入浴
この部屋の説明を長らくしていなかったので、改めて言っておこう。
まず、壁は黒かった。
無機質な照明に相まって、酷く殺風景な風を印象付けるものの、見方を変えれば、少しお高めなホテルの部屋とも感じられる。
家具もあまり木の肌が見えるものではなかった。
あるものは鉄っぽかったり、一部では布っぽかったりする。
部屋の造りとして、最も異様なのは台所がないことだった。
流し台があれば、そこらのワンルーム賃貸と相違なく感じられる。
風呂、洗面所、ベッドにソファ……。
お誂え向きのデスクとチェアまである。
そして、我々がこれから向かうバスルームは、奥の突き当りにある。
僅かばかりの脱衣スペースと洗面所。
すぐ側に、風呂の入口があった。
その中は一般的な、ユニット・バスであった。
はじめから用意されているシャンプーにリンス、それにボディソープに俺は世話になっていた。
一人きりで使うのが当たり前のように設計されたそこは、やはり広くはなかった。
「なあ、お前らのこと、信用しているからな」
俺は今にも裸にされそうだった。
腰にタオルは巻いていたが、それはあまりにも頼りなき装甲であった。
「……わかってる。問題はない」
目を覆うアイマスクが視界を遮る。
それでも声の主、操がすぐ近くに居るのが、声の響き以上に息遣いでわかった。
妙にぺたぺたと体に触れてくるのは、おそらく距離的にも操だろう。
「こっちも脱がすわよ! ちゃ、ちゃんとタオル押さえておきなさいよっ!」
アリスは男の服を脱がすことに慣れていないらしく、手間取り、戸惑っていた。
「わかってるよ。ちゃんと押さえてるから」
風が吹いているわけでもないのに、守るべきものを喪失した今、俺の股間は少し寒いような心持ちになる。
「うう……見えてない? 大丈夫?」
「……問題ない」
さっきからそれしか言わねえな。
「……ほら、こっちよ!」
アリスが手を握り、風呂へと誘導してくれる。
女の子の手って、どうしてこんなにふわふわで柔らかいのだろうか。
「あっ! 大変。お湯が溢れちゃってるわよ!」
「……段差があるから、足を上げて」
俺は適宜、彼女らの指示に従った。
ようやく湿度の高いバスルームに入った頃、俺は積もり積もった疲労感に押しつぶされそうだった。
「じゃあ、まずあんたの体を洗うから」
アリスはもう抵抗もあまりないのか、遠慮なく俺の体のあちこちを洗った。
「人の体を洗うのって結構大変なのね……」
「ごめん。ありがとうな、アリス」
「なっ! ……うるさいわよバカ」
真の優しさが染み入るようだった。
しかし、それにしても。
時折触れる柔らかな感触の正体は気になって仕方がなかった。
しかし、正体不明のままであってほしいとも一方では思う。
何故なら、認識した途端に、俺のトカレフが撃鉄を起こしかねない。
もしそうなってしまったら……。
「もうっ! あんたのここ、わがまま言ってるわよ? ほら、今、楽にしてあげるんだから……」
「……こうすると良いと、本に書いてあった。どう、気持ちいい?」
いかんいかん。
こんなことを想像すると、余計に血が流れてしまいそうになる。
と、思ったそのとき、股間に触れるものがあった。
「きゃっ! ちょっと操! どうする気よっ!」
「……ここも、綺麗に洗わなければならないから」
そっと触れ、持たれる。
次の瞬間、めくられる。
「あっ、だ、ダメっ……」
ひどく熱っぽかったのは、どうやら俺だけではないらしい。
湯船に浸かる時間は、アリスも操もあまり長くなかった。
俺は体が洗われたあと、しばらく浸かっていたせいで、全身に熱を帯びていた。
「…………」
アイマスクで何も見えない上、目の周囲はより暑かった。
早くこれを外してしまいたいので、
「なあ、そろそろ上がろうぜ。俺、早くこれ外したいんだ」
と、急かすように言った。
「……暑いの?」
操が優しく声をかけてくると同時、ぴたりと生身が触れる感触。
「……私も、すっかり熱くなってる」
なんだか危険を感じる。
「違くて、もうのぼせちゃうから」
俺は反対を向いて、手探りで風呂のドアを見つけようと努力した。
「ひゃっ!」
柔らかな物に触れる。
しかし、柔らかいだけではなかった。
硬い物もそこにはあったのだ。
「ん……なんだこれ?」
俺はそれを摘み上げる。
「んぅ……」
硬度が増した。
これは一体……?
「ちょっ……このバカ!!」
頭上に鈍い衝撃。
俺は気を失った。
気がつくと俺はベッドに寝かされていた。
パンツ一丁で。
うつろな目を開け、辺りを見渡すとパジャマ姿のアリスと操が居た。
「あれ……? 俺……」
「起きたのね」
「ああ……」
そういえば俺は二人と風呂に入っていて、そこから記憶がない。
何が起きたのだろうか。
わからないが、アリスは顔を赤らめつつ、明らかに逸らすような素振りで居た。
操は平然と座っているように一見見えたが、何か熱っぽい雰囲気を発している。
「なあ、俺、疲れていたのかな。寝ちゃっていたみたいで……二人ともありがとな」
「うん、別に……いいわよ」
「……はじめての感覚」
湯当たりの他に、何か意識を遠ざけるものがある。
はっきりとしない脳中に少しずつ記憶が蘇る。
「あっ、そうか……あれはアリスの乳首……」
「まだ寝たりないみたいね」
脳を揺らすチョップにより、俺はまた意識を失った。




