27 無能な妹は帝都で懐かしい人に再会する
――七塔連環・第二塔。
白亜の塔は雲を貫くようにそびえ、静かな威厳を放っていた。その根元に広がるのが、帝都魔導院。銀の光を帯びた大門は、まるで天と地をつなぐ儀式の門のように輝いている。扉の上には、星々の理を象る七芒星――魔導院の紋章が刻まれていた。
「ここが……帝都魔導院」
門をくぐると、静寂の中に低い音が響く。どこかで魔力の流れが脈を打っているようだった。奥の廊下から、ゆっくりと光の影が近づいてくる。
「アリア嬢、エルヴィン殿。お待ちしておりました。再びお会いできて光栄です」
金の瞳は光を受けるたびに綺羅と瞬き、白髪は銀霜を編んだように滑らかに揺れる。久しぶりに見るその顔立ちは、端正すぎるほど整っていて、思わず視線が吸い寄せられた。
リュシアン=オルフェウス。
帝都魔導院の長、熾天の魔導士――理論の化身にして帝国きっての天才魔導士。でも生活能力は壊滅的という“至高のポンコツ”だ。
「リュシアン様……!」
懐かしさが胸にこみ上げて、気づけば体が勝手に動いていた。勢いのまま腕を伸ばし、リュシアンを抱きしめる。
「……っ!?」
リュシアンが硬直した。
「アリア、おまえのその突然の行動は、皆の心臓に悪い」
エルヴィンが優しく、しかし強い力で、私をリュシアンから放す。
――あ。完全にやらかした。修羅場を共にくぐった“同志”って気分で抱きついちゃったけど、冷静に考えたら、向こうは巻き込まれ事故の被害者だった。たいして仲良くもない女性に抱きつかれたら、そりゃびっくりするよね……。
「申し訳ありません、つい……」
「問題ありません。いえ、問題はありますが、問題ではありません。アリア嬢、あなたは本当に予測式の外側にいらっしゃる」
リュシアンが、少し乱れた髪を気にも留めずに言った。
「ええと……久方ぶりですね。三十五日ぶり、でしたか?」
「そこまで数えていらしたのですか!?」
「自動記録書に記録されていまして、毎朝六時に読み上げてくれるのです。便利ですが、少々うるさい」
そのとき、横から静かな声が割り込んだ。
「先生、その機能は前にも止めるよう申し上げましたよね……」
淡いプラチナシルバーの髪に、琥珀色の瞳の青年が、軽く頭を下げる。
「お久しぶりです!アザル公爵閣下、アリア様。セレス=ヴァルナローデンです」
「セレス様……!」
懐かしさが胸を満たす。氷花の森でともに過ごした青年が、少し大人びた笑みを見せた。
「相変わらずリュシアン様のお世話をしてらっしゃるの?」と私が言うと、彼は苦笑した。
「ええ。時々ですが。先生は昨日も三十六時間起きっぱなしで、倒れかけておられました」
「いや、倒れてはいません。立ったまま少し目を閉じただけです」
「それを世間では“寝落ち”というんですよ」
セレスのきっぱりした指摘に、リュシアンは目をそらす。
「彼はここで時々、私の研究を手伝ってくれているのですが、近ごろ言葉が厳しいのです」
変わらぬ調子に、思わず笑ってしまう。それにしても、社畜でもなかなか聞いたことない働き方してるな、リュシアン。思わず心配になって顔を覗き込むと、リュシアンはふいと視線をそらした。
「あなたは相変わらず、星々の輝きのようにお美しいですね。しかし以前よりずっと表情が豊かになられた。……興味深い」
そのタイミングで、低い声が割って入る。
「リュシアン」
エルヴィンだ。声こそ落ち着いているが、温度は氷点下である。
「帝都への召喚――おまえの進言か」
「いえ。皇帝陛下の勅命です。私はそれを“理論的に賛同”しただけです」
「理論的に賛同とは?」
「理論的に正しいと思った、という意味です。……ただ、倫理的には少々悩みました」
「悩んでから言え」
「ええ。次からそうします」
リュシアンの真顔に、エルヴィンがため息をついた。
おもむろに、リュシアンが改まった声で告げる。
「アリア嬢、これから星授の儀を行います。私の知る限り、あなたはすでに聖女だ。ただ、この儀式をすることで、帝国の正式な聖女として認められるということです」
リュシアンの声が、塔の空気を震わせる。私は深呼吸をして、覚悟を決めた。
白い廊下に、柔らかな光が揺らいだ。
いつも読んでいただきありがとうございます!
リュシアンとセレスが出てくると、なぜかほっこりします。




