04 無能な妹は義兄とお茶会にのぞむ
今日はアザル公爵家の兄妹が初めてのお茶会を行う日だ。
私は、白薔薇の見える庭で、義兄のために手作りのお菓子とおいしい紅茶をふるまおうと思っていた。
だって義兄は常に寝不足のような疲れた顔をしているし、いつ見ても食事をしている気配がない。おそらく食事の時間を削って公務を行っているのだろうが、それではいつか倒れてしまうだろう。元社畜OLとして、それだけはわかる。
そこで調理場の料理長を説得し、自ら焼き菓子を作って紅茶を入れて義兄をもてなすことにしたのだ。菓子、と言っても、人参やかぼちゃなど甘めの野菜をふんだんに使ったフィナンシェのようなもので、栄養価の高いものになっている。さしずめ、この世界の携帯栄養食とでも言うべきか……
「お義兄様、今日はお話ししながら私の手作りのお菓子を召し上がっていただきたく思います」
「ありがたい申し出ではあるが、我々貴族は、毒見が済んだもの以外を口にする機会はない」
「毒見は済んでおります。あなた様の護衛騎士であるドゥーニアもそれを承知しておりますのよ」
深く美しい藤色の隣で、翠の髪の騎士がわずかに頷く。
「義妹殿が何を企んでいるかはわからないが、それでは少し馳走に預かるとしよう」
そう言ってエルヴィンが菓子に手をのばした瞬間、遠く、木立の影から金属の閃光が走るのが見えた。
「あぶない!」
刃物だ!反射的に立ち上がり、目の前のエルヴィンを突き飛ばす。細い刃が私の肩をかすめ、背後の柱に突き刺さった。テーブルに置かれていたカップは落ちて砕け、紅茶の香りが立ち上る。
「アリア!」
低く抑えた声の中に、初めて焦りが滲む。エルヴィンは瞬時に木立の影に向け、片手を掲げた。その掌から冷気が走り、庭の一角に潜んでいた影が動きを止めた。
これが、氷刃公の氷の魔術なんだ。静かな恐ろしさと同時に、美しさに息を呑む。
「なぜ庇った」
エルヴィンの声は戸惑いにも似ていた。
「だって…死んでしまうと思ったから」
自分でも馬鹿みたいな返事だと思ったけど、なぜだかとっさに体が動いてしまったのだ。それに、あなたが死んだら私のスローライフが台無しなんです。だから、ここで死なれちゃ困るんです。バッドエンドをなんとしても、回避しないといけないのよ。
ほっとして、ようやく強い痛みがあることに気づく。左肩から真っ赤な血が流れ、淡い藤色のドレスを鮮やかに染めているのが見えた。なんてこった、重傷じゃないですか。
「アリア!」
どこかで私を呼ぶ声がする。大丈夫ですよ。そんなに心配しなくても。元社畜なんで、根性だけはありますので。そう言いたくても唇が、動かない。
私はゆっくりと自分の意識を手放した――
読んでいただきありがとうございます。
ここから二人の関係が、少しずつ動き出します❄️




