表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/66

27 無能な妹は帝都で懐かしい人に再会する

――七塔連環(セプテントゥリオン)第二塔(セラフィア)

白亜の塔は雲を貫くようにそびえ、静かな威厳を放っていた。その根元に広がるのが、帝都魔導院。銀の光を帯びた大門は、まるで天と地をつなぐ儀式の門のように輝いている。扉の上には、星々の理を象る七芒星――魔導院の紋章が刻まれていた。


「ここが……帝都魔導院」


門をくぐると、静寂の中に低い音が響く。どこかで魔力の流れが脈を打っているようだった。奥の廊下から、ゆっくりと光の影が近づいてくる。


「アリア嬢、エルヴィン殿。お待ちしておりました。再びお会いできて光栄です」

金の瞳は光を受けるたびに綺羅と瞬き、白髪は銀霜を編んだように滑らかに揺れる。久しぶりに見るその顔立ちは、端正すぎるほど整っていて、思わず視線が吸い寄せられた。


リュシアン=オルフェウス。

帝都魔導院の長、熾天の魔導士(セラフィック・メイジ)――理論の化身にして帝国きっての天才魔導士。でも生活能力は壊滅的という“至高のポンコツ”だ。


「リュシアン様……!」

懐かしさが胸にこみ上げて、気づけば体が勝手に動いていた。勢いのまま腕を伸ばし、リュシアンを抱きしめる。


「……っ!?」

リュシアンが硬直した。


「アリア、おまえのその突然の行動は、皆の心臓に悪い」

エルヴィンが優しく、しかし強い力で、私をリュシアンから放す。


――あ。完全にやらかした。修羅場を共にくぐった“同志”って気分で抱きついちゃったけど、冷静に考えたら、向こうは巻き込まれ事故の被害者だった。たいして仲良くもない女性に抱きつかれたら、そりゃびっくりするよね……。


「申し訳ありません、つい……」

「問題ありません。いえ、問題はありますが、問題ではありません。アリア嬢、あなたは本当に予測式の外側にいらっしゃる」


リュシアンが、少し乱れた髪を気にも留めずに言った。

「ええと……久方ぶりですね。三十五日ぶり、でしたか?」

「そこまで数えていらしたのですか!?」

自動記録書(オートグリフ)に記録されていまして、毎朝六時に読み上げてくれるのです。便利ですが、少々うるさい」


そのとき、横から静かな声が割り込んだ。

「先生、その機能は前にも止めるよう申し上げましたよね……」


淡いプラチナシルバーの髪に、琥珀色の瞳の青年が、軽く頭を下げる。

「お久しぶりです!アザル公爵閣下、アリア様。セレス=ヴァルナローデンです」


「セレス様……!」

懐かしさが胸を満たす。氷花の森でともに過ごした青年が、少し大人びた笑みを見せた。


「相変わらずリュシアン様のお世話をしてらっしゃるの?」と私が言うと、彼は苦笑した。

「ええ。時々ですが。先生は昨日も三十六時間起きっぱなしで、倒れかけておられました」

「いや、倒れてはいません。立ったまま少し目を閉じただけです」

「それを世間では“寝落ち”というんですよ」


セレスのきっぱりした指摘に、リュシアンは目をそらす。

「彼はここで時々、私の研究を手伝ってくれているのですが、近ごろ言葉が厳しいのです」


変わらぬ調子に、思わず笑ってしまう。それにしても、社畜でもなかなか聞いたことない働き方してるな、リュシアン。思わず心配になって顔を覗き込むと、リュシアンはふいと視線をそらした。


「あなたは相変わらず、星々の輝きのようにお美しいですね。しかし以前よりずっと表情が豊かになられた。……興味深い」


そのタイミングで、低い声が割って入る。

「リュシアン」


エルヴィンだ。声こそ落ち着いているが、温度は氷点下である。

「帝都への召喚――おまえの進言か」

「いえ。皇帝陛下の勅命です。私はそれを“理論的に賛同”しただけです」

「理論的に賛同とは?」

「理論的に正しいと思った、という意味です。……ただ、倫理的には少々悩みました」

「悩んでから言え」

「ええ。次からそうします」


リュシアンの真顔に、エルヴィンがため息をついた。


おもむろに、リュシアンが改まった声で告げる。

「アリア嬢、これから星授の儀(セレモニア)を行います。私の知る限り、あなたはすでに聖女だ。ただ、この儀式をすることで、帝国の正式な聖女として認められるということです」


リュシアンの声が、塔の空気を震わせる。私は深呼吸をして、覚悟を決めた。


白い廊下に、柔らかな光が揺らいだ。

いつも読んでいただきありがとうございます!

リュシアンとセレスが出てくると、なぜかほっこりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ