09 無能な妹は禁じられる
エルヴィンが魔導士たちを追いたてるように退出させ、気が付けば2人きりになっていた。
「……お義兄様、私は失敗したのでしょうか」
「いいや。お前のせいではない」
エルヴィンは私の両手を取り、そっと掌を開かせた。
そこには、さっきまではなかったはずの淡く輝く紋章が浮かんでいた。
まるで光の蔓草が指先に絡みつくように、金と紫の模様が淡く瞬いている。
「これは……」
「私が、ほどこした。と言っても”停滞”させただけで、気休めにしかならん」
「停滞?」
「大きすぎる力は、抑えることはできない。私にできたのは、氷星で、おまえの魔力の流れを一時的に停滞させ、あの場をおさめることぐらいだった」
言葉の意味がすぐには理解できなかった。でも、義兄の瞳が静かに揺れているのを見て、ただ事ではないことだけはわかった。
「……危険な力なのですか?魔導士の方が言っていた聖女様の力と何か関係が?」
「今は私の口から何も言うことはできない。だが、その力が暴れれば、この国のことわりすら歪むだろう」
えっ、国が歪むって、そんなスケールの話なの!?
黙っている私に、エルヴィンは真剣な顔で続けた。
「アリア、これからは魔力があることを人に言ってはならぬ。たとえどのような人間に聞かれてもだ。そなたが魔力のない娘と、無能な娘とそしられようとかまわぬ――約束できるな?」
その声があまりに静かで、“命令”ではなく“懇願”に聞こえたので、私は思わず頷いた。
「はい、約束します」
ん?思わず約束しちゃったけど、ってことは私、対外的にも「無能な娘」決定?貴族で魔力が無いのってかなりイレギュラーだし、落ちこぼれ感あるよね?――いや、そのほうが縁談が少なくなって、スローライフが近づくのか?
頭の中をぐるぐるさせていると、エルヴィンが目を閉じ、短く息をついた。彼の指先が、まだ私の手を包んでいる。いつのまにか紋章が消えているのに気づく。義兄がまた何かしたのだろうか。その掌の温かさだけが、あの暴れた光を鎮めているように感じた。
どうしてだろう。
この人のそばにいると、いつの間にか安心している自分がいる。
「エルヴィン…」
思わず名前を呼んでいた。顔をあげるとエルヴィンの顔が真っ赤になっている。あ、やっぱりいざ平民の娘に呼び捨てにされると気分は悪いよね。ごめんなさい。無能の庶民がちょっと調子に乗ってしまいました。
「ごめんなさい!お義兄さ…」
「エルヴィンで良い!――ただ、時と場所を考えて口に出すように…急に呼ばれると心臓に悪い…」
え?もしかしてエルヴィンって心臓が生まれつき悪いとか!?何かの病気だったりする!?義妹のためにも長生きしてくれないと困るよ。あなたに負担をかけないよう、私もこれから淑女としてしっかりやりますからね!
「わかりましたわ。私もあなたにふさわしい女性になるよう努力いたしますわ。エルヴィン」
私は、エルヴィンお義兄さまの手をぎゅっと握りしめて、にっこりと笑ったのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
ついに、アリアが義兄をエルヴィン呼びしました……
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