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追放された無能能力者の俺、 実は一人になると最強でしたが配信事故で世界にバレちゃいました  作者: 桃山ハヤト


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抱擁

広瀬はやれることはやったとし、その場を離れようと思っていたのかもしれない。

アリスは少し目が潤み、遠く、一点を見つめていた。

如月は特別な感情をそのときは用意しておらず、当然の結果を目の当たりにしたようだった。

そして、俺はどこまでも無力だった。


それでも、なんとか一縷の望みにかけたい俺は、

「出来ることはないって、本気で言ってんのかよ。なんとか出来ないのかよ」

と、少々語気を荒らげていた。

「ああ、無理だな。俺の能力ではここまでだ。もう少し心が固まってなければ可能性はあったが、あまりにも強固だ」

「強固ってなんだよ。それはアリスの所為なのか?」

「所為って言い方は嫌だな。どちらかと言うと、お前の所為だしな」

俺の所為?

それはどういうことか問おうとしたとき、

「さて、俺はもう行く。お役に立てず、すまんな」

と、広瀬はがらんどうに水を打ったように言い放って、もうそれきりだった。

残された俺たちは、示し合わせたように色々な方向へ視線を向けていた。


最初に口を開いたのは如月だった。

「まあ、こうなるだろうな、とは思ってましたが、こればかりは仕方ありません。気長に怪我を治し、外山やダブルトレードについて、一つ一つ調べていきます」

決意表明というわけでもなく、この場を離れるためにただ言ったかのようだった。

さて、と言い、持って来ていたファイルを抱え直してドアへ向かう如月。

「藤堂さん、これは広瀬さんの能力が悪いとか、そもそも誰が悪いとかの話じゃありませんからね。それだけはくれぐれもお願いします」

如月は去り際にそう言って部屋を出て行った。


別段、俺は誰かを責めようだなんてことは元より思っていない。

ただ、あまりにもあっさりとした幕切れに対しての不満があるばかりだった。

アリスは一向にこちらを見ない。

このアリスの様子も一時、業腹ではあったが、彼女の想いとやらがなんであるかを考えたとき、到底わからないながらも、少し落ち込んだ風なのを感じると自然に優しくしたくなる。

「アリス、大丈夫か?」

俺は一言、彼女の横顔を見ながら声をかけた。

少し、鼻が赤いかもな。

横顔のしっかりと目視出来ない状態ながらも、瞳の水分量が尋常ではないことがわかった。

「アリス……本当に大丈夫か、わっ!」

俺は彼女に飛び込まれてしまった。


アリスは顔を上げず、俺にしがみつくように抱きすくめてくる。

「お……おい……」

俺は成すすべもなく、棒立ちの態であったが、観念したように彼女の背中に手を回した。

彼女はすすり泣いているような音を出しており、しかし、その真偽は確認の仕様もない。

無言の時間。

音は辛うじて、アリスの出す寂しげな音があるだけであった。

気の済むまでこうしていればいい。

俺は知らぬうちに強く抱き締めていた。


「こんなのっ……こんなのイヤなのに……」

アリスは俺の胸に顔を埋めたまま話し始めた。

「でもっ! 仕方ないじゃない……自分でもどうしようもないんだからっ!」

彼女の心の葛藤は、その理由はこれから明かされるのだろうか。

俺には何もわからず、その駄々っ子のような口ぶりを聞き、小さな相槌を打つ以外になかった。

「……好きなの」

「え?」

「好きなのよっ! あんたのことが好きなのっ! 好きで好きで仕方ないのよっ! なんでかわからないけど、あんたと一緒に居ると嬉しいのよっ! あんたと二人きりになって、誰にも邪魔されないで、二人だけの時間を過ごしたいって、思っちゃうのよっ! わかんないのよっ! わかんないけど、そう思っちゃうのよ! なんでなのよ……好きなの……」

アリスはまた嗚咽みたいにして泣き出してしまった。

情熱的な告白だった。

「こんなの、一番イヤなのに……泣きながら、好きって言うの、こんなの一番イヤだったのに、どうしても溢れて止まらないのよっ! 嫌われても、拒絶されてもいいって思ったけど、でもそれはやっぱり嫌で、だけど伝えたかったの……」


俺はどうしたらいいのだろうか。

こんなに強い気持ちをぶつけられて、それを拒絶するなんて残酷なことは、俺には出来ない。

かと言って、受け入れるのもどうかと思うのだった。

最近、考えていたことだったが、自分の特性というか、自身の抱える業とでも言うのか。

つまり、俺の能力『孤立補正』がいつも気になっていたのだ。

孤独であることが強さにつながる。

誰かと幸せになることは、この能力を根本より否定し、放棄することである。

そう思うと、誰かと特別な関係になることで、自らの首を絞める形とはならないだろうか。

そして、アリスという一人の女性に対する俺の気持ちだ。

確かに、彼女とは妙に馬が合うというのか、命令口調であったり、少し突き放すようなことを言われたりはあっても、どこまでもそれはお互いの信頼から来るものではないかと思う。

つまり、相互に認め合った存在。

ベストな仲と言っても良い。

しかし、好きかどうか。

これは難しかった。

そもそも、その「好き」なる感情は何が正しいのか。

付き合ってから好きになることもある、などと、ビッチ然とした旧友が言っていたのを聞いた覚えはある。

そんなおざなりで良いものか。


「ねえ……どうなのよ」

アリスが口を開いた。

「勇気を出して、気持ちを伝えたの……あんたの気持ちもおしえてよ。お願い」

うう……。

俺は……。


俺は抱き締めていた手の力を緩めた。

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