40 無能な妹は誓いを受ける
アレクセイは静かに息を吸った。黒曜の瞳がまっすぐに私を捉える。
「アリア=アザル。帝国の皇子としてではなく――一人の男として誓おう」
そう言うと、彼はゆっくりと片膝をついた。夜風が吹き、金糸の刺繍を施した黒礼服の裾がふわりと揺れる。
「我が心と名誉をもって、貴女に仕え、その星を我が星のように守ることを誓う」
「――殿下? な、何を……」
思わず言葉が詰まる。あまりにもまっすぐな誓い。――え、え?なんでいきなりそんな真剣なトーンになるの!?これって第一皇子殿下のちょっとした冗談だよね?でも、アレクセイの目が本気すぎて、こっちが動揺してしまう。
「ゆるす、と」
黒曜の瞳が、懇願するように私を見る。
「ゆるすと言ってくれ」
その真摯な眼差しを見ていると、彼の気持ちを素直に受けたい、と思う自分がいることに気づいた。ほんの少しの逡巡ののち。
「ゆるします」
アレクセイは大輪の花が咲いたような笑みを咲かせた。そして、私の手を取り、唇をそっと手の甲に触れさせた。その瞬間――彼の胸元から、金の光が広がった。
「――えっ?」
彼の胸元から放たれた眩い輝きは夜空へと昇ってゆく。光は噴水の水面を駆け抜け、星々と共鳴するように瞬いた。やがてその光は空からこぼれ落ち、私の胸の奥へと吸い込まれていった。光は温かく、まるで誰かの祈りが心の奥に宿ったようだった。
「アレクセイ殿下……今のは……?」
「……わからない。アリア、大丈夫か」
アレクセイは、私の無事を確かめるように腕の中に抱き寄せ、どこにも怪我をしていないことが分かると、ほっとしたように私の首筋に顔を埋めた。
やがて、建物の方角から足音が聞こえた。
「アリア!」
「アリア嬢!」
リュシアンとエルヴィンだ。
二人の顔が噴水の淡い光に照らされる。
リュシアンは息を整え、目を見開いた。
「……まさか、これは……星契の儀を結ばれたのですか?」
アレクセイの胸元には、金で形づくられた双頭の鷲の紋章が光を放っていた。同じ紋が、私の胸にも淡く浮かび上がっている。
「これは――第一星の御印……!」
リュシアンの声が震える。
「黎明星の乙女との間に“契約”が成立しています……おめでとうございます、アレクセイ第一皇子殿下。あなたは乙女の守護星の第一星となられました」
「なん……だと……」
エルヴィンの表情が一瞬で険しくなった。
「アリア、どうやら私は、おまえの“星”に縛られてしまったらしいな」
アレクセイの瞳には、迷いがなかった。軽く笑って見せるその顔からは、もはや皇子としての仮面は消えていた。
「だが、それでいい。おまえを害そうとするものがあれば、私がすべて斬り払おう」
「殿下……」
エルヴィンが低く呼びかける。その声には焦りが混じっていたが、アレクセイは静かに彼を見返すだけだった。
金の光が次第に収まり、夜の静寂が戻る。噴水の水音が、やけに鮮やかに響いた。私は自分の胸に手を当てる。温かな鼓動が続いている。まるで、アレクセイの誓いがそのまま私の中に刻まれたかのようだった。
――第一皇子が私の守護星になるって、これから、私はどうなっちゃうの?
胸の奥で私はそう呟いた。
アレクセイが「乙女殿」→「そなた」→「おまえ」呼びになりました。
一方のエルヴィンは、相変わらず悶々としているようです。
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