ある日。(1)
夏の終わり、おっさんの玄関前に赤子が捨てられていた。クーファンの中にあった手紙には、『元気に育ててやってください』と。おっさんは不本意ながら赤子を家に連れ入る。おっさんと赤子の共同ライフが今始まろうとしている。
8月31日 (水)
今日は、夏にしてはなかなか涼しい日であった。もう8月も終わるからだろうか。過ごしやすい日だと思っていたのもつかの間、驚いたことに、家に帰ってくると、玄関の前に、捨てられたと思うのが正解だろうか、一人の赤ん坊が寝息を立ててすやすやと、クーファンの中で眠っていた。その中には、赤ん坊と同時に一通の手紙が入っており、『名前は月、誕生日は8月1日、元気に育ててやってください』と、一言だけ。俺は一体この先どうなってしまうのだろか。
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今日、俺は赤子をこの家に迎え入れた。なんとも不本意ながら。これまで子育ての経験なぞないし、身内の赤子にあったこともない。無論、子育てなんてできるはずがない。だが、なぜ拾ってしまったのか。そのまま見過ごせばよかったのではないか。そもそも、アパート住みの中年のおっさんが新しいことに手を付けられるわけもない。いろいろな考えが頭をよぎった。
「はぁーーー...。」
俺は大きなため息をついた。このため息にはどんな感情が含まれているのかは言わずもがなであろう。一つの命が無駄に増えてしまったのであるから。
「オギャァ!ギャア!ギャ!オギャア!」
そう思っている俺の鼓膜に刃物を突き立てて突き破るかの如く、赤子は突然大声で泣き出した。生命の命を燃やしながら、その小さい媒体を通して必死に、必死に。
俺はどうすればよいのかまったくわからなかった。無論、前述したとおり。
「あーもう!泣きてぇのはこっちのほうだよ!今日は会社でさんざん詰められて疲弊して帰ってきた矢先に、帰ってきたらいつの間にか知らない赤ん坊が玄関の前に置かれてるし!こっちの苦労も知らないでワーワー泣きわめくんじゃねぇ!」
言ってしまった。でも、伝わりはしない。ぶつけても、一方通行の感情の押し付けだ。
「...うるせぇぞ!何時だと思ってんだ!」ドンドン...
壁を叩くとともに、隣人からの叱責の声が響き渡る。もう何だか自分が嫌になってきた。なんで俺がこんなことをしないといけないんだ。なんで俺なんだ。なんで...なんで.......なんで..............
わからないまま、俺はありとあらゆる思いつく育児っぽいことをしてみた。暑い?いや、十分涼しい。
おしめか?異臭はしない。ごはん?食べない。一体どうすればいいのか...
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いつの間にか俺は寝ていたようだった。9月1日。幸いにも、今日は会社が休みの日だった。
「...顔洗うか」ポリポリ
立ち上がろうとしたとき、違和感を感じた。
「ん?なんだかおなかのあたりに感触が...。」
そこには寝静まる赤子が、今にも消えそうなほど小さな息をたて、幸せそうな顔をして眠っている。夢ではなかったようだ、何度も願ったが。
「世界というのは残酷だな。」そう思ってしまった。
今日、こいつの母親を探しに行ってみようか。




