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追放された無能能力者の俺、 実は一人になると最強でしたが配信事故で世界にバレちゃいました  作者: 桃山ハヤト


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動揺

物事には少なからず理由というものが存在する。

好きな食べ物を聞かれ答える。

味が好き、匂いが好き……なんとなく好き。

理由も無く好きということは、全くないことではないが、ごく僅かの物事に限られる。


暇であった。

ソファに横たわり、意味もなしに管理局の新卒求人者向けのパンフレットなぞを眺めつつ、情報は右から左に流れていくものの、それをするより他がない。

ちら、と横を見るとドストエフスキーという作家の小説を読んでいる操が目に入る。

「……どうしたの」

本から目を逸らさずにそう言った。

「いや、別に……操、仕事は大丈夫なのか?」

「大丈夫。これがしごと」

どう考えても仕事ではないと思うのだが、本当に管理局の図書室は機能しているのだろうか。

「でも、本を読むならそれこそ図書室のほうが良くないか?」

「……ここのほうがいい」

「……そうか」


俺は女の子と同じ部屋で二人きりという体験を、あまりしてこなかったから、なんというか、気まずい。

しかもあまり喋らない女の子となると、それは顕著だった。

戸惑いながらも仕方なしにまたパンフレットを眺め始める。

――それにしても、操は美少女であった。

当初は口布を着け、髪を束ねた姿だったが、今は普段の格好なのだろう。

髪は下ろしており、当然口布はない。

短めのスカートと、白いブラウスの上に淡い緑色のカーディガンを羽織った姿だった。

目鼻立ちも良く、小さいながらも鼻梁の通ったその鼻筋は完璧で、瞳は不思議な魅力を感じさせる大きな深緑であった。

胸は控えめながらも、その体つきは最早大人らしく成熟したもので、スレンダーな全体のシルエットと、しっかりと主張するくびれは、思わずごくりと唾を飲み込んでしまう迫力があった。

それら外見上の嬉しさに加えて、性格はまだわからないものの、やはりどこまでも無口なところが目立つ。

寡黙な美少女というのも悪くなかった。

ただ一つ、寂しいところを上げるとすれば、表情の乏しさだろう。

笑顔なぞはもってのほかで、それ以外の、人が本来発露させるであろうその他様々な感情は、まるで存在しないかのようであった。

しかし、それを以てしても有り余るほどの愛嬌は、一体にどこから発せられるのか。

色々と言ったけれど、今の俺はとにかくスカートから伸びる細くか弱そうな白い足が目に入る度に、妙な気を起こしそうになる。

それだから、見るべきところも集中すべきところも見つからないパンフなぞでは間が持たないのだった。


俺も何か集中出来るものが、それこそ操が読んでいるような本が手に入れば……。

いや、図書室には本がたくさんあるはずだ。

そう思い立ち、

「なあ、操。俺も本が読みたいな」

と、図書室の案内を乞うつもりで言ってみた。

すると操は、少しの思案の後で、

「……わかった」

と言いながら席を立った。


お、案内してくれるのか。

そう思い、俺もソファから起き直り、座面に尻を付けた。

こつこつと歩き、近づいてきた操は俺の横に座る。

「……は?」

「……一緒に、よむ」

体を寄せ、肩が触れ合う。

操は本を開き、

「今、ここまでよんだ」

と言うだけ。

確かに俺も本が読みたいとは言ったが、このような展開になるとは思わず、一気に体が硬直した。

……めっちゃいいにおい。

それは女子特有の甘い匂いだった。


「……この場面は協会にみんな集まってるところ。人々の思惑が飛び交う……おもしろいところ」

「そっ、そうなんだね」

もうほとんど息がかかるほどの距離である。

傍から見ればそれはもう仲睦まじい二人に見えただろう。

しかし、実体は童貞男子とクールな美少女が間違ってこうなってしまったというだけ。

頭がくらくらしてくる。

当然、本の内容など入ってきやしない。

でも、待てよ。

大学生の知り合い曰く、流れでなんとなくそういう感じになり、そういうことになった、という話をされたことがあった。

その話を聞いた俺はこれ以上ないくらいに悔しく、大学はせめて行っておけばよかったと大変な後悔をしたものだった。

しかし、今は、まさになんとなく良い感じだし、俺も操も若い。

若気の至り、という言葉もある。

別に、いいんじゃないか?

どうも、操も俺に対して抵抗はないようだし、これは、別に、いいんじゃないか?

頭の中では「ええじゃないか運動」が繰り広げられており、その波に今にも飲まれてしまいそうだった。

「操、俺さ……」

そのとき扉が開く。

「ねえ、操知らないかし……らっ……」

時が止まったように誰も動かなくなった。


――そして、時は動き出す。

「ちょっと! あんた何してんのよ! 操のこと、いくらおとなしいからって、そうやって手籠めにしようとしてたわけ!?」

俺は自然と引きつった顔でアリスに向き直り、

「ち、違いますよ」

と言ったのが精一杯だった。

「操も何よ! くっついちゃって、どういうことなのよ!」

操はアリスのほうへ無表情でピースサインをしながら、

「……らぶらぶ」

と言った。


その後、俺と操は何故だか知らないが、アリスからのありがたいお説教を受けていた。

「で、何してたわけ?」

「何って、何もしちゃないさ」

ふーん、と半ば軽蔑を含ませた視線を送られていたたまれなかった。

「俺たちは本を読んでいただけ。なあ、そうだよな、操」

「……一緒に読みたいと言われて……そのあとは……」

「含みがあるような言い方をするなっ! そのあとは普通に読んでただけだろ?」

「……らぶらぶ」

「〜〜っ!!!!!」

アリスが赤面しながら怒りを露わにした。

「あんたねえ! 乙女にちん……おち……あれ! あれを見せるだけでも重罪なのに、今度は実際に手を出すなんてサイテーよっ!」

「手は出してないってば!」

俺は懸命に否定をするのだが、操のせいで埒が明かない。


「あら、皆さんお揃いですね」

そこに如月がやってきた。

これはまた面倒なことになりそうだぞと身を構える。

しかし、如月はこの状況を無視して話し始める。

「先程、ダンジョン発生のアラームが鳴ったと思うんですが……」

全く聞いた覚えがなかった。

俺もアリスも同じく目をぱちくりさせるだけだったが、操だけは静かにこくりと頷いた。

「規模はまったく話にならないくらい小さいのですが、妙なんですよねえ」

「妙? 妙とは……」

「大きさに反して出てくる魔獣のレベルが非常に高いものばかりなんです。偵察部隊からの報告によると深部には二体のガーゴイルが居るだけで、主らしい主も居ないんです」

ダンジョンを発生させるだけの力を持つ魔獣が見当たらないのに、ダンジョンが出現するのは確かに妙だった。

「今までにそういう例はあったのか?」

「いえ、少なくとも私は知りませんね」

ここでアリスが口を開く。

「それって……ガーゴイルが居るって言ったわよね?」

「ええ、ただ、そのガーゴイルが魔石を所持した魔獣というわけでもないですし……」

「つい最近読んだ八竜関連の本があってね……それに書いてあった気がするわ!」

ということは……。


アラームがけたたましく鳴った。

『都内に発生したダンジョンは大きさを増し、魔獣が放たれるおそれあり。ただちに対応願う』


「なあ、これってまさか……」

「ええ……そのまさかよっ!」

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