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追放された無能能力者の俺、 実は一人になると最強でしたが配信事故で世界にバレちゃいました  作者: 桃山ハヤト


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試飲

東京、六本木にその建物はあった。

悪趣味なほどに主張の激しい、その建物は今はすっかり人の気配もなかった。

管理局が行った大規模な家宅捜索の後、無期限の営業停止を命じられたダブルトレード。

しかし、営業停止とは言え、社内が完全に静かなわけではあるまい。

あくまで外部との取引や、実際の営利目的の活動が禁じられているだけで、精算業務や、攻略部隊の訓練などは行われているはず。

とにかく、なんらかの手がかりが欲しかった。


セキュリティの厳重な会社ではあるが、クビになってからまだ間もない。

もしかすると俺のIDで扉が開くかもしれないと思い、従業員専用の出入り口に行ってみる。

「ふんふーん、今日もー、どうせひまー」

見たことのない女の子が鼻歌交じりにセキュリティを突破しようとしていた。

これはチャンスだ。

「あっ、君、ちょっといい?」

「むっ、なんでしょうか」

髪の毛がふわふわのボリューム満点なショートボブの女の子だった。

お世辞にも似合っているとは思えぬ、大きなコートを羽織り、その下には白衣が覗ける。

顔は可愛らしいのに、格好があまりにも残念であった。

「ちょっと忘れ物しちゃったから、一緒に入ってもいいかな?」

俺は遠目に見えるようひらひらとIDを掲げた。

「ほーん、いいですよ。でも、あなた……攻略部の方ですか?」

字の認識が出来ないくらいに離れているはずなのに、IDを確認されたのだろうか。

「あっ、ああ。攻略部だよ」

「ふふーん、そうですか。攻略部の方……まあ、いいです。どうぞ」

簡単に侵入出来てしまう。

厳重なセキュリティとは一体。


「さてさて、わたしは5階まで行きますが、あなたはどちらまで?」

5階……開発部があるフロアだ。

「奇遇だな。俺も5階に用事があるんだ」

「そーでしたか。ふむふむ。ではでは行きましょう」

掴みどころのない、ふわふわ系女子だな、と思う。

しかし、あまり女子力が高い感じはしないので、最早これはなんと形容すべきか悩ましい。

俺が人知れず悩んでいるところ、開発部に辿り着く。

一番手前の入口をスルーし、どんどんと奥へ突き進む名も知らぬ女の子。

「あれ? 君、開発の子じゃないの?」

俺は不思議に思い声をかける。

「開発ですよ〜。でも、こちらは私の部署ではないのです」

ニヤリと笑みを浮かべ、IDをこちらに見せつけてくる。

『三神くるみ 開発部第二研究室』

と、そこには書かれていた。

第二研究室……知らない部署だ。

まあ、あっという間にクビになった俺が知っていることなど、ごくわずかなのだが。

「へえ、第二研究室ね。どんなところか、いい機会だから見せてほしいな」

「ほうほう、気になりますか? いいですよ。攻略部とも関わりは深いですからね〜」


ここで、なんらかの手がかりが掴めるのなら楽だし、この子は警戒心が薄い。

非常に楽な潜入となり、俺は少し気を緩めていた。

「さあて、ここですよ〜」

扉が鉄で出来ている。

防音された部屋、ということなのだろうか。

「今日は、というか、営業停止になってからというもの、わたししか来ませんからね。どうぞ、案内しましょう」

ドアノブはやはり太く重たいようで、力が入っているらしい。

「ふぬ!」

可愛らしい力んだ声を漏らしながらドアを開け放つ。

真空状態から復帰したように部屋が呼吸した。

「さてさて、どうぞ。見せられるものは特にありませんが」

「お邪魔します……うっ? なんだこの臭いは」

「実験に使う動物の臭いですかね。みんなかわいいですよ。マウスにモルモット……」

動物の臭いというよりは、おそらくその生き物が排泄したものの臭いが部屋にはこもっているのだろう。

薬品の瓶が大量に並んでおり、その一つ一つはどうも劇薬らしく、鍵を掛けられたケースに閉じ込められている。

「今日はわたし、これだけ見に来たんです」

「これ……って、なに?」

大きなガラスケースの中には酸素を供給する装置だろうか。

外界とは遮断されながらも窒息することはないように配慮されているようだ。

そして、マウスが数匹。

「ふむふむ……やはり筋肉量の増加が見て取れますねえ……」

「これは、何か薬効の結果なのかい?」

「そうです! わたしの作ったドリンク剤の主成分をこちらのマウスくんたちに摂取させているわけですよ〜。手軽に筋肉量の増加……能力の増強……そして、精力減退、勃起不全、早漏! これらにも効果があるのです!」

「へ、へえ……」

「せっかくの縁ですから、もしよければ試供品がありますので〜……ほら、これです! お飲みになりますか?」

試供品というのは言葉ばかりで、単なるビーカーに注がれた緑色の液体であった。

「こ、これ……人間が飲んで大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。きっと!」

「きっと!? きっとってなんだよ!」

「あはは……実はまだ、試したことがないんです。人間に飲ませるのはまだまだ先になりそうなんですよね……」

「じゃあ、飲まないほうがいいじゃねえか! 勘弁してくれよ」

俺は異様な臭いの放つビーカーをゆっくり、そっと置く。

「でも」

なんだ?

「飲んだほうがいいかもしれません!」

え、こわい。

「見たところ、お兄さんは早漏ですね!」

やだ、この子。

人のこと勝手に早漏だと決めつけてくる。

「失礼だな! 早漏じゃないよ!」

「ほうほう、無自覚ってやつですね〜。では、普段もってどれくらいですか?」

「どれくらいって、なにがだよ……」

「ですから〜、女の子と繋がってから、どれくらい腰を振ってられるかって話ですよ〜」

話題が下品すぎる。

「そ、そんなこと知らないよ」

俺は童貞なので、本当にわからない。

「およ? それはどういう……ははん、さてはお兄さん、どーてーさんでしたか!」

くっ……。

なんでこんなことを言われなきゃならないんだ……。

本当のことだけど……。

「あはは……ごめんなさい。でも、最近彼女が出来た、とか?」

え?

「で、まだすることはしていない、とか?」

なんだこいつは。

「それなら……これ、飲んで、一発目から彼女に白目剥かせちゃいませんか〜? あんなに普段はスケベを隠しているのに、なんだよお前、こんなにえっちだったのか、なんてね、興奮しちゃいますね〜!」


飲みたくなってきてしまった。

しかし、おいそれとそんな得体のしれない飲み物を口に含むのは躊躇われた。

「いや……そういうことは……まだ先の話だしさ……」

何故か照れながら弁明を口にしていると、ガッという音を立ててドアノブが開く。

急激な空気の流れが、また訪れる。

「およ? 誰でしょうか」


小さい女の子が入ってきた。

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