討伐
間合いは十分ではない。
近すぎた。
しかし、こうも近ければかえって相手もやりづらいだろう。
この巨大な体であれば懐に入ったほうが有利だ。
それにしても大きい。
初めて見たとき、第一の配信で見たとき、今までで一番大きく感じた。
まあいい。
「さあ、とっとと終わらせてやる」
構え、渾身の一撃を食らわせる。
自分が自分じゃなくなったような感覚。
強力な右ストレートだ。
感触は岩。
轟音。
ストーンドラゴンは俺の攻撃がヒットする瞬間、岩の中へ入ってしまった。
壁が隕石でも衝突したようにくぼんでしまった。
どこへ行った?
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《カメラやっと追いついたな》
《この壁、この人がやったの?》
《ここの敵って竜みたいなやつ?》
===
ダンジョンの中は奴にとり、どこまでもホームである。
同化するための岩に囲まれているから、この空洞以外はどこにでも逃げ込める。
それだから初めて会ったとき、奇襲みたいなものだったからこそ効いた。
「これは戦い方を考えたほうが良さそうだ……」
岩、石の粒が浮かび上がる。
赤く光っていた。
その赤黒い光は視覚だけに留まらず、やがて熱となり俺へ向かってきた。
「これは……さながらメテオ・アタックでしょうか」
如月が耳元で言ったそのとき、無数の岩々が飛びかかってくる。
まるで俺が引力を持っているかのように一目散に向かってくるのは実に恐ろしかった。
それでも最大限引き付けて、避けた。
岩同士がぶつかり合い粉々になる。
身を隠しながらも岩を操り、こちらに攻撃を仕掛けてくるということは長期戦は避けたい。
やはり早く終わらせるべきだ。
しかし、本体の居場所がいまいち掴めない。
反応速度が上がっているのにわからないということは、無機質な岩、そのものになっているのだろうか。
確かにそれであれば佐川さんの索敵能力が役に立たなかったことが頷ける。
最深部、これ以上どこへ逃げるというのか。
……きっとまだ居るのだ。
そのとき、後ろに気配。
何も考えず振り向き様に殴る。
壁だった。
それでも、感触が違った。
表面は岩そのものだったが、粉砕することなく沈むような感覚。
一心不乱に殴り続ける。
マシンガンのようにただひたすらに殴る。
感触はとっくに岩の壁になっていた。
「くそっ! また逃げられたか!」
風の響きだけがごおごお聞こえる。
「あいつ、何やってんのよ! もう、本当にまどろっこしいったらありゃしないわよ!」
「まあまあ、アリス。藤堂さんは強いけど、ダンジョン攻略は初心者みたいなものですしぃ」
「ちょっと、マイク貸しなさい! ねえ、聞こえる? あんた、ちゃちゃっとやりなさいよ! もっと神経を集中させて、一撃で決めなさい!」
「命令よ!」
……
「――かしこまりました、姫」
一撃は無理だろ、と思いながらもアリスの命令は絶対だ。
どこだ、どこにいる。
そういえば、最初ここに降りたときに居た小さな竜はなんだったんだ。
岩と同化し、その後姿を見せていない。
代わりのように俺の見知ったストーンドラゴンが顔を出したな。
子供?
それとも……。
俺は後者に賭けてみたい。
まだ赤みを帯びた先程の攻撃の跡。
転がった岩。
この岩々を俺は殴り、蹴り、砕いた。
「ちょっと、今度は何してるの? 頭おかしくなっちゃったわけじゃないでしょうね」
「藤堂さんはアリスの命令を守るために、何か思いついたんじゃありませんか?」
懸命に割り、叩き、粉砕する。
もうさっきの攻撃の材料はない。
さあ、どう出る。
洞窟自体が軋むように轟音が響く。
また岩を落としてきたな。
「同じことをやるだけだ」
落下してくる岩、石、全て地面に接する前に破壊してやった。
「まだ、やってもいいんだが……そろそろ飽きてきたな」
さあ、どうする。
次、岩肌が歪む。
竜が姿を現すまでもなく叩く。
岩になる。
無意味のように感じられる繰り返しだったが、今はこれしかやりようがなかった。
「藤堂さん、どうですか? 手応えはありますか?」
「全くないな」
でも、これしかない。
何度同じことをやっただろうか。
洞窟は新たに掘られたように広々としていた。
落ちている岩もなく、テーブルと椅子を置けば静かに暮らせそうだった。
地面に座り込む。
「もう、十分だ。とっとと本体が出てきても良い頃合いだろうに……」
手を置いていた地面がそのとき、ぬるりと動いた。
全身をバネのようにして飛び上がる。
拳を落とすように体勢を変えて、全体重を載せて地面を殴る。
地面にめり込んだ突きは今までと違う感触。
初めてこいつを殴ったときと同じ感覚。
「やっとだな」
攻撃がヒットした合図のように、グオオといった竜の声がした。
「地面に居るのは見当が付いていたぜ。岩を落とすとき、地震を起こしたな。あれは地面に居たから出来たこと。それに、岩を浮かせたな。あれも上から引っ張ったんじゃない。下から、浮かせたんだ」
さあ、終わりにしようぜ、そう言ったところで呼応するように現れたのは、地面全体が竜の形をしたものだった。
「ふん、こんなもの……」
その竜の形をしたものに、一撃を食らわせる。
思った通り、感触は岩だった。
しかし、それも想定の範囲内。
岩を砕くための殴り方を元よりしている。
竜の形をしたそれは、俺の一撃で砕けた。
中から出てきたのは小さな竜。
これがストーンドラゴンだ。
間違いない。
「何よ、この小さいのは」
「これがストーンドラゴン、本体なんでしょうか?」
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《なんかかわいいのが出たな》
《これが災害級ダンジョンのボス?》
《ていうかこいつの怪力やばすぎるwww》
===
さあ、もう面倒なことはおしまいだ。
緑色のエメラルドのような美しい瞳の竜だった。
小さく、弱々しいとさえ感じた。
そんなことは関係なかった。
死んでいった深谷さんと中村さんの仇だ。
全身全霊でぶん殴る。
その衝撃の行方は知れず、広々としたダンジョンを吹っ飛んでいくストーンドラゴン。
壁に当たり、絶命したようだった。
――討伐完了――
公式アナウンスが告げる。
終わった。
「ふん、一撃と言えば一撃ね。褒めてあげるわ!」
アリスの声が耳元でした。
「ありがとうございます、姫」
「それにしても藤堂さん、いつから実体はあれだと気がついていたんですか?」
如月の質問は尤もだろう。
「大きさ、かな。あの竜はいつも大きさが違った。初めて見たとき、第一の配信、今日……。そして瞳がなかった」
「……さすがです。藤堂さん」
さて、帰るか。
「姫、帰還命令をお願いします」
「……ふん、さっさと帰って来なさい!」
「では、山桜に告ぎます。ダンジョンが閉じる前に速やかにストーンドラゴンの回収をお願いしますね」




