小箱
【八竜】謎の能力者【最強】
風吹けば名無し
武器も持たずに単独で災害級ダンジョン攻略を完了させた謎の能力者について語ろう
風吹けば名無し
そもそも能力自体はなんなの?
魔法みたいな特殊なこともないよね?
本当にただ殴ったり蹴ったりしてるだけじゃん
風吹けば名無し
ダブトレのクビになったやつって話が有力だけど、あんなに強いのになんでクビになるわけ?
俺は別人だと思うな
===
こいつら、好き勝手言ってるな。
如月に「見ないほうがいいと思いますけど……」と言われたもののネットの掲示板をつい見てしまった。
これをいわゆる「エゴサ」というらしい。
自分の評判等を知りたい有名人が行うそうな。
しかし、正体不明というのは少し格好が良いな。
「えー……これより公共安全管理局による記者会見を行います。質疑応答はこの後行いますので、質問等は後ほどお願いします」
「はい、皆様お忙しい中ありがとうございます。
この度の災害級ダンジョンですが、まず始めに申し上げます。
当ダンジョンにおける被害者は二名、民間企業所属の能力者です。
どちらも死亡致しました。
こちらでは社名、お呼び被害者のお名前は発表致しません。
その後、管理局の指示の下、とある能力者の派遣によって討伐、攻略となり、約二十時間後、当ダンジョンの消滅を確認しております。
皆様におかれましては、不安な日々を過ごされたと思います。
その点に関し、心よりお詫び申し上げます。
また、被害に遭われた方の御冥福をお祈り申し上げます」
そんな記者会見が行われたのは、俺がダンジョンから管理局に戻って丸一日経ってからだった。
質疑応答では「とある能力者」というのが主に取り沙汰された。
それに、当初の第一等級ダンジョンという判断に関し、非難が上がっていた。
「管理局も大変なんだな……」
如月が「そうですよお」と笑顔で言ったと思うと、
「そう、大変なんだよ」
と、言いながら近づく影。
公共安全管理局広報課二係の広瀬だった。
彼とは帰還直後からの知り合いとなっていた。
記者会見にあたっての、どうのこうので。
「お前が正体を明かさないって方針で居てくれたのは助かったよ。あれで煙に巻くことが出来たようなもんだからなあ」
広瀬は広報課という課にいるにしては、あまり行儀が善くないほうで、口の利き方もぶっきらぼうな男であった。
「……なんだか利用ばかりされている気になってくるんだよな」
「何言ってんだよ。報酬もたんまりもらったんだろ? 文句言うんじゃねえよ」
沈黙。
「ん、どうした?」
「あの、それが、ですね……」
如月が口を開く。
「契約前にダンジョンに行ってしまったので、今回は、その……報酬の支払いはありません……」
また沈黙。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。最強の能力者は、ただでさえ武器も魔法も使わない筋肉バカだなんてネットで言われているが、本当のバカだっていうのか?」
「そ、そんな風に言われてんの、俺……?」
人知れず涙。
「そうじゃないんです。確かに藤堂さんはバカかもしれません。女の子の前でおちんちん出したり、妙にキザっぽかったり……でも、そうじゃなくて、あのときは色々あって……」
如月がフォローしてくれている。
……フォローだよな?
「そうだよ、俺はあのとき、アリスの絶対ふくうぐっ!」
如月に口を塞がれた。
なんだ、アリスのことは言わないほうが良いっていうのか?
「……それで、これか」
広瀬が指を指した先にある小箱。
「能力者基金 〜恵まれない能力者にカンパしよう〜」
そんな箱がぽつりと置いてある。
「えへへ、これ私のアイデアなんですよお」
照れるところだろうか。
「ふむ……」
広瀬はおもむろにポケットに入っていた小銭を取り出す。
手のひらに置き、指で弾いて選別したかと思うと、そこから十円玉をぽとりと箱の中へ投入した。
「あ、ありがとう……」
一応礼を言ったが、今どき十円では何も買えない。
うまい棒だって値上げしたんだぞ。
「まあ、俺も金ないからな。うまい棒も買えないっていうのはわかるが……」
広瀬は何の気なしに言ったが、違和感があった。
こいつ、もしかして人の心が読めるとか、そういう能力者なのか?
管理局は能力者を束ねている。
ということはその能力者よりも強力な能力を有した者が多く居る必要があるだろう。
アリスの能力なんて勝ち目ないレベルだし。
人の心を読む能力、それが本当なら厄介すぎるだろ。
そして、管理局内で割と自由な如月は未だに役職も知らない。
彼女また強力な能力者なのだろうか。
「……まあ、この箱は半分冗談ですけどねえ。藤堂さんにはお詫びにもう少し居てもらうことにしましたから」
「お詫び? なんだそれは。食い物の支援と寝床の提供か?」
うふふ、と笑って如月は、
「それもありますけど、メインはダンジョンの攻略です。また災害級ダンジョンが出たら行ってもらって、そのときに報酬を支払うって話ですよ」
この話、悪い話ではないと思った俺は愚かだった。
どちらにせよ、あのストーンドラゴン討伐はタダ働きに終わったということに変わりない。
「ふむ、そういうことか。まあ仕方ないか。広報としてはあまり嬉しい話ではないが……」
俺は気になったので聞いてみる。
「あまり嬉しくないって、それはどうしてだよ」
「そりゃ管理局が自前の能力者じゃなくて、外部の人間を使うっていうのはなあ……あまり良い印象は持たれないよな」
「ああ、そういう」
「それにまた災害級ダンジョンともなると解決したところで会見は避けられないからなあ……まあ、次も同じ原稿でいいか」
そう言ってくしゃくしゃの紙箱から煙草を一本出して咥える。
チン、とライターを開ける音がこの話の終わりを告げているようだった。
広瀬が去ったあと、如月が実は、と話を切り出す。
「管理局としてはですね、近いうちにまた災害級ダンジョンの発生が起きるのではという予測がされています。もちろん発生しないこともあるでしょうが、おそらく発生するでしょう」
「随分自信があるんだな」
ええ、まあ、と濁すように答える如月だった。
「八竜は、その名の通り八匹居ます」
過去の文献を調べたところ、ストーンドラゴンというのは当初オーストラリアに存在した伝説の竜だったらしい。
「残り七匹、いつだってこの東京に出てもおかしくないんです」
「残っている竜の中には藤堂さんの手に負えないのも居るでしょう」
「呼び寄せることも出来ますが、自然発生を待ちましょう。藤堂さん自身のためにも、この国のためにも」




