同衾
我が妹は、面倒な図書室室長と共に、秘部の公開を頑なに要求してきた。
見せればいい?
いや、そんなことは出来ない。
相手は妹だ。
「とりあえず落ち着こう。な?」
俺は一度悪い流れを断ち切りたかった。
「わたしは落ち着いてるよ、兄さん」
無駄だった。
「もう、じれったいわねっ!」
と、アリスまでもが何故か加勢している。
「あっ、アリス、頼むから能力は使わないでくれよ?」
「なんでよっ! あんたがいつまでも煮えきらない態度だから、こっちも困ってるのよ!」
本来、こんなことで困るもないと思うのだが……。
「なあ、美奈。仮に見せたとしよう。でも、話を聞くのと実際に見るのじゃ、全然違うと思うんだ。つまり、実物が想像より大きかったら、どうするんだ?」
今のところ、シュレディンガーのペニスであるその秘部は大きいとも言えるし、小さいとも言えた。
「大きいなんて、あり得ないよ」
皮、被ってるんだもんね、と加えて言う。
あり得ないとまで言われてしまうこの悲しさよ。
「いや、とりあえず今日はもう遅いし……ほら、もうこんな時間なんだから」
と、俺は壁にかかった時計を見た。
ここで、はっとした表情になったのはアリスだった。
「ちょ、ちょっと! もう門限の時間になるじゃない!」
門限?
そんなものがあるのは学生寮くらいだと思っていたが。
「うちは……管理局は、徹底的に情報漏洩を防ぐための施策がうるさいのよ。女子寮は特に、時間を一分でも過ぎれば、マスターキーと、権限を持つ者の指紋でしか開かないのよ」
それは初耳だった。
「おい、それじゃあアリス、美奈を連れて、さっさと帰ってくれよ」
「……もう、間に合わないわ」
え?
じゃあふたりとも帰れないってことか?
「お、おい、それじゃあ今日は……」
「ここで寝るしかなさそうね」
俺は頭を抱えていた。
面倒なことは続く。
「ねえ、兄さん。大丈夫そうだよ。このベッド、ダブルくらいあるし、大丈夫だと思う」
何が大丈夫なのか。
「まさか、一緒に寝るとか言わないよな、美奈」
「え? そうだけど……何か問題あるの、兄さん」
問題、大有りだろ。
「ちょ、ちょっと! あたしはどうするのよ!」
アリスは現実主義者なのか、自分の寝床を心配していた。
「うーん、仕方ないよね……わかった。いいよ。兄さんが真ん中になって、両端にわたしたちが寝る」
わかったってなんだ。
お前が決めることなのか。
「ええ、狭くないかしら?」
「狭くてもいいでしょ? お互いくっついて寝ればあったかいし」
勘弁してくれ。
「おい、美奈はともかく、アリスは俺と一緒に寝るなんて嫌だよな?」
「えっ? うーん、嫌ってほどじゃないわよ。それに、ちゃんとお布団で寝ないと体の調子が悪くなるから……で、でも! 仕方なく、だから!」
あれー?
これは、俺がどうにかしないと女連中は、一緒の布団で寝ることを敢行しかねない状況だ。
それだけはなんとしても食い止めたい。
「アリス、いや、室長。図書室では寝れないのか?」
「うーん、一応寝れなくはないけど、あんなところで乙女が一人寝るのはちょっとね……緊急時ならまだしも」
今がその緊急時ではないのか。
布団で寝たかったが、仕方ない。
「わかった。それじゃあ、ベッドは君たちが使いなさい。俺はそこのソファで寝るから」
明らかに不満そうな表情を浮かべる美奈。
「えー? 兄さんと一緒が良いのに」
「もう、わがままだな。今度な。今度寝てやるから」
俺はおずおずとベッドから身を起こす。
でも、とアリスが言う。
「今日、ダンジョン攻略してきて疲れているでしょ? 今日はベッドを使ったほうがいいわよ」
使えるならそうしたいよ!
「そうだよ兄さん。今日はちゃんとしたところで寝よう?」
美奈も悪気無く言ってくる。
寝たい気持ちはやまやまだったが、やはり俺には女の子二人に挟まれて寝ることは、刺激が強すぎる。
美奈は俺に好意がある。
そうなると、いつしか理性のタガが外れて「ええじゃないか」ということになりかねない。
一方、アリスはさっきの余韻みたいなものがある。
甘美な香りに誘われて、大変なことになってしまう。
どちらにせよ、正常で居られる自信がないのだ。
兄さん、と口を開いた美奈であった。
「わたしたちは、一緒に寝ても良いって言ってるんだよ? それなのに、兄さん一人だけそうやって嫌がってるのはどうしてなの?」
あけすけに言える理由ではなかった。
「そうよ。なんであんたはそんなに拒んでいるのよ」
ぬいぐるみを強く抱き、鋭い視線で俺を見るアリスだった。
なんでこんなことになるんだ……。
観念した俺は、二人が一緒に寝ることを諦めてもらえるよう説明をすることにした。
軽蔑されても、この際は構わぬとの思いもそこにはあった。
「あのねえ、俺は男なんだよ? 男と女が同じ布団で寝るっていうのは、お前たちはどう思っているかはわからないけれども、俺にしてみればそれはもう、そういうこと、なんだよ。しかも、くっつくしかない距離感ってことは、間違いが起きても仕方ないわけ。わかる?」
きょとんとした顔の美奈。
そしてアリスは目を逸らしながらも紅潮させた顔はよく見えた。
「兄さん、心配はいらないよ。わたし、気にしないよ?」
俺がするって言ってんだろ。
「べっ、別に! 別にそういう気持ちになるのは……あんたも男だし、わかってるわよ……」
わかってて敢行しようっていうのか。
「さ、もうわかったから。兄さん疲れたよね。ちゃんと眠れるようにするから、ほら、お布団入ろ? はっ! 今、思い出した! 兄さんが隠し持ってた本で、ハーレム? みたいなやつあった! 妹と、妹の友達をやっちゃうみたいなやつ! あれも折り目が付いてたような……。うん、わかったよ兄さん。捧げるね。それじゃ『妹と付き合うことになったけど、その友達からも誘惑されて、結局肉便器契約を二人とも結びました』連載開始だねっ!」
「だから、なんで官能小説なんだよ! お前はえっちなのは苦手じゃなかったのかよ!」
「ちょっと! そこまでハードなのは抵抗あるわね。もう少しライトなやつがいいわ」
「どんな要求だよ!」
「え、でもアリスちゃん、タイトルこそキツめだけど、読んでみると意外とソフトだよ? 和姦だし」
もう、こいつらはダメだ……。
押し切られる形でベッドに川の字になる俺たちだった。
左側を向くと美奈がおり、すでにすやすやと眠っている。
デリケートだと思っていたが、その実、こいつは神経が図太いのかもしれない。
右側を向くとアリス。
アリスは俺に背を向けるようにしていた。
しかし、体はしっかりと密着しており、身動ぎでもすると、
よからぬ所を触ってしまいそうで怖い。
はあ、なんでこんなことになるのか。
……それにしてもいい匂いだ。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
俺は体の向きを変えることさえ厭われ、セルフ金縛りの態となっていた。
それで、いい加減疲れてしまったから、少し体を動かしたかった。
当然、誰にも触れることがないよう慎重に、だ。
しかし、思惑とは違い柔らかな何かに触れてしまう。
「ひゃうっ……」
ん、今、声が。




