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43 無能な妹は舞踏会で誓われる

星冠宮の大広間に入ると、貴族たちの視線が一斉に注がれた。

その数、八百は超えるだろうか。


まずい。変な注目を集めちゃってる気がする。やっぱり、エスコート役が三人ってちょっとおかしいよね……?でも、今さらどうしようもない。ここまで来たら、もう潔く腹をくくるしかないのである。エルヴィンが前、アレクセイ殿下とリュシアンが左右という、‟厳重護衛陣形”のまま、大広間の中央へと進んでゆく。


高座には、イヴァン皇帝陛下が座していた。私とアレクセイを見ると、ほんのわずかに柔らかな光を宿す。陛下はゆるりと右手を上げた。

「アレクセイ、アリア、こちらへ」


アレクセイが、ためらいなく私の手を取る。そのまま陛下の御前へと歩みを進める間も、黒曜の瞳は揺らぐことなく前を見据えていた。――こういうところ、さすがは第一皇子だよね。御前で胸へ手を当て、恭しく頭を垂れると、アレクセイは大広間の貴族たちへ向き直った。


「帝国の賢き御方々よ。黎明星(ルーメン・オリア)の加護を受けし乙女を紹介する。アザル公爵家の令嬢――アリア・アザルである」


広間が、一斉に息を呑んだ。その圧に、顔が強張る。そのとき、社畜だった前世で課長が言っていた言葉を思い出した。「自信の無い案件こそ、笑顔でプレゼンしろ」だ。課長、カラオケ行くと必ず「天城越え」歌ってたなぁ。今頃、元気にしてるかなぁ……。……いや、違う違う。今はそれどころじゃない。


私は、雑念を断ち切るように、思いきり微笑んだ。


空気がほどけ、広間にじわりと熱が帯びてゆく。それは、歓迎でも安堵でもなかった。視線に宿っているのは、“帝国にとって必要な歯車が、確かにここに顕れた”ことへの熱。抑えきれない期待と値踏みするような無数の眼が私を見つめていた。


アレクセイは、笑みを浮かべて続ける。

「そして私は――黎明星の乙女の守護星、第一星(ルーメン)との定めを受けた」


えっ!それ言っちゃっていいの?国家機密級の情報な気がするけど。


案の定、ざわめきが波紋のように広がる。


「第一皇子殿下が……」

「守護星となられるとは……!」

「なんという吉兆……!」


アレクセイは少しも動じず、静かに告げた。

「すでに星契の儀(コヴェナント)は執り行われ、帝都魔導院の承認も得ている。私は第一星として、この身のすべてを帝国と乙女へ捧げることを、ここに誓おう」


次の瞬間、大広間は熱狂に包まれた。

歓声、拍手、祝福の声――そのすべてが渦となって押し寄せる。


アレクセイは――ゆるやかに振り返り、私の手を取ると片膝をついた。

「黎明星の乙女、アリア=アザル」


広間の視線が再び一斉に私に移る。

「我が心と名誉をもって貴女に仕え、その星を、我が星のように守ることを誓う」

私の手袋越しの甲に、アレクセイの唇が触れた。


……これってあの夜の庭での誓いと一緒だよね。でも、星冠宮(アストラリア)のど真ん中で、第一皇子がここまで言っちゃって大丈夫なのかな。敵を炙り出すための演技っていうのはわかるんだけど、ちょっとやりすぎじゃないだろうか。


ふと、エルヴィンのほうを見ると、怒りとも不安ともつかない、凍てついた眼でアレクセイを睨んでいた。リュシアンもまた、普段の飄々とした気配が消えている。二人とも、なんだか怖い……。


不穏な空気を感じていると、アレクセイが私の手を取ったまま、小さく囁いた。

「――アリア、上出来だ。これで“鼠”が動き出す。炙り出すぞ」


その瞳には揺らぎがなかった。最初からこの瞬間を計算していたのだと分かる。これから何が起きるのだろう……そんな私の気持ちが伝わったのだろうか、アレクセイが小さく笑った。

「心配するな。誰にも、おまえを害させはしない。守る、と誓ったろう」


アレクセイは私の腰へそっと手を添え、そのまま優雅な所作で私を大広間へと導いた。

まるで潮が満ちるように、礼服をまとった貴族たちが一歩、また一歩と近づいてきた。

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。


次回はアレクセイの御兄弟が登場します。

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