告白
出したかどうか。
俺は局部を露出してはいなかった。
だから、
「いや、出してないよ!?」
と言ったのだけれど、その言い方がまるで出したのに出してないと言い張っている風になっていると思ったのは、口に出してからであった。
「え、出してないんですか?」
出していて当然かのように聞き返してくる如月だった。
「あくまで、出そうとしただけだよ!」
「本当ですか? あの時、わざわざカメラのアングル変えたんですよ。あっ、藤堂さん、おちんちん出すかもって思って」
その配慮は嬉しかった。
「ねえ! 何なのよ、出したとか出してないとか! そもそも……どういうことなわけ? そ、その……アレを出すとか出さないとか」
アリスが前のめりに聞いてくるが、顔はすっかり紅潮していた。
「実は、これにはアリスが少し関係しているんだ」
俺はこれから話すことで糾弾されやしないか、心配ながらも話してしまうことにした。
「えっ? あたしが?」
「ああ、アリスは今まで何度も俺の……まあ、その、大事な所を見てきたと思う」
探偵小説の推理パートみたいだと思った。
皆の注目する中、話すのは少し苦手だった。
「べっ、別に好きで見たわけじゃ……! というよりもあんたが勝手に出してただけじゃない!」
「ああ、その通りだ」
普段よりも男前の声で言った。
「俺は勝手に出していたし、出されていたときもあった……その度にアリスは良いリアクションをしてくれたな」
ここまで言うと、アリスは何か思い出したかのように、また顔の赤みを上昇させた。
「……そっ、それがどうしたのよ」
「レディドラゴンが初めて現れて、偵察部隊を操ったとき、思ったんだよ。アリスみたいな能力だなって」
アリスの能力『絶対服従』は全てをコントロール出来た。
レディドラゴンの場合は意識を操作するに留まっていたようだが。
「何が言いたいのか、全然わからないんだけれど……」
如月が口を挟んできた。
「つ・ま・り、アリスの弱点と、レディドラゴンの弱点を重ねて考えてみた、と。そういうことですね、藤堂さん」
相手を自身の思うがままに操作するということは、自らの意思に反した行いがあった場合、破綻し、混乱を生むのではないか。
「そう、単純に困らせてやろうと思ったわけだよ。ただ結果としては思いの外強力に作用してくれたけどな」
俺は椅子に深く座り直した。
「……なるほどね。わかったわ。あんたの役に立ってたなら、よかった……わよ」
落ち着きを取り戻したアリスは、ようやく納得がいったようだった。
「アリスも人の役に立つことがあるんですねえ」
言わなくても良いことを如月が言った。
「なっ、何よそれ! あたしはいつも役に立ってるわよ!」
それが口火を切るような形となって騒がしくなる。
俺への糾弾がなかったことは幸いだった。
そして、日常を感じた。
このまま平和に暮らせないもんだろうか……。
その後も如月の調査というよりも取り調べと言ったほうが良い、そんな聞き込みが続いた。
突然披露した俺の新しい技、ラーニングについて興味津々といった具合。
詳しく話そうにも、あれは偶然の産物というか、自分でも咄嗟に出来たことだから、思わず困ってしまう。
「今まであんなことは出来たことないけれど、まあ『孤立補正』の能力の一つだろうとは思う」
ふむふむと頷き聞いてくれる如月だったが、もうそれ以上言えることはない。
「でも、竜殺波、ですか? あれが使える限り竜族に負けることはないですねえ」
便利ですねえ、と感心していたが、
「いや、でも、ラーニングはしたとしても、いつまでその技を使えるのかはわからないぞ。もしかすると短時間で使用出来なくなるのかもしれないし……」
と、俺が言うと「確かに……」と少し考え込む。
「……それじゃあ、あと一回だけ、どうですか?」
「は?」
「ですから、あと一回、管理局から出動してみてはどうでしょう」
悪くない提案だった。
いや、本当のところはそれを望んでいたのかもしれなかった。
「……いいけど」
「えっ、本当ですか? やったあ。これでまだ藤堂さんのこと、いじめられるんですね」
やっぱりやめようか。
俺は、今回の戦いで得られたものがたくさんあった。
それらに目を向けると、全能感のようなものが湧いてき、心は充足した。
しかし、気になるのは八竜というものの成り立ちというか、その存在はなんであるか。
八竜について知りたいというのは管理局全体に流れる空気には違いなかったが、それにしても頑なにその存在は公には認められていないという謎があった。
管理局、そして政府が何を気にしているのか。
考えても答えが出るものではない。
そんな取り留めもないことを考えていたとき、
「兄さん、今、いいかな」
と、扉が開いた。
「ああ、どうした。美奈」
美奈は以前、管理局に保護されてからは、アリスや操が住まう、女性専用の寮のようなところに居たらしい。
男子禁制を敷かれ、近付くことも許されないため、俺からは美奈に会いに行くことは出来なかった。
「あのね、ちょっと相談というか……聞きたいことがあって」
美奈は赤みがかった髪を少しかき上げて言った。
「相談? まあ、あんまり力になれるかはわからないけれど、言ってごらん」
「あのね、ここに来てから、たくさんの女の子と知り合いになったでしょ?」
「たくさんってことはないけど……それがどうかしたのか?」
うん、と言って指先を胸の前で所在なげに突き合わせる美奈だった。
「まだ、ここに居るつもりなの?」
「ああ、仕事の継続を打診されたからな」
そっか、と落ち着かぬ様子。
「どうした。もうここに居るのは嫌か?」
「……ううん、そうじゃないの……。その、兄さんは操ちゃんと、その、付き合ってるの?」
思わず吹き出した。
「な、何を言うかと思ったら……そんなことはない」
小さな声で「よかった」と呟いた美奈は、体を前のめりにして、あのね、と決意に満ちた目で見つめてくる。
「わ、わたしが男の人を怖がる理由は知ってるよね?」
「理由……理由までは知らないけど……」
「あ、あれ? そうだっけ……。でも、とにかく、男の人と、あの……えっちなことが苦手なのは知ってるよね」
それはわかっている。
美奈はとにかく年頃の女子、というのを差し置いても、下ネタとかその類は苦手であった。
「だからね、兄さんが、ここに居て、誰かとそういうことをするのは……嫌なの」
「……それは、どうしてだ?」
言い終わった瞬間にビンタされた。
「痛っ……どうして」
「妹にえっちなことを言わせようとしたから……ごめん」
してないのに……。
「操ちゃんが、その、見たって言ってたんだけど、それは本当のこと?」
「見た? 見たって何をぉ!」
またビンタされる。
「……また言わせようとした。兄さん、わざとやってるの?」
頬を押さえながら俺は、ああ、あれか、と合点がいった。
「あれは、確かに操は見たけど……待て! 見せたんじゃないぞ! 勝手に見たんだよ、アリスと操が勝手に部屋に入ってきて、そのとき、あの、あれだ。着替え……? そう、着替えているときで」
嘘をつきました。
「ア、アリスちゃんにも見せたの!?」
「いや、だから、見せた、じゃなくて、見られた、のほうが正しくて……」
どっちでも! と急に俯いて大きな声を出す美奈だった。
「と、とにかく二人は見たんだよ、兄さんの、その、兄さんを! 妹のわたしも見てないのにっ! だ、だから、見せて。わたしにも見せてほしいの!」
我が妹ながら歪んだ告白だった。




