた。由紀と咲希も一緒だった。


 十二歳になった咲希は、もう念話を自在に操れた。透世代——転移時に十代以下だった世代は、驚くべき速さで念話を習得していた。透明な、という意味で彼らはそう呼ばれた。建前を持たない、感情が透けて見える世代。


 咲希は父の手を握っていた。三年前まではそうしなかった。父の内側にある冷たい壁が怖かったから。だが壁が薄くなってからは——完全には消えていないが——父の手を握れるようになった。


 「パパ、ルーシェさん、きれい」


 「ああ」


 「ねえパパ。パパとママが結婚した時も、こんな感じだった?」


 瀬川は由紀に目を向けた。由紀は隣に立ち、式の様子を見つめていた。七年前——地球にいた頃の由紀は、瀬川との関係に疲れていた。成田のホテルに前泊したのは、ロサンゼルスの実家に帰るためだった。「少し距離を置きたい」という言葉を、由紀は最後まで口にしなかった。転移がそれを永遠に中断した。


 異世界で七年。帰る場所がないという現実が、二人を繋ぎ止めた。だがそれは絆なのか、それとも共依存なのか——瀬川にはまだわからなかった。


 「全然違ったよ」由紀が代わりに答えた。咲希に向けて微笑んでいたが、目は笑っていなかった。「市役所に届けを出して、二人で牛丼を食べただけ」


 「ええー、ロマンチックじゃない」


 「パパはそういう人だから」


 瀬川は何も言えなかった。由紀の言葉はいつも正確だった。


 式が始まった。世界樹の幹が淡く輝き、枝から光の粒子が舞い降りてきた。精霊たちの祝福だとアルシェイドは言った。


 藤堂とルーシェが向かい合い、互いの額に手を触れた。念話で誓いの言葉が交わされた。その言葉は——念話を習得した者なら誰でも感じ取れる形で、広場全体に波紋のように広がった。


 言葉ではなかった。感情そのものだった。


 愛している。怖い。でも一緒にいたい。あなたの世界を知りたい。私の世界をあなたに見せたい。未知が不安だ。でも——一人よりはいい。


 嘘のない、剥き出しの感情。念話の世界では、誓いの言葉に建前は存在しない。


 咲希が瀬川の手をぎゅっと握った。娘の目には涙が浮かんでいた。感情の波を直接受け止めたのだ。


 瀬川は——自分の目も濡れていることに気づいた。以前なら、すぐに拭っていた。だが今は、そのままにした。


 由紀が隣で、そっと瀬川の腕に手を添えた。言葉はなかった。念話でもなかった。ただ——触れていた。


 二つの月が、世界樹の梢の向こうで輝いていた。白と翡翠。


 瀬川はその光を見上げながら、ぼんやりと思った。もし地球に帰ったら、この月はもう見えないのだろうか。


 その思いが——帰還という言葉に、初めて痛みを伴わせた。


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### 七 選択


 転移から十年目の春。


 長老が瀬川のもとを訪れた。場所は、いつもの官邸ではなく、世界樹の根元だった。樹は三百メートルを超える巨木に育ち、幹には精霊たちが棲み、枝には発光する花が咲いていた。


 『均衡は満たされた』


 瀬川はもう額に触れられなくても、長老の念話を完全に理解できた。十年で、日本人の七割が念話を習得していた。瀬川自身も、壁は薄くなったとはいえ、実用レベルには達していた。


 『汝らの国は、帰ることができる』


 瀬川は長老の目を見た。


 「均衡とは、何だったんだ。十年前、あなたは教えてくれなかった」


 長老は世界樹を見上げた。


 『この世界には——千年前に、大きな裂け目が生じた。マナの流れが乱れ、大地が枯れ始めていた。予言はその治癒を告げていた。"鉄の島"が持つ技術と知恵が、ティルヴァーナの地脈を修復する鍵になると』


 「日本の技術が、この世界を救った——ということか」


 『半分だけ正しい。技術だけでは地脈は繋がらなかった。世界樹が必要だった。そして世界樹が根を下ろすには——汝らの国が、心からこの世界を受け入れる必要があった。形だけの協力ではなく。本当に、根を下ろすということ。それが均衡の意味だ』


 瀬川は世界樹の幹に手を触れた。樹皮の下を、マナの光が流れている。脈動している。


 「帰ったら——この樹は、どうなる」


 『共に行く。根ごと。この樹は、もはや汝らの国の一部だ』


 「ティルヴァーナの地脈は?」


 『修復は完了している。樹がなくとも、もう崩れない。——だが』


 長老は言葉を切った。


 『この樹が地球に渡れば、地球にもマナが広がり始める。それは祝福であると同時に——変化だ。地球は、もう元の地球には戻れない。汝らと同じように』


 沈黙が落ちた。


 瀬川は樹から手を離し、空を見上げた。翡翠色の月が、薄明の空に残っていた。もうすぐ沈む。


 「帰りたくない、という人間もいる」


 瀬川は言った。透世代の若者たちの中には、地球を知らない子供もいた。ティルヴァーナが故郷である彼らにとって、「帰還」は「故郷からの追放」を意味する。


 『知っている。アルシェイドにも、汝らと共に行きたいと言う者がいる。——約三千人ほど』


 瀬川は長老を見た。「あなたは?」


 長老は微笑んだ。琥珀色の瞳に、寂しさと好奇心が同居していた。


 『瀬川。汝に煙草の使い方を教えてもらっていないのに、帰すわけにはいかないだろう』


 瀬川は——笑った。声を出して笑ったのは、何年ぶりだろう。


 「もう煙草は持ってない」


 『知っている。だから行く。煙草なしの汝を見届ける義務がある』


 二人はしばらく、世界樹の根元に並んで座っていた。言葉はなかった。念話もなかった。ただ——同じ月を見ていた。


 「帰ろう」


 やがて瀬川は言った。


 「——俺たちの世界に。あなたも、一緒に」


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### 八 咲希の月


 帰還の報せが日本中に届いた日、瀬川は家に帰った。


 リビングのテレビでは臨時ニュースが流れていた。「政府は本日、日本列島の地球帰還が可能になったことを正式に発表しました——」。由紀がソファに座って画面を見ていた。その顔には、複雑な色があった。安堵と、困惑と、言葉にならない何かが混じった表情。


 「由紀」


 「うん。見た。——帰れるんだね」


 「ああ。七月十七日。転移からちょうど十年の日に」


 由紀はテレビの画面から目を離さなかった。


 「お母さんに会える」


 その声は震えていた。十年間、生死も知らせられなかった両親。由紀はその名前を口にするたびに、目の奥が湿った。


 「ああ。会える」


 瀬川はリビングを見渡した。


 「咲希は?」


 「部屋にいる。——帰ってきてから、出てこないの」


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 咲希の部屋のドアをノックした。返事はなかった。


 「咲希。入るぞ」


 ドアを開けると、咲希はベッドの上に座っていた。膝を抱えて。あの夜灯の翡翠色の石が、枕元で静かに脈動していた。


 十五歳。転移した時は五歳だった。記憶のほとんどがティルヴァーナでできている。初めて歩いた道の感触。初めて友達になったアルシェイドの女の子。初めて精霊の声を聴いた日の光。学校で念話を覚えた朝。世界樹の根元で遊んだ放課後。


 地球の記憶は——ない。断片だけだ。保育園の匂い。マンションのエレベーター。パパの背中。ママの泣き声。それだけ。


 「咲希」


 「……知ってる。ニュース見た」


 「帰れるんだ。地球に」


 咲希は顔を上げた。


 瀬川は、娘の目を見て、凍りついた。


 泣いていなかった。怒ってもいなかった。もっと——深い、静かな感情が、金色の瞳の奥にあった。


 「パパ。"帰る"って、どこに」


 「地球だ。俺たちの——」


 「パパの地球でしょ」


 瀬川の言葉が止まった。


 「ここが、咲希の家だよ。ここで育った。友達もここ。学校もここ。精霊たちもここ。——ここが咲希の世界なのに、なんで帰らなきゃいけないの」


 声は静かだった。だが念話が漏れていた。制御しきれない感情の波が、部屋の空気を震わせていた。


 恐怖。喪失の予感。そして——怒り。


 「パパたちは"帰る"って言うけど。咲希にとっては"追い出される"だよ。——わかってる?」


 瀬川は答えられなかった。


 わかっていた。頭では。「帰還は故郷からの追放を意味する」——長老にそう言ったのは自分だ。透世代の子供たちの話として。


 自分の娘の話だとは、思っていなかった。


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 その夜、瀬川は世界樹の根元に一人で座っていた。


 長老が来た。いつも来る。瀬川が一人で座っていると、長老は黙って隣に座る。十年間、そうしてきた。


 「咲希が——帰りたくないと言った」


 長老は黙っていた。


 「当然だ。あの子にとって、ここが故郷だ。——俺は馬鹿だった。"帰れる"と聞いた時、嬉しかった。地球に戻れる。元の世界に。——だがそれは俺の世界であって、咲希の世界じゃない」


 瀬川は両手で顔を覆った。


 「由紀は帰りたがっている。母親に会いたい。当然だ。だが咲希は帰りたくない。——俺はどうすればいい」


 長老はしばらく沈黙した。


 それから、静かに言った。


 『瀬川。汝は十年前、この世界に来た時、何を感じた』


 「……恐怖だ。未知の世界に放り込まれた恐怖」


 『咲希は今、同じものを感じている。未知の世界に放り込まれる恐怖を。——汝は十年前の自分と同じ目をした娘を、見ているのだ』


 瀬川は顔を上げた。


 十年前の自分。窓の外に月が二つある朝。空気が甘く、何もかもが異質で、携帯は圏外で、由紀に電話が繋がらなくて。


 あの恐怖を——咲希は今、鏡写しに感じている。


 ただし咲希にとっては、「元の世界」が恐怖の対象だ。月が一つしかない空。マナの薄い大気。念話が通じない人々。精霊のいない街。


 「長老。——帰還を拒否することはできるのか。個人として」


 『ティルヴァーナに残りたい者は、残ることができる。アルシェイドはそれを拒まない。——だが、十五歳の子供が親と離れて異世界に残ることを、汝は許すのか』


 許せるわけがなかった。


 だが——連れて帰ることが正しいのか。娘の故郷を奪うことが、親として正しいのか。


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 帰還まで三ヶ月。


 咲希は学校に行かなくなった。


 クラスメイトの半数以上が「地球に帰れる」と喜んでいた。「帰還おめでとう」という空気の中で、「帰りたくない」と言うことは許されなかった。


 咲希は部屋に閉じこもり、念話だけでアルシェイドの友人と繋がっていた。ルーシェの娘、リーリャ。咲希の親友。アルシェイドだから、帰還には同行しない。


 『リーリャ。咲希、地球に行く。——もう会えないかもしれない』


 『……念話は届くよ。世界樹を中継すれば』


 『でも、隣にいられない。一緒に放課後に世界樹の根っこで宿題できない。——念話は声だけだよ。温度がない』


 リーリャの念話が震えた。


 『咲希。——残って。ここに。うちで暮らせばいい』


 咲希の心が揺れた。残りたい。ここにいたい。


 だがその夜、父の念話が——制御されていない、剥き出しの感情が、壁越しに漏れてきた。


 不安。恐怖。そして——咲希を失うことへの、底なしの悲しみ。


 パパも怖いんだ、と咲希は思った。


 咲希は布団の中で泣いた。声を出さずに。でも念話は漏れた。


 『こわい。こわい。でも——パパがいるなら——』


 壁の向こうで、瀬川がその念話を受け取った。


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 帰還の一週間前。


 瀬川は咲希を世界樹の根元に連れて行った。


 「ここは、地球に行っても残る。世界樹は一緒に来る」


 「知ってる」


 「お前の友達との念話も、この樹を通じて届く」


 「知ってる。——でも温度がないって言ったでしょ」


 瀬川は自分のコートのポケットから、小さな石を取り出した。翡翠色に光る石。


 「リーリャのお母さんに頼んだ。精霊石を二つ。一つはお前に。一つはリーリャに。——同じ石を持っていれば、念話の時に温度も伝わるらしい」


 咲希は石を受け取った。掌の中で、石が脈動した。温かかった。


 「……パパがそういうこと、するんだ」


 「長老に教わった。"道具で解決しようとするな"と叱られた。"だが道具があると安心するのが人間だ"とも言われた」


 瀬川は咲希の前にしゃがんだ。


 「咲希。地球はお前の知らない世界だ。月は一つしかない。マナは薄い。——怖いだろう」


 「……うん」


 「俺も怖かった。十年前、ここに来た時。——でも、ここで暮らした。根を下ろした。お前のおかげで」


 咲希の目が揺れた。


 「お前がいたから、俺はこの世界に根を下ろせた。今度は俺の番だ。地球で、お前の根になる」


 瀬川は空を見上げた。翡翠色の月が、夕暮れの空に浮かんでいた。


 「——ティルヴァーナには、いつでも戻って来れる。世界樹がある限り。お前の故郷は消えない。消させない」


 咲希は父を見た。壁のない目で泣いている父を。


 咲希は父の首に腕を回した。念話が溢れた。制御しなかった。


 『パパ。——こわいけど、行く。パパと一緒なら、行く』


 瀬川は娘を抱きしめた。


 世界樹の枝が揺れた。発光する花が、二人の上に静かに降った。精霊たちの——見送りだった。


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## 第四章 帰還


 二〇三七年、七月十七日。日本が消えてからちょうど十年。


 世界各地の地震計が異常を検知した。太平洋の、かつて日本列島があった海域で、海面が盛り上がり始めた。


 衛星がそれを捉えた。


 海の中から、大地が現れた。山が、都市が、森が——海水を滝のように滴らせながら、ゆっくりと浮上してきた。


 だがその姿は、十年前とは決定的に異なっていた。


 富士山の頂には巨大な結晶体が輝いていた。東京のスカイラインには世界樹がそびえ、その枝は雲を突き抜けていた。大阪城は石垣と魔術的な障壁が融合した要塞に変貌し、京都の寺社仏閣はマナの光で包まれていた。


 そして何より——日本列島の周囲を、三体の竜が旋回していた。


 世界は凍りついた。


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 アメリカ大統領はホワイトハウスの執務室で衛星映像を凝視し、一言だけ言った。


 「——What the hell happened to Japan?」


 中国の指導部は緊急会議を招集した。十年前に日本が消えた後、尖閣諸島の海域を実効支配していた中国海軍は、突如出現した日本列島——と、上空を旋回する竜——を前に、全艦艇を後退させた。竜の一体が駆逐艦に接近し、艦橋の窓越しに艦長と目を合わせたという。艦長はその日のうちに早期退職を願い出た。


 ロシアは北方領土の領有権を改めて主張しようとした。だが帰還した北方領土は巨大な発光キノコの森に覆われていた。ロシア政府の抗議に対し、キノコの一つが念話で『ここは我々の土地である』と返答した。交渉の相手が国家なのか菌類なのかで、クレムリンの議論は三日間紛糾した。


 韓国は歓喜と困惑の間で揺れた。K-POPの新曲MVに世界樹の映像を無断使用したエンタメ企業が、アルシェイドの外交官に流暢な韓国語で抗議され、「エルフに韓国語で怒られた」とSNSで話題になった。


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 帰還の瞬間、瀬川は咲希の手を握っていた。


 世界が揺れた。大地が浮上する感覚。建物が軋み、窓の外で海水が滝のように流れ落ちていく。


 咲希は窓にしがみついていた。目を閉じなかった。ティルヴァーナの空が——翡翠色の月が——消えていく瞬間を、見ていた。


 海面を突き破った時、空が変わった。月は——ひとつだった。白い、見知らぬ月。空気が変わった。甘さが消えた。精霊たちの声が、遠のいていった。


 咲希の手が震えた。瀬川はその手を強く握った。


 「大丈夫だ」


 咲希はポケットの精霊石を握りしめた。温かかった。


 遠く——リーリャの念話が届いた。


 『咲希。——着いた?』


 『着いた。——月、ひとつしかないよ』


 『……さみしいね』


 『うん。でも——石、あったかい』


 『あったかい。——咲希の温度がする』


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 日本の外務大臣・真崎凛子が、国連に向けて声明を発表した。


 「日本国は、本日をもって地球に帰還いたしました。我々が持ち帰ったものは、人類の未来を変えるでしょう。これらを、無償で、全人類に公開いたします」


 世界は沈黙した。


 そして——爆発した。


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## 第五章 世界が壊れる


 帰還から三ヶ月。


 瀬川はこの三ヶ月を、後に「世界の再起動」と呼ぶようになる。


 日本がティルヴァーナで十年かけて経験した変化が、地球に一気に押し寄せた。日本は十年の猶予があった。だが地球にはそれがない。


 瀬川は官邸の執務室で、世界中から届く報告書の山に埋もれながら、一つ一つの崩壊を俯瞰していた。


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### エネルギーが壊れる


 最初に揺れたのは、石油だった。


 マナコンバーターの設計図が公開された翌日、原油先物価格は四十パーセント下落した。一週間後にはさらに三十パーセント。一ヶ月で、原油は一バレル八ドルを割り込んだ。


 サウジアラビアは日本に対しマナコンバーターの輸出制限を要求した。だが日本側の交渉にはアルシェイドの外交官が同席しており、彼は石油の実物を見たことがなかった。


 『地面から湧く黒い液体? それは呪いではないのか?』


 この発言がSNSに漏洩し、「エルフ、石油を呪いと勘違い」が世界中でトレンド入りした。サウジアラビアの王子はこのニュースを見て、側近にこう言ったという。


 「——我々は千年間、呪いを売っていたのか?」


 瀬川はこの報告を読みながら、長老に聞いた。


 「ティルヴァーナには、石油に相当するものはあるのか」


 『ない。なぜ地面を掘ってまで燃料を得る必要がある? 空気の中にマナがあるのに』


 「我々の世界にはマナがなかった。だから地面を掘った」


 『なるほど。マナがなければ、そうするしかないわけか。——不便な世界だな』


 瀬川は反論できなかった。


 OPEC(石油輸出国機構)は緊急総会を開いたが、結論は出なかった。マナコンバーターの普及を阻止する方法がないのだ。日本は設計図を無償で公開している。特許は主張していない——そもそも「マナ」に特許を設定できるのかという問いに、どの国の法律も答えを持っていなかった。


 中東の産油国は経済の多角化を急いだ。アラブ首長国連邦は「マナ観光立国」構想を発表し、砂漠に世界樹の種子を植えることを日本に要請した。日本側は「種子の提供は可能だが、砂漠にマナが広がった場合の生態系変化は予測できない」と回答した。UAEは一晩考えて、受諾した。


 三ヶ月後、ドバイの砂漠に世界樹の若木が芽吹いた。半年で周囲五キロメートルの砂漠が緑化し、一年後にはオアシスが出現した。ドバイはこれを「マナ・オアシス」と名付け、世界初の異世界由来リゾートとして売り出した。宿泊費は一泊二十万円。予約は三年先まで埋まった。


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### ウォール街が壊れる


 石油の暴落は、金融市場全体を揺さぶった。


 ウォール街のAIトレーダーは、マナコンバーター発表の一時間後に異常な挙動を示した。石油関連銘柄を一斉に売り、「マナ関連銘柄」を買おうとした。だがマナ関連企業は地球上にまだ存在しなかった。


 AIは「該当銘柄なし」というエラーに直面し、次善の策として日本企業の株を片端から買い始めた。問題は——帰還した日本企業の「価値」が、従来の基準では測定不能だったことだ。


 トヨタ自動車の時価総額は一夜で三倍になった。だがトヨタの工場は異世界の素材で車を製造しており、サプライチェーンのどこにも「マナ鋼」の原価データが存在しなかった。アナリストは決算報告を見て固まった。原材料費の欄に「マナ:無料」と書かれていた。


 ゴールドマン・サックスは「マナ経済レポート」を発表しようとしたが、「マナの市場価格をどう算定するか」で社内が紛糾した。マナは大気中に無限に存在する。需給バランスによる価格形成が成り立たない。


 「無限に存在する資源に価格はつけられない」——この結論に達したエコノミストたちは、次に恐るべき問いに直面した。


 エネルギーが無料になった世界で、経済はどう回るのか。


 瀬川のもとに、ノーベル経済学賞受賞者から電話がかかってきた。


 「ミスター・セガワ。マナコンバーターが普及した後の世界経済のモデルを教えてほしい」


 「我々は十年間、それをやった。結論を言えば——経済は回る。ただし、今の経済とは形が違う」


 「どう違う?」


 「エネルギーと医療が無料になると、人間は『生存のために働く』必要がなくなる。すると労働の動機が変わる。義務ではなく、創造のために働くようになる。GDPは指標として意味を失い、代わりに——我々は"GNH"、国民総幸福量を使っている」


 「……それはブータンの概念だ」


 「ブータンが正しかったということです」


 電話の向こうで、ノーベル賞受賞者が三十秒間黙った。


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### 医療が壊れる


 石油の次に壊れたのは、製薬業界だった。


 世界の製薬大手の株価は軒並み暴落した。ロビイストたちは各国政府に「未検証の異世界技術」の規制を求め、WHOに治癒術の安全性審査を要請した。


 だが日本の外務大臣が国連総会で治癒術の公開実演を行った。壇上で骨折した鳩の翼に手を翳し、三十秒で完治させた。鳩は議場を一周飛び、フランス大使の頭に止まった。


 議論は終わった。


 しかし、新しい問題が即座に浮上した。


 治癒術にはマナが必要だ。地球の大気にはマナがほとんど存在しない。世界樹のマナ放出は日本列島の周辺数百キロに限られている。世界中の病院で治癒術を使うには、世界中に世界樹を植える必要がある。


 だが世界樹を植えれば、その土地の生態系が変わる。動植物がマナの影響を受けて変異する可能性がある。そして何より——マナが広がれば、その地域の人間が念話を習得し始める。


 「世界樹の種子の輸出」は、帰還後最大の国際的争点となった。


 各国の反応は割れた。


 アフリカ連合は即座に受け入れを表明した。マラリア、エボラ、HIV——治癒術が使えれば、数百万の命が救える。生態系の変化など、命の前では議論にならなかった。


 ヨーロッパは慎重だった。フランスは「世界樹がワインの味を変えたら」と懸念し、イタリアは「オリーブの木がマナで光り始めたら景観が変わる」と主張した。ドイツは科学的検証を要求した。


 アメリカは——分裂した。カリフォルニアとニューヨークは受け入れ賛成。テキサスとアラバマは「異世界の植物を自国に植えるのは国家安全保障上の脅威」と反対した。テキサス州知事は「アメリカの大地にエルフの木は植えさせない」と宣言し、SNSで賛否両論の嵐が吹き荒れた。


 瀬川はこの報告を読みながら、長老に聞いた。


 「ティルヴァーナでは、世界樹を植えることに反対する者はいなかったのか」


 『いた。千年前に。世界樹を切り倒そうとした者もいた。だが世界樹は倒れなかった。根が深すぎた。——結局、反対した者たちも、世界樹の恩恵を受けて暮らすようになった。変化を拒む者は、変化の恩恵を拒むことはできない』


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### 保険業界が壊れる


 治癒術の普及は、医療の外にも波及した。


 保険業界が震撼した。病気が治る世界で、医療保険は必要なのか。日本の保険会社はティルヴァーナの十年間で、すでにビジネスモデルを転換していた。「治癒術保険」——治癒術師の施術を受けるための費用をカバーする保険——に切り替えていたのだ。


 だが地球の保険会社にはその十年の猶予がなかった。


 さらに深刻だったのは、生命保険だった。アルシェイドの平均寿命は三百年を超える。彼らが地球に住み始めた場合、生命保険の設計が根底から崩壊する。保険数理士がアルシェイドの寿命データを請求したところ、長老はこう答えた。


 『三百年で足りるか? 私は四百二十年生きている。——もっとも、最初の百年は記憶が曖昧だが』


 保険数理士は計算を諦めた。


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### 軍事が壊れる


 だが世界が最も震撼したのは、エネルギーでも医療でもなかった。


 ペンタゴンの分析官たちは、帰還した日本の軍事的ポテンシャルを試算した。結果は彼らを震え上がらせた。


 自衛隊は、もはやかつての自衛隊ではなかった。隊員の多くがマナを戦闘に応用する技術を習得しており、従来の火薬式兵器に加え、マナを用いた防御障壁、遠距離精密打撃、さらには個人レベルでの飛行能力すら獲得していた。


 そして何より、竜がいた。


 三体の竜は日本と「契約」を結んでおり、国土防衛に協力する意思を持っていた。一体の竜の戦闘力は、通常兵器では核兵器でなければ対抗できないと分析された。


 NATOは竜を「大量破壊兵器」に分類しようとした。だが古竜ヴァルドラスは、念話を通じて直接抗議した。


 『我は兵器ではない。同盟者だ。汝らの"核"とやらのように、命なきものと一緒にするな』


 この発言は、地球の歴史上初めての「人類外知性体による政治的声明」として記録された。竜に国連のオブザーバー資格を与えるかどうかで、安全保障理事会は三週間紛糾した。


 CIA長官は国家安全保障会議でこう言った。


 「日本はもう守る必要がない。問題は、誰が日本から守ってもらうか、だ」


 パワーバランスは完全に逆転していた。


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### 法律が壊れる


 竜の問題は、さらに根深い問いを突きつけた。日本が持ち帰ったものを、既存の法律で扱えるのか。


 EUは「異世界技術特許法」の策定に着手した。だが議論は即座に哲学の領域に突入した。


 「マナは自然現象か人工物か」——結論が出ない。

 「念話は通信技術か人権か」——結論が出ない。

 「竜は生物兵器か同盟国か」——竜が怒った。

 「そもそも異世界とは法的にどこなのか」——誰にもわからない。


 EU法務委員長は半年後の記者会見で、疲れ果てた顔でこう言った。


 「我々は千年かけて国際法を構築してきた。だが日本は十年で、その前提をすべて覆した」


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### スポーツが壊れる


 IOC(国際オリンピック委員会)は緊急理事会を招集した。議題は一つ。


 「異種族の五輪参加を認めるか」


 問題は具体的だった。ルーガルク——獣化能力を持つ「獣の民」——の100メートル走の記録が四秒台だったのだ。人間のどんなスプリンターも、彼らには勝てない。


 さらに混乱を招いたのは、透世代のアスリートだった。マナを体内に取り込んで育った日本の若者たちは、反射神経と持久力が従来の人間を大きく上回っていた。ドーピング検査に「マナ強化」の項目を追加しようとしたが、透世代は生まれつきマナが体内にある。彼らを「陽性」として排除すれば、日本の若者は全員五輪に出られなくなる。


 「種族別オリンピック」の創設が提案されたが、今度は「日本人とアルシェイドの混血ハーフの選手はどちらに出るのか」という問題が生じた。


 瀬川はこの報告書を読みながら、窓の外を見た。世界樹の枝の上を、ドラケインの少年が翼を広げて飛んでいた。


 「……飛行競技を追加すれば、少なくともドラケインは出場できるな」


 長老が横で茶を啜りながら言った。


 「汝ら人間も飛べるようになればいい。マナを使えば可能だ」


 「それをやると人類の競技が全部壊れる」


 「壊れて困るものなのか?」


 瀬川は答えなかった。困るかどうかは、瀬川にもわからなくなっていた。


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### 宗教が壊れる


 法律が追いつかないなら、せめて精神の拠り所だけでも——そう考えたのか、バチカンが動いた。


 「マナの神学的位置づけに関する特別委員会」が設置された。委員長の枢機卿は来日して世界樹を目にした瞬間、十五分間祈り続けた。


 長老が横で「気が済んだか」と声をかけた時、枢機卿は涙を流しながら言った。


 「これは神の業だ」


 長老は答えた。


 「我々はそれを"木"と呼んでいる」


 バチカンの特別委員会は六ヶ月間の議論の末、一つの声明を発表した。「マナは神の被造物の一部であり、異世界もまた神の創造の範囲内にある」。この声明は、キリスト教史上初めて「地球以外の世界」に神学的正統性を認めたものとして、歴史に刻まれた。


 一方、日本の仏教界は意外なほどスムーズにマナを受け入れた。京都の高僧は「マナとは、仏教でいう"縁起"の一形態であろう」と述べた。万物が相互に依存して存在するという仏教の根本原理は、マナで万物が繋がるティルヴァーナの世界観と、驚くほど親和的だった。


 伊勢神宮ではさらに興味深いことが起きた。世界樹の根が伊勢に到達した日、神宮の森全体がほのかに発光した。宮司は「これは天照大御神のお力が増したのだ」と解釈した。アルシェイドの精霊術師は「この森にはもともと微かなマナがあった。世界樹が増幅しただけだ」と説明した。


 どちらが正しいのか、瀬川にはわからなかった。だが——どちらでもいいのかもしれない、とも思った。


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### 日常が壊れる


 世界の大きな仕組みが揺れる一方で、日本の日常も静かに変わり続けていた。


 居酒屋で酒を飲みながら、六十代のサラリーマンがぼやいた。


 「俺の孫はな、精霊と話せるくせに、敬語が使えねえんだよ」


 隣の席の男が頷いた。「うちのは逆だ。敬語はできるが、精霊に敬語を使うんだ。『恐れ入りますが、お風呂のお湯を温めていただけますでしょうか』って。精霊相手に丁寧すぎるだろ」


 「いや、精霊にも礼儀は大事かもしれんぞ」


 「そうか? 精霊に失礼なことしたら風呂の湯が凍るのか?」


 「凍るらしいぞ、マジで。孫が言ってた」


 二人は顔を見合わせ、黙って酒を飲んだ。


 コンビニではアルシェイドの店員がレジ打ち速度人間の三倍で店長に愛され、ナイアル(水の民)が鮮魚コーナーに配属されたが「この魚は昨日まで友人だった」と言い出して売り場が混乱した。


 不動産市場では、世界樹の根が通った場所の物件が「マナ付き物件」として高騰する一方、マナを嫌う保守層は「マナフリー物件」を求めた。東京の不動産は二極化した。


 帰還した日本は、地球の日本ではもうなかった。かといってティルヴァーナの国でもない。二つの世界の間で、新しい何かになりかけている——その混沌が、日本のあらゆる場所で、毎日、小さく爆発していた。


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### 大統領、来日す


 この混沌の中で、アメリカ大統領ハリントンが来日した。帰還後初の国賓訪問。瀬川が実務を統括した。


 エアフォースワンが羽田に向かう途中、竜の一体「蒼嵐」が護衛飛行に出た。瀬川の電話が鳴った。


 「副長官。竜が出ました。エアフォースワンに向かっています」


 「ヴァルトスは」


 「風邪で寝てます。"竜は賢い、勝手にやらせろ"と言って二度寝しました」


 瀬川はアメリカ側の連絡官に伝えた。「日本側からの護衛です。竜は友好的です」


 三秒の沈黙。


 「The President wants to know if it breathes fire.」


 「……状況によります」


---


 首脳会談は世界樹の根元で行われた。長老が同席した。


 ハリントンが「マナ技術のアメリカへの優先的供与」を持ち出した時、長老が英語で口を開いた。


 「大統領。十年前——日本が消えた時、あなたがたはどのくらいの期間、この国を心配していましたか」


 ハリントンは正直に答えた。「五年を過ぎた頃から——日本なしでやっていく方法を考え始めた」


 「だからこそ、取り戻したものの価値を、見誤ることがある」


 会談後、ハリントンは世界樹の幹に手を触れた。指先が微かに光った。翡翠色の。


 「大統領。マナの感受性があるかもしれません」


 「冗談はよせ」


 「軍人は身体感覚が鋭い方が多い」


 ハリントンは光る指先を見つめ、無防備な笑みを浮かべた。


 「帰国したら、議会の連中は俺の頭がおかしくなったと思うだろうな」


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### 十年前にできなかったこと


 帰還から一ヶ月目。世界がまだ混乱の渦中にある中、瀬川の家庭では別の嵐が吹いていた。


 由紀の実家に電話をかけた日のことを、瀬川は忘れない。


 由紀の母の声。七十代後半。最初の三秒間は沈黙。それから悲鳴。由紀の父は三年前に亡くなっていた。


 由紀は三日間泣き、四日目に言った。


 「お母さんのところに行きたい。——それに、私、ちゃんと考えたいの。あなたと、このまま——少し離れる時間が必要なの。十年前にできなかったことを」


 由紀はロサンゼルスに発った。咲希は残った。——自分で選んだ。


 「ママと一緒に行かないのか」と瀬川が聞いた時、咲希は少し考えて言った。


 「……ここで、やってみる。パパが根になるって言ったから。——まだ根っこ、生えてないけど」


 瀬川は成田の展望デッキで由紀の飛行機を見送った。隣に咲希がいた。十年前とは、すべてが逆だった。


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### 居場所


 由紀が発ってから二週間。咲希は渋谷の中学校に編入した。


 三日で行けなくなった。


 自己紹介で「ティルヴァーナで育ちました」と言った瞬間、教室の空気が変わった。念話が使える咲希には、同級生の感情がすべて読めた。好奇。警戒。嫉妬。——見世物だった。


 だが帰還前の咲希とは、少しだけ違っていた。


 ティルヴァーナで「パパの地球でしょ」と泣いた時、咲希はただ拒絶していた。怖いから嫌だ。知らない世界だから嫌だ。


 今の咲希は——怖いけど、理解しようとしていた。父がそうしたように。十年前、ティルヴァーナに来た父は、怖くても歩いた。


 四日目の夜。咲希は自分から瀬川に話しかけた。


 「パパ。地球の人って、なんで嘘つくの?」


 拒絶ではなかった。問いだった。知りたいから聞いている。


 瀬川は答えに詰まった。自分が四十三年間やってきたことだった。


 「……嘘じゃない。でも全部は見せない」


 「パパも隠してたの?」


 「ああ。ずっと」


 「今は?」


 瀬川は念話で、壁の薄くなった内側を見せた。不安。罪悪感。不器用な愛情。


 「……パパ、ぐちゃぐちゃ」


 「ああ」


 「パパがぐちゃぐちゃなのが、一番安心する。——きれいに整理された感情は、嘘みたいだから」


 翌朝、咲希は自分で制服を着た。


 「行ってくる。——たぶん、またつらいけど」


 「つらかったら帰ってこい」


 「うん。でも、もうちょっとだけ歩いてみる」


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 瀬川は文科省に掛け合った。大統領来日の調整と、ナイアルの東京湾浄化問題と同時並行で、教育改革の交渉をねじ込んだ。


 透世代の不登校は咲希だけの問題ではなかった。地球の学校には念話の授業がない。透世代の子供たちは教室で異邦人になっていた。


 「透世代教育特区」が設立された。念話やマナ制御を選択科目として導入し、ティルヴァーナでの学習歴を認定する学校。


 咲希はその学校に移った。居場所ができた。だが夜になると精霊石を握りしめてリーリャに念話を送る。


 『今日、友達できた。——でも、リーリャの隣がいい』


 『咲希の分も月を見てるから』


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## 第六章 新しい世界


 帰還から一年。


 瀬川隆一郎は、官房副長官の職を辞していた。


 「地球・ティルヴァーナ文化交流センター」の初代所長。センターは世界樹の根元に建てられた、木造とクリスタルと鉄筋コンクリートが融合した不思議な建築物だった。


 センターには毎日、世界中から人々が訪れた。マナの使い方を学びたいインドの青年。治癒術を医療に導入したいブラジルの医師団。世界樹を一目見たいアメリカの観光客。


 そして——帰りたがるアルシェイドたち。日本と共にこちら側に来た三千人のうち、ほとんどが日本社会に溶け込んでいたが、故郷を想う気持ちは消えなかった。


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 ある晩、瀬川はセンターの屋上で空を見上げていた。地球の空には月がひとつしかない。


 「瀬川」


 長老だった。地球に来て一年。日本語がかなり上達していたが、感情が声に混じる念話の癖は抜けない。今の声には——穏やかな心配の色があった。


 「娘から、連絡はあったか」


 「ああ。毎日、念話で。世界樹を中継すれば届く」


 「由紀からは」


 「……メールで。時々」


 長老は瀬川の隣に立った。


 「長老。地球の暮らしには慣れたか」


 長老は小さく笑った。


 「コンビニは素晴らしい発明だ。真夜中におにぎりが買える世界など、ティルヴァーナにはなかった」


 「この世界にマナは薄いだろう。辛くないか」


 「マナは薄い。だが——別の力がある」


 「別の力?」


 「汝らはそれを"意志"と呼ぶ。ティルヴァーナでは、マナが命を支える。だがこの世界では——命が自らの力で世界を支えている。何の助けもなく。ただ意志だけで、百億の命がこの星にしがみついている」


 長老は瀬川に向き直った。


 「それは——美しいことだ。瀬川。汝が煙草をやめたのも、由紀に電話をかけたのも、咲希の手を握ったのも。すべて、マナの助けなどなかった頃の汝が選んだことだ。"意志"で選んだことだ」


 眼下には渋谷のスクランブル交差点が見えた。信号が青に変わり、人々が歩き出す。アルシェイドがパーカーのフードを被って人混みに紛れている。居酒屋の提灯とマナの灯火が並んで光っている。ローブ姿の精霊術師が自転車で走り抜けていく。


 その光景は奇妙で、滑稽で、そしてどうしようもなく美しかった。


 瀬川のポケットで、携帯電話が鳴った。


 メールだった。由紀からだった。


 『お母さんの具合が良くなった。治癒術の基礎を独学で覚えて、毎日お母さんに施術している。咲希が。あの子、やっぱりすごいね。——来月、一度帰る。三人で話したいことがある』


 瀬川は画面を見つめた。「三人で話したいことがある」——別れの話か。やり直しの話か。


 長老が瀬川の肩に手を置いた。


 「念話で聞けば、一瞬で分かるのだがな」


 「由紀は念話を使えない」


 「嘘をつくな。汝が怖いだけだ」


 瀬川は苦笑した。長老は十年前から変わらない。容赦がない。


 スクランブル交差点の中央で、異界生まれの少女が空を見上げた。彼女の金色の瞳に、地球のたったひとつの月が映っていた。少女は念話で、誰にともなく呟いた。


 『きれい』


 その言葉は、風に乗って、渋谷の夜空に溶けていった。


 世界樹の枝が、微かに揺れた。


 まるで——頷くように。


---


## 終章 二つの月


 帰還から五年後。十二月。


 国連総会で「地球マナ・ネットワーク構想」が採択された。百九十三カ国中、百八十七カ国の賛成。反対した六カ国のうち五カ国は産油国だった。残る一カ国の理由は「棄権ボタンを押し間違えた」だった。


 地球人にもマナの素養がある者が現れ始めていた。世界樹が大気中のマナ濃度を少しずつ上昇させており、感受性の高い人間が念話の片鱗を見せるようになっていた。


 まだ微かな兆しに過ぎない。だが確実に、地球は変わり始めていた。


---


 瀬川隆一郎は、その夜、センターの屋上にいた。


 五十八歳。髪には白いものが混じり、顔の皺は深くなった。だが目の色は——十五年前とは違っていた。壁の奥に隠れていた温もりが、今はそのまま表面に出ている。


 隣には由紀がいた。


 四年前にロサンゼルスから戻ってきた。「三人で話したいこと」は、別れでも、やり直しでもなかった。由紀は言った。「新しく始めたい。前の続きじゃなくて。同じ相手と、違う関係を」


 瀬川にはその意味が、最初はわからなかった。長老に相談した。長老は笑って言った。「それはつまり、汝が十年かけてやったことを、二人の関係でもやれということだ。壁を壊して、根を下ろせ」


 簡単ではなかった。今も簡単ではない。だが——少なくとも、隣にいる。同じ空を見ている。


 「寒いね」由紀が言った。


 瀬川はコートを脱いで、由紀の肩にかけた。前ならしなかった。今はする。それだけのことが、十五年かかった。


 「ねえ」由紀が空を見上げた。「あの光、見える?」


 西の空に、淡い翡翠色の光が瞬いていた。


 長老の念話が、微かに届いた。階下のセンターで夜勤のスタッフとおにぎりを食べているはずだった。


 『瀬川。今夜は——温かいな。汝の周りの空気が』


 瀬川は微笑んだ。白い月と、翡翠の残光。


 『ああ——隣に、人がいるからだ』


 由紀が不思議そうに瀬川を見た。「何笑ってるの」


 「いや——」瀬川は由紀の手を取った。冷たい指先に、自分の体温を渡した。「月が、きれいだなと思って」


 由紀は少し驚いた顔をして——それから、十五年ぶりに、声を出して笑った。


 「あなたがそんなこと言うの、初めてじゃない?」


 「そうかもしれない」


 携帯電話が鳴った。念話ではなく、電話。


 咲希からだった。


 「パパ。今から行っていい? 屋上」


 「来い」


 三分後、屋上のドアが開いた。二十歳になった咲希が、コートのポケットに手を突っ込んで歩いてきた。隣には——金色の瞳の少女がいた。


 瀬川は目を見開いた。


 「リーリャ?」


 リーリャだった。咲希の親友。五年前にティルヴァーナで別れた、あのリーリャが、東京の冬の空気の中に立っていた。


 「瀬川さん。お久しぶりです」リーリャは日本語で言った。「咲希に教わりました」


 「いつ——どうやって——」


 「世界樹の"門"です」咲希が笑った。「研究チームが去年開通させたの。——リーリャ、留学で来たんだよ」


 瀬川は咲希を見た。二十歳の娘。五年前、「ここが咲希の世界なのに」と泣いた少女。今は——二つの世界に足をかけて立っている。


 「パパ。リーリャに東京案内するから、明日センター貸して」


 「好きに使え」


 咲希はリーリャの手を引いて、屋上の縁に立った。渋谷の夜景を見下ろした。


 リーリャが空を見上げた。


 「月が、ひとつ」


 「うん」咲希は微笑んだ。「ひとつしかない。——でもね」


 咲希はポケットから精霊石を取り出した。五年間、毎晩握りしめて眠った石。


 リーリャも自分の石を取り出した。同じ光。同じ脈動。


 二つの石を並べると、光が呼応して強くなった。翡翠色が、月の白い光と混じって——屋上の二人を、二色の光で包んだ。


 「ほら。二つある」


 瀬川は由紀と並んで、娘たちを見ていた。


 長老の念話が届いた。温かく、少し呆れたように。


 『二つの月が見えるか、瀬川。——汝は昔、この世界の月はひとつしかないと嘆いた。だが見方を変えれば、いつでも二つある。白い月はこの世界のもの。翡翠の光はティルヴァーナのもの。どちらも——汝の月だ』


 瀬川は念話で返した。


 『ああ——四つ、見えてる』


 『四つ?』


 『月が二つと——娘が二人だ』


 長老の笑い声が響いた。


 風が吹いた。世界樹の枝が揺れ、光の粒子が舞い散った。


 甘い匂いがした。あの日、初めて異世界の窓を開けた朝と同じ匂い。


 ティルヴァーナの風だ、と瀬川は思った。


 甘くて、少し寂しい、もうひとつの故郷の匂いが。


 瀬川は目を閉じた。


 掌の中に、由紀の指がある。遠くに、咲希とリーリャの笑い声がある。階下に、長老のおにぎりの気配がある。頭上に、月がある。ポケットの中には、もう煙草はない。


 十五年前、首相官邸の仮眠室で目を覚ました朝。あの朝の自分には、想像もできなかった場所にいる。


 もう元には戻れない。


 だがそれは——悪いことではない。


---


**——了——**

感想や評価をお願いします!!

要望が多い場合、別視点から異世界と帰還した日本を切り抜いた外伝を作成します。

現状作れそうなのは

①オタクが人類を救った。——同人誌一冊で。

②三百年の知恵が、七歳の問いに負けた。

③渋谷ギャルが名前をつけたら、世界が変わった。——壊れた世界もあった。

④教科書を捨てた教師が、教科書を書き直すまでの話。

他にも要望があれば執筆できます。

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