来賓
ダブルトレードが再び俺に接触する機会を窺っている。
それは想像出来た。
第一壊滅の今、ダンジョン対応は第二、第三が担っているのだろう。
しかし、一等級ダンジョン攻略は場数が違いすぎた。
第一なきダブトレは、痛手を負っているが……。
「藤堂さんを取り戻すことで、全てが帳消し。それどころかお釣りまで来ちゃいますね」
「……そういうことになるかな」
「ところで、いつまでそうしているつもりなんでしょうかあ?」
俺も同感だった。
未だに両腕は枕として下敷きとなっていた。
「如月さん、助けて。俺、今『絶対服従』状態で……」
そういうことですか、と言い如月は手際良く二人の小娘を起こした。
手際良く、と言ったが、それはほとんど暴力であった。
「な……に? あ、おはよう兄さん」
「うーん、まだ……もう少しだけ……」
はっきり目覚めた美奈に対して、お姫様はまだ微睡んでいた。
「さあ、お二人とも起きてくださいねえ。藤堂さんはこれからお仕事ですから」
お仕事?
「お、おい、これからなんかやらされるのか俺」
もちろん、と笑顔を向けてくる如月であった。
「管理局のセキュリティを破る危険因子は徹底的に叩きますよ。完膚なきまでに」
如月がムキになるのも無理はない。
これは、国家転覆を企てているとされても言い逃れの出来ぬ行為だ。
操はすでにあの格好であった。
黒を基調とした衣装、口布、後ろで髪をまとめている。
「みさおさんは藤堂さんの尾行をお願いします。藤堂さんは適当に街をぶらぶらしてくれればいいですから」
また俺は拉致されることになりそうだ。
あまり気は進まないが、これも長い目で見れば俺のため、そして美奈のためになる。
「兄さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。あいつら、気絶こそさせてくるかもしれないが、命は取ろうとしないから」
俺を殺してしまうと、すべてが水泡だろう。
その点においてはあの会社に対し、信頼を寄せて良いだろう。
「では、早速いってみましょうか。耳にはインカム、映像もばっちりですから。彼らの全てを暴いてやりましょう!」
何故か元気の良い如月であった。
と、アリスが急に手を握ってきた。
「あのね……気をつけなさいよっ」
俺は優しく握り返して、
「わかってるさ」
と、言った。
大きな黒壇の机に体をもたれ、坂井田は薄い笑みを浮かべていた。
「動き出した……動き出した! ククク、無理っ……! 無理無理っ! 国、政府、管理局がどれだけのものかっ! 我々を敵に回すとどうなるか!」
応接用に置かれたテーブルには宇宙人を模したマークが怪しく光るノートパソコンがあり、それを操作する者が居た。
もっとも、彼は応接セットの一部であるソファに寝転んでいたから、傍から見れば操作しているとは思えぬだろう。
「坂井田さん、オレ、昼はカツ丼がいいっス」
その言葉の裏を読んだ坂井田は、
「ククク……カツ丼でも、うな重でも、なんでも構わんよ……」
と笑みを強めた。
俺はひとりきりで、以前と同じように歩いていた。
出歩く場所はどこでも良いと如月に言われたが、目的地の無い散歩は苦痛だった。
「もっと俺が年を取ったら、意味無く散歩するのも悪くはないと思うんだろうな」
それに、操が後ろを付けている、というのも窮屈な要因の一つだった。
離れては居たが、確実に後ろを付いて来ているらしい。
昼夜問わず光る立て看板を見る。
「ふむ、二回転で1600円か……安いな……」
思わず口に出していた。
「息抜きにはなるかもしれませんが、今回も管理局との契約の上で動いているので、そういうお店は入らないようお願いします」
耳に付けた小さなイヤホンから如月の声がした。
「わかってるよ……」
おずおずとその場を離れる俺だった。
しかし、待てども目当ての遭遇は訪れない。
歩くのも飽き、古書店の表に出ているワゴンの中を覗いてみる。
「おや、これは……」
美奈の好きな作家の本があった。
そういえば俺、告白されたんだよなあ……。
これからどうすれば良いのか、と少し思案していると、
「おい、藤堂だな」
と、声をかけられる。
振り向くと、特段武装をしているわけでもない黒服が二人居た。
「あんたたち……そうか。全部わかっていたのか」
今回は俺を無理に連れて行く必要がないと、彼らもわかっていたのだろう。
特別な拘束も無く、俺はただ彼らに付いて行く。
これは思っていたより面倒かもしれないと思う。
道中、路上駐車されたセダンに乗せられ、ダブルトレード本社までやってきた。
まさか本社に連れてこられるとは思いもしなかった。
それは、奴らの自信の現れかもしれない。
さて、車での移動だったが、操は付いて来れただろうか。
俺は促されるままに、社内に入る。
まさかまた正門からここに入るとはな。
「今回は以前とは違い、正式なゲストだ」
そう言われた俺は、首から入館証をぶら下げた。
「何がゲストだよ。どうせそのうち拘束するんだろ?」
「貴様を拘束する理由があればそうするさ。しかし、お前は人が居れば何も出来ない。全く脅威でもなんでもないからな」
俺は最強だったが、唯一の弱点がそれだった。
完全に「独り」でなければ能力を発揮出来ない。
それを知られていると、やはり自然と身動きは取れないのだった。
長いエレベーターが終わり、とあるフロアへ通される。
所属していたときは近寄ることもなかった場所だった。
高級なホテルを思わせる内装は、おおよそ会社には似つかわしくないものだった。
「金持ちの趣味っていうのは、どこも想像通りっていうか……」
ドアをノックする黒服は、
「坂井田様、連れて来ました」
と、短く言う。
顔を見合わした黒服同士だったが、やがてドアは開かれた。
「……坂井田」
「……ククク、久しぶりだね。藤堂くん」
坂井田の座る机より前に人影。
ソファに寝転ぶスカジャン姿の男。
「え、誰?」
俺が目線をくれてもこちらを見ようともしない。
「彼は……紹介しよう。我が社きっての情報通でね。色々とやってもらっているんだ。色々とね」
こいつがあの開発の新入社員か。
凄腕ハッカー。
見た目は古いチンピラみたいだが、人は見かけによらないとも言うしな。
「お、孤立補正保持者、藤堂さんじゃないっスかあ……いや、正体不明の能力者ね。今は管理局の切り札ってところっスかね」
奴はパソコンにまた目を落とし、小さく口笛を鳴らした。
感じの悪いやつだな。
「ま、座ったら? 今日、何しようとしているか大体わかってるっスよ? あ、自分、外山って言います。外は外道の外、山は両目が潰れた元第一隊長の山中さんの山っスね」
感じが悪いんじゃない。
悪い奴だ。




