脱衣
アリスの『絶対服従』は、人の全てを操ることが出来る。
その人間の無意識下におかれている、細胞の動きでさえもコントロールし、例えば傷の修復を細胞に命令することが出来る。
素晴らしい能力の一つだと思うが、難点がやはりあった。
絶対服従下に置くことが出来るのは、相手が異性の場合。
もしくは相手のことを、アリス本人が支配したいと思わなければならない。
「まあ、似たような能力なら、広瀬さんが使えますけど……」
意識を司る能力の保持者が、まだ管理局内に居たとは驚きだった。
それも広報課の広瀬が保持しているとは。
「あの広瀬のおっさんがそんな能力を持っているのか?」
「ええ、能力者としての活動はほとんどありませんから、記録等にはないのですが、一応ライセンス持ちですね。データベースには『心理学』という記載があったかと……」
如月はあまり判然としない様子であった。
「うーん……サイコロジーねえ」
「私も残念ながら詳しくは知りませんから……今日はもう遅いので退館されてますでしょうし、明日、改めて聞いてみましょう」
如月の提案はもっともだったから、誰も異議を唱えることなく今日のところは解散となった。
「ふう……ようやくゆっくり出来るな」
俺は我知らず呟いていた。
「なによ、そんなに疲れてるわけ?」
アリスは心配そうにこちらを覗き見る。
「ああ。人間と戦うのはやっぱりキツいよ」
俺は大げさに肩をすくめて見せる。
ふうん、と少し肌を上気させてアリスが言った。
「それじゃあ……マッサージでもしてあげてもいいのよ?」
「マッサージ……?」
そんな繊細なことがアリスに出来るのだろうか。
俺はひどく訝しんで、
「アリスが……マッサージ……?」
と言っていた。
「なによ! マッサージくらい出来るわよっ! ほら、ベッドに横になりなさいっ!」
そう言ったアリスの隣で操が、
「……マッサージの前に体を温めることが必要。お風呂に入るのが先」
と、言って俺の腕を掴む。
「お、お風呂っ!? まさか操、一緒に入るとか言うんじゃないでしょうね!」
「……そのつもり」
「ダメっ! ダメダメっ! そんなこと……許さないんだから」
何故だろうか。
アリスは俺のほうを見ている。
いや、俺を睨みつけている。
「違うぞ? 俺が誘ったわけじゃないからな!」
「ふんっ! どうだか。それに、誘われたとしても、それにホイホイついていくようなこと、まさかしてないでしょうねっ!」
「うっ……」
図星だった。
外山の襲撃が無ければ俺は操と風呂に入っていたのだ。
「……それなら、あたしも入る!!」
え?
「お、おい、正気か?」
「だって! だって……仕方ないじゃない。操に取られちゃう……」
最後のほうは消え入っており、その小さな声は俺には届かなかった。
「落ち着こう、なっ? アリス、そんな自分を安く売るような真似は止そうぜ」
「うるさいわねっ! 入ると決めたからには入るのっ!」
と、もう服に手を掛ける。
「わわっ! 待てって!」
どうしよう……。
このままだと、狭いバスルームの中で、女の子二人に密着して、大変なところが大変なことになりかねない……。
何か、良い方法はないのか?
いや、風呂に入るのは願ったり叶ったりなのだが。
アリス、それに操は、もうすっかり風呂に入るつもりだ。
この俺と一緒に。
開き直ることもありだ。
事実、操とは一時、流されるままに風呂へ行こうとした。
それがアリスも一緒になったからと言って、何も変わらないのではないか?
以前、裸を見られているし。
しかし、こちらが裸を見るのは、どうにも申し訳ない気持ちになってしまう。
と、ここで俺にもひらめきがあった。
「あ、あのさ、これ、使わせてくれない?」
「え、それって……」
「……それが望みなら」
「あんた、そういう趣味だったの? まあ、別に良いけど」
二人は了承してくれた。
俺はゆっくりと装着した。
アイマスクだ。
俺は強制的に視力を奪われた状態になる。
最早、彼女たちの成すがままだ。
脱衣すら委ねて、もう好きにしてもらおう。
「あんたの服、重たいし、脱がせづらいわね……」
革製だからな。
「……汗、かいてる。はやく流さなきゃ」
素肌を撫でるように這った手のぬくもりは、おそらく操の物だろう。
——母さん、俺、男になります。




