60 旅立ち
行方不明の両親の手がかりを求めて
アリアたちは、隣国セレスティア神聖国へ向かうことに・・・
星冠宮の広間に向かうと、すでに一行が揃っていた。
アレクセイが、私とエルヴィンの姿を捉えた。
「これで、全員だな」
今日は、セレスティア神聖国へと旅立つ日。表向きは文化・芸術の交流。けれど、本当の目的は、私の両親を探すこと。……なんだけど、同行メンバーがエリドゥ帝国のオールスターになっちゃっているのが、おかしい。
使節団代表はアレクセイ第一皇子。
親善大使としてミハイル第三皇子。
魔導院代表として、院長のリュシアン。
護衛に、義兄のエルヴィン。
みんな、自分の仕事をほったらかして大丈夫なのかな?と思って、エルヴィンに聞くと、セレスティア神聖国は元々かなりの秘密主義国家のようで、交易はあっても、交流はほとんど行われてこなかったらしい。今回、神聖国が、使節団を受け入れたのは珍しいことで、皇家にとっても親交を深める良い機会なんだそうだ。
「では、転移の間へ行こう」
皆が動き出そうとした瞬間、私は思わず声を張った。
「あの……神聖国へ渡る前に、皆さまに、お渡ししたいものがございますの」
四人の視線が、静かにこちらへ集まる。私は掌に、小さな袋を並べた。
「旅の無事を願う、お守りですわ」
私は、お守りを配ってまわった。
「東方の国では、無事を祈って、このような袋に祈りを込めた紙を入れ、身につける習わしがございますの」
神社のお守りを模して手ずから作ったもので、フランネル地の袋には氷花を細かな糸で刺繍してある。実は中には「大 吉」と私が大きく手書きした紙が入っているだけなんだけど。気は心……ということで。全員無事に帰ってこれますようにと祈ったから、何かしらのご利益があると信じたい。
「一つずつ、皆さんの事を想ってお作りしました。もしよろしければ、旅のあいだ、身に着けてくださいませんか」
アレクセイは刺繍をそっと指でなぞり、
「おまえの祈りなら、それだけで価値がある」
ミハイルは胸に包み込むように抱き、
「とても嬉しいです……アリア姉様の気持ちが伝わります」
リュシアンはお守りを首から下げながら、
「願いを書いた紙を入れるのですね。ふむ……中を見ると効力がなくなるというのも、興味深い」
エルヴィンは手の中のお守りをじっと見つめると、わずかな笑みを浮かべた。
「ありがとう、アリア」
美形の皆さんに至近距離でお礼を言われると、すさまじい破壊力。眼の保養を超えて、目がつぶれそうです。私は心の中で手をあわせた。
ほんとはセレスにも渡したかったんだけど、第六塔で緊急事態が発生したとかで急遽行けなくなってしまったのよね。残念だけど、また今度、渡そう。私は余ったお守りを自分のポケットに入れた。
◇◇◇
「皆さま、転移の準備が整いました」
管理官の声を合図に、私たちは静かに転移陣の上へと移動した。
「アリア、ひとつ大事なことを思い出しました」
ふいにリュシアンが近づき、私の前に立つ。
「黎明星の乙女の噂は、セレスティアにも届いているはずです。あなたの本来の特徴は、少し目立ちすぎる」
指先がひと振りされると、リュシアンの魔力が金色の魔導陣を描く。それは、やわらかな霧のように私の頭から肩、胸元へとゆっくり降りていった。陣が足元に沈んで消えてゆく。
――ん?何が起きたんだ?
ミハイルがぱっと顔を輝かせ
「アリア姉様、御髪が金色になっています!瞳も金で。とてもお綺麗です!」
私は、懐から手鏡を取り出した。きっちりと結いあげられた髪は、光り輝く金に。瞳も、同じ色になっている。
「私の瞳と同じ色です。よく似合っていますよ」
リュシアンが、美しい金の瞳を細めて微笑んだ。
満足げなリュシアン、だが――あれ、エルヴィンもアレクセイも、すごい眼で彼を見ている。なんか、怒ってる……?……金色って、セレスティアでは縁起が良くない色だったりするんだろうか。
エルヴィンが軽く咳ばらいをする。
「……アリア」
「はい」
エルヴィンは、迷いのない手つきで、私の手を取った。
「転移は身体が一気に引き寄せられる感覚になる。……初めてだと、移動酔いしやすい者もいる。私と、手をつないでいれば、少しは楽になるはずだ」
そう言って、そのまま指を絡めて手を握った。……指先から、手のひらから、エルヴィンの熱が伝わってくる。なんだか、恥ずかしい。これまでだって、手を握ったり、腕を組んだり、当たり前のようにしてきたはず、なのに。彼の熱を感じていると、あの時の言葉が頭をもたげてきた。愛している……愛している、愛している、愛している……。
思わず「わ、私はきっと、大丈夫ですわ…」と、この熱から距離を取ろうとするが、エルヴィンはそんな私の動揺をふっと笑うと、より一層、手を固く握った。結んだ手はびくともしない。
「遠慮はいらない。無理をすると、足元がふらつくぞ」
うう……。よりによって、そんな耳元で……柔らかい声で言わないでほしい……
アレクセイの黒曜の瞳が、細く、静かに細められた。言葉にせずとも“察し”を含んだ静かな光。
「……なるほど。進展があったと見える」
殿下、全部見抜くのやめてください。その様子だと、エルヴィンが私のことをす、好きだっていうのも、前から知ってたんですね。ん?というか、この、みんなの空気……もしかして、知らなかったのは私だけ、とか?……なんだろう、この気恥ずかしさ。
「転移陣、発動します」
管理官の声とともに、地面の双頭の黒鷲の紋が光を帯びた。白い光は私たちを包み込み、空気がふわりと震える。
視界がほどけるように揺れ――
次に目を開いたとき、そこは真っ青な空の下だった。
この章では、エルヴィンが、いろいろ頑張ります。
昨日のぶんの予約投稿に失敗していました…
すみません
しばしの間、毎日更新します。




