分析
心に汗をかいていた。
正直ギリギリだった。
しかし、この戦いで得たものは大きい。
追い込まれれば追い込まれるほど、俺は強くなる。
やはり俺は最強なのだ。
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《正体不明の能力者、単独で災害級ダンジョン攻略、これで二度目か》
《この人と戦う魔獣って調べても出てこないんだけど》
《管理局、こいつの正体と言い、災害級ダンジョンの詳細と言い、隠してること多すぎじゃね?》
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「はーあ、批判の声ご尤もだ。いつまで隠しておくつもりだ? 八竜と、藤堂のこと」
広瀬は配信で上がった声、もといコメントを眺めて言った。
「まあ、いつかは公表しますけどねえ……でも、藤堂さんに関しては本人次第じゃないでしょうか」
如月は一仕事終えたとして、アリスと共に紅茶をゆったり飲みながら言った。
正体を明かすためには、管理局所属の能力者になる必要があった。
何故その必要があるのかというと、ひとえにそれは、国家としての都合からであった。
「自由の身が良いってのはわかるけどねえ……あいつはもっと現実を見たほうが良いな。天涯孤独ならまだしも、妹が居るんだろ?」
「そうですねえ、美奈さんが今後なにかに巻き込まれる可能性もありますからねえ」
目を細めて紅茶をすする如月は、それよりも、と続けた。
「私は回収が出来なかったことのほうが問題だと思ってますけど」
如月はレディドラゴンの亡骸を手に入れられなかったことを残念に思っていた。
どういうわけか、レディドラゴンは俺の放った竜殺波を受け、倒れたその後、細かい粒子のように消えてしまった。
討伐完了のアナウンスはあくまで生命体の消失によって流されただけである。
死に至ったかどうかはわからないのだ。
それだから回収の必要があるとは言われたのだが……。
如月のことだ、その死体を徹底的に調べるんだろう。
戦いにより消耗していたが、その他に痕跡はないものかと探す。
結果として、何もなかった。
その存在がまるで嘘のように、文字通り消えてしまった。
「さて……」
ダンジョンが閉じる前に退却しなければな。
俺は、放送の終わったカメラを引き連れてその場を後にした。
管理局に戻ると、見慣れた部屋に見慣れた面々が揃っていた。
「おかえりなさい。藤堂さん」
如月は俺の無事を心から喜んでくれているように見えた。
「帰ってきたわね! よくやったわ……その、褒めてやってもいいわよ!」
アリスは労いの言葉を素直には言わないらしかった。
「……けっこう、心配、した」
操はそう言って、少しだけ体をぴたりとくっつけてきた。
猫みたいだな、と思った。
そしてそれを見たアリスが何故か苛々していた。
日常って感じだな……。
帰ってきたって感じ……。
こういうのも悪くないかもしれないと思ったときだった。
「ところで藤堂さん、レディドラゴンの回収が出来なかった以上、資料になるものは藤堂さんの記憶くらいしかないのですが……」
ふむ、確かに違いない。
「ですから、今回の戦闘について教えていただけますかあ? ぜひ、詳しく」
いいよ、と軽く言ったあとで気がつく。
誘惑の内容とかも言わないとダメなのかしら。
もし、そうだとしたら、ちとまずい。
内容が内容なだけに少し困るな。
「それは、今、話したほうがいいのかな」
「ええ、なるべく記憶が新鮮なうちに」
そうですか。
「それは、如月さんにだけ言えばいいのかな」
「いえ、図書室も分析班ですから、アリスとみさおさんにも聞いていただきますよお」
……そうですか。
腹を括った。
あれは俺の願望とかではないし、勝手に向こうが仕掛けてきたわけだから、俺は悪くない。悪くないよね。
「まず、レディドラゴンは誘惑のドラゴンと呼ばれていましたが、それについて。なんか誘惑はありましたか?」
「……あった」
「へえ、それはあの、レディドラゴンに触れたときのことですか?」
「……うん」
どんどんと触れられたくないところへ侵入してくる如月であった。
「なるほど、ではどんな幻想を見たんです?」
「……あー、非常に言い難いのだけれど」
「? なんでしょうか」
「誘惑されたんだよ、女に」
ああ、と何か悟ったような返事をする如月だった。
これ以上、詳しく聞いてくるなよ、と思っていると、
「その女、というのは知らない人でした? それとも知っている人?」
核心に迫りつつある如月であった。
「……知ってる、女の人でした」
我知らず敬語になる。
「ほう、そうでしたか。誰ですか?」
「いっ、言わないとダメでしょうか」
「はい」
笑顔で契約書の写しを差し出し、そこに書かれた「ダンジョン攻略にあたって確認した現象、及び仔細な情報の提供に惜しみなく協力すること」という欄をボールペンの尻で指す。
「はあ……わかったよ」
俺はバッシング覚悟で細かく説明した。
最初にアリスが出てきたこと。
好きにしていいと言われ、誘われたこと。
次に操が現れ、メイド姿で奉仕すると誘われたこと。
最期に如月がドスケベ淫乱女上司〜昼下りの情事〜みたいな感じだったこと。
全てを観念し、話してやった。
それらに対する反応は様々であった。
アリスは、
「なっ、何よそれ! あんた、そんなこと考えてたの!? サイテー! 最低よっ! あたしが二人きりになりたいなんて誘うわけないじゃない! ほとんどあんたの願望じゃないのよ! この、スケベ! 変態!!」
と、ひどい言われようだった。
操は、
「……別にいいけど……メイド服、もってない」
買ったほうが良いか聞いてきたので、俺はやんわりと止める。
如月は、
「あらあら、藤堂さんの屈服させたいって気持ち、わかりますよお。私にはやられっぱなしですもんねえ」
と、ずっと笑顔だったのが却って恐ろしかった。
「あのねえ、これはあくまで、幻惑を武器とするレディドラゴンのやったことで、俺が普段からそういうことを考えてるとか、願望とかじゃないからな。確かに操にはメイド服着てもらいたい気持ちはあるけど、アリスに誘われたって別について行かないよ。そんな、お子様なんかにホイホイついて行ってたまるかよ」
「なあんですってえ! 誰がお子様なのよっ!」
俺はやれやれと肩をすくめた。
「ま、まあ、内容に関しては後ほど深堀りしましょう。それと、最後の方の幻想は違ったんですか?」
「ああ、最後は幻想世界に閉じ込めたと言われたな」
アリスはまだなんか言ってたが、誰も気にしていなかった。
「でも、その幻想世界からは……ああ、前に言ってたことですね。弱点の話」
そう。
俺はここで映像を見ていたときレディドラゴンに対する仮説を立てていた。
しかし、その話はちょっとタイムリーというか、なんというか、今はしたくなかった。
それにまた糾弾されそうだった。
「で、最後は結局出したんですか? おちんちん」
如月の一言に皆、固まる。
口を開いたのはアリスだった。
「こ、この……変態!!」
確かにあれは俺の意思だった。




